摘みし茶の匂いあふるる籠を抱く すず子
『引け前は素見と茶ひきいじり合い』(柳多留4)
夜が更けても金がなくひやかして歩く客と、
売れない女が格子越しに、
お互いに悪口を言い合っている句でやり切れません。
『お茶をひく身にしみじみと雁の声』(柳多留110)
悲しみだけが胸を打ちます。
今は死後に近い言葉ですが、
花柳界ではお客様が一人も来ない事をお茶をひくといいます。
結納、結婚式等でお茶を出さない理由のひとつは、
この故事に由来します。
いつ頃から使われたのか分かりませんが、
用明天王職人鑑(近松門左衛門 宝永2年 1705年)の中に、
『斑女が閨のさびしさは茶引草をも思い出し心細いや糸薄…』 と、あり、
麓の色(明和5年 1768年)の巻三にも、
『郭に残りたる女郎をお茶を挽くといふは、昔流行らぬ女郎に、
過怠に茶を挽かせたるより
おこられたる諺なりといへり…
また一説に…廓に一人残って居れば眠気見ゆるを。』
とあります。
居眠りを防ぐ手立てとして、
続山の井(荒木田麗女 享保17年~文化3年 1732年~1806年)にも、
『松風の音や茶を挽く神の留主』
とありますが、当時すでに風習は残っていないようで、
語源もはっきりしません。
江戸の頃は庶民にも知られており、川柳にも読まれています。
『連れもなく一人茶を挽くつらい事』(江戸古川柳)
お客があっても無くても、
廓の生活はつらい毎日です。