2010/08/05(木)
朝日新聞
現地8月2日のシカゴの小麦先物市場は、中心限月が22ヶ月ぶりの高値となる742セントまで価格が上昇した後、終値としては2008年9月25日以来の高水準である723.50セントで引ける大幅高場面を演じました。
実は小麦市場が上昇トレンドを描いているのは、この数日間のことではありません。7月に入ってから緩やかな上昇傾向を見せていました。しかしながら、8月に入ってから一気に値位置を切り上げているのです。
これはロシアが130年ぶりという猛暑に見舞われていることが背景となっています。というのもこの猛暑とこれに伴う干ばつが影響し、同国の小麦生産量が減少するだけでなく、減産による国内供給引き締まりを受けて禁輸措置が採られるのではないか、との思惑が広がったことが背景となっているからです。
ロシアの禁輸措置が小麦価格の高騰を促すのは、ロシアが世界有数の小麦輸出国であることに理由があります。肥沃な黒土地帯を有するロシアは、従来から有数の穀物生産国と知られていましたが、ソヴィエト崩壊による混乱で1990年代は農産物の生産量が低迷していました。
1990年代の多くの場合、年間生産量は3,000万トン台での推移に終始しました。また、輸出用のインフラが未整備だったことを受けて、生産量の増減にかかわらず輸出量は最大でも120万トンにとどまったほか、最も少ない1995年の場合は20万6,000トンにとどまっていたのです。
しかしながら、経済の成長に伴って2000年以降は小麦生産量が増加傾向を強めたことに加え、輸出に向けたインフラが整備されたことで、2002~03年度を境に急激に穀物輸出が伸びているのです。(年間小麦輸出量は2001~02年度は437万2,000トンでしたが、2002~03年度には1,262万1,000トンを記録しています。)
なお、米国農務省の発表によれば、過去最大となる6,370万トンの生産量を記録した08~09年度のロシアの小麦輸出量は1,839万トンで、米国、カナダ、に次ぐ世界第3位の輸出国となっていました。
一方の09~10年度の場合、輸出量は前年度から僅かながら減少した1,750万トンとされていますが、それでも世界第3位の小麦輸出国という地位に変わりはありません。また、09~10年度の場合、世界の小麦輸出市場においてロシアが占める割合は約13.5%となっています。極端ではありますが、例えばロシアがまったく小麦を輸出しなかったと仮定した場合、09~10年度の世界の小麦需給は約3%引き締まることが推測されるほど、ロシアは世界の小麦供給国としての地位を占めているのです。
今回の猛暑が特に懸念されるのは、ロシアのなかでも重要な小麦産地において広がっている点にあります。ロシア政府によると、現在、猛暑による干ばつや自然火災が広がっているのは、シベリア、ウラル、ボルガ川流域となっています。
この3地域はいずれも主要穀倉地帯です。米国農務省は、全ロシアの小麦作付け面積のうちこの3地域が占める割合はシベリアが約50%、ボルガが30%、ウラルが15%と、総計でおよそ95%に達する、と伝えています。
米国農務省は7月発表の需給報告において10~11年度のロシアの小麦生産量を前月発表の5,750万トンから450万トン減少した5,300万トンと予測しています。しかしながら、ロシアの猛暑は、この需給報告が発表された7月10日以降も継続しているため、日を追うに従って干ばつやイールドの低下に対する警戒感が強まっています。
なお、ロシアのスクリンニク農相は、今年の小麦生産の予想を当初の9,500万トンから8,500万トン以下に引き下げるとの見方を示していますが、一部では7,000万トン台まで落ち込むとの悲観的な声も聞かれています。
ロイター通信が伝えたところによると、ロシア農業省は8月3日時点では穀物の禁輸措置については否定的な考えを示しています、しかしながら、同様に主要小麦産地であるオーストラリアの2期連続の干ばつや原油価格の上昇、新興国の需要などにより小麦価格が高騰した2007年から2008年にかけて、ロシア政府はG8諸国のなかで唯一、輸出関税措置を採るなど穀物輸出を規制したという過去の経験が、同国の禁輸措置に対する警戒心を強めています。
市場にはすでに8月半ばまでの猛暑見通しは織り込まれています。それだけに、今後、小麦価格がさらに大きく値を伸ばすには、供給の減少を示唆する新たな要因が必要と見られますが、穀物大国であるロシアでの大幅な減産分が補填されるには、最短でも南米の増産を待たねばなりません。それだけに、世界需給引き締まりが今後も強く警戒される状況が続くことになりそうです。
(情報提供:日本先物情報ネットワーク)