350、社説:新型ワクチン 情報整理し混乱防げ | NPO法人生涯青春の会

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                    2009929日  毎日

 インフルエンザのパンデミック(大流行)は、初めから流行の大波がやってくるわけではない。小さな流行の火種があちこちでくすぶり、ある時、急に燃えさかる。今はくすぶっているが、今後、必ず大きな流行がくると専門家は見る。

 これを迎え撃つには、複数の対策を組み合わせる必要がある。しかし、いずれも準備不足で、総合戦略もよく見えない。整理された情報も足りないのが日本の実情だ。

 ワクチンについては、医療従事者、妊婦や持病のある人、1歳以上の就学前の幼児、1歳未満の乳児の両親に、国産ワクチンを優先接種する素案を厚生労働省が示してきた。国産ワクチンの供給見通しが増え、小学校低学年も含める方向で検討されている。

 「重症者や死亡者を減らす」という目的では妥当だろう。しかし、具体的な接種対象者や、だれが、どこで接種するかといった詳しい手順の決定はこれからだ。早急に体制を整えて国民に知らせなければ、混乱が生じる。流行とワクチン接種の時期が重なったら、なおさらだ。

 リスクと利益のバランスを考えるための情報も不足している。たとえば、輸入ワクチンは国産ワクチンとは製造法が異なる。9月上旬に国民の意見を求めた「素案」は、国内で使用経験のないアジュバント(免疫補助剤)の副作用の可能性や、新しい細胞培養法で作るワクチンの安全性の議論にも触れている。しかし、一般の人が判断材料にできるような情報が示されていない。

 ワクチンの供給可能量の変化もわかりにくい。ワクチンを小分けにする容器(バイアル)の容量を変えると接種量が増えるとの見方が9月の素案で突然示された。状況に応じた変化は避けられないが、それによって輸入も含めたワクチン政策が左右されるだけに、政府は先を見越して情報を示す必要がある。

 ワクチンの評価はもちろん、新型インフルエンザのリスク評価も、国民によく説明すべきだ。そうでなければ、自分や子供がワクチン接種を受けるかどうかの判断に迷う。「なぜ自分は接種対象から漏れているのか」と疑問に思う人も納得させられない。

 日本でも死亡者が増加してきた。中には抗ウイルス剤を投与されていなかった人もいる。学会などが「感染が疑われたら可能な限り早期から抗インフルエンザ薬を投与すべきだ」との見解を示してきたが、情報が届いていない恐れがある。

 国は新型インフルエンザはどこでも診療するという方針を示している。そうであれば、治療指針をすべての診療機関に行き渡らせる徹底策が欠かせない。

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毎日新聞 2009928日 東京朝刊