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[記事作成・編集]
※今回はすべて「文字だけ」です。
※すべての環境であてはまる内容を記載しているわけではありません。
一般的に考えられるリスクについて表現しています。
最近、PSU(電源)やビデオカードにおいて
「セミファンレス」が流行の兆しを見せております。
軽負荷時、あるいは(測定ポイントが)一定の温度以下という条件で
ファンを停止させることで静音化、塵埃対策とするもの。
先日、エルミタージュ秋葉原のインタビュー記事で
ショップ店員さんの持っている電源を紹介するものがありました
。
その中で「ファンが停止するモデルは避けたい」という旨を答えられている方が
いらしたことが結構印象的です。
当方も個人的には、特にPSUについてはセミファンレスはおすすめしません。
常時ゆるゆるでもファンを回しているほうがよいと考えます。
その理由は主に2点。
(1)強制風冷と自然空冷の違いによる影響
※(ここでは「空冷」=「風冷」として差し支えありません)
強制風冷と自然空冷ではものの冷え方そのものが大きく変わります。
強制風冷はその名前の通り、発熱の大半をエアフローにのせて排熱します。
筐体自身から筐体外に放出される熱量はほとんどないため、
熱伝導率のとても悪い木製筐体でもPCとして成立するのです。
ヒートシンクなどの熱は、風で運ばれていくわけです。
一方、自然空冷の場合は熱由来の対流が発生し
上昇気流などが放熱を支配するようになり、
また放射による放熱の割合が格段に増えます。
放射とは、熱源から赤外線などの形で熱が出ていく現象。
しかし近くに部品などがあると、せっかく放射した熱が再び取り込まれます。
つまり、発熱部品近傍の部品の温度がより上昇しやすくなります。
ヒートシンクにあるフィンは表面積を増加させる目的でついていますが、
これは強制風冷のときこそうまく風に熱を伝えられるものの、
フィンから放射しても隣接する別のフィンに熱が移る
=ヒートシンク全体から見れば熱が移動しない(隣がないところだけ有効)
=フィン(表面積稼ぎ)は無駄
ということになり、強制風冷前提で設計されている大半のPSUでは
ファンが停止すると放熱能力が低下すると考えてよいでしょう。
だからこそ軽負荷でしかファンレスは実現できないのですが、
困ったことに電源というものは負荷が小さなときに
一様に部品の発熱が(定格に対し)下がるというものではなく、
主に導通損(電流が流れることによる発熱する部位、パターンや主部品)については
劇的に減少(いかんせんP=I^2×RですからRが一定なら電流半分のとき発熱は1/4)し、
逆に制御部、主回路発振部、補助電源部など
「固定損」とされる部分はほとんど変化しません。
風がなくなれば固定損が支配する部分の温度はより顕著に上昇することになります。
ついでに、ファンを下向きにして使う場合
(旧来ケースのように筐体上部に設置したり、
筐体下部でも底面吸気を利用したりする状態)は
部品面が下を向く配置になりますから、自然対流による放熱が著しく妨げられます。
特に排気口から遠い二次側回路を中心に温度が上昇しやすくなります。
さて、寿命面で気になる部品の代表格といえば電解コンデンサ。
温度上昇がきついと電解コンデンサはドライアップの進行が加速し、
容量の減少を招く=リップル電圧の増加を引き起こします。
意外に要注意なのが個体コンデンサ。
こちらはドライアップではなく酸素の流入による導電性高分子の酸化、
あるいは自己発熱などに伴う熱劣化を要因としてESRが上昇します
(日本ケミコンの資料
より)。
これもまた、結果的にはリップル電圧の増加につながります。
これらはM/Bやドライブなどのデバイス側に与える影響が大きくなります。
個体コンデンサは超低ESRを特徴として二次側で使われるケースが増えていますが、
温度特性はあまりよくありませんので注意が必要です。
しかも一般には二次側の出力コンデンサはパターン分も含めてESRを下げたいので
同期整流素子の近傍など発熱部品付近にある(=熱のあおりを受けやすい)場合が殆ど。
まぁ、もちろんメーカーとしてはファンレス状態における
部品温度上昇確認などの試験は一通りしているはずですし、
それで問題なしと評価しているものだからこそ
ファンレスを謳っている...とは思います。
でもより長寿命に(=故障リスクを下げて)運用したい場合、
微風でも回っていた方が有寿命部品にとってはプラスだと考えます。
(2)フローの逆流によるトラッキング等の危険性
PSUのファンを止めると実際のエアフローは
ケースの圧に左右されるようになります。
特に問題なのが、ケース内が負圧(外気圧より低い)環境で、
かつPSUの吸気をケース内部から行っている場合でして、
PSUの排気口から空気を吸ってしまうことになります。
(必ずしも当てになりませんが)排気ファンが吸気ファンよりも多かったり
ラジエーターの冷却のために天面に排気方向でファンをつけていると
やや負圧気味の環境が多いと思います。
※PSUがケース内部と隔絶された独立チャンバーであれば回避できます。
※逆にPSUのファンが非常にゆるゆるすぎて、筐体内部がかなりの負圧の場合は
ファンが回っていてもフローが逆流する可能性もあります。
逆流でもフローがあると、放熱に関していえば有利ですが、
問題は塵埃対策ができなくなることにあります。
最近のトレンドである底面に電源を配置するスタイルは
高い位置にPSUを設置するケースに比べると床面が近い分埃を含みやすく、
PSU内への埃の侵入リスクが格段に高まります。
埃が増えればコンデンサよりも基板上のパターン間や
主部品(FETやパワーダイオード)のリード間などの
トラッキングによる故障を引き起こす可能性が上がります。
多くのPSUは排気口付近に入力フィルタ~PFCに至る
一次側の部品が勢ぞろいしていますから、避けたいところです。
というわけで、確実な冷却と正しい方向のフローを保つためにも
個人的にはファンは回り続けているモデルを推奨したいところです。
それでもセミファンレス電源を使いたい方は、
・出来る限り長寿命を謳っている製品を選ぶ
・効率の高い製品を選ぶ(固定損が少ないことを期待して)
・ケース内を正圧にして使う
・できれば「セミファンレス」ではなく「ファンレス電源」を使う
(最初からファンのない使用を想定されているので確実)
といったあたりがポイントになりそうです。