裏面コネクタのM/B | 風変わりなPC物語 -スズメさんち-

裏面コネクタのM/B

※例によって今回は特に文字ばかりです...

 裏面コネクタのM/Bの紹介を軽くしつつ、適当に自分の感想めいた考察を書いているだけなので、

 有用とは言い難い内容ですので、ご了承ください。

 

 

先月のこと。
MSIが「PROJECT ZERO」なるシリーズを発表
ASUSも「Back-To-the-Future(BTF)」なるシリーズを発表
世界的に見ると、Colorfulからも同様のコンセプトのものとして、
「CVN B760M-BACK FROZEN WIFI V20」がリリースされているようです。

ひとまずMSIの「B760M-PROJECT-ZERO」の画像を拝借しますと...

代理店のAiutoの当該製品サイトはこちら


...いずれも、電源系(ATX、ATX12V)や信号系、SATAや内部USB系などのピンヘッダ類を、
M/Bの表面(部品面)ではなく裏面(半田面)に実装していることが特徴。
つまり、ケースの裏配線の話ではなく、本当の意味で「M/Bの裏面配線」をするものです。

本記事では、このM/Bの裏面にコネクタを配したものを『裏面コネクタ』と呼ぶことにします。

※メーカーはいずれも“背面(Back)”と表現するのですが、
 個人的には何となく背面=I/Oパネルの向き、という認識があるのと、
 当方現状では基板設計の立場なので
 本記事では基板を基準に、敢えて“裏面”と記載させていただきます。

 

今のところ、Mini-ITXでは裏面コネクタの製品は登場しておらず、
対応ケースの裏面コネクタ対応位置を見てもATXとMicroATXのみが対象のようです。



○ケーブルを見せたくない潮流
タワー系のケースにおいてサイドパネルが部分的にアクリルになった
アクリル窓付きのケースが市場を席巻して以降、
光物の隆盛とともに、裏配線の動きも加速しました。
ここでいう裏配線は、通常通りM/B(や周辺デバイス)から出たケーブル類を
すぐケースの裏側に引き出し、その裏側で引き回す、というもの。

そして最近はアクリル窓というより、
もはやパネルそのものがアクリルや強化ガラスを採用した、
いかにも中を見せるデザインが広まっています。
(元々PET板のサイドパネルなどを使ってきた当方からすれば
 ようやく時代が追いつてきたな、と(爆))

そんな中、ケーブルは邪魔とばかりに、
もはや見せないという考え方にたどりついたようですね...
スリービングが流行り、STRIMER系のような光るアイテムが流行り、
とうとうそのものを見せないところまで...

個人的にはM/B上の部品も配線も、
PCを構成するコンポーネントのひとつだと思うので
この流れそのものは若干寂しい気もしておりますが、
今回の記事は長短についてフラットに考えていきたいと思います。


なおASUSの「BTF」では、ビデオカードについても
電源ケーブルに代わり独自の対基板コネクタも追加することで
こちらも完全にケーブルレスとなるようにしているようです。
ビデオカードの電源入力部は独自電源コネクタのみなので従来製品と互換性がありません。
BTF対応のM/Bに従来のビデオカードを使うことは可能ですが、
BTF対応のビデオカードを従来のM/Bで使うことは不可能です。


○メリット
(1)配線そのものがやりやすい
当方はケースも作るようなタイプですし、コンパクトに設計する癖があります。
それゆえ、メインコンポーネントを取り付けた後に
各配線をM/Bにつけていくのは大変です(爆)
最近の市販ケースはフルタワーかよって突っ込みを入れたくなるほど大型化し
(裏面配線などの取り回しに触れなければ)
配線そのものへの苦労はさほど感じないケースが増えたように思います。

その点、「M/Bの裏面配線」は、通常のタワー型でいえば
ケースの反対側面(通常は正面から見て右側)から
CPUクーラーやメモリなどの干渉を受けずに配線しやすくなります。
個人的にはこの、配線がしやすくなることが最大のメリットに感じます。

(2)PSUの交換がやりやすい
PSU(電源ユニット)は一度組み込むと、
特に裏面配線を行う現状の使い方では交換するのに一苦労。
(フルモジュラーケーブル採用のPSUを利用し、交換前後でケーブルの互換性があれば
 PSU本体だけの交換で済む場合もありますが...)
この裏面コネクタ採用機種であれば、交換は楽になると思われます。
もっとも、以前見受けられたような粗悪な電源が相当淘汰され、
5年くらい使ってもまったく不安なく稼働できる電源が増えたこともあり、
交換する機会がどの程度あるのかは難しいところですが(^^;)

(3)電気的な互換性は保たれている ※ASUS「BTF」のビデオカードを除く
あくまでもコネクタレイアウトを裏面に移しただけですので、
ケースの物理的な構造面の制約以外は特になく、
他のデバイスは従来品を使うことができます。
ASUSのM/Bでも、上記の通り従来品のビデオカードを使うことはできます。
よって将来的にこのコンセプトが廃れて単発で終わったとしても
他のデバイスは流用しやすいといえます。
※ASUSのBTF対応ビデオカードは互換性を捨てていますので、
 この点は覚悟が必要ですね...
 とはいえ、M/Bとビデオカードはセットで変える方も多いでしょうから
 あまり影響はない...のかもしれません。

(4)今のところ各社のコネクタレイアウトは互換性がありそう
現状、各社における裏面コネクタの配置エリアは、
ほぼ同じ位置に入るように設計されていると思われます
(ミリ単位で同じエリアが設定されているかは不明ですが)。

規格や新たな構造の普及においては、こういう特徴がとても大事といえます。
ケースメーカーからも対応機種が生まれやすくなります。
選択肢は広い方が普及しやすいですからね。
早速Antecから「Constellation C5 ARGB」というケースがリリースされ、
裏面コネクタ製品に対応すると明記されております。
現状裏面コネクタとして発表済みの製品については
ASUS、Colorful、MSIのいずれにも対応するようですね。


その他強いていえばエアフローに有利とも考えられるのですが、
昨今はやりの裏面配線をきちんと行っていればエアフローは充分良好になると思われ、
裏面コネクタだから...といってエアフローに与える影響はほとんどないと思われます。


○デメリット
...トレードオフになりそうな要件も相当あるようには思えます。

(1)既存ケースが使えない
CPUクーラーの取り付けの際、バックボードを交換するような機種も多いことから
近年のケースはいわゆるCPUカットアウトなる、CPUの裏側部分に
板金などがない窓になっているものがほとんどです。
ところが今回のコネクタ類は元々表面にあった位置を
そのまま裏に持ってきただけの配置に近いイメージであり、
既存ケースでは対応できないか、板金に穴をあけるような改造を要することに。
改造してまで使おうとする向きはごく一部でしょうし、
改造するにしても強度不足や、そもそも対応できない可能性もあるでしょうから、
基本的にケースの新調について考えざるを得ないでしょう。

(2)ケースの物理的な幅が広がる
CPUクーラーやメモリ、ビデオカードと同じ方向に
コネクタの配線が伸びる分にはこれらの高さは無視できますが、
元々高さを気にする必要のなかった裏面側にコネクタが出たことにより、
そのコネクタ分だけ高さが必要に。
ATXやATX12Vの高さやケーブルの取り回しを考えると最低でも+35mmは必要で、
従来の裏面側空間にもう20~30mm程度は増やす必要がありそうです。


※わかりづらい画像で恐縮ですが、手元で実測する限りATXコネクタ上は

 30mmだと相当無理をさせる状況で、現実的には35mmでやっと...という感じでした。

 

つまり、一般的なタワー系ケースでいえば幅を広げる必要が出てきます。
ただでさえ大型化したケースが、さらに大型化に拍車をかけてしまいます。
先ほどの「Constellation C5 ARGB」は幅が285mm。
(余談ですが、当方のMini-ITX横向きとMicroTAX縦向きの2枚入るケースの幅は205.5mm
 幅が大きくなると安定はしますが、場所を取りますからね...)

(3)M/Bの製造コストが上がる
基本的にM/Bは両面にそれなりの部品が搭載されていますが、
両面とはいっても、半田面側はリフローはんだ付けで済む部品が中心です。
(リフローはんだ付けとは、
 予め面実装部品用のパッドにペースト状のはんだを塗り、
 部品を載せてから周囲温度を上げてはんだ付けする方法)

ところが裏面コネクタでは、ATXコネクタで使用されるMini-Fit jr.など
スルーホールにリードを通すようような部品も半田面に搭載されます。
はんだ付けの工程が増えることを意味しますので、
通常設計品に比べると製造コストが上がると思われます。
つまり同じ機能でも、販売価格が高くなる可能性を意味しています。

(4)コネクタの冷却面にはマイナス
ケーブルにも抵抗はありますが、コネクタにも必ず接触抵抗があります。
仮に20mΩ程度だとしても、8A流せば1.28W、10Aなら2Wの発熱を伴います。
もちろん「あちっ」というレベルではないのですが、
通常のケースフローを少しでも受けている場合と、陰に隠れて風が当たらない場合を比べると
場合によっては10℃以上の温度差になると思われます。
(アレニウスの法則的には経年劣化のスピードはΔ10℃上昇で倍...)
まして普段「見せない部分」に隠れてしまい目視点検もしづらいため
この点では余計にマイナスであることは心得ておいた方が良いでしょう。

(5)中古価格が低迷する可能性がある
既存ケースで対応できない構造、という意味においては
BTXの再来と考えることもできます。

※BTXとは...
BTXとは、かつて熱処理の合理化をすすめるため
(事実上爆熱Pentium4の熱を抑え込むため)にIntelが提唱した
ATXとは形状互換性のまったくない形状のプラットフォームのこと。
アップグレードを考えずに済むようなごく一部のメーカー製品に採用されつつも、
形状非互換であることに周囲メーカーへの理解が進まず
結局はまったく定着せずに終わりました。

当方も、BTXは一台もまともに触ったことがないと思います...


元々ATXは、ATとI/Oパネルや拡張スロットの位置を揃えて登場したのですが、

ATXが誕生したころはまだISAスロットが普通に使われていた時代。
ATの頃からISAスロットは部品面が上を向くように取り付けられており、ATXでもそれを踏襲。

その結果、ISAスロットとPCIスロットの排他利用の構造も引継ぎ、
結局PCIスロット以降の拡張スロット(AGP、PCIeなど)では
拡張カードの取り付け向きが部品面を下にするものとなってしまいました。

この写真はSlot1のATX M/Bで、Iwill BD100Plus(5台目PC)。

赤枠の部分が、PCIとISAの共用スロット部分で、どちらかを排他的に使うことができました。

 

この向き、実は拡張カード上の部品の放熱という意味では最も不利な配置。
BTXにはこの点の改善の狙いもあったとみられる(なので左右逆になった)のですが
業界から総スカンを食らった...という落ちになりました。
BTXも、電気的な互換性が失われたわけではなく、拡張カードなどの利用条件もそのままです。
しかしながら、M/Bとケースの両方が従来とは非互換という点は
業界内で末永く使えるはずの安定規格に対する挑戦と受け取られてしまった感は拭えません。


今回の裏面コネクタで幸いなのは、ケース目線では裏面コネクタ対応を行ったとしても
一般的なATXケースとしても利用できる点にあります。
そういった意味でケースメーカーのハードルは高くないかもしれません。
ただしM/B側は専用環境が揃わないとまともに使えません。

よってM/Bの買い取り額は伸び悩む可能性が捨てきれません...

(「BTF」対応ビデオカードは、さらに難しいことになりそうですね...)

(6)対応機種が広まるか不明
メーカーが本気で、この先もこのコンセプトを続けるのならいいのですが...
特にASUSは、利ザヤは大きいが数が出にくいハイエンドのみに限定した
ラインナップのそろえ方をしていることもあり、不透明ですね...

そもそも、ケーブルレスの見た目への訴求をするということは、
ケースデザインも含めた全体的な見た目を気に入ってもらうことが大事。
好みなんて十人十色。
しからば、対応ケースのすそ野がもっと広がってくると、
一選択肢として受け入れやすくなるような気がしますね。

 

(7)ネーミング

これは敢えて書きますが...

「PROJECT ZERO」も「Back-To-the-Future(BTF)」も、

裏面コネクタを表している表現とは言い難いのが何とも...

PROJECT ZEROは会社名だったりAmazonの贋作撲滅活動の名称だったりするようで、

さらにBTFと聞いて、映画に疎い当方ですら洋画を思い浮かべるくらいですからね...

 

なんか、こういったあたりは、せっかく同じ向きをとったMSIとASUS(Colorfulも)で

歩み寄ってほしかったと思うのは当方だけでしょうかね...

(「BTF」についてはビデオカードまで踏み込んだ点で違いはありますが...)

RGB/ARGBのイルミネーション機能も各社好き勝手に名前を付けちゃいましたが

元をたどればいずれもカソードコモンの+12V制御か、NeoPixelの+5V系を利用しているにすぎず

別名称を使うメリットなんてありませんからね...

各社が独自機能だといわんばかりに誇示を進めると、使うユーザは混乱しがち。

特に裏面コネクタはプラットフォームに影響のある分野なだけに、

わかりやすく共同戦線を張って活動してほしかったとは思いますね...

 

 


...さて、すでにMSIのサイトには協力会社として
Lian-Li、SilverStone、Thermaltakeなどが挙がっており、
Asusの日本語サイトでも
『メーカー、PC DIYの専門家、ゲーマーを問わず、BTF Allianceに参加し、
 共に成長することを歓迎します!』
とのことで、決してメーカーよがりではなく
賛同が得られればともに拡げていきましょう、というスタンスのようです。

(なおさら両社でタッグは組まないの?と思ってしまいますが...)

さて今後、どのようになるでしょうかね?