CPUの発熱と温度… TDP、Tcase、Tj | 風変わりなPC物語 -スズメさんち-
2015-06-07 14:28:39

CPUの発熱と温度… TDP、Tcase、Tj

テーマ:PC周辺機器

すみません、今日も文章が続きます。ご了承くださいm(_ _)m

TDPという言葉が出てきたので、ここはひとつそれに関した話を。



○TDP(熱設計電力)とTcase(ケース温度)
先週、最大電力の説明で
 ・1秒間まるまる77W
 ・0.2秒間だけ165W、残り0.8秒間が55W(平均77W)
なんて例を書きました。


この例、実際に熱的にはほとんど区別がつかないでしょう。
熱というものは温まる、冷めるのに時間のかかるものです。
(実際、ステーション型半田ごての多くの機種で
 温度調節として印加電圧で調整しているわけではなく、
 ON/OFFの割合(Duty)で調節している感じです)。


当方はTDPを「製品を冷却する能力指標」と解釈しています。
TDP77Wといわれれば、77Wの発熱
(10Ωの抵抗器でいえば、約2.775Aを流し続ける状態)を、
連続して一定の温度以下に冷やせる能力です。


「一定の温度」とは何かといいますと、
これもデータシートにTcaseとして記載されています。
Tcase(ケース温度)とは
プロセッサーの内蔵ヒート・スプレッダー (IHS) で許容できる最大温度です。
  ※http://ark.intel.com/ja/products/65523のTDP注釈欄の記載内容
と紹介しています。
つまり、ヒートスプレッダーの温度を
記載の温度以下にして使いなさい、という意味です。


Core i7-3770KのTcaseは67.4℃。
つまり、ヒートスプレッダーの温度を運用中67.4℃以下にして
使わなければならない、という意味です(CPU定格時)。



○TjMAXの存在
さらにもっと正確にはTj(
半導体接合部温度や最大ジャンクション温度と呼び、

ダイ内部の温度と解釈すればOK)があり、

その中でも動作上限温度としているのがTjMAX(最大ジャンクション温度)です。
i7-3770Kは105℃と記載されているので、ヒートスプレッダーの内部、
つまりCPUダイそのものを105℃以下に抑え込まなくてはなりません。


実はCPUのTjMax=105℃まで冷やせる限界が、
ヒートスプレッダーで67.4℃と考えることができます
(CPUが定格の77Wで発熱している場合)。



図(上述のデータより引用)でいえば、CPUダイが77Wで運用中、
ヒートスプレッダーが67.4℃以下まで放熱できていれば
CPUのTj(ジャンクション温度)を105℃以下にすることができる、ということです。

このCPUダイとヒートスプレッダーの熱の伝わりにくさを熱抵抗Θjcと呼び、
大きいほど熱が伝わりづらくなります。

熱抵抗Θjcが最悪値で(105-67.4)℃/77W=0.488℃/W程度

(実際はここまでぎりぎりではないでしょうからもう少し低い)と考えられます。



○i7-2700Kとの比較

ここでCore i7-2700Kのデータ を見てみましょう。
i7-2700KのTcaseが72.6℃。

一方i7-2700KのTjMAXは、実はデータシート内でも記載されておりません。
ただ、Thermal/Mechanical Specifications and Design Guidelines 内の
「Table 8-2. Fan Speed control example for 95W TDP processor」の中に
「Calculated Tj(assuming TjMax = 99C)」という注釈があり、
おそらくTjMaxは99℃程度だろうと考えます。


これが本当だとすると、2700K→3770Kにあたり
TjMaxは上限が6℃も上昇しているのにもかかわらず、
Tcaseが5℃も低くなってしまったことになります。

簡単に言えば「冷えなくなった」のです。


理由はおそらく2点。

1つはプロセスの微細化。
プロセスが小さくなれば、同じ面積につめこめられる
トランジスタ数(=スイッチング損の発熱源)は多くなりますので
ダイの単位面積当たりの発熱量(=発熱密度)が増えることになります。
より小さな面積の発熱源を冷やすのは、なかなか難しいのです。


もう1つが、ダイとヒートスプレッダーの間の熱抵抗が増えてしまった点。
よくSandyBridgeは半田接合、IvyBridgeはグリスといわれておりますが、
このグリスの熱抵抗があまり低くないため
同じ熱量でもヒートスプレッダーへ熱を伝えにくくなったと考えられます。



○「殻割」

前者はダイの構造そのものが原因ですから変更のしようがありませんが、
後者はより熱抵抗の低いグリスに塗り替えれば、
ヒートスプレッダーまでの放熱能力を改善できるわけです。
さらにヒートスプレッダー自身にも熱抵抗がありますから、
これを取り外してしまうのも1つの改善策といえます
(熱密度が違うとはいえ、CPUコアに直接ヒートシンクが触れる状態は、
 PentiumIIIのKatmaiやCoppermine、Athlon~AthlonXP世代では普通でしたし(笑)
 27台目PCのようにモバイルCPUですと取扱対象者が限られるせいか今でも露出です)。


まは、保証云々の話を抜きにして考えると、
理論上半導体としてはTjMaxを守れば動きますので、
たとえば(もともとの熱抵抗が先ほどの最悪計算値だった場合)

Θjc=0.3℃/Wまで下げられれば、
仮にまったく同じ放熱能力を発揮できるCPUクーラーを同条件下で使っていれば
  67.4+(0.3*77)=90.5℃
と、CPUダイ温度を計算上は15℃近くも下げることができるわけです。
つまり限界に対して15℃の余裕ができるというわけです。
この+15℃のぶんだけ、OC(周波数アップ、電圧アップ)をする
伸びしろができる、と解釈できます。

※実際にはΘjcの実力値が読めずここまで差は出ないと思いますが、計算的に。


というわけで、ヒートスプレッダーをCPU基板上から切り離し、

内部のグリス(TIM)を変更する、いわゆる「殻割」が誕生したわけです。



ちなみにリテールCPUクーラーは最大周囲温度40℃を規定しています。

これはつまり、周囲40℃で77W動作中にTcase67.4℃までは冷やせる能力がある、

という意味と考えられます。

もっともこのとき、Fan Duty 100%(ファン最高速回転)でしょうけど(苦笑)



○おまけ

先ほど気がついたのですが…

実はThermal/Mechanical Specifications and Design Guidelines (第2世代)や

Thermal/Mechanical Specifications and Design Guidelines (第3世代)に

リテールCPUクーラーの仕様も記載されておりまして、

いずれもTable 11-1. Fan Heatsink Power and Signal Specificationsで、

PWM制御の仕様も記載されておりました。

Min.21~Typ.25~Max.28kHz。

当方が山洋電機の仕様(同じく25kHz)を参考に

「PWMのファンコントロール」の記事を書いております が、

Intelのリテールクーラーでも(範囲はともかく)Typ.は同じ仕様でしたので、

これでほぼ間違いない、と断言できると思います。



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実は現在、物件探しをしておりまして、
これが決まれば片付けや引越しという段取りになります。


2015年冒頭に「上期は2週間に一度の更新」という話を打ち上げまして

今のところそれより多くの記事をかけておりますが、

予定が少し遅れて、この先急に頻度が落ちる場面が出てくる可能性がございます。

あらかじめご了承ください。

引越しが終われば、本格的に31台目PCの作業に入りたいとも考えております。



ちなみに先週の記事「CPUを動かす電力の最大値 」に、

かなり微妙ながら電流の実測波形を追加しました。