砂場 -11ページ目

砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

予告された殺人の記録 (新潮文庫)
G. ガルシア=マルケス
新潮社
売り上げランキング: 6628

結婚式のよく朝に殺されたひとりの男。どういう状況でその凄惨な事件が起こったのか、関係者の言葉によってその全貌が明らかになってゆく。インタビューの受け答えのような会話文が、そのリアルな事件を徹底的に描きながらもどこか他人事のような距離を生み出している。それは僕たちが現実世界で見聞きする事件と同じだ。絶対的に存在する実際に起きた事件と、語られる事件のズレ。それがフィルムの二重写しのような幻視的な効果を生み出していて、凝視するほど酔いそうになる。

狭い町の濃密な人間関係。お互いの距離が近いゆえの関心と無関心のまだら模様となる。それぞれの人間が背負っているものが語り手が知りえる範囲で克明に語られる。謎に包まれた部分は、噂や憶測で埋められる。小説という枠を超えたノンフィクションのような圧倒的なリアリティ。「カミュ」的などこか醒めた視線と「カフカ」的な不条理な空気が世界を支配する。

そのあたりの小説の主人公よりも深い人間性を持った人物がただの脇役として物語を通り過ぎていく。短編を30編足したぐらいの密度、大長編を圧縮して中篇にしたぐらいの重さ。ラストになる殺人のシーンがクライマックスとなるように、構成が緻密に計算されている。登場人物のそれぞれの立場が明瞭に描かれているのに、それらが組み合わされると不可解としか思えない凶行が起きる。それはまるで白昼夢の世界にいるかのようで、現実世界に戻るのに少し時間がかかる。
新編 普通をだれも教えてくれない (ちくま学芸文庫)
鷲田 清一
筑摩書房
売り上げランキング: 74515

新聞など一般の人向けの媒体に書かれたもがほとんどなので、哲学的でありながらとても分かりやすいエッセイ集。。テーマは多岐にわたるが、全体を通して普通とは何かということが問い直されている。はしがきで鷲田氏は普通についてこう書いている。

「普通」というのはたぶん、生きていくうえでほんとうの拠りどころとなる単純なことなのだろう。あるいは、ひとが心から納得でき、それに素直に従うことのできること、あるいはそれには従わねばならないと思えること。
(中略)
それは思想や倫理や常識として、つまり知識として学ばれるものではない。それよりもむしろ、人と人とがからだをつきあわせて生きる場面で、このからだが底の底から納得するものではなくてはならないだろう。


普通という定義が失われたのではなく、普通を体得する環境が失われた。だから、私たちは普通を見失っているのではいかという問いかけ。このエッセイ集では自明のことと思われがちな普通が、いかに脆いものなのかが浮き彫りにされる。「電話」「制服」といったテーマから、「神戸児童殺傷事件」「阪神大震災」という大事件、「食」「性」など身体的な感覚、「私的空間」「都市」が生みだす空間などを哲学の視点から真摯に見つめなおす。

普通が失われたため人は混乱し、失われた普通を求めてさらに逸脱していく。そんな現代を生きるわたしたちが「普通」といかに向き合っていくのかを深く考えさせられる。やわらかい語り口も魅力的だ。
水木サンの迷言366日 (幻冬舎文庫)
水木 しげる
幻冬舎
売り上げランキング: 14835

僕の敬愛する水木しげるの迷言集。絵描きを目指して上京。戦争に召集され片腕を失う。極貧生活のなかをかろうじて漫画で食い繋ぎ、やがては売れっ子漫画家として多忙な日々を過ごす。そんな激動の人生を送ってきた水木先生の言葉は辛辣でありながら楽観的で、怠惰と情熱が同居する独特な世界観をつくりだしている。

僕はその全てに心酔する水木原理主義者ではないけれど、これらの言葉を読んでいるとなんだか落ち着く。NHの朝ドラ「ゲゲゲの女房」はちょっと爽やか過ぎではないかと思いつつ、活躍を期待しております。

金はほしがるとにげる P23

努力は、人を裏切る。P50

(マイレージカードについて)ああいうものを作ると、人生が複雑になりゃしませんかねぇ。P73

ツングースやギリヤークなんか、死が近づいてくると肉親が抱いて寝てやるんだ。最後まで一緒に寝てやる。日本じゃ望めんかもしれんけど、それが本当だと思うよ。P76

人間は寝ることによってかなりの病が治る。私は"睡眠力"によって傷とか病気を秘かに治し、今日まで"無病"である。私は"睡眠力"は"幸福力"ではないか、と思っている。P82

虫とか草とかが吐く言葉は、地球の言葉なんです。P103

他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさが大切。P166

よく大臣方が失敗される、あの女性関係というやつ、あれが長年の"ボクの夢"なのだが、多忙のため、いまだに実現できない。P171

みんな子供のときは妖怪です P200

妖怪というのはね、くだらんものを一生懸命見る努力をして、見えないものを無理矢理見るということなんです。P320


■関連本

ゲゲゲの女房
ゲゲゲの女房
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武良布枝
実業之日本社
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ドラマ原作

ねぼけ人生 (ちくま文庫)
水木 しげる
筑摩書房
売り上げランキング: 653

自伝!

カラー版 妖怪画談 (岩波新書)
水木 しげる
岩波書店
売り上げランキング: 22524

妖怪画!

Pen ( ペン ) 2010年 5/1号 [雑誌]

阪急コミュニケーションズ

水木しげる特集!
今年も本屋大賞が決まりました。今回は芥川賞作家、直木賞作家だけでなく日本SF大賞作家、電撃大賞作家、さらにはカフカ賞作家までノミネート。こんな幅広いジャンルの作家から選ばれる賞は他にないでしょう。

順位はつきましたが、書店員が自信を持って選んだ10作品はもちろんどれもおすすめです。といっても人によって好みが分かれるのは当然ですので、ぜひ10作品の中から自分にとっての大賞を見つけて下さい!

というわけで10作品全作紹介いたします。
過去の本屋大賞紹介はこちら。(画像リンク切れたりしてます、すいません)
2009年本屋大賞
2008年本屋大賞
2007年本屋大賞
2006年本屋大賞
2005年本屋大賞

1位
天地明察
天地明察
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冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 4

圧倒的大差で本屋大賞受賞!

好奇心溢れるひとりの若者が、江戸幕府の沽券にかかわる壮大なプロジェクトの中心人物となっていく生涯を描いた時代小説。個性的で愛すべき様々な人たちが彼を支え、彼に夢を託していく。それらを一心に背負い、自らの才能と熾烈な戦いを繰り広げながら、前へと進んでいくその姿が、胸を打つ。

「囲碁」「算術」「天文学」という専門的な分野を描きながらも、予備知識ゼロで読むことができる内容。超文系の僕でも問題なかった。知らないだけに興味がわいて、物語に引き込まれる。とにかく登場人物たちが魅力的で、展開も目まぐるしく、ページを捲るのがもどかしいほど。こういう小説がたくさん出てきたら、日本の小説界の未来も明るいのではないかと思われる傑作です!

2位
神様のカルテ
神様のカルテ
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夏川 草介
小学館
売り上げランキング: 187

信州の小さな病院で、人手不足のため不眠不休で働く内科医。持ち前の飄々としたキャラクター。変人(?)揃いのアパートの住人たちとの交流や、愛する妻とのほのぼのエピソードが読んでいて心地よい。最先端医療ばかりが重要視されるなか、医者と患者がどう向き合うべきなのか。シンプルながら大切なテーマを正面から描いた快作です。

『天地明察』の壮大さとは真逆の、身近な日常の大切さを丁寧に描いたこの物語が多くの方に支持され見事に2位にランクインしたことは素直に喜びたいと思います。とても文章が読みやすいので、普段あまり本を読んでいない方などに特におすすめしたいです。

3位
横道世之介
横道世之介
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吉田 修一
毎日新聞社
売り上げランキング: 720

田舎からでてきた青年の大学での一年間が描かれる。どこかとぼけた味わいの、真っ直ぐな心を持った愛べきキャラの横道世之介。印象的なエピソードが満載で、そこが読みどころでもあるけれど、何より彼のキャラクターが、この物語を魅力的なものにしている。

そして、ときおり挿入される、大学時代に横道世之介に出会った人たちの回想が、この物語に奥行きを与え、全てのエピソードの面白さを倍増させている。気ままな世之介のキャラと、重みのあるエピソードの落差。学生の自由な生活と、社会に出た登場人物たちの厳しい現実の人生。もし本屋大賞にキャラクター部門があればきっと1位は横道世之介で決まりでしょう。 記憶に残るだけでなく、心にも残る物語です。

4位
神去なあなあ日常
神去なあなあ日常
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三浦 しをん
徳間書店
売り上げランキング: 812

高校の先生と親が一方的に決めた就職先に、いやいやながらひとり旅立つ主人公。絵に描いたような何もないド田舎での過酷な林業の仕事に、何度も逃亡を繰り返しながらも、いつしかその圧倒的な自然の魅力と林業という仕事のやりがいに気付いていく。、あの宮崎駿も絶賛した林業をテーマにした青春・成長小説。

絶対的な「自然」と「信仰」の中で長年ずっと暮らす村社会。そこでは、その自然をただ絶賛するのでもなく、もちろん田舎を時代遅れと馬鹿にするのでもなく、それらを「なあなあ」と見つながら共に歩んできた。その自然と人間が共存するための「林業」という仕事がある。「なあなあ」とは三重県方言で「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」といった意味の言葉。かなり派手な展開を繰り広げつつも、それれが「なあなあ」と日常に流れていくこの世界観がなんとも居心地のいい空気を生みだしていて、ずっと読んでいたくなります。

5位
猫を抱いて象と泳ぐ
猫を抱いて象と泳ぐ
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小川 洋子
文藝春秋
売り上げランキング: 728

チェスの天才、生まれつき閉じられた唇、大きくなりすぎた象、古びた回送バス、甘いお菓子、ためらいがちな言葉、壁と壁の間に挟まれた少女、白と黒の升目、ポーンという名の猫、自動人形、肩に乗った鳩。

とても美しくて哀しい物語。少し触れるだけでこの物語を壊してしまいそうに思えて、何と書いていいのか分からない。とにかく読んで欲しい、としか言葉がでてこない。この世界観が好きな人にとっては生涯の一冊になり得る素晴らしい物語です。

6位
ヘヴン
ヘヴン
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川上 未映子
講談社
売り上げランキング: 473

いじめをテーマにしながらも、神なき世界をどう生きるかという哲学的な問題意識が描かれつつ、恋愛小説や青春小説という直球の読みにも耐えうる強度を持った小説。主人公と同じくいじめられる同級生の女子との関係を軸に物語りは進んでいく。残酷ないじめの描写と、彼女との静謐な手紙のやり取り。張り詰める緊張感と、それが少しだけ緩む二人の対話。

今までの作品の饒舌な文体を捨て、読みやすくなったかと思いきや息の詰まる展開に目の前が暗くなる。いじめとは何か、善とは何か、悪とは何か、強さとは何か、弱さとは何か。胸を締め付けるラストシーンの美しさは今回の10作品の中でも随一です。

7位
船に乗れ!〈1〉合奏と協奏
藤谷 治
ジャイブ
売り上げランキング: 4683

船に乗れ!(2) 独奏
船に乗れ!(2) 独奏
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藤谷 治
ジャイブ
売り上げランキング: 4541

船に乗れ! (3)
船に乗れ! (3)
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藤谷 治
ジャイブ
売り上げランキング: 9011

音楽一家に生まれたチェリストの少年が主人公。爽やかさを前面に押し出した青春小説として素晴らしい前半と、急転直下して若さゆえの過ちと苦悩を綴った切実な後半。そして全編に渡って鳴り響く音楽。そのメロディは祝福であり、審判でもある。喜びと、悲しみと、希望と、絶望と、全てが音楽とともにある。

読み終えてからもうだいぶ時間がたつのに、いまだ余韻の中にいるような気がする。他では味わえない読書体験。僕はこの作品を迷わず1位で投票しました。

8位
植物図鑑
植物図鑑
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有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 2678

主人公の女性は道端で行き倒れていた男性を拾って一緒に暮らすこととなる。その男性はとても植物に詳しく野草や山菜を取って料理するという意味と、同棲しながらもまったく主人公には手をださないという意味において「草食系」男子。

その微妙な恋愛関係など、読んでいて恥ずかしくなるぐらいの超王道のベタベタなラブコメ展開に。でも同じラブコメ路線でも、捻りをくわえた『図書館戦争』よりも、こっちのほうが個人的に好きだった。お約束の展開も、ここまで直球でくると様式美として楽しめるのだなと新発見。直球ならではの破壊力に ブクログ大賞も受賞するなど、超人気作です。

9位
新参者
新参者
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東野 圭吾
講談社 (2009-09-18)
売り上げランキング: 110

日本橋に赴任した新参者の刑事・加賀が、殺人事件の被害者や容疑者の足取りを追う中で、商店街の人たちに関わる謎を解いていく。それぞれの縺れた糸をほどいたとき見えてくる、人の優しさや温かさが胸を打つ。ミステリーと人情話が絶妙に融合した連作小説の傑作。

現在ドラマも放映中というベストセラー作品なので9位になりましたが、「このミステリーがすごい」と「週刊文春ミステリーベストテン」で1位になるなど、その面白さは保証付。読む本を迷ったら東野圭吾!

10位
1Q84 BOOK 1
1Q84 BOOK 1
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村上 春樹
新潮社
売り上げランキング: 8

1Q84 BOOK 2
1Q84 BOOK 2
posted with amazlet at 10.04.22
村上 春樹
新潮社
売り上げランキング: 13

『BOOK1』と『BOOK2』の合計で230万部を超える超ベストセラー。そんなに売れているのに、なぜノミネートされているのか、本屋大賞の趣旨と違うのではないかと非難の声もありましたが、それは単純なことで、投票した人がとにかくこの作品が好きだからです。書店員というのは給料も待遇も悪く「とにかく本が好き」という人が多い職業です。そういう人たちが集まって投票すれば「とにかく好き」という作品に票が入るのは必然のこと。ここまで愛される『1Q84』という小説はとても幸せだなと思います。
詩の力 (新潮文庫)
詩の力 (新潮文庫)
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吉本 隆明
新潮社 (2008-12-20)
売り上げランキング: 23102

吉本隆明が有名な現代詩人たちについて雄弁に語っている。一般人には敷居の高い現代詩の世界の見通しをよくする入門書として最適。ここで紹介されているのは、谷川俊太郎、田村隆一、塚本邦雄、岡井隆、夏石番矢、吉増剛造、西條八十、中島みゆき、松任谷由美、宇多田ヒカル、俵万智、佐佐木幸綱、寺山修二、角川春樹、野村喜和夫、城戸朱里、鮎川信夫、近藤芳美、西東三鬼、吉岡実、谷川雁、入沢康夫、天沢退二郎、茨木のり子、永瀬清子、清岡卓行、大岡信、飯島幸一。

私たちが生きていくうえで重要と考えているものが、谷川さんの詩にはない。それは故意には無意識の資質からか排されていて、しかもニヒリズムからそうしているわけではないと思える。このあたりがとても不思議で、谷川さんの詩を興味深く考える理由の一つだ。P22

つまり、鳥を心の中の風物に変えてしまっている。象徴や比喩として心に入れたのではない。本当に、空を飛ぶ鳥を心の中に入れてしまっているのだ。これが田村さんのたぐいまれな力量だ。P28

傾向として岡井さんの短歌ではイメージの背景に必ず実景が考えられているのに対して、塚本さんの歌は本来的なイメージだけで作り上げられている。イメージさえ具体的に浮かんでくれば実景は伴わなくていい、空想でもいいという作り方であるといえる。P40

吉増さんの詩には、およそ現代の詩人が日本語で詩を書く時に考えられると思われる試みがすべて入っているといっていい。P57


詩というのは、いまいちどう読んだらいいのかわからない。わからないなら読まなくてもいいかと思って長年放置してきたが、最近ちらほら面白いと思う詩歌に出会うようになった。そうなると、がぜん読みたくなるのだが、いざ詩集を手にとってみるとやっぱり意味不明だ。こうして吉本隆明氏に解説されると、なるほどと感心するのだが、そのまま渡されても僕には欠片も読み解くことはできそうもないなと思う。

体系的に読んでいけば、もう少し詩が分かるようになるのかも知れないが、詩は分かるより感じるほうが楽しいような気もする。やはり今まで通り、気がむけば詩集をパラパラとめくってみて、自分の中にすっと入ってくる詩と出会えるのを待つほうがいいのだろうか。