結婚式のよく朝に殺されたひとりの男。どういう状況でその凄惨な事件が起こったのか、関係者の言葉によってその全貌が明らかになってゆく。インタビューの受け答えのような会話文が、そのリアルな事件を徹底的に描きながらもどこか他人事のような距離を生み出している。それは僕たちが現実世界で見聞きする事件と同じだ。絶対的に存在する実際に起きた事件と、語られる事件のズレ。それがフィルムの二重写しのような幻視的な効果を生み出していて、凝視するほど酔いそうになる。
狭い町の濃密な人間関係。お互いの距離が近いゆえの関心と無関心のまだら模様となる。それぞれの人間が背負っているものが語り手が知りえる範囲で克明に語られる。謎に包まれた部分は、噂や憶測で埋められる。小説という枠を超えたノンフィクションのような圧倒的なリアリティ。「カミュ」的などこか醒めた視線と「カフカ」的な不条理な空気が世界を支配する。
そのあたりの小説の主人公よりも深い人間性を持った人物がただの脇役として物語を通り過ぎていく。短編を30編足したぐらいの密度、大長編を圧縮して中篇にしたぐらいの重さ。ラストになる殺人のシーンがクライマックスとなるように、構成が緻密に計算されている。登場人物のそれぞれの立場が明瞭に描かれているのに、それらが組み合わされると不可解としか思えない凶行が起きる。それはまるで白昼夢の世界にいるかのようで、現実世界に戻るのに少し時間がかかる。
