杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-わたしは生きてるさくらんぼ


『わたしは 生きてる さくらんぼ

ちいちゃな女の子のうた』

デルモア・シュワルツ/文

 バーバラ・クーニー/絵

白石かずこ/訳 ほるぷ出版




わたしは 生きてる さくらんぼ と

ちいちゃな女の子が うたいます.

まいあさ わたしは あたらしいものになるのよって。


裸の女の子が歌う歌は

“わたしって、なあに?”“わたしって、だあれ?”を、

読者である私たちに問いかけるようです。



わたしは リンゴ

わたしは プラム

わたしは 木

わたしは 猫

わたしは 花になって ひらいたりもするの.



わたしはあかよ. と女の子が歌うとき
ページは雪の降り積もる丘が真っ赤な夕日で染まります。

わたしは 金. と女の子が歌うとき

黄金色に染まったヤナギの枝に腰かけています。


女の子は、何にでもなれるけど、

「わたしは いつも わたしでしょう」と知っています。


「生きる」って、こういうこと。

素朴で、あたりまえの毎日で、

この世界に存在していることがすばらしい!

だからこそ、いつでも自分から、幸せになることができるって、教えてくれます。

いのちがあるのだもの。

家の中でも、森の中でも、どこでも、

今ここに、あなたのいのちが。












杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-バスラの図書館員























『バスラの図書館員 

イラクで本当にあった話』

ジャネット・ウィンター/絵と文

長田弘/訳 昌文社



「本」は、木から生まれます。

一枚のページの中に、空高くのぼる枝葉や大地の匂いが隠されているのです。

誰もそれを意識して、本を読まないけれど、たしかに、本には“木のいのち”がやどっていると、私は感じます。


この絵本は、そんな木から生まれた本を守った、イラクの図書館員の物語。



舞台は、イラク最大の港町、バスラ。イラク戦争のさなか。

図書館は戦火で今にも焼け落ちてしまいそうな情勢になってきました。図書館には、あらゆる言語で書かれた本がありました。ムハンマドの伝記は700年も前の本です。

図書館員、アリアさんは、「図書館の本を、戦争からまもることのできる安全な場所にうつしてほしい」と当局に求めました。

しかし、それはかなえられませんでした。そこで、バスラさんがとった行動は驚くべきことでした。

毎晩毎晩、図書館が閉まった後に、本を自分の車に運び入れました。

爆撃が激しくなると、図書館で働く人たちも兵士たちも、図書館を見捨てて逃げ出しましたが、アリアさんは戦争の火から本を救い出そうとしました。

友人たちと隣人たちの助けを借りて、三万冊の蔵書のうち70パーセントにあたる本を家や知人宅に運んで、隠したのです。図書館が消失したのはその9日後だったそうです。

アリアさんの家はどこもかしこも本ばかり。床という床も、棚という棚も、窓という窓も……。

図書館の再建まで、アリアさんという図書館員の手で、本は今でも守られています。




イラク戦争は日本にとっても、大きな転換となる戦争でした。

戦後初めて、アメリカが起こした戦争に、日本が参戦することを決めた出来事だったからです。

いのちが無残に殺されていく道を国が決定するならば、私たち国民は従うしかないのでしょうか。当時、“国際貢献”という名の下に、イラクに派遣された隊員の多くが遺書を書いて、現地におもむきました。遺書を書くという異常さを彼らの心から失わせるほど、死が身近となった参戦でした。


本を隠していることが当局に分かれば殺されてしまうかもしれない状況の中で、アリアさんがとった行動は、奇跡ともいうべき勇気なのです。











杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-少年の木


『少年の木 

希望のものがたり』

マイケル・フォアマン/作・絵

柳田邦男/訳 岩崎書店




「日本の子どもたちへ

みなさんは、戦争を知っていますか?」


そう呼びかける、作者マイケル・フォアマンさんのメッセージから、この本は始まります。

マイケルさんが幼かった頃は第二次世界大戦のさなか。

彼の家は、イギリスの東海岸沿いにあり、「海岸には、鉄条網(てつじょうもう)がはりめぐらされ、砂浜のいたるところに地雷(じらい)が埋められていたので、一度も海辺で遊ぶことができませんでした」と書いています。

幼いマイケルさんの目に映った、がれきだらけの戦争の傷跡。すべての家が壊されて、鉄条網で封鎖(ふうさ)された場所が絵本の舞台です。




がれきの山で、一人の少年が小さな緑色の葉を見つけます。
少年は、あきかんを拾って、その中にたまっていた雨水を緑の葉にかけてあげます。
「しっかり のんでね」と、そっと声をかけながら。
少年が見つけた葉は、ブドウの木でした。緑の葉は日に日に大きくなって、つるがのびて、葉をしげらせるようになりました。

そこを少年は“秘密の庭”と呼んで、毎日水をあげました。

やがて、友だちがやってきて、木陰で遊ぶようになり、緑の遊園地になりました。

ところがある日、兵隊たちがブドウの木を根こそぎひっこぬいて、鉄条網の向こうへ投げ捨ててしまったのです。

少年は、悲しくて、悲しくて、悲しくて…。

ブドウの木と少年は再び会えるのでしょうか。

 

戦争の残酷さは、くすんだ灰色で描かれ、

緑の葉、ブドウの木に集まる小鳥や草花や子どもたちは、あざやかな緑色や黄色やオレンジ色で描かれています。

「死」と「生」との本質を色彩によって、みごとに表していることに、作者の平和への意思を感じます。

戦争を知らない世代も、命を奪う悲惨と、命が芽生える希望、命のあたたかさを、少年の心のなかに見つけることでしょう。




★絵本に登場する木

ブドウ/ブドウ科・落葉低木 シンボル:幸せな家庭


















杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-木のいのち


















『木のいのち』

 立松和平・文

 山中桃子・絵

 くもん出版

 

戦争で焼け野原になった土地に、一本の大きなケヤキが立っていました。

空襲の炎の下を逃げまどう人々を見ていた木。

やがて、戦争が終わり、人々が戻ってきました。

戦争の前と変わらずにまっすぐ立っているのを見て、多くの人が勇気づけられました。

その頃に生まれた、千春という女の子を通して、

この一本のケヤキの様子が語られていきます。

千春が小学生になり、中学生になり、二十歳になり、結婚して、子供を生んで…。

その間に、道路を広げる計画のために、ケヤキを切ろうという話が持ち上がり、

ケヤキを守る運動が広がったこと。

大きなビルが次々と立ったこと。

お母さんの頭がおとろえて、施設に入って行ったこと。

そして、千春の子供が成人して、子供を生んで、一緒に暮らし始めたこと。

千春は歳をとり、ケヤキの見える病室を希望して、入院しました。

生きて、この病院から出ることは二度とないと知りながら。

  



人の一生のなかに、変わることなく立ち続ける大きな木の姿。

同じ命をもった木がそばにいてくれることの心強さを思います。

いのちがそばにあると、わたしのいのちが喜びます。


ふと見上げた、一本の木が、生きる勇気をくれることを知ってください。


★絵本に登場する木

ケヤキ(欅)/ケヤキ科・落葉高木




杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-きがくれたおくりもの
















『きがくれたおくりもの』

おおはしえみこ・作

高見八重子・絵

すずき出版



雨が降らなくなってしまった森の中。

大きな木のほらから、ふわふわの毛をしたリスの親子が空を見上げています。

小さなリスは「水がのみたいなあ」とつぶやきます。

それを聞いて、大きな木は心がしめつけられるよう。

木はざわざわと枝をゆらして、葉っぱの先からしずくをぽたり、落としました。

リスのぼうやは「おいしい!」とにっこり。

でもその後、雨は全然ふりません。

ある日、リスのぼうやは熱を出してしまいます。

お母さんリスは、おろおろしますが、ぼうやは弱くなっていくばかりです。

「のどがかわいたよ」と小さな声で言うのを聞いていることしかできません。

大きな木も、心配でたまりません。

「なんとかして、ぼうやを助けなければ!」と、体にぐっと力を入れました。

すると、思いもかけないことが起こったのです!

木が起こした奇跡とは何だったでしょうか。



この大きな木は、

心から誰かのために役に立ちたいと思ったら、

自分が思いもかけない力が出せることを教えてくれます。

淡いパステルの絵があたたかく、

ページをめくるたびに、

人を大切にする心を取りもどす一冊です。








杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-あめがふるとき ちょうちょうはどこへ






















『あめが ふるとき ちょうちょうはどこへ』

メイ・ゲアリック/作 

レナード・ワイスガード/絵 

岡部うた子/訳 金の星社

あめ、あめ、あめ、あめ。

あめが ふるとき、

ちょうちょうは 

どこへ いくのかしら

雨がしとしととふりゆく野原をちょうちょうが飛んでいます。

雨にぬれて、どこかに向かっています。

遠い風景の中に、小さな家が見えます。家を目指して飛んでいるの? いえいえ、そうではないみたい。

ここはどこでしょうか。私の家のすぐ近く? そう思えてくるくらい、自然な風景が広がる、モノクロームの絵。

みつばちは巣に帰り、もぐらは穴にもぐり、ねこは走って家に戻ります。

でも、ちょうちょうは?

雨の日、心にうかんだ小さなぎもん。

家のなかで外をながめながら、ふと考えてみたのでしょう、作家の心はやさしくて。

こんなふうにのんびりと、この世にいっしょに生きている「命」のことをかんがえながら過ごす、雨の一日。

いつもの雨が心ゆたかな情景になってゆきます。



杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-おおきなきがほしい


『おおきな きがほしい』

 さとうさとる・文 

 むらかみつとむ・絵

 偕成社

 

「おおきな おおきな 木が あると いいな。ねえ おかあさん」

少年かおるのこんな言葉で、絵本は始まります。

自分の大きな木を、かおるは空想してみます。

いっしょに想像してみてください。

うんと太くて、一人で手をまわしたくらいでは抱えられない、大きな木。

木にはてっぺんまで、はしごをかけます。

ぐらぐらしないようにしばっておかなくちゃ。

妹のかよちゃんも昇れるように、つりかごのブランコをとりつけましょう。

木の真ん中あたりには小さな小屋をつくります。かおるだけのお城です。

小屋の中には台所があって、かおるはそこでホットケーキを焼くのが楽しみです。

奥にはもう一つ小さな部屋をつくって、そこにはベッドを置きます。

りすの家や小鳥の巣もあって、ひとりぼっちではありません。

そして、木のてっぺんには、見晴らし台。

町を見下ろすと、自動車なんて、かぶとむしみたいに小さいのです。

「わーい、ぼく、とりになったみたいだ」

ページをめくるたびに、かおるが心の中で思う、大きな木に登ったり、料理をつくったり、

いっしょに遊ぶ自分と出会います。



佐藤さとるさんの物語に、村上勉さんの絵の組み合わせ。
コロボックルシリーズは今でも忘れられません。
二人のぴったり合ったお話の世界にどんなに胸ときめかせたでしょう。
繊細で、優しくて、人の生活の中にすーっと入って、
非日常の不思議な話が不思議ではなくなる不思議…。
大きな木の物語に、ふっと心をゆだねて、
あなたの“大きな木”の宇宙へと旅立ってみてはいかがでしょうか。






杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-大きな木のような人



















『おおきな木のような人』

 いせひでこ 文と絵

 ジョルジュ・メテリエ 監修(人類植物学者)

 講談社

 

「人はみな心の中に、一本の木をもっている。」

絵本に書かれた一文です。

大きな木と出会えば、木はわたしを、記憶する。

わたしは木のことを、記憶する。

ひまわりの種を蒔けば、ひまわりはわたしの心の中にしっかりと根を下ろす。

わたしはひまわりのいのちの力を受けとめて、大地に根をはる。

250歳のプラタナスの木。

400歳のアカシアの木。

日の当たるところで大きく育ったメタセコイアと

木陰のところで小さく育ったメタセコイア。

天使の羽根のような、3300万年前の木の化石。

やわらかな陽射しが注いだような、やさしくつよい木の絵。

絵本を閉じるとき、しずかに、光の涙が流れてきました。

わたしたちより遥かに長い歳月を生きる木のいのちが、

いつもそばにあることを幸せに思います。


舞台はフランスにある実在の植物園。そこで、世界中の木と人々との関係を研究する植物学者と、

日本からやってきた女の子、さえらの物語。



杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-おぼえていろよ、おおきな木

『おぼえていろよ おおきな木』

 佐野洋子・作と絵

 講談社



大きな木の陰の小さな家に、おじさんが一人住んでいました。

おじさんはちょっと、いじわるなものの見方をする人です。

郵便屋さんが大きな木を「見事な木だなあ」とほめても、

「おれには とんでもない木さ」と肩をすくめます。

木陰でお茶を飲んでると、小鳥がフンを落として行ったり、

ハンモックをつると、毛虫が何匹もぶら下がります。

洗濯物を干しても、木が陰になってなかなか乾きません。

いやな目にあうたびに、おじさんは言いました。

「おぼえていろよ、大きな木!」

そしてついに、おじさんは木を切ってしまうのです。

すると……?




ひとりぼっちになるのは簡単です。
ただ、「いらない」って、放り出せばいい。
けれど、いつも当たり前にあったものがなくなったとき、
人はどう感じるでしょうか。
空気のように存在していた、人やもの。
相手のいいところを見つけ出せば、
二人の関係はかけがえのないものに変わっていくはずです。
しかし、もはや取り返しがつかないことも、
人生にはあると自覚しておいたほうがいい。






杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-おかのうえのおおきな木


『おかのうえのおおきな木』

 ディミター・インオキオフ/文 

 イワン・ガンチェフ/絵

 ささきたづこ/訳

 

丘の上に立っているおおきな木。

その木もはじめは、ちいさな種でした。

風に運ばれて、丘の上の地面に落ちたのです。

ある日、ちいさな芽を出して、まわりを見回してみました。

丘の上にはほかの木は一本もはえていませんでした。

木はがっかりしました。

ひとりぼっちだったからです。

ちいさな木が背伸びしてみると、野原のずっと向こうの森では、おおきな木がたくさんいました。

でも、木は地面に根をはって動けませんから、森へ行くことはできません。

この丘の上で生きていくしかないのです。

そんな小さな木も、だんだん大きくなって、小鳥たちが集うようになりました。

巣をつくり、卵を産んで、かえったひなは枝に止まって、おしゃべりを楽しみました。

木はもう、さびしくありませんでした…。

あたたかな色彩の絵に心がほっとゆらぎます。

やさしい小鳥、あどけない目をしたリスやヤマアラシ。

いじわるなキツネでさえも、いとおしい、絵のふんわり感が

誰もいない丘に立つ、一本の大きな木の喜びを伝えてくれます。

 

あなたにはあなたの、ふさわしい友だちはたくさんいます。

無理やり、知らない人が大勢いる場所に出向かなくても、

自分が大きな木のような人間になれば、人は集まってくるのです。

あらしの日も、寒い雪の日も、

あなたという、大きな木の下でなら、安心して生きられると感じるから。