杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-おおきな木のおくりもの

『おおきな木のおくりもの』

 アルビン・トレッセルト/作

 アンリ・ソレンセン/絵

 中井貴恵/訳 あすなろ書房


“大きな木”に心惹かれませんか?

大きな木は、私たち人間より遥かに長い歳月を生きます。

その根元に集う動物や虫たちの命は、木がくれる力にほかなりません。


ある森の中、大きなナラの木がそびえ立っていました。

百年、いえ、それ以上の年月かけて木は育ち、ここまで大きくなったのです。

リスがすみかをつくりました。

小さな動物たちは木の根っこにもぐりこんで、キツツキやフクロウから身を守りました。

けれど、木はだんだんとむしばまれていきました。

アリたちが幹をかじり、カビやキノコもはえ、幹の中が空洞になり、朽ちていくのです。ある日、ハリケーンがやってくると、大きな木はもう耐えきれずに倒れてしまいます。

倒れた木には、ネズミの家族が住みつき、うさぎは幹の中で、冷たい風をよけました。

やがて、もっともろくなって、ムカデやカタツムリやナメクジのすみかとなりました。

こうして、何年か前に枝から落ちたドングリが育ち始め、

大きなナラの木は、土にかえっていきました。そして、

「茶色いまぼろしのような、豊かな土だけが残りました」

森の美しい絵のなかで、淡々と語られるナラの木の一生…。



大きな木がくれる物語は、


この世のすべての存在が、土に還っていくという事実。
ただ、それを受け入れていくことが
命の永遠につないでいくことになります。








杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話


『鉢の木』

たかしよいち・文

石倉欣二・絵 

ポプラ社

 

大雪の降るある夜、ひとりの修行僧が白い道をゆきます。

雪は降りやまず、修行僧は近くの家のあるじに一夜の宿を頼みます。

あるじは、「あなたをおとめしても 暖をとる薪もございません」と、丹精こめて育てた盆栽を薪がわりに燃やそうと言いました。

修行僧は「めっそうもない」と必死にとめますが、あるじは雪をかぶっている梅、桜、松の三つの鉢を次々といろりにくべていきました。

「あれほどまでに 枝のかたちをなおしたり、むだな葉をのぞいたりして、風情のあるようにと うえた松も、ばっさりきられて いろりの薪となっていくのは、なんともしのびない」

あるじはたえがたい思いでいながらも、修行僧にひと夜の暖をあたえるのです。

翌朝、修行僧は旅立っていきました。

時が過ぎ、春がきて、二人は思いがけないところで再会します。

修行僧の本当の姿は・・・。あるじの正体は・・・。

 

ほんのつかの間の出会いでも、心を尽くして人に対することのできる人間には、

天が大きなご褒美をくれるように、人生は導かれていきます。

そして、それを直接与えてくれるのは、目に見えない神ではなく、人間なのです。

『つばめの恩返し』

 高津美保子・文

『あたまにさくら』(国土社)に収録

 

ひとり暮らしのおじいさん。

ある日、ごはんを食べて、縁側で休んでいたら、つばめがケガをして落ちてきました。

かわいそうに思ったおじいさんは、薬をつけて、包帯をして、介抱してあげました。

やがて、元気になって飛び立っていったつばめ。

翌年、戻ってきたつばめがおじいさんにくれた贈り物はなんだったと思う?

それはね、真っ黒い、大きなつぶ。

空から、おじいさんの頭の上にぽてーんと落としていったのです。

よく見ると、大きなスイカの種でした。おじいさんは早速、種を植えて、一生懸命に育てました。

やがて、大きな大きなスイカがひとつ、できました。

おじいさんがスイカを切ると、中からぽんぽん飛び出してきたのは!?

恩返しの民話はたくさんありますが、こんなにかわいくて、役に立つ贈り物のお話はなかなか見かけたことがありません。

不思議なスイカの種、つばめはなんて粋な贈り物をしてくれたことでしょう。



素直に生きて、目の前に困っている人がいたら、すっと手を差し伸べられる。
そんな人間には思いもかけない素敵な贈り物が届けられるのです。





杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-あたまにさくら


















『あたまにさくら』
 松谷みよ子、吉沢和夫・監修 

 望月正子・文 国土社

少し前に、『あたまにかきの木』という絵本を紹介しました。

この本はその桜の木バージョンです。

日本にはほとんど同じ内容のお話なのだけど、登場する動物が違ったり、草木が違ったりと、ちょっとした違いがある民話がたくさんあります。

ほんの少しの違いで、言葉はまるで違う展開へと進んでいくからおもしろいのです。

この『あたまにさくら』。柿の木が桜になって、物語もほとんど一緒。

けれど、ラストが全く違いました。

頭に柿の木がはえた男は、好きなお酒を飲みながら、毎日を暮らしていきますが、

頭に桜の木がはえた男は、最後、自殺してしまうのです・・・。

楽しい、ノー天気な話の展開からは想像もできないシュールな結末。

 

受けとる出来事は同じでも、

心のもちようをまちがえば不幸は訪れる。



 



杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-なしとりきょうだい

『なしとりきょうだい』

かんざわとしこ・文 

えんどうてるよ・絵 

ポプラ社

病気のおかあさんと3人の兄弟がおりました。

薬を買うお金もなく、おかあさんはだんだん弱っていきました。

ある日、「やまなしが食べたいなあ」と、空を見上げながらつぶやきました。

それを聞いた、一番上のたろうは、梨(なし)をとるために、山へ出かけていきました。

途中、たろうは髪をばさりとたらしたばあさまと出会います。

ばあさまが言うには、この先に三つにわかれた道があって、そこに立つ笹(ささ)の葉の言うとおりに、道を選んで進め、と。

たろうがその道にさしかかると、たしかに、笹が三本すっくと立っていました。

いけっちゃ かさかさ

いくなっちゃ かさかさ

いけっちゃ かさかさ

笹の葉がささやきます。笹の言うとおり、たろうは行きませんでした。そして、大きな魚に食べられてしまうのです。おかあさんは元気になれるのかな。



 

 

人の話は、素直に聞き、素直に受けとること。

素直な心をもっていると、自然界のあらゆるものが、正しい道を教えてくれます。

木の葉も、鳥も、木にみのった梨も林檎も栗も。


 


杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-どんなにきみがすきだかあててごらん


『どんなにきみがすきだかあててごらん』

サム・マクブラットニィ作

アニタ・ジェラーム絵 

評論社

 

2010年5月9日、母の日。母親に贈った絵本です。

森の中で暮らす、小さなカンガルーと大きなカンガルーのお話。

2匹が、“どっちがどれだけ、きみをすきだか言いあいっこ”をするのです。

かわいくて、いとしくて、愛がいっぱい。

大人になって、親に「大好き」と言葉にするのはなかなかむずかしいですね。言葉にできなくても、心を伝えたいとき、贈りたい絵本です。

私、2匹はカンガルーだとばかり思っていたら、解説を読んだら、ウサギだったみたい。

でも、どっちでもいいよね・・・。

眠くなっちゃって、目をこする小さいウサギの絵が最高に可愛いです。

 

大好きな相手がいるって、とても幸せなことです。






杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-あたまにかきの木















『あたまにかきの木』

小沢正・作 田島征三・画 

教育画劇

 

日本の民話にはとっぴょうしもない、おもしろい話がたくさんあります。この絵本もその一つ。

むかしむかし、じろべえさんというお酒が大好きな男がいました。働きもしないで、昼間からお酒ばかり飲んでいる、怠け者の男。見かねた奥さんが、柿を食べればお酒の酔いをさめるからと、柿を食べさせたところ、じろべえさんはうっかり種を飲みこんでしまいました。

するとなんと、頭のてっぺんがむずむず。木の芽がはえてきて、大きな柿の木になり、柿の実が次々と実ったのです。

頭ににょきにょきはえた、柿の木はじろべえさんの人生を変えていきます。

柿がなったり、きのこがはえたり、池ができたり、稲が実ったり、それで頭のてっぺんはどうなる?

じろべえさんは好きなお酒を飲みながら、毎日暮らせるようになるのかな。



何が起きても、人に何かを奪われても、今、目の前にあるものを大切にしていけば、未来はひらける。



杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-つづじのむすめ

『つつじのむすめ』

松谷みよ子・作 丸木俊・画 

あかね書房

 

つづじが激しく赤く、花咲くようになったわけを知る日本の昔話。

山の村に暮らすひとりの娘が、山を五つも越えた先の村のお祭りにいったとき、

ひとりの若者と恋に落ちた。

しかし、お祭りが終われば、二人は会えない。娘は、山を見ながら思った。

「そうだ、山をこえて あいにいけばいい。」

娘は夜、こっそり家を抜け出すと、山道を走って、男に会いに行くようになった。

しかし、眠らずに娘と語り合う夜が続いた若者は次第にやせ、顔色も青ざめていった。

友人たちは若者を心配して、

「そりゃ、魔ものだ。魔性のものだ。にんげんの女じゃあねえぞ」と言った。女の身で、あの山を一夜のうちに五つも越えて通えるわけはない、と。

若者はだんだん娘が恐ろしくなった。そして娘は・・・。



狂うほど愛したゆえに、男が去っていったならば、

男に、生涯残る罪の跡を残すことができる。

あなたという女を、男の魂の傷として、

刻みつけることができる。



狂え! 狂え! 恋する人よ。

狂うほど、愛する男と出会えた女は、幸福。

熱く緋く、だれより美しい。

杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-赤いつづじ









杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-モチモチの木


















『モチモチの木』

斉藤隆介・作 滝平二郎・絵 

岩崎書店

 

 

表紙をひらくと、流れ星がひとつ、降ってきています。この本を読むと、誰もが夜空を見上げたくなるでしょう。自分にも、見えない光が見える心があるだろうかと、ふと不安になって・・・。

幼い頃、母親に読んでもらいました。それからずっと、私の心から離れたことのない、大きな木のお話です。

主人公の豆太はまだ5才。もっと小さなときにお父さんを亡くして、じさまと二人暮らし。夜中におしっこに行きたくなると、じさまを起こして、外のせっちん(トイレのことです)に連れていってもらいます。外には大きな木が立っていて、闇夜に浮かぶ姿は不気味です。その木が「オバケェ~!」と枝を伸ばして襲いかかってくるようで、豆太はこわくてしかたがないのです。

その木は秋には実をいっぱいつけて、おもちの材料になってくれる、おいしい木なんですけどね。おもちになるモチモチの木は、一年に一度、“ひがともる”といわれています。山のかみさまのおまつりの日。じさまは豆太に言いました。「それは、ひとりの こどもしかみることは できねえ、それも ゆうきのあるこどもだけだ」豆太は、「それじゃ、おらはとってもだめだ」と泣き声になって言いました。

でも、豆太はそのモチモチの木に灯ったひを見ることができたのです。弱虫で小さな豆太に、どうして、それができたんでしょうね。

 

勇気をもつって、どういうこと? 

大切に思い合うことの優しさを、嬉しさを、身にしみて感じます。

人は人のために生きられる。人のためになら恐怖も忘れる。

愛する家族に、自分の心が冷たいと感じたとき、心が離れたように感じたとき、開きたい一冊です。



杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-とりになったはっぱのはなし


















『とりになったはっぱのはなし』

今西祐作・作 

しのとおすみこ・絵

ポプラ社

「むかし むかし むかしの ずっと むかし」のこと。

「かみさまが はじめて やまを おつくりに 

なったばかりのときの ことです」という言葉から始まります。

ピンク色にぬられた空と山。

そこに小さな木が生えてきます。

おひさまの下で、葉っぱが元気に成長できるように、

神さまは手をさしのべてくれます。

季節はめぐり、秋になって、葉っぱが落ちてしまったとき。

神さまは、

「はっぱを いちまい いちまい ひろっては 

ふーっと いきを おかけに なりました」

そして、神さまがおこした奇跡とは・・・?


なんにも説明は入りません。ただ、絵本を開いて、


葉っぱのぼうやの成長をいっしょに見守ってほしい。

優しい絵をながめてほしい。

葉っぱもあなたも、空も小鳥も、

この世でいっしょに生きていることを感じてほしい。

天の神さまが私たちをおつくりになって、

私たちが生きていくのも、

ときどき、神さまが助けてくださるのを信じられる一冊です。