杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-1000000ぼんのブナの木

 

100000ぼんのブナの木』

塩野米松・文

村上育成・絵 

ひかりのくに

 

“ひゃくまんぼん”のブナの木の森は、とても遠いところにあります。

でもね、耳をすませてごらん。

夏、ひゃくまん本の一本一本にせみがとまると、ひゃくまんのセミがいっせいに鳴く声が聴こえてきます。

秋になると、ひゃくまん本のブナは赤や黄色の服に着がえて、目を楽しませてくれます。

今の季節は、ひゃくまん本のブナの木の森はどんな様子でしょうね?

春になろうとするのに冬に逆もどり。なかなか春がやってこない2010年の春ですが、

森ではきっと、ブナの根元に穴があきはじめています。

雪がとけて、土が見え出すのです。

ひゃくまん個の春の地面。小さな芽がのぞいているかもしれません。

もうすぐ、あたたかな風が森の中を吹きぬけていくでしょう。

四季がうつりかわる森を小さなクマが案内してくれます。

 

人はときどき、人生をあきらめ、立ちどまってしまうことがあるけれど、

静かに時は流れゆき、立ちどまることはないのだということを思います。




杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-ちいさなもり

 

『ちいさなもり』

ロセッタ・セロフィッリ絵 

アルベルト・ベネベッリ文 

大岡玲・訳 講談社 

 

光り輝く羽根をもったキジが小さな森に降り立ちました。

そこは、背の高い樹木がたくさんある、気持ちのいい森でした。

「ここなら きっと のんびり くらせる」

キジは早速、ふさふさしげった藪の中に巣をつくり始めました。

そこへやってきたのはのうさぎ。その姿を見ると、キジは叫びました。

「でて いけ! でて いけ! わたしの ちいさな もりから!」

次にやってきたのは、もぐら。今度はのうさぎが叫びました。

「でて いけ!」

新しい誰かが来るたびに、この言葉が森の中で響きます。

すれ違うたびに、こわい顔をして、相手をにらみつけます。

明るくて気持ちいい森なのに、住んでいる動物たちの心のなんて狭いこと。

こんな調子で、楽しいのかな? 

 

自分さえよければ他の人はどうなったっていい。

自分の家族さえよければそれで満足。

孤立を選ぶ人生には何の喜びもありません。








杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-あるきだした小さな木


















『あるきだした小さな木』

テルマ・ボルクマン作 シルビー=セルグ画 

花輪莞爾訳 偕成社

 

読み終わって、嬉しくなって、奥付を見たら、私が3才のときに出版された童話でした。こんなに素敵な木の童話を私は知りませんでした。

作者のテルマ・ボルクマンは、ふたごの息子たちから

「ママの考えた、誰にもしたことのない話をして」とせがまれて、勤め先から帰る途中、このお話を作ったのだそうです。

“誰もしたことのない話”は、小さな木が、土から根っこを抜き出して、歩き出してしまうお話でした。パパの木とママの木から離れて、住みなれた森から離れて、誰も知らない場所に旅立ったのです。

何を求めて? さあ、何でしょう? 

大地にしっかりと根づいてこそ、枝々を伸ばし、葉っぱを生き生きとしげらせることができ、太陽に向かって背を高くしていくことのできる木が、てくてく歩き始めたら、どうなるんでしょうか? 

旅の途中、小さな木はいろんな人に出会いました。いろんな場所に立ってみました。村や道ばたや町のど真ん中や、木一本ない野原・・・。でも、ひとつのところには長くいなくて、また、歩き始めます。

「ぼくは、もっと たくさん、たくさん 見たいものがあるんだ」と、小さな木は言います。

小さな木は、素敵なものを見られたでしょうか? 

小さな木は、友だちを見つけられたでしょうか?

小さな木は、大きな木になれたでしょうか?

美しい色彩の絵の中に入りこんで、あなたは、小さな木を応援している自分に気づくはずです。

 

見たいものがあるならば、

歩いていこう、どこまでも。

進んでいこう、どこまでも。

誰ひとりいない道でも、前に進めば、


きっと、誰かに会える。











杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-木のうた
















『木のうた』

イエラ・マリ作

ほるぷ出版

 

言葉はありません。

大きな木が一本、絵本の中に立っているだけです。

雪の積もった景色、土の中でリスが眠っています。まんまるくなって、スースー寝息が聞こえてきそう。土の中でリスが目を覚まします。春がきて、リスは土から顔を出します。それから・・・・・・。

大きな木をめぐる季節の移り変わりが、静かに、静かに、描かれます。

この絵本が楽しいのは、一度目に眺めたときには気づかなかった発見がたくさんあること。地面の上には見えなくても、雪の中で小さな芽がいっぱい出ていたり、

新しい鳥がいることに気づいたり、雪の結晶があったり。

そして、その大きな木が栗の木だということに気づいたりするのです!

 

時はめぐり、春も夏も秋も冬もくりかえす。

何千年何億年と続く、いのちの環(わ)のなかで、

私たちは生きています。






杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-森の賢者ヒダエモン

『森の賢者ヒダエモン』

ミヒャエル・エンデ作、クリストフ・ヘッセル絵 

矢川澄子訳 河出書房新社 

『はてしない物語』『モモ』の作者ミヒャエル・エンデが描く、インドの密林のおはなし。

森の賢者ヒダエモンは、大きな大きなゾウです。

知恵があり、もの静かで、謙虚で、思索をしながら時を過ごしています。

夜空が足元の水に映るのを見かけたら、<月!>を思う。

「夜空のふしぎにくらべたら、わが身はなんとちっぽけで、とるにたらぬものだわい」

小さな花が咲いているのを見つけたら、<花!>を思う。

「花なんて、ほんのちっぽけで、めだたないものだけれど、見かけの大きさなんて、何の意味もありゃしない」

そんなことをしみじみ考えているときは、心から幸せで、敬虔な気分になりました。ひたすら月、ひたすら花。何年も何年も一つのことをずっと考えていることもありました。

ヒダエモンは哲学者なのです。

そんなある日、ヒダエモンに戦いを挑む者たちが現れました。密林の中、悪臭を放つゴミ山に住むハエたちです。ハエは「おれたちは世界一えらいんだぞ」という態度で生き、大集団をつくっていました。ハエたちはこの世界で最も偉大で重要な存在は誰かをはっきり思い知らせるために、ヒダエモンにサッカーの試合を申し込んだのです。

とんだ災難! ヒダエモンはサッカーの勝負をすることになりました、と思います?

勝負はしました、たしかにしました。けれど・・・。



しなくてもいい勝負に出て、自滅するのは、きまって愚かな人間です。焦ったり、自意識過剰になったり、あたふたしたりして、自分の心を自らかき乱す人。他者を敵か味方にしか見られないのも、悲しい人間です。



杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-おおきな木

















『おおきな木』

 シェル・シルヴァスタイン作・絵 

 ほんだきんいちろう訳

 篠崎書林 


子供の頃、母がよく絵本を贈ってくれました。上京するときに、母がくれた本を何冊かカバンに入れて持ってきました。この本もそんな中の一冊。

おおきなりんごの木と小さな男の子のお話です。男の子と木は仲良し。おおきな木は男の子が大好きでした。時は流れて、男の子は成長して、青年になって、大人になって、おじいさんになって・・・。おおきな木が男の子にくれたもの、それは何だったと思いますか。


この絵本を初めて読んだとき、ちいさな私は、「私も、このおおきな木のような人になりたい」と思いました。10代のときも思いました。20代のときも思っていました。そして、今は・・・。初めて本を手にしたときから歳月が経ち、今はちょっと違う感想を持っています。

一本の大きな木が時をかけて、その姿を変えていくように、一冊の本も時をかけて、その意味を深めていくのだと思います。

あなたの心で、感じてください。誰かを愛するとは、どういうことなのかを。













杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-ワニくんのかわいい木

『ワニくんとかわいい木』

 みやざきひろかず・文と絵

 ブックローン出版


ワニくんの家の床のすき間から、木の芽が出てきました。

かわいい、かわいい、小さな芽。ワニくんはどうしたと思います? 

もちろん、育てることにしました。「ほら みずだよ」「さあ おひさまだよ」毎日、毎日、お水をあげて育てているうちに・・・、大きく育っていきました。

大きくなるのは嬉しいのだけど、木はみるみる大きくなって、ワニくんの背を越して、ワニくんの家の屋根を突き破って、部屋の中いっぱいに! お風呂に入るのも、ごはんを食べるのも大変なことになって、ワニくんが考えたこととは? 

ワニくんの決断は、思いもよらない出来事へ・・・。


言葉少ない絵本の中に、現代への警告ものぞかせながら、一緒に暮らす人への思いやりが描かれます。

ワニくんが育てた木は、あなたのお父さんやお母さんかもしれないし、あなたの子供かもしれないし、兄弟姉妹かもしれないし、夫や妻かもしれないし、恋人かもしれません。

ときには、一緒にいるときゅうくつだなあと思ったり、面倒くさいなと思ったりすることもあるけれど、大切な人とは決して離れてはいけません。ばっさり切れば、それでおしまい。


そばにいるだけで、人は幸せを感じることができる。どんなに苦しいときも、大切な人がそばにいるだけで、生きていく勇気をもてるのです。


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杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-ちいさなきのねがい















『ちいさな きの ねがい』

エリック・バテュ作絵 

神沢利子訳(フルーベル館)




ちいさな木はひとりぼっち。

ある日、木のとなりに、みどり色の草が芽をだしました。

芽はどんどん大きくなって、花を咲かせます。

ちいさな木は、ともだちになれるかな。

ちいさな木も、花を咲かせることができるかな・・・?

まるで、自分がちいさな木になったように思えてきます。

他人と自分を比べたり、ふがいない自分がいやになったり

誰もが心の中にもっている寂しさを

ちいさな木の成長ともに見つめる、深く、あたたかな絵本。


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杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-大きな空の木


『大きな空の木』

エリック・バテュ作 

加藤登紀子訳(フルーベル館)




空に向かってのびていく、一本の木。
木の上のヤドリギをとろうと子供はパパに肩車をねだる。
少女と少年は金色の月がしずむまで、かくれんぼ。
百年前もおまえはここに立っていたんだね、おじいさんがつぶやく・・・。
木はいつも、人とともに生きていることが静かに語られる絵本です。
小さな子供だったときも、おじいさんおばあさんになったときも、

変わらずに、空に向かってのびていく木が

あなたのそばにもあったことを思い出すでしょう。


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杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-大きなかしの木


『おおきな かしの木』

エリザベス・ローズ文 

ジェラルド・ローズ絵 

ふしみみさを訳(岩波書店)

 

絵本は2ページにわたって、かしの木の葉っぱが描かれた扉から始まります。

濃い緑色、淡い緑色、あざやかな緑色、オレンジ色の葉っぱ。枝にくっついたままのドングリは緑色。

大きなかしの木を下から見上げたような風景が広がり、すぐにも絵本の中に吸い込まれていきます。

次のページをめくると出てくるのは、かしの木のドングリを拾った一匹のリス。フクロウに襲われそうになって、びっくりして、ドングリを地面に落としてしまいます。

そこから、一本のかしの木の歴史が始まるのです。

暗く湿った土の中で芽を出したドングリはどんな経験をするでしょう?

千年という歳月が、一冊の絵本の中に描かれていきます。

かしの木との触れ合いは、そこに集った動物や人々にとって、かけがえのない大切な時間であったことを、すべての命が感じるのです。



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