杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-平和の種をまく




















人の言葉に洗脳されやすいあなたに

『平和の種をまく

ボスニアの少女エミナ』 

大塚敦子/写真と文

 

平和の種をまく…素敵な言葉だと思いませんか?

この本はボスニアでおきた戦争で傷ついた人たちの真実が写真でつづられています。

1992年から95年にかけて、ボスニアでは民族の違う人たちが敵どうしになって戦い、25万人以上の人が死にました。

戦ったのは、それまで隣り合って暮らしていた、ボスニアク人、セルビア人、クロアチア人の普通の人々。


でも、戦争を起こしたのは…?

少女エミナが疑問を投げかけます。

「ふつうの人は、だれも、戦争なんかしたくなかったのに」

誰もが思いました。


戦争後、エミナの家族は共同農園(コミュニティ・ガーデン)の区画を与えてもらい、野菜を育てて、食料にしています。畑仲間と野菜を分け合います。そこでは、誰がどの民族かなんて、関係ないのです。

“敵同士”にしたのは普通の人々じゃない。

悲しみや貧困のなかでも、人と人とが手をつないで生きていこうとする喜びがエミナの表情を通して伝わってきます。

農園で、エミナは別の民族のナダという女の子と仲良しになります。

「いつかまた、戦争になったら、ナダと戦うなんて、考えられません。だって、ナダはわたしの友だちだもの」

戦争にならないようにするには、どうしたらいいんだろう? 

エミナの疑問は続きます。


著者である女性カメラマン、大塚敦子さんの文章に答えがあります。

「誰かがあおらなければ戦争は始まらない」

昨今の北朝鮮や中国との関係性を考えるとき、

私たち一人一人が確固たる意志をもって、戦争に誘導されない勇気をもつべきだと感じます。












杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-ワンガリの平和の木





















気の遠くなる挑戦を始めたあなたに

『ワンガリの平和の木

 アフリカでほんとうにあったおはなし』

 ジャネット・ウィンター/作

 福本友美子/訳 BL出版




小さな苗木をもつ手のひらの絵とともに、

主人公ワンガリ・マータイさんのメッセージから絵本は始まります。

「地球から木がなくなった。

 わたしの使命は、

 地球をみどりでおおうことだ」




アフリカのケニア、緑ゆたかな村に生まれたワンガリさん。
木がおいしげり、たきぎを拾いに森に行くと、鳥がたくさんいました。
畑にはサツマイモやサトウキビやトウモロコシがたくさん実る故郷です。
小さな頃からよく勉強ができたので、奨学金でアメリカの大学に留学しました。
6年経ち、勉強を終えて、ケニアに戻ってみると、森がなくなっていました。

「木は、どこへいったの?」

あんなにたくさんあった木は、大きな建物を建てるために、どんどん切り倒されてしまったのです。

ワンガリさんは、荒れ果てた土地をなんとかしなければ、と思います。

そして、家の裏の庭に、9本の苗木を植えました。

村の女性たちにも話して、木の苗を植えていきました。

それを見たお役人、「女なんかに、できっこない」と言いました。

それでも、ワンガリさんとケニアの女の人たちは木を植え続けたのです。

ワンガリさんは3カ月たっても元気にそだっている苗木には、お金を少し払うことにしました。そのことで、村の女性たちは生まれて初めて、自分でお金を稼ぐことができるようにもなりました。

木の苗を植え続け、ケニアに緑が戻っただけでなく、収入が増えた人も大勢できたのです。

2004年までに、3000万本の木が植えられました。

最初は、ワンガリさんが裏庭に植えた、たった9本の苗木だけだったのに。


強い意志があれば、そして他者と分かち合う心があれば、願いは叶い、砂漠も森に戻ることを、ワンガリさんは教えてくれます。

ケニアで本当にあったおはなし。手元においておきたい一冊です。











杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-ナガサキの花

長崎に生まれたあなたに読んでほしい童話

『ナガサキの花』
畑島喜久生/作
辻みやこ/絵 らくだ出版




夾竹桃(きょうちくとう)、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)、白い槿(むくげ)…。

ひとつの物語が、ひとつの花をとおして、描かれる原爆童話集です。

原爆についての物語といえば、どんなに悲惨で残酷だったかを語ったストーリーが多く、現代の読み手にとって、「過去のこと」で終わりがちではないでしょうか。

読むのもつらくなる物語が多いですが、この本は一線を画しています。

何が起きたか?だけではなく、原爆の後に何が起こり、何を感じ、人々がどう生きてきたか。

そして、たったひとりの被爆者を見守り続ける家族の心を描いているからです。




被爆体験を背負って生きていかなければならなかった子どもを、家族が懸命に守ろうとする、友達が手をさしのべる、人と人との心がつながるとき、どんなに悲惨な人生にも光は灯る(ともる)ことを、この本は教えてくれます。

被爆者をめぐる人と人との絆は、現代社会の残酷にも通じるからでしょうか。

戦争を知らない、まして原爆は写真でしか見たことがない私たちにとっても、その苦しみや悲しみがリアルな感覚で伝わってきます。



人にひどいことを言われれば心は傷つきます。


傷つきたくないから、口を閉ざします。

どんなに逃げても、過去が追いかけてきます。

けれど、家族は子どもを大切に大切にします。

多くの人が去っても、たった一人の友がいれば、人は救われます。

誰が自分を傷つけても、絶対の味方は必ずそばにいることも、信じられるのです。




作者はあとがきで、こう書いています。

「どれだけくるしみ、いや、くるしみにもまけないで、いっしょうけんめい生きぬいてきたかを、おおぜいの人たちにも、知ってもらいたい」




原爆の語り部がどんなに原爆で受けた悲惨を語っても、戦争はなくならず、核廃絶は遠い。

原爆が正しかった歴史だという人もいまだに多い。

悲惨な過去を語るだけでは、人々の心に届かない時代になってしまいました。

そんな今、読んでほしい一冊です。

悲しくてもつらくても、生き続ける意味を、作者は花をとおして語り続けます。

あなたの誠実な魂に向けて、ただ淡々と、優しい言葉のつらなりで。




















杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-ヒロシマのピアノ


ピアノを弾くのが好きな人に読んでほしい絵本

『ヒロシマのピアノ
 綿のぼうし-被爆ピアノに捧げる曲-CD付き』
 指田和子/文
 坪谷令子/絵
 文研出版

主人公は、ピアノ。製造番号18209

広島市に住む4歳の女の子、みさちゃんのところに行くことになりました。

みさちゃんはそのピアノが大好き。

将来の夢は、東京の音楽学校に行き、ピアノの演奏家になること。

ところが、みさちゃんが高校生になるとき、戦争が始まります。

最初はいさましかった日本ですが、武器をつくる金属が足りなくて、ピアノ線も持っていかれると噂が立つようになり、

アメリカとの戦争が始まって、4度目の夏、あの原爆が広島に落ちるのです。

 

60年の歳月が経ち、みさちゃんはおばあさんになっていました。

幸いなことに、ピアノは原爆で音が狂ってしまったものの、焼けずに、みさちゃんのそばにあります。

ある日、みさちゃんはいい調律師さんがいると聞き、音のくるったピアノを送ることにしました。

調律師の矢川光則さんは、まるでピアノの声が聞こえるかのように、音を治してくれました。やがて、ピアノは各地のコンサート会場で行われる、被爆したピアノの演奏会で活躍します。

今も、幸せに音楽を奏で続けています。












杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-バオバブのゲンバク


今、幸せなあなたに読んでほしい童話

『バオバブのゲンバク』
 木村功 他/作
 会田恵津子/絵
 汐文社



死んでしまった人を思う、9つのお話です。


伊藤真理子さんの『たずねびと』

小学校の教室で、天井まで積み上げられた死体の陰で、まだかすかに息のあるこどもがいました。枕もとには小さなおむすびが二つ、供え物のように置いてありました。

「おじょうちゃんの名前は何というの おうちはどこなの」という声が届いたかどうか…。


山根幸子さんの『約束』

「魚つりに一緒に行こう」約束をしたばっかりに、弟を原爆でなくしたおじいさんのお話。

原爆が落ちる前、広島の町で、たくさんの人が約束をかわしていたはずです。

「たくさんの約束は どこへ、いったんだろう」と、作者は問いかけます。


木村功さんの『バオバブのゲンバク』

少年、勇二がつくった、ゲンバク防空ごうの工作が発端となって、原爆、戦争、核兵器など、現代の問題が子どもたちの会話の中で考えられていきます。

防空壕で命は助かるの? 使い終わった原子力の燃料は危なくないの? どうして、原子力船が日本の港に来るの?

子どもたちの素朴な疑問をとおして進んでいく物語が、読者の心にも響いてきます。

それにしても一体、“バオバブのゲンバク”というのはなんのことでしょうね。









杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-アサガオ


朝顔を育てている人に読んでほしい絵本

『アサガオ
 194586日 ひろしま』

 むらはしこまち/文と絵

 らくだ出版



主人公のあきこは6歳。今日はお留守番をしています。

お母さんが疎開先の娘(あきこのお姉ちゃん)に会いに行くことになったからです。

弟をおぶって、あきこを近所のおばさんに預けていこうとするお母さんに、おばさんは

「こんな時、おや子ばらばらになったら、だめじゃないの」と断りました。

それでも、お母さんはあきこ一人残して出かけてしまいました。

あきこが見送る足元に、紫色の朝顔が咲いていました。寂しそうなあきこの表情。

その次のページで突然、原爆は落とされるのです。

見開きにわたっていっぱいに書かれた、黒と灰色とくすんだ黄色のピカ。

原爆の閃光をこれほど単純な線で、これほど少ない色数で、書かれた絵は初めて見ました。

次のページをめくると、どす黒い赤色一面に、絵の具をはじいたクレパスの白。

一瞬、何が起こったかわからない、目のくらんだような瞬間が表されていました。

「あきこが あとかたもなく とけてしまったことを知った」おかあさんは、

どうして、どうして、どうして……と、自分を責め続けて、死んでいきました。

一緒に連れていっていたら死ななかったのに、一緒にそばにいてやったら救えたかもしれないのに。

悔やんでも悔やみきれない、すれ違いを、多くの家族や恋人たちが味わったはずです。

言葉少ない絵本は、絵で、私たちに見せ始めます。

あるページにはあきこの花嫁姿を、次のページには赤ちゃんを抱っこするあきこを、その次のページには桜舞う中、入学式で子どもの手をひくあきこの姿を。

未来があったはずの6歳のあきこは死んでしまいました。

ごく普通の幸せが突然、燃え尽きた原爆への怒りを絵本は語ります。




あとがきに、「戦争してはならない」という言葉が書かれています。
なん度、どれほど多くの人が言ってきたことでしょうか。
それでも戦争はなくなりません。















杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-アオギリのねがい




原爆の日に読んでほしい絵本

『アオギリのねがい

 被爆アオギリ二世物語 』
 広島平和教育研究所/発行


アオギリは広島県平和公園のなかに立っています。
淡い緑色の幹に、手のひらのような大きな葉っぱが茂る美しい樹木。




葉の形が桐の葉に似ていて、樹皮が緑色をしていることから、名前がつけられました。

被爆樹の象徴とされる、このアオギリの木が実際に体験したことを描いた絵本です。



原爆に会うまで、アオギリは心地いい木陰をつくり、
人々は樹木の下に座って本を読んだり、散歩したりと、
戦時中のわずかな穏やかなひとときを人々とともに送っていたのです。
しかし8月6日、アオギリは一瞬で黒焦げになり、幹が半分に避け、
一枚板のようになってしまったと伝えられています。

写真は被爆の名残りが幹に残っている様子です。


杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-アオギリの幹
 

原爆が落とされた土地には75年間、

草も樹木も生えないだろうと言われました。

けれど、このアオギリは目を覚ましました。

被爆翌年の春のことです。

もう死んだと思われていた樹木から新しい芽が出ました。

真っ黒い炭のような、えぐれた幹から小さな小さな芽が一つ、二つ・・・・・・次々と。

やがて、実をつけ、種を落とし、赤ちゃんアオギリがたくさん生まれました。

どんなに傷ついても再生する樹木の生命エネルギーに

人々はそれぞれの人生の復活を重ねたのでしょう。

アオギリの赤ちゃんたちを“平和の種”と呼び、

「被爆アオギリ二世」として日本各地の小学校に配られ、元気よく育っています。

アメリカ、スイス、エジプト、ドミニカ共和国、中国、イギリスにも寄贈されています。




★絵本に登場する木

アオギリ(青桐)/アオギリ科・落葉高木



杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-アオギリ全体像










杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-ひろしまのピカ



















画家・丸木俊さんを知ってほしい絵本

『ひろしまのピカ』
 丸木俊/文と絵

 小峰書店

「ひろしまは、草も木も家もない、みわたすかぎりのやけ野原になっていました。

おとされた原子爆弾はいっぱつでした。

けれど、かぞえきれないおおぜいのひとがしに、そのあとでもぞくぞくとしんでゆきました」




原爆は、ピカッと光って、ドーンっと落ちたから、“ピカドン”と呼ばれています。

この絵本は、7歳のみいちゃんという女の子と、お父さんとお母さんと3人で暮らす、ごく普通の家庭で起きた86日朝の出来事を描いています。



絵は、洋画家・丸木俊さんと、夫の位里(いり)さんが描いた「原爆の図」です。

二人は被爆直後の広島に入り救援活動をしました。それから生涯、原爆の絵を描き続けた画家です。やがて、「沖縄戦の図」を描き、「アウシュビッツの図」を描き、戦争の残酷さ、非人間性をすさまじい絵に残しました。1995年には夫妻でノーベル平和賞の候補にもなりました。


丸木さんの絵に、理屈はいりません。

194586日、幸せな朝食の風景が、一瞬で火の海と化した地獄は、私たちも決して、忘れてはいけない歴史の真実です。




「ピカは、ひとがおとさにゃ、おちてこん」という、みいちゃんのおかあさんの言葉が、強烈な事実として、私たちの胸に迫ります。



杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-とうろう流し












杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-キャラメルの木





















おばあちゃんが大好きなあなたに

『キャラメルの木』
 上條さなえ/作
 小泉るみ子/絵 講談社



キャラメルがいっぱいなる木。

枝という枝に、キャラメルがなって、好きなときに食べられる。

甘くて、舌がとろけそう。

そう、夢見た男の子は、戦争で食べる物がなくなったころ、

おなかをすかせて、病気になって、死にました。

遠い昔、布団に横たわる弟の苦しそうな顔を

思い浮かべながら話すおばあさんと、その話を聞く6歳の男の子。

やがて、枝いっぱいに、キャラメルは本当に実ったのです。



人のやさしさと、嘘が

愛する人を奪っていく戦争の残酷さを浮き彫りにしていきます。


「おばあちゃんの ことばが コトリと 音を

 たてて、ぼくの こころに おちて きた」


現代に生きる、死から遠い、小さな男の子の心の中にも

死は、強烈な痛みとなって伝わっていきました。




おばあさんやおじいさんの世代の人たちが
戦争の悲しみを乗り越えてきた人々であることを、

もう一度よく、思い出したい一冊です。

















杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-じゃがいもかあさん

『じゃがいも かあさん』

アニタ・ロベール/作

今江祥智/訳 偕成社


むかし、ふたつの国が あった。

ひとつは 東の国。もう ひとつは 西の国。

ある日のこと、ふたつの国は いくさを おっぱじめた。


東西ドイツを思わせる、絵本の始まりです。

東の国の兵隊は、赤い軍服。

西の国の兵隊は、青い軍服。

今まで普通に、畑仕事をしたり、牛やにわとりの世話をしながら暮らしていた人々は、戦争の準備に大忙し。

剣をみがいたり、大砲のたまをつくったり、軍服のボタンつけをしたり。

そんな騒ぎなど知らんぷりの家族がありました。

東の国と西の国とのあいだの谷間に暮らす家族です。

仲良しの兄弟が、じゃがいもづくりの名人のかあさんと一緒に住んでいました。

かあさんは賢い人で、家のまわりにぐるりと高い塀(へい)を作り、息子たちの目から戦争を遠ざけていました。

しかし、息子たちが大きくなり、立派な男に育ったとき。

兄弟は塀の向こうに何があるのか見たくなりました。

そして、ふたりは塀から飛び出してしまったのです。

兄のほうは、東の国へ。

弟のほうは、西の国へ。

かあさんをひとりぼっちで残して…。

やがて、兄弟はそれぞれの国の司令官となり、戦いは激烈さを増していきました。



兄弟が命を奪い合う愚かさ、普通の暮らしをしていた若者が武器をとる残酷さ、

家族を大切にする人々が人殺しを平気でする無神経さ。

赤と青と黒だけで描かれた素朴な絵が、平和とは何か?を読む人に問いかけてきます。



朝、「おはよう」と声をかける相手がいること。

一緒に野菜や動物を育てる家族がいること。

ほくほくのじゃがいも料理を作ってくれる母親がいること。

心配してくれる人がいること。

愛してくれる人がいること。

愛する誰かがいるということ。

じゃがいもひと欠け食べることさえ、許されなくなる、日常の幸せを壊してしまう戦争の愚かさを絵本は伝えます。