杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-のいちごそう











幸せの見つけ方、知りたい人は手をあげて

『のいちごそうは どこにある?』

エヴァ・ビロウ/絵

佐伯愛子/訳

フレーベル館



のいちごそうは、ホップさんがたてた家のことです。貸し家です。
ホップさんは人間ではありません。小さな小さなシュスリング。スウェーデンのコロボックルです。
ホップさんがたてた家は、のいちごがたくさん実った、みどりの丘にあります。
4階たての細長いレンガの家です。
最初に来たのは、ハリネズミ。いちばん下の部屋に住み始めました。
次の2階の部屋が、ウサギで、3階の部屋が、リス。
最後に、シジュウカラが4階のいちばん上の部屋に住みました。
ところが、ある日、たいへんなことがおこります。
ぎし…ぎし…がったーん。
家が、たおれてしまったのです!
みんな、大あわてしたかって? いいえ。
泣き出しちゃったどうぶつがいたかな? いいえ。
だれもケガすることなく、無事だとわかると、4匹は口をそろえていったのです。
「じゃ、コーヒーを入れてくださいな!」


この落ち着き、すごいと思いませんか?

たおれた家を見ようと集まった野次馬たちにも、コーヒー、クッキー、プディングをふるまいました。

大勢で食べると、楽しいし、幸せ。

何が起ころうと、まずは楽しいことをえらぶ人生って、素敵です。

朝起きて、夜寝るまでの生活の中でできる、自分の心が喜ぶことをいちばんに!

このあと、またまたハプニングが起きるのですが、それは読んでのお楽しみ。

野いちごみたいな真っ赤と、葉っぱの濃いグリーン、2色で描かれた絵本。

ページをめくるたびに、幸せな気持ちにきっとなれますよ。

あなたは、のいちごそうまで、たどりつけるかな?









杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-まさ夢いちじく


















夢を現実にしたいなら

『まさ夢いちじく』The Sweetest Fig

CV・オールズバーグ/絵と文

村上春樹/訳

河出書房新社




歯医者のムッシュウ・ビボットさんはかなりのやかましや。

自分の小さなアパートの部屋をチリひとつなく、きれいにしていました。
飼っている犬にほえることを許さず、家具の上にひょいっとのったりすれば、きついおしおきをされてしまいます。

つまり、イヤなやつなんですね。

神経質で、自信家で、プライドが高く、

自分以外の人間をぜったいに認めないという、

まあ、あなたのまわりを見渡せば、

よくいる“おれさまがいちばん”タイプです。

そんなある日、ひとりのおばあさんを診察します。

そのおばあさんが診察費のかわりに、と置いていったのが、

2つの<まさ夢いちじく>です。

「このいちじくはあなたの夢をなんでもかなえてくれます」


その夢……。
翌朝、ビボットさんはパンツ一丁で町の中を散歩してしまいます。
なぜって?
それは、夜に見た夢がかなったからなのです。
2つのうち1つを食べてしまったビボットさんはあわてて、豪華な夢を見ようとがんばります。
あと1つのいちじくはぜったい無駄にしないぞ、と心に決めて!
そして、自分に言い聞かせるように、くりかえしました。
「ビボットは世界一の金持ちだ。ビボットは世界一の金持ちだ」
さあ、最後のまさ夢いちじくを食べて、ビボットさんがなったものは?



よくばりは悪夢の始まり。
他者を愚弄(ぐろう)するものには決して、幸せは訪れない。


村上春樹さんの訳で、不思議な夢の世界をお楽しみください。


























杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-ひとりぼっちのりんごのき


となりのだれかがうらやましいときに

『ひとりぼっちのりんごのき』A lone apple tree

三原佐知子/作 なかのひろたか/絵

福音館書店




青い屋根の家のそばに、小さなリンゴの木が一本ありました。
近くの丘の上にはリンゴ園があり、大きなリンゴの木でいっぱいでした。
小さなリンゴの木はいつも思っていました。
「みんなのところにいきたいな」



初夏、小さなリンゴの木に白い花が咲くころ、

ミツバチたちは真っ白にそまったリンゴ園にあつまりました。
真夏、網をもった子ども小さなリンゴの木の前をすどおりして、

リンゴ園にトンボをとりに行きました。
秋、リンゴがいっぱいに実るころには、

おとなも子どももみんなリンゴ園に出かけていきました。

小さなリンゴの木が、どんなに「みんなのところにいきたいな」と願っても、

大地にしっかり根づいている木は動くことができないのでした。

小さなリンゴの木は、待って、待って、待って……いました。

だれかがそばにきてくれるのを? 

そして? ひとりぼっちのままで?

 

この絵本を読んでいて思うのは、私たち、ひとは歩くことができる、ということです。
「会いたいなあ」と思ったら、会いに出かけることができます。

「ごめんなさい」って言いたいときも、勇気を出して会いにいけばいい。

「好き」と伝えたいひとがいるなら、一緒について歩いていけます。ずっと、ずっと、好きなだけ。

私たちの足は、自由だから!



歩いていきましょう、どこまでも。

あなたがのぞむ道のむこうへ。

あなたの大切なだれかのもとへ。









秋がふかまってゆき、収穫の季節です。

あなたの心に実るのはどんな果実かしら?

まっかにもえるりんごかな。

小さな幸せが鈴なりになったぶどうかも。

イガイガのよろいから、今にも飛び出そうとしているくり。

それとも、くさいくさいぎんなん!?

いろんな果実があちこちで、たくさん実るおいしい時間。

あなたの果実はどんな味がするかしら?

果汁たっぷりで甘くてジューシー。

大きな実がどーんと実っている?

スカスカの実だったりして…。


この秋、あなたの毎日に、

幸せの果実がいっぱい収穫できますように。

そんな願いをこめて、果実が主役の絵本を選びました。

 

写真はこの秋、私のうちではじめて実った、サンザシの真っ赤な実。

もったいなくて、まだ食べていないの。

縁結びの妖精が宿っているサンザシはこれから、

どんな物語を私に聴かせてくれるでしょうか。









杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-縁結びのサンザシ


杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-あたたかい木





















心がつめたくなったなら

『あたたかい木』The warm tree

くすのきしげのり/作 森谷明子/絵

佼成出版社



その木のそばにいくとホッとする、あたたかい木の絵本と会いました。
大きい、大きい、あったかい、どうぶつたちが安心して根元で眠る木です。
この木はなぜ、あたたかいか?なんて、どうぶつは考えないし、この木をひとりじめしようともしない。
うさぎも鹿もリスも、クマもイタチもキツネも、
食べるどうぶつと食べられるどうぶつも一緒にすやすや寝てしまう。
冬の北風も、その木の枝をぬけてくると、あたたかい風になるんです。
ある日、ひとりの若い植物学者があたたかい木と出会います。
「あたたかいなあ」って、彼もすぐに気づきます。
彼はどうしたと思いますか……?

ページを進めるうちに、心がふわ~っとあたたかな風で包まれるようです。
だれの心の中にも、あたたかい木があるといいな。
自分を見失いそうになったり、人につらくあたってしまうとき、自然にあたたかい人になれる、一冊です。








杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-どうぞのいす






















ありがとうの心を忘れかけたら

『どうぞのいす』

 香山美子/作 柿本幸造/絵

 ひさかたチャイルド



うさぎさんが小さないすをつくりました。
いすにはしっぽをつけました。うさぎさんがつくったしるしに。
このいすに、うさぎさんは自分で座ったと思いますか?
いいえ、うさぎさんはいすのそばに、「どうぞのいす」という立て札をつけて、丘の上の大きな木の下において、帰っていきました。



最初に「どうぞのいす」を見つけたのはろばさんでした。
なんて、しんせつないすだろう!と、ろばさんは思います。どんぐりをいっぱい拾って帰るところだったので、座るかわりにかごをいすにおきました。
そして大きな木の下でおひるね……。すやすや、くうくう。
ろばさんが寝ている間に、いろんな動物がやってきました。
くまさんはハチミツをもって、きつねさんは焼きたてパンをもって、りすさんはクリをたくさんもって。
さて、ろばさんが目を覚ましたとき、「どうぞのいす」の上にのっていたものはなんだったでしょう?



「どうぞ」
大切なだれかのために、どうぞ。
知らないだれかのために、どうぞ。

欲望のままに突き進んでしまったあとで、ふと、だれかのことを思う。

このままだと、だれかがかなしい思いをしちゃう、だれかが傷ついちゃうかもしれない。

ページをめくりながら、そう、思いいたることのできる自分自身を思い出してください。

「どうぞ」という気持ちでだれかを思うとき、あなたの心は澄みきっていて、幸せいっぱいだと思います。








杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-木をかこう

木を育てている人に読んでほしい

木をかこう

 ブルーノ・ムナーリ/作

 須賀敦子/訳




風が吹いたら、木はどんな形になる?
風が強かったら? 海辺のように、いつも強い風が吹く場所では?
木が、いつも真っ直ぐに立っていられる場所はこの世にありません。
雪も降らない、暑くもないし、寒くもないところなんて…ないですよね。
まわりにあわせて、いろいろなふうに育ちます。
でも、木はひとつの規則に従って、かたちをつくっていると、ブルーノさんは言います。
「幹だけ長くて、枝が短い木もあります」
「どこもかも、ぐにゃぐにゃの木もありますよね」

「ほそい木もあるし、ふとった木もある」

でも、「よくみると、規則は、やっぱり、規則。」

ブルーノさんが言う、「こんな木、あるよね」の問いかけには、影絵のような黒いシルエットで描かれた木がたくさん!

 

どれもこれも、見たことある!って、きっとあなたは思うはず。

それくらい、木は身近で、空気のように立っているから。

ただ、あまりに当たり前で気づかないだけ。

ある日、木が伐られるとなると、大事な存在だったんだって、やっと気づく。

絵本をながめながら、思いました。それは、身近なだれかもいっしょです。

遠くに去っていきそうになって、あわてふためく、

わたし。あなたも、かな。

「こんな木のかたち、あるね」と語りかける、それだけの絵本なのに、たくさんのことを考える一冊。

『うさこちゃん』シリーズで有名なブルーノ・ムナーリさんの絵本を、美しい言葉を紡ぐ作家・須賀敦子(すがあつこ)さんが訳しています。









杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-あの森へ




















新しい一歩を踏み出したいあなたに

あの森へTHE FOREST

 クレア・A・ニヴォラ/作

 柳田邦男/訳




「森ってこわいところだと、ぼくはいつも思っていた」
と、主人公の小さなねずみは言う。

つり目で黒い瞳をした、ちょっとシニカルな表情のねずみの男の子。
彼は決心する。こわくてこわくてしかたないから、森が本当にこわいところなのかどうか、たしかめてみようと。


“こわい”ものは、誰もが持っていることだろう。

けれど、そのこわいものがこれから挑戦したいものだったり、本当は手を触れてみたいものだったりするから、私たちは悩むのだ。

こわいけど見たい、こわいけど会いたい、こわいけど欲しい。

でも、でも、でも……こわいからといって、逃げてばかりいては、素敵な何かは永遠に手に入らない。

まずは一歩。暗くて深くて、こわいものがいっぱいいそうな森に足を踏み出した人だけが、新しい何かを見つけることができる。

こわいことなんて全然ないと気づいて、もっと深い森にも入ってみる勇気が湧いてくる。

あなたはどうだろう。

新しい未来という、こわい森を前にして、自ら入ってみることができるだろうか。









杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-木はいいなあ


心がさけんでいるある日に

『木はいいなあ』A TREE IS NICE.

 ユードリイ/作 シーモント/絵

 さいおんじさちこ/訳 

 偕成社



「木が たくさん あるのは いいなあ。

たった 一ぽんでも、木が あるのは いいなあ。」




ページをめくりながら、「木はいいなあ」って感じる、
それだけで、心がすーっとしずまって、
わたしはわたしに戻れるでしょう。

秋になって、葉っぱが落ちると、どうするかな。

りんごの木だったら、どうするかな。

木陰では、どうするかな。




一本の木を育てたくなる、

木とわたしの心とが結びあうやすらぎ。

“自分の木”を見つけに、

旅に出たくなるかもしれません。

この秋……。












杉原梨江子と一緒に読みましょ 木の絵本と森の童話-菩提樹


木はただ立っているだけで

わたしに生きる勇気をくれる。

歩いていく道、どちらにいこうか迷うわかれ道、

立ちどまった崖っぷち。

いつも、いつも、木はそばにいる。

あなたのゆく道にも、きっと、

あの一本の木が……。