今回は、ロックの踊り子MIKAさんの新作「人魚姫」について、「人魚姫とストリップの無常観」と題して観劇レポートします。

 

 

 

今回の新作はアンデルセン童話で来たかぁ~♪ 踊り子さんが一度は演じてみたい演目№1がこの人魚姫という。今週一緒の香山蘭さんの人魚姫が一番記憶に新しい。私にとって過去最高の人魚姫として記録しているのがロックの小池菜奈さん。今から9年ほど前のことだけど、後で当時のレポートをあげるね。ちなみに、今後の過去最高の人魚姫はMIKAさんに更新されましたよー。

さっそく新作の内容を紹介する。

 

ボーという船の汽笛の音が聞こえる。波の音。かもめの声。

盆の上に、ライトに照らされたきれいな白い法螺貝がひとつある。

ステージの幕が上がると、人魚姫が登場する。一目で人魚姫と分かる。下半身が赤いきらきらした鱗で先端に白いフリルがついた大きな尾ひれ。上半身は銀色にキラキラしたブラ。首輪から綺麗な細い鎖が流れ、ブラの下にもたくさんの鎖が半円を描くように垂れている。背中まで垂れた長い黒髪に、白いリボンがさり気なく飾られている。

人魚姫は船の上の王子様を見つけたのが嬉しいのか、軽快な音楽に乗って踊る。もちろん人魚姫は立ち上がれないから、横たわりながらね(笑)。そして最後に薬を飲む。

突然、ライトが落ちて暗くなる。闇をつんざくような雷の音。

そして明るい音楽が鳴り、白いドレスに身をくるみ登場。まるで白い貝殻がドレスに変わったかのよう。波のようなデザイン。裸足で、まさに足を得た喜びを表現するダンス。

一旦、白いドレスのままベッドへ。近くでMIKAさんのアクセサリーをチェック。人魚姫なので真珠系がポイントか。真珠のネックレス。左手首に真珠のブレスレットを二つ巻く。他には、純金の細い鎖が二本きらきらと垂れるピアス。右足首にも純金のブレスレット。マニュキュアは無し。さり気なくも気品あふれるアクセサリー類。

最後に、盆から舞台に移動して着替える。白いドレスを脱いで、上半身は裸のまま、下半身に青い布を巻く。布は二枚重ね構造になっており、上部の布は銀の刺繍が施されキラキラ輝く。まさに、この青は海をイメージ。

盆に移動し、再度ベッドショーへ。白い法螺貝を強く抱きしめる。王子と結ばれない悲しみを切々と演じている。二度目のベッドショーがドラマに厚みをもたせている。

ラストシーンは、青い布をマントのように全身を包んで終わる。海の泡となって消える。

 

MIKA流の人魚姫ワールドに酔いしれる。随所にMIKAさんらしさが表現されている。

もしかしてMIKAさんが童話を演目に使うのは初めてかな。「アンデルセンの童話をけっこう忠実に再現してるつもりです♪ちょっと分かりづらいかもしれないけど原作を知ってる方からは『切ない』って声を頂きます。」

 

人魚は人間の王子様を好きになる。王子に近づくために、魔女に頼んで美しい声を失ってまでも足を手に入れる。しかし、歩くとナイフで切り裂かれるほどの痛みを感ずる。所詮、人間になるには無理がある。

しかも、人魚姫が遭難した船から王子を救ったにもかかわらず、王子は別の女性が助けてくれたと勘違いして結婚してしまう。

運命というものを強く覚えた。人魚と人間はもともと住む世界が違うのだから一緒になれるはずがないのである。

ストリップも全く同じ。私は「ストリップは空蝉(うつせみ)の世界」だと思っている。字のごとく蝉の抜け殻のようなもの。目の前に絶世の美女が現れ女体を晒してくれる。強く憧れ当然のごとく好きになってしまう。しかし手に届くことはない。夢中になって追いかけ、また「いつでも会える」と思っていた存在が、ある日突然目の前から姿を消してしまう。たまらないほどの寂寞感・無常観を何度味わったことだろう。しかし、それがストリップなのである。

人魚姫は王子を愛してしまう。愛さえなければ運命のいたずらはなかった。優しい姉妹たちと平和な海の生活を送れたことだろう。しかし愛が人魚の運命を翻弄した。愛さなければよかったと思えるが現実は愛してしまう。愛こそがドラマなんだな。

ストリップは時間とお金が許せば何人もの女性を愛することも可能。恋多きことを可能にする夢の空間。私は「ストリップは空蝉」と分かっていながらも、このストリップの世界を楽しみたい。いくら浮氣王子と揶揄されようがね(笑)。そして、この空蝉の世界を文章にしたためたい。これが私の‘生きること’なのである。

 

最後に蛇足ながら、アンデルセン童話とディズニー映画「リトルマーメイド」との違いについて言及してみる。

決定的に違うのが結末。アンデルセン童話では、優しい姉たちが魔女に頼んで妹を人魚に戻そうとする。魔法のかかったナイフで王子を殺せば人魚に戻れるからとナイフを渡す。しかし人魚姫は愛する王子を殺すことができず、自分が海の泡になることを選ぶ。その点、ディズニー映画はハッピーエンドなので、アリエル(人魚姫)はエリック王子と結ばれる。

他にも違いはたくさんある。

「リトルマーメイド」に登場する魔女アースラは絶対的な悪い魔女ですが、アンデルセン童話の魔女は良い魔女です。人間になりたいという人魚姫の願いを声と引き換えに叶えてくれたり、また、お姉さんたちが妹の人魚姫を助けようとしたときには相談にのってくれる。

 また云うまでもないが、セバスチャンのようなサブキャラはディズニーオリジナル。

 

 童話というのは原作ではかなり残酷な内容が多い。

 人魚姫の別の童話では、ナイフをもった人魚姫が王子の寝室に忍び込もうとして兵士に掴まって火あぶりにされるというストーリーもある。

 白雪姫の原作では、継母ではなく実の母親が三度も白雪姫を殺そうとする。また白雪姫に登場する王子は死体愛好家という変態で、毒りんごで死んだ白雪姫を棺に入れて運ぼうとした。ところが棺があまりにも重かったため運搬の家来が棺の中の白雪姫の背中を小突く。その拍子で毒りんごを吐き出す。白雪姫は王子の優しいキスで生き返ったんじゃないんだよー。ディズニー映画ばかりではなく、たまには原作を読むのも面白いよ。

 

 さてさて余談はこのくらいにして。

童話好きの私としては、MIKAさんにはこれからも童話の世界に取り組んでもらいたいもの。私がMIKAさんにプレゼントした童話「リング物語」を題材に使ったら面白いかも。なにせ、この中で私はMIKAさんと結婚しているからね。私のストリップに抱く無常観が一気に解消されるかもなぁ(笑)。

 

 

平成27年8月                          仙台ロックにて

 

 

 

 

『踊り子になった人魚』 

 

 

 人魚は、岩場に座り、長い黒髪を垂らし、憂いを含んだ悲しい瞳で遠くの海面を眺めていました。

 昨夜も海が荒れ、客船が一艘沈みました。

 人魚には、海に沈んだ人々の想いを察知することができました。それは決して人魚が望んだ能力ではありませんが、自然と人々の悲痛な声が伝わってくるのでした。だから、人魚はいつも物悲しい眼差しをしていました。

 

 客船には一人の有名なピアニストが乗っていました。

 彼は右腕が無く「左手のピアニスト」として有名な方で、世界中の人々に感動の音色を届けていました。

 人魚は客船に積んでいた彼のピアノを弾きました。有名なピアニストが乗り移ったように素敵な音楽が海面を響き渡ります。たくさんの魚たちが人魚の放つ音色に酔いしれました。

 

 客船には一人の有名な宇宙飛行士が乗っていました。

 彼はもうすぐ地球を発ち火星に向かう予定でした。まさに選ばれたエリート。しかし長く飛行訓練をしてきたのに彼の夢は叶いませんでした。

 人魚は風の神様に頼んで、彼の魂を天高く舞い上げました。するとタイミング良く、星の神様が手を伸ばし、彼の魂を宇宙に連れて行きました。彼の想いはひとつの星になったことでしょう。人魚は空を見上げて優しく微笑みました。

 

 その船には有名な方が他にもいましたが、人魚は、ある名もない女の子のことが気になりました。彼女は踊り子です。

 彼女は新天地で、大好きな踊りと自慢の裸体でたくさんの男性を喜ばせてあげることを夢みていました。楽しい音楽と明るい照明の中で、舞い踊りたい・・・

 彼女の強い想いが、人魚の心に伝わりました。

 人魚は美の権化。彼女の気持ちが痛いほど分かりました。

 人魚は、海の中に舞台を作ることにしました。たくさんの海の生き物たちが人魚に協力しました。舞台に向かう道に海藻が緑の林を作り、珊瑚が大理石のステージを、貝類が石段を担当しました。そうして豪華な舞台が出来上がりました。

 

 人魚がステージに現れると、大きな歓声と拍手が沸き起こりました。

 演奏団が凄い。タツノオトシゴたちがラッパを吹きます。サンマたちが笛を吹きます。フグが大きなお腹を膨らませて太鼓を鳴らします。サメがお互いの身体をこすり合わせてバイオリンの音を出します。

 たくさんの生き物たちがステージにかぶりついていました。カニはにこにこしながら大きなはさみでⅤサインを出しています。カニの目は突出してきょろきょろとしていましたが、出目金も負けずに目が飛び出でそうなほどに観ています。ヒラメやカレイは上目づかいで人魚の足元を舐めるように見上げました。

 人魚のあまりの美しさに、エビはエビ反りになりました。タコは人魚の美しさに完全に骨抜きになりました。

 ステージのクライマックスには、くじらが大きな潮を吹きました。

 

 人魚はみんなに見られながら踊るのが、こんなに快感だとは思いませんでした。また、なによりも、観ているみんながこんなに喜んでくれるとは思いませんでした。

 人魚はストリップの魅力にはまりました。機会があったら人間になりストリッパーになることを夢見ました。

 

                                   おしまい