今日は、「心のこもったステージ」とは何か、をテーマにしてみます。

 我々ファンにとって、心に訴えてくるステージこそが感動を呼びます。では、どういうステージが「心がこもっている」と言えるのか。改めて問うと、なかなかうまく言えない。

 むしろ、踊り子さんの方で、お客に感動してもらえるためにどういう心掛けをしているのか、尋ねてみたいな。

 

いつも素晴らしいステージをみせてくれる踊り子さんの1人に小池菜奈さんがいる。

彼女のステージを初めて拝見したのはH16年10月、若松劇場だった。いい演技だなと思ったのと、私の渡した手紙、特に童話エッセイについて丁寧なお返事を頂き、ちょうど『青い鳥』をテーマにして出し物を考えているとのことで私の童話にすごく興味をもっていただいたのが印象的でした。

それから一年半後、仙台ロックで再会。菜奈さんも若松でのことを記憶していて感激。私が『青い鳥』の話をしたらすごく喜んでくれて、次の回に『青い鳥』のステージの写真をプレゼントしてくれました。「写真は『青い鳥』の一部です。んーっっもっといい写真があったのだけど今ちょうどなくて・・・実は今回のマーメイドの衣装はこの青い鳥を自分で作り直してマーメイドにしました。・・なので青い鳥は幻の作品になっちゃいました。太郎さんにも是非観てほしかったな。」

そのときの仙台ロックでの菜奈さんの出し物はマーメイド。人魚姫の演目はたくさんの踊り子さんが演じており、踊り子さんにとって一度は演じてみたい演目のひとつなのでしょう。私も童話好きなのでいつも関心をもって観ています。その中でも、菜奈さんの演ずるマーメイドの完成度の高さに驚嘆しました。一言で表現させてもらうと、落ち着いた優雅さ。前に「動中静あり」という話をしましたが、まさに激しい動きの中にゆったりした静けさを感じさせられました。ベテランならではの味。。。

私が他にはどういう演目をやったんですかと尋ねたら「演目は色々やりましたよ・・ストーリー系でいうと・・・ライオンキングのようなもの、きつねの嫁入り?、青い鳥、マーメイドかな。ダンスものは・・チャイナドレス、サンバ、カウガール・・etc」

マーメイド以外のダンスも拝見しましたが全ていい。菜奈さん曰く、「ストーリー、ダンスに関わらず、やっぱり一つ一つにコンセプトはあると思いますが、全てお客様に伝わるかどうかは・・何とも言えませんが・・無理に押し付けて分かってもらうよりは、観た後で「よかったよ!!」って思ってもらえればいいのかなって思ってます。」

たしかに、彼女の演技には押し付けがましいものはない。一般に豪華なステージというのはこれでもかこれでもかと迫力や華麗さで押すものが多く、そういう出し物をこれまでたくさん観てきたが、菜奈さんのステージはそれとは一線を画する。だから、疲れないというか、後味の良さが残るのだと思う。

ステージというのは踊り子さんの性格が反映するものだと思う。菜奈さんも華やかに自分の個性を表現しようとしているが、それが押し付けがましくなっていないというのは彼女自身の謙虚な性格のせいだと私は感じています。

 

 最初に「心のこもった」という話をしましたが、私が感じている菜奈さんの演技の最大の魅力は指先とつま先にある。バレエや体操の演技では最終的な美しさは指先とつま先で決まるという。指先とつま先にまで神経が行き届いた演技は、ゆったりとした優雅さを醸し出し、観る者を安心させる。こうした演技は、お客様に観ていただくために丁寧に演じようという気持ちの表れで、それがまさにお客の心に届くのでしょう。

 菜奈さんはすごく綺麗な指先をしている。菜奈さんの指先に注目して演技を見てみると、細かな工夫が随所になされているのが分かる。演技指導もあるでしょうが、いい踊り子さんというのは日常生活の中でもささいな仕草に感じ、常にそれを踊りに取り入れようと考えるもの。その積み重ねが全てステージに表れてくるのだと私は思う。言い換えると、ステージはその踊り子さんの性格でもあり、また全人格が表出される場。全てを見られるという意味で怖ろしい場でもあり、逆にだからこそ素晴らしい場でもある。

H18年に7周年を迎えた菜奈さんの手紙にこう書かれてありました。「ストリップを観に来てよかったなって思ってもらえるように頑張りたい。ストリップをはじめて・・楽しかった事もいっぱいあるけど、辛かった事・・もう辞めよう・・って思ったり・・いろいろありました。でも、今、続けていられるのも、劇場に来て下さる方々がいて下さるお陰なんですよね。一期一会を大切にまだまだ踊り続けたいと思ってます。」お客に対する彼女の姿勢がよく示されている。

 

また、菜奈さんの手紙にはいつも心がこもっている。

菜奈さんは私の手紙をよく読んでお返事を書いてくれる。「菜奈は、字を書いたり文章を書くのがものすご~く苦手で、思ったことがうまく文字にならないのがもどかしいですが、一生懸命書きますね。」 文章で人に気持ちを伝えるうえで、文章の上手い下手は関係ない。大切なのは心がこもっているかどうか。自分の言葉で一生懸命書いているからこそ相手の心に届くのである。

よくポラにびっしりとコメントを書いてくれる踊り子さんもいて、そのこと自体は嬉しいことではあるが、まったく心に響かないことがある。それは自分に向けられたものではなく、おそらく全てのお客に同じことを書いているものだからだろう。文章というのはたくさん書けばいいというものではなく、相手に対して心がこもっていれば一言で十分。自分のことを書いて恐縮ですが、私もポラ撮影時に踊り子さんに手紙を渡すが、返ってきたポラサインに手紙のことに全く触れずに「ポラを買っていただきありがとうございました」とだけあると、この子はポラを買ってもらうことだけに関心があり手紙には関心がなかった、つまり私には関心がないんだと判断してしまう。手紙に対するコメントが「○○かぁ。。あらためて考えると難しいね」と一言あるだけで、あぁ~読んでくれたんだ、私の書いたことに関心をもってくれたんだ、と私自身嬉しくなり、そしてこれからも応援してあげようと思う。

 

このように、心のコミュニケーションができると劇場に会いに来ることが楽しくて仕方なくなる。これはファンの側だけでなく、踊り子さんだって同じはず。「以前までの仙台ロックの・・・トホホなイメージをすっかり変えてくれたのは、太郎さんの応援のお陰です。」「太郎さんのいない仙台ロックは海苔の付いていない海苔弁だぁ~っ!?-・・ちょっと変な例えかしら?」「太郎さんが応援してくれるなら仙台によろこんで来たいと思います。また仙台で逢えるのを楽しみに頑張ります。」

こうした菜奈さんの言葉が私にとって嬉しくないはずがない。

 

心を伝えるというのは難しい。でも、ちょっとした心掛けでできることもある。

長くストリップを続けるためには、ファンの心をつかむというのは大事なことである。

 

 

平成20年1月                         仙台ロックにて 

 

〔追記〕

 H20年の春頃、菜奈さんが仙台ロックに来演されるというポスターが掲示されていた。ところが、仙台ロックにのる前の二劇場で菜奈さんの香盤が飛んだという噂が入っていた。案の定、仙台ロックもキャンセルになった。怪我をしたとの噂もあったのでまた会えると思っていたが、それ以来、彼女のステージを観ることはなくなった。

 後に、ある踊り子さんから聞いたことだが、菜奈さんは仙台ロックの楽屋で私のことを「王子」と呼んでいたらしい。「今日は、王子、遅いわね」なんて言っていたらしい。私はその話を聞いたとき涙が出そうになった。

 今回のレターを菜奈さんに渡したとき、菜奈さんは楽屋でこのレターを読みながらトロけそうになったと返事をくれた。私のことを、そして私のレターを心から愛してくれた一人だった。

そういう方をまた一人失った悲しみにいたたまれなくなった。

 最後に頂いたお手紙がやけに心にしみる。

「今週の仙台。と~っても楽しかったです。太郎さんにもたくさん会えましたネ!! 仙台で、新作を出すのが、とってもわくわくしてしまいます!! だって、いつも太郎さん褒めてくれるから。また、次に仙台に来た時も、太郎さんに褒めてもらえるように頑張りますネッ!! ほんとうにありがとう!!」(H20.1.31 仙台ロックにて)