香山蘭さんの新作「人魚姫」を記念して、レポート「錯誤の罠に落ちて」を語ります。

 

 

 このところ、香山蘭さんを追いかけて、6月頭のDX歌舞伎、6月中の仙台ロック、6月結の栗橋と三週連続でお会いしている。私にとって6月は香山蘭月間になった。

 その間、梅雨に入り、そして梅雨が終わろうとしている。栗橋の初日は快晴。

 今週の栗橋の香盤は次の通り。①白砂ゆの(ロック)、②香山蘭(ロック)、③みずき(林企画)、④御幸奈々(林企画)、⑤水月涼(ロック)〔敬称略〕。

 

 蘭さんの演目は「スプリング」と「人魚姫」の二個出しが続いている。

 先に、演目「スプリング」を題材に、「クロウの魅力」と題して初めてのレポートを書いてDX歌舞伎で渡す。そのとき「黒いカラスのままで」という童話も書く。更に加筆したレポート修正版を仙台ロックで渡す。

 仙台ロックのときに、もうひとつの演目「人魚姫」の童話を書こうと決意し、蘭さんにも話す。

笑い話になるが、このときに私は大きな勘違いをしていた。演目「人魚姫」を「人形姫」と聞き間違え、完全に「人形姫」と思い込んでいた。丁度そのとき「人形の城」など人形シリーズの童話を書いたばかりだったのでつい「人形姫」で受け入れてしまった。

 ところが、どういう風に観れば、この演目が「人形姫」になるのか分からず、蘭さんに「この人形姫という演目は実際にある童話なんかを参照されたのですか」などと訊いてみた。そのときに蘭さんが、この演目が「人形姫」ではなく「人魚姫」であることを指摘する。蘭さん、あきれたろうな。勘違いとは言え、私は目から火が出るほど恥ずかしかった。「見たらわかるでしょ」と言われちゃったら返す言葉もないところ。いつも偉そうに感想レポートを書いている自分が情けなくなる。

 

 改めて、演目「人魚姫」を観察してみる。ちなみに、同じ演目を三週連続で拝見しているが、今回の栗橋が踊りやすいせいか一番しっくりくる。お顔の表情もとてもいい。なにかを吹っ切れたような自信に満ちた顔に見える。

 最初に、ブルーの衣装で登場。悲しいかな、この衣装が人魚姫に見えなかったわけ。

 左肩から斜めに腹部の方に、黒と銀のラメが入ったキラキラしたものが付いている。おそらくこれが魚のヒレか。そしてスカート部分は黒い布がふわふわと折り重なっている。これを鱗(うろこ)と認識しなければならなかった。足の先は裸足で、やはりその部分は尾ひれを付けないと人魚とは分かりづらいな(笑)。

 長い黒髪をおかっぱのように垂らす。右側頭部に赤いハイビスカスのような花の髪飾りが目立つ。

 一番のポイントは、蘭さんの表情。どこか憂いを帯びた、淋し気でもある悲しい眼差し。

 そして信号機のように黄・緑・赤の鮮やかな三色のリボンを新体操のように振って踊る。果たして、このリボンはどういう意味を持つのかな? 明るい太陽の日差しのもと人魚が楽しむ姿か、はたまた船上の人間の楽しそうな姿か、それとも人間の男性に恋した人魚の心弾む姿か。

 ブルーの衣装を脱ぐと、下には乳房を覆うようにクロスした黄色い布地を首の後ろで結ぶ。この布にたくさんの金のコインがぶら下がっている。これが波の飛沫か。そして黒いスカード部が鱗となる。

 黒いスカート部分を脱ぐと、下には透け透けの黒いシュミーズ。それも脱いでベッドへ。

 アクセサリーが美しさに花を添える。右手首にガラスのブレスレット、左手首には銀のブレスレットが映える。銀のイヤリングがかわいい。

 全体として、福山雅治メロディがポイント・ポイントで流れ効果的。

 

 改めて、人間というのは思い込みが激しい生き物だなぁ~。これを人形と思い込んでしまっていたとは私としても未だに信じ難い。私は完全に‘錯誤の罠’にはまっていた。

 もう一度ゼロから、人魚姫として想像の翼を広げた。

 そうして童話「踊り子になった人魚」を書き上げた。不思議な能力をもつ人魚の優しい心根を描き、最後は海の中のストリップを明るく楽しい感じにした。ロマンチックかつエンターテイメントな内容に仕上げた。

 

 三週連続でステージを拝見する機会に恵まれ、二つのレポートと二つの童話をプレゼントできたことはとても記念すべきこと。これらを書かせてくれた香山蘭さんに改めて感謝したい。

 

平成26年6月                            栗橋にて

 

 

 

 

 

童話『踊り子になった人魚』

                    ~香山蘭さんの演目「人魚姫」を記念して~

 

 

 人魚は、岩場に座り、長い黒髪を垂らし、憂いを含んだ悲しい瞳で遠くの海面を眺めていました。

 昨夜も海が荒れ、客船が一艘沈みました。

 人魚には、海に沈んだ人々の想いを察知することができました。それは決して人魚が望んだ能力ではありませんが、自然と人々の悲痛な声が伝わってくるのでした。だから、人魚はいつも物悲しい眼差しをしていました。

 

 客船には一人の有名なピアニストが乗っていました。

 彼は右腕が無く「左手のピアニスト」として有名な方で、世界中の人々に感動の音色を届けていました。

 人魚は客船に積んでいた彼のピアノを弾きました。有名なピアニストが乗り移ったように素敵な音楽が海面を響き渡ります。たくさんの魚たちが人魚の放つ音色に酔いしれました。

 

 客船には一人の有名な宇宙飛行士が乗っていました。

 彼はもうすぐ地球を発ち火星に向かう予定でした。まさに選ばれたエリート。しかし長く飛行訓練をしてきたのに彼の夢は叶いませんでした。

 人魚は風の神様に頼んで、彼の魂を天高く舞い上げました。するとタイミング良く、星の神様が手を伸ばし、彼の魂を宇宙に連れて行きました。彼の想いはひとつの星になったことでしょう。人魚は空を見上げて優しく微笑みました。

 

 その船には有名な方が他にもいましたが、人魚は、ある名もない女の子のことが気になりました。彼女は踊り子です。

 彼女は新天地で、大好きな踊りと自慢の裸体でたくさんの男性を喜ばせてあげることを夢みていました。楽しい音楽と明るい照明の中で、舞い踊りたい・・・

 彼女の強い想いが、人魚の心に伝わりました。

 人魚は美の権化。彼女の気持ちが痛いほど分かりました。

 人魚は、海の中に舞台を作ることにしました。たくさんの海の生き物たちが人魚に協力しました。舞台に向かう道に海藻が緑の林を作り、珊瑚が大理石のステージを、貝類が石段を担当しました。そうして豪華な舞台が出来上がりました。

 

 人魚がステージに現れると、大きな歓声と拍手が沸き起こりました。

 演奏団が凄い。タツノオトシゴたちがラッパを吹きます。サンマたちが笛を吹きます。フグが大きなお腹を膨らませて太鼓を鳴らします。サメがお互いの身体をこすり合わせてバイオリンの音を出します。

 たくさんの生き物たちがステージにかぶりついていました。カニはにこにこしながら大きなはさみでⅤサインを出しています。カニの目は突出してきょろきょろとしていましたが、出目金も負けずに目が飛び出でそうなほどに観ています。ヒラメやカレイは上目づかいで人魚の足元を舐めるように見上げました。

 人魚のあまりの美しさに、カニは泡を吹きました。エビはエビ反りになりました。タコは人魚の美しさに完全に骨抜きになりました。

 ステージのクライマックスには、くじらが大きな潮を吹きました。

 

 人魚はみんなに見られながら踊るのが、こんなに快感だとは思いませんでした。また、なによりも、観ているみんながこんなに喜んでくれるとは思いませんでした。

 人魚はストリップの魅力にはまりました。機会があったら人間になりストリッパーになることを夢見ました。

 

                                                おしまい