今回は、TSの踊り子・中谷ののかさんの一周年作「マーメイドラプソディ」を観劇レポートします。

 

 

  H28年9月1日、残暑厳しい中、9月に入り漸く夏の終わりを感じられる。

  今週の池袋ミカドの香盤は次の通り。①真由美(DX東寺)、②三枝美憂(TS)、③いちる(TS)、④KAERA(TS)、⑤京はるな(フリー)、⑥中谷ののか(TS)〔敬称略〕。今週は、いちるさんの1周年、KAERAさんのバースディとおめでたい週。

  それよりも何よりも、中谷ののかさんとのお久しぶり週。なんと5月20日以来、約三ヶ月ぶりになる。あまりに顔を出していないから、ののかさんが怒ってないかなぁ~と内心ドキドキしちゃってる。(笑)

  仲良しのハセガワさんが2回目の途中から入場してきた。久しぶり~と挨拶。ののかファンになった彼から色々と情報を得て、ののかさんとの空白の三ヶ月を埋められたので助かった。リボンのNAOさん等、多くの顔なじみさんとも挨拶。気のいい彼らがいれば、ののかさんの応援にいつでも戻れるね。

 

  さて、一回目のステージは演目「マーメイドラプソディ」。これが1周年作だよと、ハセガワさんに教えてもらう。五月結の周年週から顔を出していないから、情けないが今回が初観となる。

  いやぁ~すごく華やかな衣装☆ 一目で人魚姫だと分かった。首から足の膝あたりまで、緑色の細かいラメが鱗の如くきらきらと輝く。膝下は水色の布がふわぁーと流れる。長身でスリムだから、流れるようにキレイに着こなしている。

  頭には、頭上に銀の髪飾り、そして左右に水色の飾りが垂れる。

  大きな白い羽根を二つ両手で優雅に操って舞い踊る。

  次に、上半身のみ脱ぐ。白い真珠のネックレスと、ベージュの貝殻状ブラがあらわれる。

髪飾りも取り、長い黒髪を垂らす。ヒトデ型のガラスの髪飾りがよく似合っている。

最後に、下半身部を白い細かい布きれが散布したものに履き替える。これは魔法で下半身部が鱗から足に変化する泡状の様を描いたものだろう。そのまま、ベッドショーへ。

  ファンタジーの世界を彷徨う。自然と心がときめき、ののかワールドに酔いしれた。

  すてきな周年作である。TSの看板をはるののかさんに相応しい力作である。

 

  私は、これまでたくさんの踊り子さんの「マーメイド」を観てきた。実際、踊り子さんが一度は演じてみたい演目№1がこの人魚姫という。みなさん、それぞれ味のある人魚姫を演じていた。

  その中でも、ののかさんの人魚姫は、長身が映えて躍動感溢れるものになっている。華やかさでは過去の誰にも引けを取らない。

 

  さて、ここからは童話にこだわって、私なりの感想を述べるね。

  まず、ののかさんの演目「マーメイドラプソディ」が、ディズニー映画「リトル・マーメイド」とアンデルセン童話「人魚姫」のどちらをイメージして作っているかで最後の部分の解釈が全く違ってくる。

  アンデルセン童話では、優しい姉たちが魔女に頼んで妹を人魚に戻そうとする。魔法のかかったナイフで王子を殺せば人魚に戻れるからとナイフを渡す。しかし人魚姫は愛する王子を殺すことができず、自分が海の泡になることを選ぶ。その点、ディズニー映画はハッピーエンドなので、アリエル(人魚姫)はエリック王子と結ばれる。

  従って、アンデルセン童話に沿うと、ののかさんの最後の白い衣装は人魚が海の泡になったことを示すとも解釈できる。であれば、この作品そのものが「華やかさ」だけでなく「切なさ」をも表現していることになる。なお、今回の作品を初めて拝見したときは、劇後感が楽しかったので先の解釈に留めたところ。

  アンデルセン童話の「人魚姫」は、どこまでも純粋に王子を愛しながらも、報われなかった悲しい物語で、話のいたるところにこれでもかこれでもかと思わせる酷い場面が出てくる。これは、失恋を繰り返し、ついには生涯を独身で通したアンデルセンの、苦い思いが投影されていると言われる。

  改めて、アンデルセン童話を振り返ってみよう。・・・

人魚は人間の王子を好きになる。王子に近づくために、魔女に頼んで美しい声を失ってまでも足を手に入れる。しかし、歩くとナイフで切り裂かれるほどの痛みを感ずる。こんな状態ではまともに生活できないよね。所詮、人間になるには無理があるわけ。

  しかも、人魚姫が遭難した船から王子を救ったにもかかわらず、王子は別の女性が助けてくれたと勘違いして結婚してしまう。

  運命というものを強く覚えた。人魚と人間はもともと住む世界が違うのだから一緒になれるはずがないのである。

  ストリップも全く同じ。私は「ストリップは空蝉(うつせみ)の世界」だと思っている。字のごとく蝉の抜け殻のようなもの。目の前に絶世の美女が現れ女体を晒してくれる。強く憧れ当然のごとく好きになってしまう。しかし手に届くことはない。夢中になって追いかけ、また「いつでも会える」と思っていた存在が、ある日突然目の前から姿を消してしまう。たまらないほどの寂寞感・無常観を何度味わったことだろう。しかし、それがストリップなのである。

  人魚姫は王子を愛してしまう。愛さえなければ運命のいたずらはなかった。優しい姉妹たちと平和な海の生活を送れたことだろう。しかし愛が人魚の運命を翻弄した。愛さなければよかったと思えるが現実は愛してしまう。愛こそがドラマなんだな。

  ストリップは時間とお金が許せば何人もの女性を愛することも可能。恋多きことを可能にする夢の空間。私は「ストリップは空蝉」と分かっていながらも、このストリップの世界を楽しみたい。いくら浮氣王子と揶揄されようがね(笑)。そして、この空蝉の世界を文章にしたためたい。これが私の‘生きること’なのである。

 

 

平成28年9月                         池袋ミカドにて

 

 

 

 

童話『踊り子になった人魚』

            ~中谷ののかさんの一周年作「マーメイドラプソディ」を記念して~

 

 

 人魚は、岩場に座り、長い黒髪を垂らし、憂いを含んだ悲しい瞳で遠くの海面を眺めていました。

 昨夜も海が荒れ、客船が一艘沈みました。

 人魚には、海に沈んだ人々の想いを察知することができました。それは決して人魚が望んだ能力ではありませんが、自然と人々の悲痛な声が伝わってくるのでした。だから、人魚はいつも物悲しい眼差しをしていました。

 

 客船には一人の有名なピアニストが乗っていました。

 彼は右腕が無く「左手のピアニスト」として有名な方で、世界中の人々に感動の音色を届けていました。

 人魚は客船に積んでいた彼のピアノを弾きました。有名なピアニストが乗り移ったように素敵な音楽が海面を響き渡ります。たくさんの魚たちが人魚の放つ音色に酔いしれました。

 

 客船には一人の有名な宇宙飛行士が乗っていました。

 彼はもうすぐ地球を発ち火星に向かう予定でした。まさに選ばれたエリート。しかし残念ながら、長く飛行訓練をしてきたのに彼の夢は叶いませんでした。

 人魚は風の神様に頼んで、彼の魂を天高く舞い上げました。するとタイミング良く、星の神様が手を伸ばし、彼の魂を宇宙に連れて行きました。彼の想いはひとつの星になったことでしょう。人魚は空を見上げて優しく微笑みました。

 

 その船には有名な方が他にもいましたが、人魚は、ある名もない女の子のことが気になりました。彼女は踊り子です。

 彼女は新天地で、大好きな踊りと自慢の裸体でたくさんの男性を喜ばせてあげることを夢みていました。楽しい音楽と明るい照明の下で、舞い踊りたい・・・

 彼女の強い想いが、人魚の心に伝わりました。

 人魚は美の権化。彼女の気持ちが痛いほど分かりました。

 人魚は、海の中に舞台を作ることにしました。たくさんの海の生き物たちが人魚に協力しました。舞台に向かう道に海藻が緑の林を作り、珊瑚が大理石のステージを、貝類が石段を担当しました。そうして豪華な舞台が出来上がりました。

 

 人魚がステージに現れると、大きな歓声と拍手が沸き起こりました。

 演奏団が凄い。タツノオトシゴたちがラッパを吹きます。サンマたちが笛を吹きます。フグが大きなお腹を膨らませて太鼓を鳴らします。サメがお互いの身体をこすり合わせてバイオリンの音を出します。

 たくさんの生き物たちがステージにかぶりついていました。カニはにこにこしながら大きなはさみでⅤサインを出しています。カニの目は突出してきょろきょろとしていましたが、出目金も負けずに目が飛び出でそうなほどに観ています。ヒラメやカレイは上目づかいで人魚の足元を舐めるように見上げました。

 人魚のあまりの美しさに、エビはエビ反りになりました。タコは人魚の美しさに完全に骨抜きになりました。

 ステージのクライマックスには、くじらが大きな潮を吹きました。

 

 人魚はみんなに見られながら踊るのが、こんなに快感だとは思いませんでした。また、なによりも、観ているみんながこんなに喜んでくれるとは思いませんでした。

 人魚はストリップの魅力にはまりました。機会があったら人間になりストリッパーになることを夢見ました。

 

                                   おしまい