STRANGER -4ページ目

バックグラウンド

時間は恐ろしいほどに早く過ぎてゆく。
それは音もなく、存在証明すら成されない。
強いていえば人が生きていることが、その裏付けとなるだろうか。
取り戻すことも、操ることさえも出来ない。
知識も意識もない、分子が結合し形を成しているのでもない。
それ故作ることも出来ず、感覚の中でしか存在しない。
世間では、この認識が一般的だろう。
しかしもし、それを見ることができるとしたらどうだろう。
時間を知り、聞き、動かし、操ることが出来るとしたら。
神は、その能力を創造してしまうのだから、本当に意地悪だ。
文字通り能力として、確かに潜在し、中学に入る頃に俺の中で覚醒した。
俺には個性と呼べるものがはっきりと、存在として在る。
それは脅威、権力、驚愕を人々に与える物と呼べるだろう。
地上でただ一人となる能力は、何故俺に与えられたのだろう。
意味もなく神が俺に与えるわけがない。
神の悪戯、気まぐれとは考えられない。
ただ言えること、それは偶然にも運命として俺に与えられた贈り物。
ただ言えること、それは唯一無二の存在と呼べる代物。
ただ言えること、それは俺だけに与えられた成功への糸口。
善悪の選択を迫られる時は、それほど待たずに訪れた。
前者へ回れば、神と崇められる程の人生を歩むこととなるだろう。
後者へ回れば、悪の限りを尽くし、頂点に立つことが出来るだろう。
俺は前者を選択していた。必然のことのようにインプットされていた。
日本の社会は、特に義務教育においては、常に善の判断を刷り込まれる。
それは正しいことだ。否定もしない。
だがそれだけで良いのだろうか?その道だけが正解なのだろうか?
人は時に失態を犯す。時に償い切れないほどの代償を払うほどに。
それらは悪と判断され、追及され、追放され、隔離される。
しかしそれが、善を成すことで至った経路や結末で起こっていたとしたら?
それが悪だと判断されて、個人が背負い込むにはあまりにも酷いことではないだろうか?
個人は思うはずだ、やり直したいと。
あの時間に戻って、正しい選択をしたいと。
とここでストップ。
俺は考えた。善に回ることは間違いなのではないかと。
一度成立した概念をフェードアウト。
俺は考えた。中立に立ち、客観的な視点から判断をしようと。
俺は思った。選択の連続で成り立つ人生を、
良いチェーンで繋ぎ合わせ、落ちる者を引き上げようと。
チャンスは一度与えよう、後戻りは出来ない。
起きた顛末は全て消去しよう。二度と同じ土を踏まないように。
しかし、その後に再び道を誤らぬように警告を与えておこうと。
俺はそう信じた。45歳の冬だった。
俺は戻った。知識を持って。経験を持って。18歳の夏へ。
脳内シナプスは新たに組み合わされたばかりであるのに、
脳内要領は大半が使用済みとなっている。
二度目の人生を文字通り歩む俺としては、
全てが懐かしく感じる。新鮮な体験など何一つない。
色褪せて見える現実の中で、私は必死に探していた。
人生に落胆した人を、活路を見出そうと葛藤する人を。

アストロ

チャンスは何時だって、ある瞬間にしか訪れない。
少なからず事態を脱するためにも、逃げなくてはならない。
眠るものは森に落とすが一番だが、いつ脱するか分からない。
走り出そうとするその一歩先、転がる瓶を避けて、
繰り出す二歩目の脚よりも、先を走る痛み。
全身を巡る血は、酸素を調味料にパンプアップ。
背の低いビルを抜け、民家を突っ切る。
迷えるマウスは、幾通りもの確立から、
最善の道を瞬時に脳内に伝達し、電気信号は音もなく、
しかし確実速やかに運動感覚を刺激する。
書き上げたシナリオはすでにシュレッダーに掛けた。
千切りになったストーリーを、中間段階から組み上げる。
人生は上手くはいかないものだと知っていた。知識として。
人生は上手くはいかないことを否定していた。無意識として。
自分に言い聞かせてみるが、挙がった証拠が却下を言い渡す。
脳内裁判の結果には上告は許されず、弁護となる思考もお手上げ。
現実という論告が、自己嫌悪刑を求刑。
カームダウンした身体が処された刑に身を委ねる。
飛び交う様々な思考の星々、吸い込まれ消滅も数多ある。
光りは消え、生まれ来る新たな概念。
底無き深淵に光る偽りの真実と、消えゆく偽りなき現実。
広がる闇の中で自分の立ち位置を確認する。
頂点にある光りを中心に輪を描いて幾つかの光りが点在する。
それらは規則性を持つもので、程遠く距離を置いている。
輪は複雑に絡まり合い、衝突により新たな光りを生み出す。
新たな思考は微かな傾きによって回転を始め、近付いてくる。
それは鋭い光を放ち、招いた後悔により熱く燃えている。
直視できない事実があった。
理性で輪を遠ざけていた。
無意識という宇宙に解き放ち、誰も訪れることなく、
しかしはっきりと存在を保ち、主の訪れを待っていたのだ。
中間段階から組み上げていたシナリオを中断、初期段階の欠陥修正に変更。
シャットアウトされた場面がめまぐるしく巻き戻されてゆく。
人の足音、信号の機械音、話し声に混じって肌寒い風が通り抜ける。
物語はここから始まる。

アテンプト

夢は一瞬の間に、長い時間を感覚的に与える。
目の前の視界が縦に割れ、半分から左をコンクリートが占領。
右に見えるのは、汚く汚れた相手の靴裏。
時間はあの時から寸分も流れていない。
顎の左下に痛烈な痛みが残り、視界は有難くも歪む。
右に見えていた汚い靴裏が、自分の頭を踏みつける。
コンクリートが頬に刺さり、生々しい血の臭いが鼻に届く。
嫌気が差す前に相手の膝を殴り、股間を蹴り上げる。
よろけて後退する相手をおいて、即座に立ち上がる。
デコボコなビルの谷間、逃げ道はさながら迷路か、
迷い込んだ試験マウスが二匹、中間地点で悶えている。
マウスは噛み付きはしないものの、それでもしかと相手を見据え。
今にも邪魔者を排除しようと、互いの脳内に探りを入れる。
未開拓の思考に踏み込む術を持たない者同士。
目先の勝利の打開策は、迷宮入りしたまま誰にも開かれず、
じっと見据えた相手の目に映る曇天を伺い、
隙間差すことのない光を見出そうと手を伸ばす。
夢の中では宙に浮いた二人が、地に足つけて拳を造る。
切り取った世界の断片、階層的な幾重にも重なるパラダイム。
それぞれがシナプスのように手を伸ばし、繋がり合う。
折り重なったドットが遠目に具現化される。
感覚器に伝わるときには、一眼レフをも凌駕する。
高解像度を突き破って、飛び込むものを左に避ける。
右に造ったカウンターが、相手の腹を捉える。
反転し振りかざした相手の右脚が、左の膝上に落ちる。
重みが痛みに変化するのを待たず、踏み込んで左から拳を送る。
頬へ転送された左拳が、めり込んで添付した後悔が相手に再生。
渾身が響いたのか、相手は再びベッドイン。
少し強めのビル風が、二人の間を吹き抜けてゆく。