【今回の記事】

【記事の概要】

①マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)東京五輪のマラソン代表選考レース。前日本記録保持者の設楽悠太(27)は14位に終わった。
   天国から地獄だった。号砲とともに飛び出した設楽は、みるみるうちに後続との差を広げた。1キロを2分57秒で通過し、早くも15秒のリードを築いた。大迫傑(28)の日本記録を上回るペースで、15キロ地点では2位集団に2分13秒の差をつけ、独走状態に入った。しかし30キロ以降は失速し、37キロ過ぎに2位集団に飲み込まれた。
 食事には無頓着で、睡眠時間も短い。型破りな姿勢が際立つが、変化もあった。これまで練習で30キロを超える距離は走らなかったが、終盤の落ち込みを防ぐため6月から35キロ走を取り入れた。7月のゴールドコーストでは2時間7分50秒のマラソン初優勝で、その成果を示した。MGCでも独自のスタイルを貫いたが、思わぬ落とし穴が待っていた。

②設楽悠太は、レース後のインタビューで、今後残された3レースで2時間549秒(現日本記録)を破り、東京五輪代表3枠目を狙う方法もあるが「今は考えたくない」。「これまでの中で一番きつい経験か」という問いには「そうですね、はい」と答えるのが精いっぱい。
   泥臭さとは無縁で、その振る舞いから「宇宙人」、「異端児」と呼ばれた設楽だが、その時は、普通に疲労とショックの色が隠せなかった。

③設楽悠太は、昨年2月の東京マラソンで2時間611秒をマークし、日本記録を16年ぶりに塗り替えた。男子マラソン界を活気付けた立役者の一人だ。その一方で、マラソンの一般的な練習である40キロ走を採用せず、周囲からは「異端児」と呼ばれた。この日の飛び出しも宣言通りとはいえ、ライバルたちを驚かせるには十分だった。
レース後に、今後について「次のことは一回休んでから考えたい」とだけ話した。

【感想】
目標はあくまでオリンピックで通用する走りをすることだった
   全日本記録保持者である設楽悠太選手は、最終的に14位という結果に終わりました。
   しかし、「2位以内に入ればオリンピック内定」となる、言わば順位のみが問われるMGCというレースの中で設楽選手は、「オリンピックと言う世界の舞台で通用する走りをするために、あのペースで走り貫いた」(瀬古利彦)のです。
 因みに、レース中の解説によれば、設楽選手の前半のあのペースは決して無謀なものではなく、自身が日本新記録を出した時のペースだったと言います。設楽選手は、他の選手が互いをけん制して順位争いをしようとする中で、あくまでオリンピックを見据えた自分に出来るベストの走りを貫こうとしたのです。聞けば、「スタートから独走状態で勝った選手はこれまで1人もいない」(増田明美)とのことでしたが、そのことは設楽選手も当然分かっていたはずです。しかしそれでも、自分の信念を貫き通し、全力でレースに挑んだ設楽選手の姿勢に私は共感しました。
 
設楽選手の“人となり”
   さて、今回の記事や専門家の指摘などから、設楽選手の“人となり”が伺われる点がありましたので、以下に紹介します。
・「他の選手が互いをけん制して順位争いをしようとする中で、あくまでオリンピックを見据えた自分に出来るベストの走りを貫こうとした」(瀬古俊彦)
・「臭さとは無縁で、その振る舞いから『宇宙人』、『異端児』と呼ばれた」(本記事②)
・「マラソンの一般的な練習である40キロ走を採用せず、周囲からは『異端児』と呼ばれた」
「彼は1人で走るのが好きなんだと思う」(瀬古利彦)
・「集団の中でストレスを溜めたくないタイプ」(原晋)
・「設楽選手は以前からインタビューなどで、『他人の練習方法などは気にしていない』『高地練習はしない』、『長距離トレーニングはしない』と語っていた。」(https://izuru5222.net/sitarayuta-tukaimiti-13295 )

   更に、日本記録を更新したレース後のインタビューでさえ、喜びを爆発させるという感じがなく、冷静に淡々とした雰囲気で受け答えをしていた設楽選手。
 
   これらの情報から感じ取れるのは、以下のような点です。
・他人のことは気にしない「異端児」や「宇宙人」とさえ呼ばれるほどの“マイペース”
・集団よりも一人を好む
・一般的に指摘されている練習方法には目もくれず、自分が信じた方法を追求し続ける
・気持ちを前面に出すことが少ない
 
設楽選手の先天的な特徴
 さて、これらの特徴から思い出されるのは、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」と言われる考え方です。
   自閉症の最も大きな特徴は、先天的な感覚過敏であり、そのために外部からの不快な刺激に対しても過敏に反応してしまうため、常に不安感を感じてしまうのです。そこで、少しでも不安感を払しょくするために、本能的に自分自身を目に見えないシールドで覆うことで外界と隔離し、余計な外部刺激をシャットダウンしようとするのです。外部にいる他人に対する表情が乏しいのもそのためです。
   しかし、誰でも何歳になっても“ストレスを抱く”ことから分かるように、不快な外部刺激に対しても反応する傾向は、誰もが先天的に持っています(「あなたも私も“自閉症スペクトラム” その3」参照)。要は、その傾向の強さの程度の違いだけなのです
   ただ、ASDと診断を受ける人は、その過敏さの余りに、常に人とトラブルを起こすような暮らし難さを抱える人達です。つまり、設楽選手は自閉傾向が障害域にあるということではなく、「全体平均よりは強い」ということです。
 
自閉傾向が強い有名人を紹介する理由
   私は、これまでにこのブログの中で、有名な競技選手について、「自閉症の傾向が強いタイプではないか?」ということを指摘してきました。しかし、私が、有名人を自閉傾向と関係づけて紹介しようとするのには、ある理由があります。

   それは、学校現場の中にいるASDと診断された子どもが、余りにも特異な目で見られていることが発端です。「○○ちゃんは、変わった子」というレッテルをはられて、冷たい仕打ちを受けることが多いのです。また、診断を受けていなくても、グレーゾーンにいる普通のまじめな子どもが、教師の叱責を受けて登校渋りに陥るというケースもあります。この場合も「普通の子よりもメンタルが弱い子ども」とだけ見られて、「本人にはどうしようもない感覚過敏と言う特徴がある」ということに目を向けてもらえません。
   しかし、それらの「変わった子」「メンタルが弱い子」というレッテルをはられている子ども達は決して“特異”な子どもではなく、私たち皆が同じような特徴を持っていて、単にその傾向の強さが違うだけ、つまり、決して他の星からやって来た「宇宙人」などではなく、自分達と同じ地球に暮らす仲間であることを、このブログを通して少しでもこの世の中に発信したかったのです。
 
   しかも、その自閉症(=アスペルガー症候群)の傾向が強いとされる人達、歴史上の人物では、織田信長、坂本龍馬、アインシュタイン、ベートーベン、エジソン。ごく最近で言えば、イチロー内村航平貴乃花五郎丸歩藤井聡太、…。皆、「変な人」どころか、「天才」や「スーパースター」と称されている人達ばかりです。不快な外部刺激を遮断するために、自分の世界に人一倍没頭することから、人の何倍もの集中力と達成力を発揮できるのです。私は、彼らに秘められたそんな素晴らしさも伝えたいと思い、あえて偉業を残した有名人を取り上げ紹介してきました。ただ、一般のASDの人も、環境が整えば私達の何倍も素直で正義感が強いのです。
 
   そしてその一人が、他人の走りを気にすることなく自分の信念に従ってオリンピックで通用する走りを貫こうとした設楽雄太選手です。
   そんな彼を称した元女子マラソン選手の谷川真理選手のあるテレビ番組での言葉が、設楽選手の素晴らしさを物語っています。
(あのレースができる)勇気がすごい。感動した。
 
設楽選手が我が子であったら…
さて、皆さんは、もしも設楽選手が自分の子どもであったら、昨日のレース後、疲労とショックの色が隠せないでいる本人に対してどんな言葉をかけるでしょうか。
「飛ばし過ぎだったね。みんなと同じペースで走ればよかったのに。」
でしょうか。それとも、
大切なのは『結果』じゃないよ。他の人達に惑わされずに、オリンピックという世界で通用する走りをしようと全力でレースを作ったあなたの『努力』がすごい。
でしょうか。
 子育てにおいて、我が子に『結果』を求めるか、『努力』を求めるか、この差は、子どもを叱る量に決定的な違いを生み、結果的に子どもを愛着不全(特に「回避型」愛着不全)にするか否かにまで影響を与えるものだと考えます。(「「愛着」の維持のために② ~良い結果を褒めていると「不安型」愛着不全に?~」参照)