【今回の記事】

【記事の概要】
(上記記事参照。下記の「感想」の中で不明な点は、上記サイトにてご確認ください。)

【感想】
   まず、お断りですが、この記事では「アスペルガー症候群」と呼んでいますが、ここでは世界的権威のあるアメリカ精神医学会の分類を採用し、「自閉症スペクトラム障害(ASD)」と呼ぶことにしたいと思います。

   さて、今回投稿する記事の目的は2つあります。1つはあの藤井聡太四段の強さの秘密を探ることです。
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もう1つは藤井四段という多くの皆さんが関心を寄せる人物を通して、“感覚過敏”を特性とする自閉症の傾向が健常者の中にもあること、合わせてその特性の内容について知って頂くことです。

   さて、【今回の記事】の①は次のようにまとめられています。藤井聡太四段はアスペルガー症候群の典型的な症状などではなく、普段は普通の中学生で…アスペルガー症候群の典型的だなどと言われた理由も、普通の中学生なら有り得る話」。
   一般的には、障害者は自閉症の傾向の強さが「100」で健常者が「0」というようなイメージを持たれているかも知れません。しかし実際には、「スペクトラム(連続性)」という名の通り、障害者から健常者まで自閉症の傾向の強さが連続している、つまり誰でも大なり小なり自閉症の傾向を持っているのです。(千葉大学の若林明雄氏の論文のグラフ(P5)参照)このことが殆ど周知されていないので、先述のような「0か100か」という解釈をされることが多いようです。アスペルガー症候群の典型的だなどと言われた理由も、普通の中学生なら有り得る」という意見も、健常者の誰にでもあるASDの特徴、例えば私たちの身の回りにもいる完璧主義」「マイペース」「没頭タイプ」「KY」等のことを指しているのだと思います。ASDの特徴には他にも「正義感が強い」「友達が少ない」「バカ正直」「几帳面」「頑固」「シャイ」「高所恐怖症」「慎重」「時間にうるさい」「マニアック」「潔癖症」等、普段よく耳にする性格やタイプが多くがあります。健常者と呼ばれている人でも、どれだけ自閉症の特徴を持っているかが理解できるかと思います。
   一方で、藤井四段のASDの傾向の強さが障害の域ほどに強いとは思いません。障害域にいる人の暮らしにくさは藤井四段など比べものにならない程尋常ではないものがあるからです。ただし仮に彼が診断上は健常者だとしてもその傾向はかなり強い人物であることは間違いないと思います。
   以下にその理由をお話ししたいと思います。

   まず、ASDの多岐にわたる特徴のうちのいくつかを紹介します。
①特定の分野に対する興味・関心が異常に強く、それによる徹底した練習姿勢のために抜群に秀でた優秀さを持つ。(その代わりに、興味・関心がない事については無頓着
②尋常ならざる熱意のために勝ち負けに過度にこだわる。
③「……であるべき」という規範意識が強いため、物事に対して完璧を求める。
場の空気や常識が読むのが苦手である。
⑤社交性がなく、安心できる自分の世界に閉じこもりがちである。

   ネットでは、彼のあの集中力の高さがASDの「過集中の状態に陥る(集中し過ぎる)」という特性の表れではないか?と噂されているようです。確かに上記の①のような特徴を持っているのですが、私には藤井四段の集中力が他の棋士と比べてどの位高いかは分からないので、ここではあえて根拠とはしません。
   しかし、テレビのある特集番組によると、5歳の時に参加した将棋合宿では、「考えすぎて頭が割れそうだ」と母親に漏らしたそうです。通常の5歳の子供はそこまで自分を追い詰め集中出来るものではありません。これは①の特徴を表していると思います。

   また、上記記事の杉本昌隆七段によると、藤井の勝負への執着心尋常ではなく幼いころは負けると「この世の終わりか?」というくらい号泣したそうです。また、藤井聡太四段の母親も、「大泣きですよ。みなさんが心配してくださるくらいワ~ッって」と語っています。ある特集番組によると、負けると将棋盤を抱いて離さずに大泣きしていたそうです。ゲームの対戦で負けてそれくらい号泣するというのはやはり規格外ですね。これは上記特徴の②にあたります。
   思えば日本卓球のトップ選手である福原愛も平野美優も小さい頃から卓球で負けると大泣きして「わたしのかち〜😭」と結果を認めたくなかった話は有名です。“意地の強さ”はトップになるための必要条件なのだと思います。
   私が勤務していた学校にもASDの障害域の子供がいて、校内マラソン大会で自分が最下位になったにも関わらず「僕は一番がいい〜‼️😭」と号泣していました。

   また、やはり師匠の杉本昌隆七段がゲストで出演したある特集番組によると、彼を弟子にとった初めての対局で1局目に勝利した時は全く嬉しそうでは無く、負けた2局目はすごく悔しそうにしていたそうです。その様子を見て杉本昌隆七段は「『ずいぶん失礼なやつだな』と思った」と自身で語っていました。「師匠をたてる」という暗黙のルールの理解が足りない面があるようです。これは④にあたります。

   また、優秀なのは将棋だけでなく、学校の勉強もかなり優秀なようです(名古屋のある大学の優秀な附属中学校に通っている)。普通なら将棋にこれだけ集中していると、他の事は力を抜きそうですが、ASDの人は興味を持った分野に対しては完璧を求めるので、彼にとっては、学校の勉強も興味関心の高い分野だったのでしょう。これは③にあたります。
   その代わり興味のないことには「抜けている」と思われる程無頓着な面があります。上記記事での「大阪での対局の時、将棋のことで頭がいっぱいになり着替えを全て泊まった将棋会館に忘れて来た」というエピソードや、母親が彼のことを「生活能力が低い」と評したことは、そのことを物語っているのかもしれません。また、小学生の頃から新聞を隅々まで読んだり長い小説を読んだりするのが好きな反面、バラエティ番組はまったく見ない、テレビやゲームには興味がない、マンガは読まないそうです。普通の子供が皆興味を持つことに一切関心を示さず自分の興味のあることだけに熱中するマニアックな興味の有無がはっきりしているASDらしさ(上記①の括弧内)を物語っています。

   なお、各分野に歴史に名を残す偉人たちには以下のようにASDと言われる人物が多いです。
イチロー、落合博満、中村俊輔、スティーブン・スピルバーグ、織田信長、アインシュタイン、ベートーヴェン、坂本龍馬、ビルゲイツ、舛添要一等。
   何れも「天才肌」と呼ばれる人物ばかりですが、生まれつき天才だから強いのではなく、特定の分野に尋常ではないほど集中して取り組むという自閉症の傾向が特に強いため、天才と呼ばれる程優秀な成果を残す事が出来たのです。藤井四段の強さの秘密もそこにあるのだと思います。
   
   そんな天才肌の人間ですが、人付き合いは苦手マイペースな面が有るので、上記偉人でも周りからひんしゅくを買ってしまう事も度々です。一番近いところでは、元知事の舛添さんでしょうか?これは⑤にあたります。天才と言えど「神は二物を与えず」ですね。
   また、藤井四段のように「虫が大の苦手」というASDの人は多いです。私が以前受け持った子供も虫が出そうな場所に行くだけで言動が不安定になっていました。安心できる環境を好むASDの人にとっては、予想不可能な動きをする生き物が不安なのかもしれません。

   しかし、藤井四段の活躍を目にしていると、ASDの「特性」は、その人なりの得意な面を発揮する上での立派な「個性」であり、それはもはや「能力」と言っても過言ではないという事を感じずにはいられません。