これまで、自閉症スペクトラム障害(ASD)の感覚過敏の特性から派生する行動特徴について、折に触れていくつか紹介してきました。しかし、いつも断片的な紹介しかできなかったために、ASDの障害特性の全体像についてお知らせする機会がありませんでした。そこで、青木省三氏の文献等を基に以下に紹介します。
なお、以下の特徴全てがASDの人に見られると言うわけではなく、当てはまる実態は様々です。またASDの感覚過敏の傾向は大なり小なり誰にでも見られるものなので、正式にASDの障害域にはない子どもでも当てはまるものはあり、感覚過敏の傾向が強い子どもほど当てはまるものが増えることになります。
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1. 社会性の障害(人と交わることや集団の中に入ることがうまくできないこと)
【乳幼児期だと】
・親を求めない ・人に興味がない ・視線が合わない ・あやしても笑わない ・抱かれるのを嫌がる ・母親がいなくても平気 ・親との親密な関係ができない ・一人遊びを好む ・他の子どもと遊べない ・他人への配慮がない・集団行動がとれない
【思春期・青年期だと】
・友達をうまく作れない ・集団に入れず孤立しやすい ・マイペースに行動する ・自分の話を一方的に話す ・知らない人にもいきなり話しかける ・人の気持ちが読めない ・場の空気が読めない(「KY」)・深刻な場面でもふざける ・正直すぎる ・社会の暗黙のルールが分からない
2. コミュニケーションの障害(言葉を中心としたコミュニケーションがうまくできないこと)【幼少期だと】
・言葉が出るのが遅れる ・エコラリア(「オウム返し」)が見られる ・人称の逆転(「私」と「あなた」が逆になったりする)・疑問文による要求 ・抑揚のない一般調子の話し方 ・方言を話さない(標準語しか話さない)・身振りや手振りでの伝達も少ない
【思春期・青年期だと】
・言葉を字面通りに理解し、文脈の理解ができない ・難解な言葉を用いる ・比喩表現や言葉の裏(冗談)の意味の理解が難しい (あいまいさを嫌う) ・話すと話が詳しくて回りくどい
3. こだわり、想像力の障害(興味や考えが狭い範囲に偏り、新しいことや状況の変化に不安や恐怖を感じること)
【幼少期だと】
・毎日の生活習慣が変わることに強く抵抗る
・思った通りにならないとかんしゃくを起こす ・「ごっこ遊び」ができない ・くるくる回るものが好き ・覚えたり集めたり並べたりするのが好き ・興味があることにはとても詳しい
・物事の細部や手順にこだわり全体が理解できない ・融通が利かない ・気持ちの切り替えが苦手 ・失敗に弱い ・ゲームなどで負けるとひどく怒る ・なんでも「一番」でないと気が済まない
【思春期・青年期だと】
・特定の自分の興味や趣味に没頭する ・生活がワンパターンになりやすい ・日常生活の中での手順を細かく決めている ・まじめで規則を守りすぎる ・融通が利かず予定や計画の変更に対応できない ・難しいことや変更に臨機応変に対応できない ・応用力がない ・自分の主張を譲れない
4. その他
(1)感覚過敏
①聴覚過敏(車のクラクションの音、工場現 場の音、大きい音などが苦手。目的以外の音を嫌う※「一対一」だと理解できるが、集団を目の前にすると理解できない。数人が集まってする雑談の声が騒音のように感じる。)
②触覚過敏(ちょっとした接触で「たたかれた!」と感じることがある。べたべたしたものが手につくとひどく嫌がる。湿度が高いジメジメした環境を嫌がる。洋服のタグを嫌って自分でとってしまう。耳そうじを嫌がる。※逆に痛みに鈍感な場合もある。)
③味覚過敏(極端な偏食)
④臭覚過敏(刺激臭などをひどく嫌う。)
⑤心が過敏(他者からの強い言動や困っているような表情に敏感)
(2)視覚優位
聴覚よりも視覚での理解のほうが得意。話して聞かせてもなかなか理解できないのに、絵や記号、書いた文章で説明すると理解できることが多い。逆に聴覚情報だけだと理解が困難。
(3)情動の不安定さ
・見通しが持てないと不安になり混乱しやすい ・急な変更に混乱する。 ・不安を伴う作業を敬遠しがち(面倒なトラブルや作業を嫌う、ある意味“面倒くさがり屋”) ・一度混乱すると不安な気持ちを長く引きずる。・ちょっとしたきっかけで過去のいやな経験を思い出し(「フラッシュバック」)、突然友達に怒ることがある。・自分の思い通りにならないだけで、泣き叫んだり、暴れたり、自分の髪をひっぱったり、頭を壁にぶつけたり 人をかむ等の「パニック」になることがある。
(4)不器用さ
・鉛筆やクレヨンがうまく使えない ・折り紙が上手にできない ・箸をうまく使えない はさみが上手に使えない
(5)「心の理論」の未発達
「他者には他者の心があり、自分とは違う考えを持っている」という機能の発達の遅れがある
(6)想像力の欠如
思い出して書く作文学習、絵画学習等が苦手さ。
【参考文献】
・「ぼくらの中の発達障害」(青木省三著 ちくまプリマー新書)
・「特別支援教育の基礎・基本 ~一人一人のニーズに応じた教育の推進~」(国立特別支援教育総合研究所著作 ジアース教育新社)
・「あたし研究」(小道モコ絵・文 クリエイツかもがわ)
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見ていただいてわかるように、障害特性の項目はその種類や数が膨大になっています。自閉症スペクトラム障害は「広汎性発達障害」と呼ばれるものの中の代表格です。何故「広汎性(広い範囲に及ぶもの)」という言葉がついているかを物語っているようです。本当に大変な障害です。ただし、自閉症スペクトラム障害と診断された人たちがこれら全ての特性を持っているわけではありません。人が違えば持っている障害特性の種類も数も傾向の強さも異なります。
今回の投稿の最大の目的は、その問題行動は本人のわがままによるものでは無いという事を理解してもらう事です。例えば身体障害者の障害特性は「健常者と同じ様に歩いたり走ったりすることができない」ということです。そのことが本人のわがままによるものではないことと同様に、問題と思われるASDの子供の行動はその障害特性によるものなのだということです。