【今回の記事】

【記事の概要】
2歳10ヶ月の男の子の「こだわり」についてのお悩み
   洋服の色や食べ物の好みなど、人は誰しも好き嫌いがあるものですが、こだわりが強すぎる場合、周囲に戸惑いを与えてしまうことも…。今回の相談者・ekvslさんも子どもの強すぎるこだわりに悩んでいるママの1人。
「2歳10ヶ月の息子のことで相談です。とてもこだわりが強い子で、たとえば、洋服の色(これと決めた色しか着ようとしません)から下着帽子のかぶり方つばの位置をとても気にします)まで、気に入らないものは極端に避けてこだわります」
と、日々の生活に苦労している様子が文面からも伝わってきます。さらに
「義母から息子のことを度々強く指摘され、そんなことでは、小学校に行くと苦労するとか、誰に似たんだろうかとか、いろいろと言われることが多くなりました」
と、お姑さんの言葉もekvslさんの悩みを助長しているそう。
「義母に息子のことをいろいろと言われると、自分のせいに思えてきて仕方なく、とてもつらいです。甘やかしているつもりはないけれど、私の接し方にやはり問題があるのでしょうか?」

明橋大二先生(真生会富山病院心療内科部長・精神科医)のアドバイス
   まず「“こだわり”というのは、何か一つのことに執着して、周囲から変えようとしても、なかなか言うことを聞かない、そういう状態だと思います。小さなお子さんで、そのようなこだわりを持つ子どもは決して少なくないと思います」と明橋先生。その上で「考えておかねばならないことは「こだわりの背景にあるのは何か?」ということです。私はそれを、『不安』だと考えています。特に何か、ショックなできごと、大変なできごとがあったわけではなくても、敏感な子どもは、不安を感じやすいです。特に、新しいこと慣れないことに対しては、強い不安を感じます」とのこと。強いこだわりは子どもの不安な気持ちの表れであるため、「子どもに、無理じいするとか、こだわるものを奪い去るとか、そういうことは、さらに不安を倍加して、パニック状態になったり、過呼吸になる子どももあります」といいます。そのため「基本的には、その子のこだわりは、尊重する、無理やりやめさせたり、奪ったりしないことが大切だと思っています」と明橋先生。相談者が気にしていた、子どものこだわりと親の育て方との関係性についても、「この個性は、決して育て方ではなく、持って生まれた性格です」「決して甘やかしていることではないし、今の親御さんの子育てで、大丈夫だと思います」と温かいメッセージを送っています。

【感想】
「こだわりの背景にあるのは“不安”」
「“敏感”な子どもは、“不安”を感じやすい。特に、新しいこと、慣れないことに対しては、強い不安を感じる。だからこだわりを持つ。」
今回の精神科医明橋先生のこれらのご指摘。私も全く同感です。

   ここでは、次の2点について補足したいと思います。
①「なぜ不安感を覚えると“こだわり”を見せるのか?
②「“こだわり”を和らげるにはどうすればいいのか?

①「なぜ不安感を覚えると“こだわり”を見せるのか?
   皆さんは、ラグビーW杯南アフリカ大会で一躍時の人となった五郎丸歩選手をご存知でしょうか?ボールを蹴る時に必ずするポーズが有名になりました。


彼は、あのポーズを取る前後にも、いつも決まった行動を取っていました。①ボールを2回転させてセットする。②ボールの後ろに立ち「右足、左足、右足」と3歩後ろに下がる。③「左足、右足」と二歩左に動く。④ゴールに対して正面を向き、左手の手のひらで壁を作り、右手を左手の壁に合わせ離して合わせる。この動作を繰り返す。⑤4回目に右手を左手に合わせた時、そのまま「五郎丸ポーズ」へ。⑥右足、左足と小さく左に2ステップし、その後前へ6ステップしてキックする。あれはいわゆる彼の「ルーティーン(決まった習慣)」でした。
   テレビのある特集番組で見たのですが、彼がする行動の仕方に特に意味はないそうです。いつも全く同じ行動をすることによって、集中力を高め気持ちを落ち着かせる、つまり「不安感」を無くしているのだそうです。
   五郎丸選手に限らず、私達も、「気持ちが落ち着かない時はトイレにこもる」とか「緊張した時は手のひらに『人』と書いて飲み込む」等のお決まりの行動をとることはよくあります。

   実は、“こだわり”の強い子供の行動もこれと同じ「ルーティーン」なのです。しかし、親御さんは「なぜいつも意味のない同じことをするの?」と思い、つい止めさそうとします。もしも、五郎丸選手にあの「ルーティーン」を止めさせたら、どうなるでしょうか?おそらく、不安感が増し集中力が落ち、キックは決まらなくなるでしょう。だから、誰も彼の「ルーティーン」を止めさせようとはしません。子どもも同じです。周りの人からすると、何も意味がないように思われる行動でも、自分の不安感を必死に鎮めようとしているのです。それを強制的に止めさせられると、抱いていた不安感は一層増し、子どもによってはパニックになってしまうこともあります。五郎丸選手のサポーターが黙って見守っているように、お子さんのサポーターである親御さんも、子どもの“ルーティーン”を見守ってあげましょう。

②「“こだわり”を和らげるにはどうすればいいのか?
   先に、「こだわり行動を妨げようとすると、不安感がさらに増す」「こだわり行動と言うルーティーンは見守る」と言うことをお話ししました。では、ルーティーンを見守る時の親の表情はどうあればいいでしょう?当然、不安を感じてこだわり行動を示している子どもに「いったいいつまでやるつもりだ?」と言う否定的な気持ちで見ていると、その気持ちが表情に現れ、それが子どもに伝わってしまいます。特に時間の無い時は親御さんも困ると思いますが、「いつまでやってるの?!もう行くよ!」と強引に止めさせると、ますます子どものこだわりは激しくなります。ですから、結果的には「微笑みながら見る」方がこだわり行動の時間は短く済むはずです。どうしても時間がない時は、「あと◯つ数えたら行こうね終わりにしようね)😊」と穏やかに優しい口調で見通し”を持たせると良いと思います。

   また、記事中で明橋先生が「この個性(敏感性)は、決して育て方ではなく、持って生まれた性格です」と指摘しているように、不安感を抱きやすい、言い換えれば“感覚過敏”の特質は、生まれながらにして持っている先天性のものです。もっと詳しくいうと、“感覚過敏”の特質は、誰でも大なり小なり先天的に持っている「自閉症スペクトラム」の特性によるものです(その特性の強さがある一定基準以上になると「自閉症スペクトラム障害」と診断されます。つまり、「健常者」と言われている人達と「自閉症スペクトラム障害」と言われている人達とは、特性の強さに強弱があるだけで、分布上は連続的に繋がっているのです)。自閉症スペクトラムの特性は様々ありますが、それらはほとんどが“感覚過敏”の特性が原因になっているものです。ですから、それは「その子が勇気がないから」とか、「弱虫だから」と言うことではなく、生まれながらに持っている特徴です。ですから、そういう子どもに“こだわり行動”が現れるのはある意味当然なのです。
   しかし、先天的な特性でも、その不安感を“軽減”することはできます(ただし、先天的なものなので解消、つまり「0」にすることはできません)。それは愛着7」によって子どもに接することです。この「愛着7」の②〜⑥の愛情行為は、元々は、“感覚過敏”で“不安感が強い”特性を持つ「自閉症スペクトラム障害」の子どもに対する支援法として、ある専門家が科学の視点から開発した「セロトニン5」(子どもの脳内に別名「安心ホルモン」とも呼ばれる「セロトニンホルモン」が分泌される接し方)と殆ど同じになっています。ですから、「愛着7」で接していると、子どもの脳内に、気持ちを安心させる「セロトニンホルモン」が分泌され、子どもの不安感は軽減されます。不安感が軽減されれば、同時に、その不安感を解消するための“こだわり行動”も減るのです。