あらすじ:
人魚の肉を食べたが故に老いることもなく500年生き続ける男・湧太――。
人間の暗い欲望である不老不死をベースに、与えられた命の尊さを描いた連作短編集。
おすすめ: ★★★★
1984年~1994年、週刊少年サンデー不定期連載。
高橋留美子先生の名作「人魚シリーズ」。
2003年発行版を中古買いです。
昔雑誌でいくつか読んだ気がしますが、こうしてまとめて全話読むと印象違いますねぇ。
ただおどろしいイメージを持ってましたが・・・いやいやどうして!
よく作りこまれた深い話ばかりだったのね~。
こりゃあ先生の未読作、改めてもっと追わにゃあ
あー『犬夜叉』読みたい。
(でも今 全56巻なんて置くとこないのよーーッ!数年ぶりに整理してなんか売らな)
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【人魚は笑わない】
時は現代。
永遠の命を持ち、500年生きてきた湧太。
同じ境遇になってしまった少女・真魚。
2人の出会い。
そして、共に旅をするようになるまでのお話。
真魚は女しかいない里で実質監禁されてたんですが、一応お姫さま扱いで育ったんでめっちゃ気位高い!
「気高く強い女の子」・・・こういう子描くの上手いですよね~高橋先生は。
“なりそこない”も含めて、人魚はビジュアルが怖いところが好きですね。
セクシーだったりメルヘンだったり全然しないの。
リアルな異形なんです。
【闘魚の里】
時代は遡ります。
湧太が不死になってしばらくかな?
これまた勇ましい女の子・鱗登場!
父親の後を継いで海賊の若頭をやってるの。
湧太、鱗の暮らす島に流れ着きました。
「どざえもん」としてっ
男まさりな鱗だけど、ピンチの時に助けに現れた湧太に姫抱きされて思わず泣いちゃう。
なんとも乙女。
ココの湧太がほんと男前で・・・・!
まじでキュンです
だけども所詮は人間の娘と不死の男・・・。
ラストはせつないです。
でも、そんな中でもちょっとしたユーモアがある。
こういうカンジこそ“るーみっくわーるど”ですな。
素晴らしい!!
【人魚の森】
現代。
2人が旅を始めて間もない頃。
人魚塚を守る旧家に囚われてしまった真魚。
彼女を助けるために乗り込む湧太。
生け捕った人魚を受け継ぐ家に生まれた双子の姉妹の、壮絶な復讐物語でした。
なのに後味悪くないんですよね。
湧太と真魚の間に絆が生まれた事を確認できる、そんなラストだからですねー。
【夢の終わり】
現代。
人魚の肉は不老不死の妙薬だけど、食べた誰もが不死の人間になれる訳ではないんですよね。
ほとんどが死ぬか、“なりそこない”という化け物になってしまう。
2人が山の中で出遭った“なりそこない”のお話。
人の心を保てる時と、理性がなくなり人を襲う時とを繰り返す男。
姿のほとんどが怪物で、包帯で覆ってるんだけど、かろうじて2本の指だけが人間・・・。
湧太と真魚のような完全体になる方が遥かに稀なんだもの・・・。
不老不死を追い求める事の虚しさ。
たった30ページに溢れんばかりに詰まっています。
【約束の明日】
現代。
数十年前、湧太と少なからず想い合っていた女性・苗が昔と変わらぬ姿で登場する。
虚ろな美女。
赤い花咲く谷。
不穏に騒ぐ鳥の群れ。
映像にしたらめちゃめちゃ映えるだろうなあ、この作品。
人魚の灰は、死んだ人間を空っぽの悪鬼にしてしまうのね。
淋しくも美しい悲恋物語でした。
【人魚の傷】
このお話が一番好きです。
なんの救いもへったくれもないんですがね。
湧太とはまた違ったタイプの不死・真人のお話。
現代。
湧太以上である800年という歳月を生きる真人。
欲するのはいつも母親代わりの女。
真人の目はどこか虚ろ。
500年間人間に戻るために生きてきた湧太と違い、真人の800年には目的がない。
そりゃあ目も死にます。
でも、そんな真人にも情が枯れ切ったわけじゃない描写があって・・・・。
だから、女をどれだけ使い捨てたか分からないこの800歳の不死(見た目7~8歳)ですが、その悲哀から目が離せませんでした。
ラスト、真人の行方ははっきりしてないんですよね。
でもそれがいい。
何年、何十年、いや何百年のちに、湧太と真魚にまた遭遇するかもしれないと思えて。
その時真人に永遠の片割れがいたらいいな。
もしも万一高橋先生がこのシリーズをまた描くことがあるなら、真人再登場を熱望しますね。
【舎利姫】
湧太、不死になって100年。
時代は徳川統治の始め。
インチキ商売をする親子に出会います。
不死である娘・なつめとその父親である老人は、見世物小屋で怪しい人魚の肉を売っていました。
なつめはねー、湧太と同類なわけではなかったんですよね・・・。
それでも湧太は共に生きていく事を決めたのに。
どんな形の命でも、生きていこうとする者に罪はない――と。
反魂を扱ったこのお話、結末ほんとに悲しい。
刺さります。
まだ湧太の隣りにとぼけたやり取りをしてくれる真魚がいないから、読後感は侘びしいまんまです。
(そういうのも好きだけど)
【夜叉の瞳】
現代。
幽霊屋敷と囁かれる洋館での、姉と弟の長きに渡る確執の結末。
ちょっと2時間ドラマっぽいですね~。
ミステリ要素と、姉弟の愛憎。
弟の新吾がねー、クズだけどイケメン!
ふっふっふ
【最後の顔】
現代。
複雑な親子間の物語。
蔵とか、顔を挿げ替えるとか、陰湿で血生臭い。
純粋な子ども・七生に救われますねぇ。
母親の愚かさが充満してるんですけど、七生がよいこで中和してくれます。
子ども描くのほんと上手いわー。
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仄暗い話ばかりなのになあ・・・。
なぜか湿っぽい読後感にならないんですよね。
高橋先生の、さっぱりしてんのに可愛げのある絵柄。
それと、生きる力の強いキャラクターたち。
そのせいでしょうね。
もーさすがの力量としか言い様ないですねぇ