8月8日の記事から続いてきた連載も、いよいよクライマックスです。
連載記事を順番にまとめてみました。
の順番で読んでみてくださいね。
前回の記事
の続きです。
8月8日の特別な儀礼によって、太陽の奥の院であるシリウスのエネルギーがチャージされた糸魚川青翡翠を持っていくよう、倭姫命からメッセージが届きました。
この時点ではその理由は分からなかったのですが、その日の深夜にその意味を知ることとなったのです。
大学病院に到着し、入院の際の注意事項などの説明を受けました。
私の病室は大部屋でした。
他のベッドとの仕切りとして、基本的に常にカーテンが閉められているため、私の他にどんな方が入院されているのか、ハッキリとは分かりませんでした。
時々漏れ聞こえてくる会話や声から判断すると、どうやら同年代の方はいないようで、私の祖父や祖母くらいの世代の方が多いような印象を受けました。
ほっこりした気持ちになります。
持ってきた青翡翠はとりあえず枕元に置いておくことにしました。
明日手術を受けることになっていたため、その日は絶食でした。
深夜の1時をまわっても、一向に眠れません。
手術への緊張が無かったわけではないのですが、そうではなく、お腹が空きすぎて眠れなかったのです。
気を紛らわせようと、少しだけ病室の外へ出てみることにしました。
とっくに消灯時間を過ぎているため、廊下は非常灯の明かりのみになっていました。
薄暗く照らされた病院の廊下は、独特の雰囲気がありますね。
職業柄慣れ過ぎてしまったのか、こういう時でも恐怖を感じることはほぼありませんが、何となく、何かに遭遇しそうな雰囲気を感じていました。
なんというか、空気が重いのです。
重力が増しているかのような、何とも言えない息苦しい圧力が、空間自体に満ち満ちていました。
少し廊下を散歩して、トイレに寄りました。
そろそろ戻るか、とトイレを出たところ、視界の端に違和感が。
「なんだ？今一瞬、何か黒い大きなシルエットを見たような・・・。」
首を動かさずに、眼だけで違和感を覚えた方向をゆっくり見ると、
「それ」
がいました。
2ｍくらいの高さがある真っ黒いシルエットが、廊下の上をゆっくりと、滑るように移動していたのです。
音もなく動いており、こちらに気付いた様子もありませんが、あれは明らかにこの世の者ではない、何か、でした。
これまでに様々な邪気を祓ってきましたが、それはこれまでに遭遇したことのない、異質な存在でした。
手術前日だというのに、本当にやめてほしいなぁと思いつつ、それの後を追いました。
この時点では、祓おうと思ったというよりも、それが向かった方向に私の病室があったため、必然的に追いかけるしかなかったのです。
さすがに手術前日くらいは安静にしておこうと、無害なら様子見にするつもりでした。
しかし、こういう時の嫌な予感というのは、何故か大体的中するものです。
廊下を曲がって追いかけると、それは私の病室へ一直線に向かっていくではありませんか。
お約束、というやつでしょうか。
どうしてこう、邪気というのはいつもいつもタイミングが悪いのか、さすがに今回ばかりは少し腹が立ってきました。
邪気は、招かれていないのに中へ侵入出来るのかどうかで、ある程度相手の強さを見極めることが可能です。
まずは小手調べに、ドアを開けたり出来るのか見てやろうと、少し後ろに下がって気付かないフリをしながら観察していました。
すると、それは、何事も無かったようにドアを開けて、中へ入ったのです・・・！
誰かが内側からドアを開けた、というわけではありませんでした。
ドアに触れてさえいないのに、人が普通にスライド式のドアを開ける時のように、スーッと開いたのです。
これが出来るということは、かなり濃いレベルで物質に影響を与えることが出来るほど、こちらの世界に干渉している、ということを意味します。
多くの邪気は、自らドアを開けることさえ出来ないため、荷物にひそんだり、人に開けさせたりします。
映画『千と千尋の神隠し』でも、カオナシの侵入を許し、窓を開けたのは主人公ですね。
海外の吸血鬼や妖怪の伝承でも似たような話はたくさんあるのです。
つまり、こいつは、少なくともそれらよりも遥かに強力な邪気である、ということが判明しました。
真剣に祓うモードへ切り替える必要があります。
意識を切り替え、気合を入れ直してから、病室へ入りました。
勝手に他の方のベッドを確認するわけにもいきません。
まず、自分のベッドへ戻りました。
ここにはいないようです。
しかし、すぐ近くに気配がしています。
それに加え、なんとも言えない低音のノイズのようなものが聴こえてきました。
「ブブブブブブブブブブブブ・・・・」
大量の虫の羽音のような音です。
明らかに部屋のどこかに潜んでいます。
やつはどこへ行ったのでしょう・・・。
詳しく感じようとしていた矢先、病室内に突然別の大きな音が鳴り響きました。
「ポーン！！！ポーン！！！ポーン！！！！」
これは、機械音です。
どうやら、すぐ隣のベッドの方の心電図モニターから発される警告音のようでした。
容体が急変してしまったのか、
「寒いぃ・・・。苦しい・・・。」
と呻く声も聞こえてきました。
「これはまずい！」
とナースコールを押そうとしたところ、すぐに看護師さんが病室へ飛び込んできました。
緊迫した雰囲気と、かなり焦っている様子とが伝わってきます。
少し遅れて医師もやってきました。
看護師に様々な指示を出しながら、何度も患者さんに声かけをしています。
部屋の中が一気にあわただしくなりました。
病で臥せっている人を狙い撃ちするとは・・・。
絶対に許せません。
医学的治療は医師の領分です。
こちらはこちらで、カーテン一枚隔てた場所で祓いを決行することにしました。
誰にも聞こえないよう小声で祝詞を唱え、符を用いて祓いを進めていきます。
すると、やつの姿がはっきりと見えました。
真っ黒いシルエットのように見えたものは、巨大な黒いマントでした。
そしてその中身はなんと、大量の銀バエだったのです。
羽音のようなノイズの正体はこれでした。
大量の銀バエが真っ白い骸骨を覆って蠢いており、それが一つの存在として意志を持って動いていたのです。
マントの中に鋭い金属の鎌も見えました。
これは・・・・。
いわゆる死神でした。
相手の正確な姿を把握することは祓いの重要な一歩です。
こちらの祓おうという確固たる意志に気付いた死神は、こう言ってきました。
「貴様には関係ないぃぃぃぃ！！！！邪魔をするなぁぁぁぁあああああ！！！！！」
そう叫ぶと、無数の銀バエたちが、この方の全身の細胞から生命エネルギーを引き抜こうとし始めたのです。
へ続きます。
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