今から約20年前くらい、わたしは自分のホームページをつくり、それを介してインターネット上で人々と交流していた。
当時はまだ「ブログ」がなく、HTMLを使ってホームページを作成し、サーバーにアップロードするというかたちだった。
工業大学出身で、プログラミングの授業が必須科目だったため基礎知識があり、プログラミング自体にも興味があったわたしは、楽しみながらホームページをつくっていた。
「無料レンタル掲示板」は、その当時からあり、そこで掲示板を作成して、そのURLのリンクをホームページに貼ることで、現在のSNSに近い交流をしていた。
ホームページで自分の考えを発信し、それに対するフィードバックを掲示板にもらう。
掲示板でコメントしてくれた方のホームページへ遊びにいき、その方の掲示板にコメントを残す。
親しくなってくるとチャットでの交流をするようになったりもした。
今でいう
「Facebookライブ」が「ホームページ」、
「ライブでのコメント」が「掲示板」、
「ZOOM」が「チャット」
とイメージが重なる。
顔出しはなく、匿名だという点が、大きく異なるが。
インターネットを通して、人々が心の交流をする中、インターネットでうまれる恋愛も時にはあった。
2005年にTVドラマになった「電車男」が、実際にインターネットの掲示板サイトからうまれた恋愛物語をドラマ化したものとして有名だ。
じつは、わたしも、インターネットで知り合ったことをきっかけに、交際をしたことがある。
あれは、Tくんとの恋が終焉を迎えようとしていたころのことだった。
Tくんとの交際には、「自殺未遂をくりかえす元カノ」という存在(邪魔ものの存在)や、「デートDV」(デートDV)など、今思えばさまざまな問題がくすぶっていたが、それでもわたしは、4年以上の期間、交際を続けていた。
東京へ出張に行ったとき、中央線で偶然出会った酔っぱらいに、
「自分を大切にしなきゃダメだ!!」
と叫ばれた一言が、
わたしの心を揺らしていた。
「いつか、しあわせになれるだろう」
そう思いながらその頃のわたしは耐えていたが、
それはつまり「今、しあわせではない」ということを表していた。
しかし、27歳という結婚を意識する年齢期だったこともあり、別れれば婚機を逃してしまうのではないかという不安も相まって、別れることへの踏ん切りをつけられずにいた。
Tくんの岩手への転勤が決まり、いよいよ結婚に向けて大きく動きそうな流れとなったが、
(Tくんについては、こちらも→仕事と恋と結婚と)
実家へ戻ったのと同じようなタイミングで、わたしはインターネットの世界に夢中になっていった。
そこには、現実世界とはちがうコミュニティがあった。
自分の考えに共感してくれる人々を選んで繋がることができる世界には、ある種の居心地の良さがある。
身近な人には話せなかった思いを、ホームページを通して知り合った人々とわかちあうことで、
ずっと抱えてきた孤独から解放されたような気がした。
わたしは、そんななか、北海道に住む年上の男性と、特に親しくなった。
自分の悩みを相談することで、次第に彼を精神的に頼るようになっていった。
あのころのわたしには、何かすがるものが必要だったのだと思う。
当時のわたしは、彼にすがりつくことで、Tくんとの別れを決意することができた。
Tくんと別れ不安定な日々を、わたしはインターネットで知り合った彼との交流により、やり過ごすことができた。
そして、あるとき、わたしは彼に北海道まで会いに行った。
よくもまあ思い切ったものだが、あの頃の私は捨て身だったのだろう。
実際に会い、わたしたちは交際をはじめた。
交際とは言っても、仙台と北海道という遠距離なので、チャットや電話による交流が主で、会うのは何か月かに1回というものだ。
あのとき、わたしが恋をしていたのは、現実の彼ではなく、自分の【幻想】だったと思う。
実際の暮らしなど、互いに何も見えなかった。
夕飯を食べてから夜中までチャットする日々を何日も過ごしたが、
次第にわたしには、彼の存在が重くなってきた。
文字だけのやりとりだというのに、彼の発言には束縛的なものが多かった。
(それすら、わたしが引き起こした現実なのだと今なら理解できるが。)
合計で3回ぐらい、彼に会いに北海道へ行ったが、一緒に過ごす時間も、正直楽しいものではなかった。
それでも、なんだかんだと1年くらいは続けただろうか。
あれはTくんとの交際を終え、さらにそこから再び立ち上がるために必要な、ひとつのプロセスだったのだとは思う。
しかし、現実世界から逃避していた日々だったとも感じている。
ネットの世界(オンラインの世界)と現実世界とのあいだには、【死角】が存在する。
その【死角】の存在を、現実できちんと埋めることができないかぎり、そこは【幻想の世界】となってしまう。
わたしは、過去のこの体験から、この【死角】の存在を常に意識しながら、ネット上での交流をしている。
わたしたちは、その【死角】に、ダークな真実を巧妙に隠し込むことだってできるのだ。
【幻想】の世界に溺れず、
地に足を着けて生きていくことを、
決して忘れないようにしたい。
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