あさひのブログ -112ページ目
「大秦帝国(第一部/黒色裂変)」第九集、23分あたりから。
魏の都・安邑に密偵として潜り込んでいる景監将軍と熒玉(ケイギョク)公主は衛鞅(エイ・オウ)の人柄を探るべく、多くの商人や思想家が出入りする囲碁サロンの洞香春へ。二人で碁を打ち、衛オウが通りかかったところでわざと声を上げる。

* * * * *

「(お前の)負けは決まった、7-7で勝ちだ。」
「楚国(※)は明らかに優勢だったのに、なぜかわけがわからないうちに負けた!」
「楚国は大きいが、我が魯国のような地盤の堅さがない。負けはもう決まっているぞ、お前はまだ不服か?(給仕に向かって)酒を!」
 衛オウはその対局を一瞥すると鼻で笑った。
「ちょっとあなた、そこのあなたなぜ笑うんです?この対局に何か異議でも?」
「いいえ。」
「先生、お待ちください。先生にもし良いアイディアがおありなら、小弟(わたくし)に教えていただけませんか、私はもう三局続けて負けてるんです。」
「…楚国は一目で敗局を挽回できる。下9-5に打て。」

※囲碁の国盗り対戦をしている。諸国になぞらえた強弱のハンディキャップをつけて戦うゲームと思われる。黒林は楚国を、猗垣は魯国を選んで対戦している。


「…すごい、すごいぞ!楚国は飲み込まれ危うかったのが、かえって負けが勝ちになったよ!先生のご教授に大変感謝致します。」
「魯国は機敏さは余るほどだが、大事な所が足りない(要所を押さえていない)。」
「先生の判定は、(自信ありげに)大きく出ているが当たっていないのでは。そのように言うからには、在下(わたくし)は先生と一局願いたい。」
「いいですね。お二方は名手ですから、ちょうど大盤滅国棋でどうですか?」
「一局お付き合いしても構わない。」
「では。どうぞ。」

* * * * * *

景監(猗垣)と衛オウは、洞香春のメインステージで国盗り対局戦「大盤滅国棋」で勝負することに。国を選ぶくじで景監は魏国を引いた。一方衛オウは秦国を引いた。強国魏と弱小国秦の対決なら当然魏国が勝つだろうと観客は皆魏国を応援する。



「お二方お席にお座りください。用意始め!」
「貴公の弱い秦を、在下(わたくし)と交換してもよいぞ?」
「弱い秦を、我が手の上で強い秦に変えることができることをどうして知っていようか。(我が手にかかれば強い秦に変わるのだ。)」
「先生、国ごとの強弱は棋運(碁の道筋)を決めます(左右します)、お考え直しを。私はもう三局も彼に負かされたんですよ。」
「勢力の強い弱いは、昔から定まっているものではない。小兄弟(きみ)はこの碁がどう進んでいくか見ていなさい。」
 そう言って衛オウは第一手を碁盤の中央、天元に指す。
「秦国(衛オウ)の第一手、天元。」
 サロン中がざわめく。囲碁で最初に天元に指すのは無意味、無策とされているからだ。
「あなたがもう一度やってもいいですよ(やり直してもかまいませんよ)。(弱い)秦国で(勝てないとみて)おふざけにならないでいただきたい。」
「中枢という場所は四極(四方)に影響を及ぼし、八荒(八方向)を雄々と見渡せる。どうしてふざけていると言うのだ。」
「私がこの地を占めれば、あなたの勢力は跡形もなくなりましょう(※)。」
 景監は隅から着実に攻めて行く。衛オウの陣地は中央で取り囲まれ劣勢に見える。
「あなたは高い所でお空を歩いておいでのようだが、実際は基盤となる土地もありませんよ(広い領地を占めてる気分でいるようだが実際はあなたの領地などありませんよ)。」
「高い所にいるのに、どうして基盤となる土地がないというのだ。あなたの魏国がどうなるかよく見てなさい。」

※囲碁の勢力が無くなる=負けるという意味と、あなたのその自信、面子もなくなるという意味を込めている。

* * * * * *

景監が衛オウを追い詰めていると見えたがその後のわずか数手で衛オウが逆転勝利する。サロン中が唖然として息をのみ、そして拍手喝采が巻き起こる。


「あなたの碁道は高遠(※)でいらっしゃる、在下(わたくし)は心から敬服いたします。」
「魏国はもうすでに滅亡している(運命なのだ)…。」
「洞香春の慣例として、滅国戦の勝者が自ら碁道を解説します。先生、どうぞ。」
「この世のすべての物は、皆輪になって互いに囲われ存在している。庶民は役人に囲われ、役人は主君に囲われ、主君は国に囲われ、国は天下(世界)に囲われ、天下は宇宙に囲われ、宇宙は創造する神力に囲われ、そして最後には、創造力もまた生きとし生けるものに囲われている。このため碁道は天道(政治・社会)であり人道(人生)である。そのため碁をもって囲む(囲碁)と命名されており、まさに天地万物の法則に合致するのだ。」
「いいぞ、素晴らしい!」
「秦国がどうやって魏国を倒したのか、先生に解き明かしていただきたい。」
「碁道は、囲うことによって落ち着く場所(陣地)を得るが、必ず根本に勢力を持って(陣地を)取らねばならぬ。勢力が高ければ広く囲い、勢力がなければ小さく囲う。さきほどの碁では、もし秦国が到る所で魏国と陣地を争いもつれておれば、秦国は早くに持ちこたえることもできなくなっただろう。(だが)もし遠く先を見通す勢力で陣地を囲えば、再び機に乗じて魏国(の力)を削ぎ弱めることで、秦国は自ずと勝つのだ。」

※考えなどが広く深く、計り知ることのできないこと。

* * * * *

いかにも諸子百家の逸話にありそうな、特に好きなシーンです。


→インデックス


大秦帝国 DVD-BOX/ホウ・ヨン,ワン・ジーフェイ,カオ・ユエンユエン

¥14,700
Amazon.co.jp
※ダイジェスト版
「大秦帝国(第一部/黒色裂変)」第四集、36分あたりから。
驪山(リザン)の軍営に公叔座の弟子を名乗る書生・衛鞅(エイ・オウ)がやってきて、孝公に話があると言って帰らない。その頑なさと、彼が壁に書きつけた国政の心得三か条が気になった孝公は兄の嬴虔(エイ・ケン)に協力してもらい彼の話を聞くことに。衛オウは相変わらず門の前で待っていた。

* * * * *

「牛人(大喰らい)め(※)、まだいたのか。」
「秦公が来た(であろうに)、どうして(去って)行くというのだ。」
「その頭以上に聡明になろうとするな(→早とちりするな)、こちらは左庶長兼領上将軍だ。話があるならはっきり言え。」
「何がそんなに重要(な話)だと。遠まわしにではなく(さっさと)申せ。」
「もともとは秦公でなければ話さないと言ったが、虔公子と言えば秦国の柱石であり、新君主の兄だ、話しても差し支えなかろう。」
「本当のことだけを言え。」
「私が秦に参ったのは、国から派遣されたのではなく、誰かに頼まれたのでもない。ただ一つのため、丞相さまをお救いしまた師弟として生きていくため。」
「(丞相救出が)お前にかかっていると?」
「この衛オウは師を救い、秦国をも救います。」
「魏人が秦を救う?笑い話だ。」

※子岸将軍は衛オウが門前で寒さのため倒れたので保護し食事を与えてやったのだが、衛オウは図々しくも三杯もおかわりをした。


「上将軍どのの考えはどうも浅はかすぎます。在下(わたくし)ははっきり申し上げましょう。魏国の政府では、龐涓(ホウ・ケン)が秦を滅亡させることに力を注いでおり、そして公叔丞相は(秦を)服従させることを考えてます。二人の勢力は水と火のようなもの(相容れぬ)。ホウ・ケンがリ山を奇襲したのも、公叔先生を奪回し堂々と法に則って処刑するため。一挙に政敵を取り除いてから、全力で秦を滅ぼす(つもりです)。今奇襲は成功せず(※)、ホウ・ケンは自ずと兵を引きそしてその次(の策)を求める、(すなわち)秦人の手を借りて我が師を殺すことを期待するでしょう。もし秦国がまさにその通りにすれば、天(神)とは異なるもの(→秦国)がホウ・ケンにひと腕の力を貸し、さらには自らを危機的状況に陥れるのです。今、あるのは一策のみ。それが我が師を救い、また秦国を救うことができるのです。」

※衛オウが一足先にリ山へ駆けつけて子岸将軍にホウ・ケンの軍が近づいていることを教えたため。


「(話の先を)申せ。」
「この一策とはすなわち、秦国が捕虜を解放し、土地を割譲し、講和を求めること。」
「貴様…!」
「そうすれば魏国はしばらく秦に攻め込む口実が無くなります、その後にまた策を練ればよろしい。この二つ(捕虜解放と土地割譲)を全うしなければ、秦国の危機はもう目前です。」
「ふざけるな!」
「私事のために国を売り、さらに大それたことを堂々と言う、天下一の変わり者だ。」
「在下(わたくし)は魏人でもなく(※)、魏の臣下でもない。どうして売国と言えよう。」
「…(こいつを)軍営に連れて行く。」

※衛オウは衛国出身。衛オウの衛は姓ではなく衛の人という意味らしい。この時代の書生は諸国を遍歴し様々な知識人に師事し知見を深めて行った。

* * * * *

脇役だけど最初から終盤まで出てくる子岸将軍、私はこの人がこのドラマで一番のイケメンだと思うんですがいかがでしょうか。髭が悲しいほどに似合わない後半よりは見た目もキャラもイケメンな前半に注目してあげてください(*゚ー゚*)b


→インデックス


大秦帝国 DVD-BOX/ホウ・ヨン,ワン・ジーフェイ,カオ・ユエンユエン

¥14,700
Amazon.co.jp
※ダイジェスト版
「大秦帝国(第一部/黒色裂変)」第四集、20分あたりから。
献公の娘・熒玉(ケイギョク)公主は亡くなった父の仇討ちのために、捕虜として捕えている魏の丞相・公叔座がいる驪山(リザン)の軍営へ単身駆けつけた。

* * * * *

「リ山の将軍よ、(軍営の)門を開けなさい!」
「誰だ?」
「秦国公主よ。」
「末将(わたくし)公主様にご挨拶いたします。姫様いかがされた?」
「公叔めの首を取りに来たのよ、開けなさい。」
「新しい君主様みずからがいらっしゃらねば、末将は命に従う事はできません。姫様お戻りください。」
 そこへ嬴(エイ)公家の老執事・黒伯が駆け付ける。
「姫様、国君(国王)様がすぐにいらっしゃいますぞ。」
 間もなく孝公が到着する。
「妹よ、帰りなさい。」
「いやよ!あたしが父さんの仇を討ってやる。」
「お前は何をしようというのだ。」
「あたしがこの手で公叔めを殺してやる。」
「私は国君だ。私刑を見過ごすことはできぬ。」


「国君?(それでも)あんたは秦人の国君なの!?」
「妹よ、お前は私を兄とは認めずとも、国君と認めぬことはできないのだ。」
「国君が仇敵を擁護するというのなら、今日あたしはまず国君であるあんたを殺す!」
 ケイギョクは剣を抜くが孝公は避けようとはせず剣は肩に刺さる。黒伯が剣を弾き孝公の前に立つ。
「老夫(わたくし)は君主をお守りする、逢亲不避(※)、姫様お許しを。」
「黒伯、下がれ!…妹よ、帰るのだ。」
「あ、あなたはどうして公叔の奴を殺させ(てくれ)ないの?」
「私怨でみだりに殺せば、国は乱れまとまらぬ。」
「昔から君主の仇は国の恨みと同じ、どうして私怨などと言うの!?」
「国家の存亡(がかかっている事)を無視し、ただ己ひとり(一個人)の恨みを晴らすのは、まさに私怨だ!」
「先代の君主の位を得ておいて、先代の君主の仇を忘れるだなんて、もはや天地(全世界)が認めないわ!」
「公人たるもの私念を抱いてはならぬ。もし父上がいらっしゃったならやはりこうするだろう。」

※「私が直接あなたと対峙することを避けられない」か?亲(親)が「おや」「みずから」どちらの意味なのかが解らない。


 そこへ孝公の兄・嬴虔(エイ・ケン)が兵を率いて駆けつける。公叔座の処刑を望む大臣らも揃ってやってきた。
「子岸、(軍営の)門を開けろ!」
「兄さん!」
「左庶長、公叔座を殺してはなりません。」
「"左庶長"?私はお前の兄だろう!」
「国家に関わる事においては、兄ではありません、君主と臣下です。」
「偉大な秦人は仇敵への憎しみを共有している、敢えて仇を守ろうとする国君など見たことがない。」
「父の仇を討つのは私的な事、公的な(国家としての)報復はできません。」
「父の仇を討つのは天(世界)のため、報復せずにおれようか!(※)
「左庶長、本公(わたし)はお前に命ずる。即刻兵を引き櫟陽(ヤクヨウ)へ戻れ!」
「私を(君命という)くさびで打ち付け動けなくするか。いいだろう、私はこんなくそ庶長など不当だったのだ、私は(君命に反してでも)報復するぞ!」
「左庶長がどうしても公叔座を(殺す)というのなら、我が身を踏みつけてから行け!」
「皆の者!」

※直前の孝公の台詞を受けて、「そうじゃない、こうだろう」と弟の"間違い"を訂正しているニュアンスがある。


 黒伯は孝公を守るため間に立つ。
「下がれ!」
「太后様のご到着!」
 太后が景監将軍に支えられながらやって来た。
「母上、奴を見てください、奴は…」
 太后は虔の言葉を制止する。
「母上…。」
「渠梁(キョリョウ)、お前に考えがあるのなら、皆によくお話しなさい。」
「君主様のご教授お聞かせ下さいませ!」
「どうかご教授下さいませ。」
「老臣(わたくし)に国君様が仇人を殺さぬ理由をお示し下さい。」
「臣等(わたくしども)にお示し下さい。」


「…母上、兄上、我が妹、大臣将士諸君。このキョリョウは若い頃から軍に入り父や老兄弟(皆さん)と肩を並べ戦場で血を流し戦い、足元に何千何万もの秦人の屍を踏み越えて来た。誰が復讐を叫ぶ事が夢でないことがあろうか(→誰もが復讐を誓っている)。父上が(敵)陣に突進したのは私を救うため、父上に矢が当たったのはこの私の目前で、父上は臨終の際に優しく私の手を取って下さった。報復をと言うのなら、このエイ・キョリョウはすぐさま河東を踏み平らげて行ってかの魏国を(根こそぎ)すくい取ってやらずにはおれない。だができるのか?偉大なる秦人が何千何万人と死に、偉大なる秦国は何千何万の土地を失った。これはどんな仇だ?これは"国仇"である!これは偉大なる秦人が(一斉に)天下に出でて、(魏の)国を亡ぼし軍を一掃してやっと片を付けることのできる血の海より深い仇だ!しかし、今できるか?できぬ。なぜか?秦国は窮している、秦国は弱い。糧食はなく、精製された鉄はなく、人口はあまりに少なく、土地はあまりに小さい。(たった)一つの戦いの敗北にも耐えられようか?(耐えられまい。) つまりこういう事だ、秦国は他所へ打って出ることはできない。打って出ることはできずとも、報復(の準備)を整えるため生きるのだ。自分が死ねば子孫は途絶え、来るべき時機に仇の事を聞き継いでいる者がいない、(そんな事になったら)どうして報復できようか!?一人の捕虜を殺したところで、我ら偉大なる秦人の血の性(※)を証明できるのか!?」

※受けた恩や恨みは決して忘れないという民族性


「今日公叔座を殺せば、ただ一時の恨みを晴らせよう、だが必ず山東の六国が集って秦を攻めることになるだろう。そうなれば故国は滅び、屍が山となり、誰が報復してくれる、報復だと!?(※1) つまりは、国家を保ち、百姓を保ち、将士を保ってこそ初めて、秦国は報復し、苦境から脱し、雪辱を晴らせるのだ!」
「君上(陛下)のお考えでは、公叔めを解放されるつもりですか?」
「鹿砦(※2)を開け!もし皆が私を信じられないのなら、皆我が身を踏み越えて行ってかまわない。もし信じてくれるなら、私は言いたいことがある…」
「キョリョウ、母はあなたを信じます。」
 そう言って太后は去っていく。その後をケイギョクや大臣らが黙ってついていくのだった。景監は孝公のケイギョクに刺された傷を心配する。
「君上、風が冷たいですから、軍営に入り早く傷のお手当を。」

※1 鳥は罵倒語。「それで復讐とは本末転倒、ばかげている」の意か。日本語字幕では「誰もいない。」となっている。
※2 軍営の門に立ててある敵の侵入を防ぐための垣。さかもぎ。

* * * * *

キョリョウの長台詞に圧倒される一幕。この辺りからこの人の真の力が露わになっていく…。


→インデックス


大秦帝国 DVD-BOX/ホウ・ヨン,ワン・ジーフェイ,カオ・ユエンユエン

¥14,700
Amazon.co.jp
※ダイジェスト版
「大秦帝国(第一部/黒色裂変)」第三集、18分あたりから。
毒矢を受け自らの死期を悟った秦の献公は、次子の渠梁(キョリョウ)を呼び寄せる。

* * * * *

「キョリョウよ、父はお前に話すことがある。他に気を取られるな(→よく聞きなさい)。父の(人生の)路はもうすぐ終わるだろう。わしはお前を太子に立てる事を決めた。すぐに国君の位(※)を継げ。」
「父上!」
「言うな、終わりまで聞きなさい。わしはお前に三つの大切な事を言い聞かせよう。一つ、報復を急ぐな。父がこの度行けば(死んだら)、朝野から報復の声が必ず怒りの炎のごとくごうごうと上がるだろう。お前は少しでも(その声に)乱されるべきではない。お前が言っていたように、秦国はすでに打って出る力なく、(争いになれば)めちゃくちゃになるだろう。再度打って出ることは亡国の危機である。二つ、臣下を大切に扱い政治を安定させろ。秦国は四代に渡る乱政のために、その弊害が根深く残っている。わしにはもう解決する時間がなく、お前に残していくこととなってしまった。お前は(臣下を)軽く見て油断してはならない、とりわけ貴族や元老たちだ、軽率に彼らと対立するな。三つ、これは最も重要な事柄だ。すなわち兄弟が心を合わせ、憎み合ってはならない。」
「父上、キョリョウは心に刻みつけておきます。」

※秦国のトップのこと。この頃の秦はまだ王を名乗れず公(君主)を名乗るに留まっている。



 献公は一つの箱をキョリョウの前に差し出す。
「これを開けなさい。」
 中には血文字で『もし異心あらば、死して祖先に顔を合わさず』と書かれた紙と、切り落とされた指が。
「これはお前の兄の血の誓いだ。彼がもし反逆心を抱くことがあれば、お前は朝野に(これを)公にすることで人々が(彼を)罰するだろう。」
「父上、私と兄上は元より一心同体、なぜ兄上にこのような自らを苦しめるような事を。」
「キョリョウよ、(幾度となく繰り返して)よく覚えておくのだ。徳を同じくすることはたやすく、心を同じくすることは難しい。大いなる志と大切な時機を同じくすることは更に難しい(※1)。歴代の公室の内乱に、骨肉の争いでないものがあろうか。…虔は聡明な人物だ、信頼し重用せよ。血の誓いはただ万一の事を防ぐためだ。」
「父上ご安心ください、父上の教え、キョリョウはしかと心に刻みつけました。もし食言(※2)すれば死してエイ氏の太廟(墓)に入りません。」
「よし。お前は(今から)朝議の準備に行きなさい。」
「父上のお体の方が大切です。朝議は遅らせても(延期しても)いいでしょう。」
「行きなさい行きなさい。お前は勇士が寝台の上で死んだのを見たことがあるか?(勇士は戦場で死ぬものだ→自分はこのまま死んだりはしない)」
「父上…。」
「早く行け。」

※1 徳、心、節の意味はよくわからない。日本語字幕版では「心を同じにすることは難しい、国の一大事ならばなおさらだ」となっている。
※2 前に言ったことと違うことを言ったりしたりすること。約束を破ること。


* * * * *

兄を差し置いて弟を跡継ぎにすると絶対何かが起こる…と心配してしまうのだけど。その不安も含めて今後の展開をお楽しみください。


→インデックス


大秦帝国 DVD-BOX/ホウ・ヨン,ワン・ジーフェイ,カオ・ユエンユエン

¥14,700
Amazon.co.jp
※ダイジェスト版
「大秦帝国(第一部/黒色裂変)」第一集、冒頭から。

* * * * *

2700年より前のこと、中国のこの地は血気盛んな者が進入し皆が争う戦乱の世。これぞまさに中国文明が生みだした戦国時代。長い歳月にわたる、金属製の矛や武装した馬で支配した、英雄のロマン溢れる時代。(その時代が)我々に残してくれたのは古い歴史の傷跡と輝き、そしてまた大いなる夢である。
    [少梁 今の黄河龍門あたり]
我々の物語はここから始まる。

* * * * *

衛鞅(エイ・オウ)は先程まで戦が行われていた戦場の跡を視察する。そこへ魏の丞相で衛オウの師である公叔座がやってきた。

「先生、ご挨拶致します。」
「オウよ、半日(現場を)見てきて、何か想う所があるか。」
「勇ましく戦死を遂げる者が、この世からなくなっていかない(※1)。」
「そうだな。我が軍の将士は全力で命がけで戦った、老夫(わたくし)も心中忍びない。」
「いいえ、私が言っているのは秦人のことです。」
「秦人?」
「先生、私は秦軍の死体を一通り調べましたが、致命傷はみな前胸にありました。彼らはこの世で最もすぐれた鉄甲方陣に対して、激しい弓矢の雨に瞼が瞬きをしようとせずとも次々と突進し、振り返ることなく死んだのです。(弓矢の雨が降って来ると分かっていても決して逃げようとはせず突進してきた。)」
「窮した国が絶望的な状況に、懸命になったにすぎない。」
「魏軍と戦ったのは秦軍ではありません、秦国であり、秦人です。」
「衛オウ、魏国で出世したいと思うなら、話(言葉)に気を付けなさい。」
「わかりました。」
「幕府(※2)に将軍を召集している。行くぞ。」

※1 降服や逃亡せずに戦い戦死する者が後を絶たない。日本語字幕は「勇士たちを失い、実に残念です」となっている。
※2 戦場における指揮官の天幕。本営。



    [魏軍幕府にて]
 公叔座は将を集め今後の策を協議する。
「今日の初戦では、我が軍は魏武卒方陣(※)で出動したが、死者200万人、重傷者は1万余り、軽傷者となると数え切れぬ。このような戦況では我が軍が勝利するのは難しい。どのような戦法をとれば勝てるか、皆で協議してくれ。」
「報告します。援軍の主将、卬(ゴウ)公子が到着されました。」
 魏王の弟のゴウ公子がやってくる。
「皆の者、援軍がこの度やって来たのは、我が王が丞相の敗戦の報せを聞いたからではない。本公子(わたし)が10日前に王に(頼んで)許可を頂き特別に6万の精鋭を率いて夜通しで支援にやってきたのだ。」
「我が軍がどうして負けたなどと、公子よご説明いただきたい。」
「初戦に勝てぬは負け、秦国が滅びぬは負け(も同然だ)。皆の者よく聞くがいい、初戦の如何に関わらず、秦国が滅んでおらぬゆえに王は援軍を出すのだ(秦国が亡びさえすれば王は援軍を出す必要はないのだ)。原因(理由)はただ一つ、少梁で勝利した後は一気呵成に関中へ攻め下り、秦人を隴西の荒れ山へ追い返すのだ。この話は(→つまり)、大いなる魏の精鋭兵に敗軍の師はおらず、魏王の麾下に敗軍の将はおらぬということ(→負けるような軍師や将軍は不要だ)。この戦局はただ一つ、すなわち魏が勝利し秦国が滅亡するのみだ。このような雄心がないというのなら、早いこと鎧兜を脱ぐのだな。」

※魏の名将・呉起が考案したという陣形。魏の得意とする戦法。


「公子は勇ましい心をお持ちですな、ではこの戦はどのような手を打てばよろしいかお聞きいたしましょう。」
「もし統率権があれば、わたしには勝算がある。」
「公子がもし敵を滅して功を立てられる(策を持っている)のなら、(兵に)号令をかけることに何の妨げがあろうか(→公子に軍令を出していただこう)。中軍司馬、兵符を渡せ。」
「冗談ではない、こんな(指揮官の)交代は誰も見たことがない!」
「丞相様お考え直し下さい。」
「公子は(人が驚くほどの)勇ましい心を持ち、勝算があるというのだ。皆も安心するがいい。」
「丞相様、この兵符は玩具ではありません、お戯れを。」
「龍賈よ、お前は暗にわたしを罵っているのか?」


「在下(わたくし)にこの問題を解決する策がございます。」
「衛オウよ、言ってみなさい。」
「戦場の情勢からいえば、秦と魏の両軍の力は拮抗しております。魏軍は戦力において強く、秦国は戦う心力において強い。この戦は、勝敗(を見極めるの)は難しく、或る者が言うには秦国の勝算がより大きいとも。しかし戦ではなく国力でいえば、秦と魏の両国(の差)は極めて大きい。(国の)強弱(優劣)は一日一語では言えません。秦国は連年苦戦し国力は消耗しほぼ尽きている、軍糧は支給されず兵器は老朽している、長くは戦えまい、ただそれだけのことです。この衛オウの策はこの四文字、"秋守春戦(秋は守り春に攻める)"です。」
「つまり戦わないというのか、ばかげた話だ。」


    [秦軍天幕にて]
「秦人の復讐はまさにこの戦いにおいて行われる。」
「勇ましき我等秦人、共に国難に立ち向かおう!!(※)
「今日の初戦はほんの小手調べだ。全勝はしなかったが、奴らの二万人以上を倒した。これは力づくの横暴なふるまいをする魏の兵士どもの出鼻をおおいに挫いた。明日の決戦で魏軍に大勝するために、本公(わたし)は命ずる。公子虔を前軍大将に任ずる、精鋭を選りすぐった六万の騎兵を率い、魏武卒方陣に真っ直ぐぶつかれ。」
「はっ!」
「次公子渠梁(キョリョウ)、一万の軽騎兵と二万の歩兵を率い、全軍の糧秣配備を保持し、合わせて戦場での負傷者の救出に当たれ。子岸は飛騎(遊撃隊)大将に任ずる、三万の兵を統べ、状況に応じて逃亡する敵を追って倒せ。」
「はっ!」
「本公は自ら八万の歩騎兵の主力を率い、正面で魏軍の騎兵を取り囲んで倒す。…キョリョウはどこだ?」
「申し上げます、次公子は糧秣馬草の手配に行ってます、じきに戻って来るでしょう。」
「(将軍への)命令は変更せぬ。諸君は別の用件がなければ、明日の決戦の準備だ!」

※秦人の合言葉のようになっていて、この掛け声は何度も出てくる。jiu1 jiu1 lao3 qin2 / gong4 fu4 guo2 nan2

* * * * *

本当に最初から訳してみた。
最初の頃は公叔座と献公がキャラかぶっててどっちのハナシだっけ?になったものだ。主人公のキョリョウはまだ出てこない…いうかさりげなく出てくるので注意が必要だw


→インデックス


大秦帝国 DVD-BOX/ホウ・ヨン,ワン・ジーフェイ,カオ・ユエンユエン

¥14,700
Amazon.co.jp
※ダイジェスト版