あさひのブログ -105ページ目
「大秦帝国之縦横」第九集26分あたりから。
再び萱蘇客棧。蘇萱はちょっと離れた所に座っている。

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張儀:そんな遠くに座ったら、どうやって話すんだよ。
蘇萱:あたし耳はよく聞こえるわ。
張儀:おれはある悩みがあるんだ、それでおねえさんに相談したいと思って来たんだよ。おれが何か悪い事をしたなら許してくれよー。
蘇萱:あんたのその犬みたいにへり下る態度、よく陛下は不快に思わないわね。
張儀:何は無くともおれは相国だぞ、君はもうちょっと上品に話せないのか。
蘇萱:ああそう。相国さま、どのようなお困りごとでいらっしゃいましたの。わたくし蘇萱がもしお力になれるのでしたらご協力いたしますわ…ちょっと何するの!?
張儀:誰かに聞かれたら困る。
蘇萱:誰もいないわよ。
張儀:おれは自縄自縛に陥って、どうすればいいんだか。
蘇萱:意味わかんない。
張儀:教えてくれ、ある女性が、恋心もなく不本意にも秦国に嫁いできた。ところが夫は彼女にまったく見向きもしない(※)。どうすればいいだろう?
蘇萱:それって!?
張儀:シーーッ!
蘇萱:…それは国事よ。あたしは力になれないわ。
張儀:助けてくれよ。
蘇萱:張儀、あなた秦国の重臣なら当然知ってるでしょ、陛下の夜伽の事に干渉するのは重罪よ。
張儀:わかってる。頼むから教えてくれないか、どうしたらいいか。
蘇萱:できることはもうないわ。この事に関わらずに、手を引くことね。
張儀:でも忍びないんだ。
蘇萱:美人だから忍びないのね。
張儀:なんで美人だって知ってるんだ。
蘇萱:美人じゃなかったら忍びないなんて思わないんでしょ。
張儀:違うよ、そういうことじゃない、約束したのに彼女を傷つけることになる。
蘇萱:あんた私が言いふらすかもって思わないの?
張儀:思わんよ。おれが秦に来て最初に見たのはこの憂いを忘れさせてくれる萱蘇客棧、
最初に会ったのは親身になってくれる蘇萱ちゃんだ。
蘇萱:あらまぁ、この広いシェンヤン城で、一時でも国を任されてる相国さまともあろう人が、まだ親身になって話せる人が一人もいないとはね。
張儀:それで君になら話せると思ったんだよ。
蘇萱:へぇぇ!この親身にどうこういう話をあたし言いふらして、道行く人みんなに相国さまが軽薄な人だって知らしめてやろうかしら。
張儀:言いたきゃ言えよ。おれはどうせ利になびく野郎だ、おまけに軽薄だと言われた所で何とも思わん。
蘇萱:天佑、お客さんのお帰りだよ!

※張儀は楚国の美女ミー氏を秦王の側室として輿入れさせたのだが、秦王は彼女に会いもしないので困っている。

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「大秦帝国之縦横」第九集22分あたりから。
功を建て相国(宰相)となった張儀は護衛兵を引き連れて萱蘇客棧へやってきた。驚いて出迎えた蘇萱らの前で張儀は護衛を下がらせる。

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蘇萱:わたくし相国さまにご挨拶申し上げます。
張儀:安っぽい挨拶だな、やり直せ。(※ここの台詞はよくわからないがとにかく偉そうな言い回しのようだ)
蘇萱:ハァ!?
天佑:おかみさん、だめだって。
蘇萱:あっちいってなさい!
天佑:この人今は相国なんだから。
蘇萱:関係ないわ。張儀、よくお聞き。あんたは陛下に仕える相国でも、あたしにとっては偉くもなんともないわ。相国府はあんたの言いなりかもしれないけど、この萱蘇客棧はあたしの縄張り、あたしの思い通りよ。
張儀:おれはまだ何も言ってないじゃないか。
蘇萱:一旦成り上がったら話の筋も通さない。あんたが言わなくても何しに来たかわかってるわ。
張儀:じゃあ何だと思ってるんだ。
蘇萱:出世したから、ウチで屈辱的な扱いを受けたって仕返しに来たんでしょ。
張儀:そういうことか、おねえさんがそんな噛みつくのなら、おれは偉そうにするのはやめよう。
蘇萱:口で言っても本心はどうかしら。まああたしはちゃんと準備してたのよ、待ってなさい!
(蘇萱は店の奥へ。)
張儀:彼女は何するつもりだ?
(天佑は苦笑いを浮かべるのみ。蘇萱は一巻の竹簡を持って戻って来た。)
蘇萱:相国さま、これが何か見てくださいな。
張儀:ああ、私が酔って心のままに書き綴った文章かな。わざわざ取っておいてくれたのかね。
蘇萱:ツケ!
張儀:ツケ?
蘇萱:これがあんたがウチにツケた分の明細よ。
張儀:陛下が立て替えてくれたんじゃなかったのか?なんでまだ残ってんだー?!
蘇萱:安心なさい、あたしはあんたからも貰おうってんじゃないわ。でもね、もし相国さんがウチで虎の威を借る狐のような真似をするってんなら、あたしはこの明細をシェンヤン城の人たちに見せて回って知らしめてやるわ。相国さまはかつて失意の底にいたけどその志は失わなかった、陛下の恩寵を受ける前には、酒で悔しさを紛らわせ、はらはらと涙をこぼしてたって。
天佑:相国さま、僕は前に乱暴働きましたが、どうか許してください。
蘇萱:立ちなさい!いくじなし!
張儀:おれが今日来たのは、おねえさんにハンカチを返そうと思って。
蘇萱:うわぁ…サイテー。
張儀:洗ってあるよ!
蘇萱:あんた新しいの買ってくるとか考えられないわけ!?
天佑:おかみさん、それだと返すんじゃなく贈ることになっちゃうよ。
蘇萱:なんでだめなのよ。
天佑:贈ることはできないでしょ、だってこの人…。
蘇萱:…ああそうね。こんなお偉いさんになったら。
張儀:じゃあ新しいの買ってくるよ。
蘇萱:ハァ!?…ふん!!


(張儀はまたいつもの上房に陣取る。)
蘇萱:はいこの一壺は、今は相国なんだから、ほどほどにするのよ。
張儀:おまえはお袋みたいだなぁ。相国府でも見張られてて(※)ここでも見張られるのか。
蘇萱:いけない?
張儀:今はだめだな。いつかおれの嫁さんになった日には構わんが。
蘇萱:あんたねぇ!!
張儀:相国を殴るのか?おまえ秦の法律が怖くないのか?ん?

※張儀の母は現在相国府に滞在している。

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「大秦帝国之縦横」第七集冒頭から。
張儀は秦公に拝謁し持論を説いたが、大臣らに詭弁だと批判されたため怒って退出した。そしてまた萱蘇客棧に戻って来て飲んだくれてる。

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張儀:酒を持ってこいー。
(天佑が棒を掴んで殴りに行こうとするのを蘇萱は止める。)
蘇萱:いいわ、あたしが行く。
張儀:酒だ!
蘇萱:はいはい。
(張儀は蘇萱から酒壺をひったくる)
蘇萱:またなの。
張儀:…何がまただ?
蘇萱:何を酒で紛らわせようとしてるのって訊いたら、あんたはきっとまた忘れたとか言うんでしょ。
張儀:…忘れた…みぃんな忘れた。
蘇萱:あんた本当に心の底まで真っ白になってるかもしれないけど、今日こそは、勘定を忘れたなんて言わせないわよ。
張儀:おねえさん、そんなひっどい顔して怒らなくても。(※1)
蘇萱:!!…なんて性根の曲がった人なの。どこの誰がお金をもらわずに店を開けてるっていうのよ!!最悪な人ね!
張儀:お前が最悪だ!恨めしい!可哀想なやつめ!
蘇萱:鏡にでも向かって話せば?あたしたちは全部見てるわよ。
張儀:…おれは秦国に仕えようとはるばるやってきたのに、皆に足ひっかけられて転ばされて、そして酒を飲んでてもいい顔されない。
蘇萱:よくわかってるじゃない。
張儀:虎口奪食(※2)だ。
蘇萱:何それ。
張儀:虎狼の国(※3)のやり方だ、まさに虎口奪食じゃないか。
天佑:おかみさん、こいつの馬鹿な話はもういいよ!つまみ出してやる、もう金はいらねえよ!
張儀:人のイヌの分際で見下しやがって。
天佑:俺を怒らせるなよ、荒っぽいことはしたくないんだ。
(そして天佑と張儀は取っ組み合いの喧嘩になる)
蘇萱:やめて、やめなさい!まだ何も聞いてないでしょ、やめなさい!
天佑:恥知らずめ!!
張儀:こんな世の中とは、おれは悲しい。
蘇萱:話してみなさいよ。泣くんじゃないわよ!
張儀:こんなに悔しく腹立たしいのに泣くなって!?秦国では泣くのも法律違反か!?
蘇萱:秦では大の男が理由もなく号泣すれば役所へ連行するって定めてるわ!
張儀:秦の法律は読んだがそんな条文はなかったぞ!
蘇萱:…あたしが今作ったのよ。
(蘇萱はハンカチを差し出す。張儀はそれで涙を拭き鼻をかんで蘇萱に返そうとするが蘇萱は押し戻す。)
張儀:これおねえさんのハンカチだし。
蘇萱:持ってなさいよ。あんたよく泣きそうだし、また要るようになるんじゃない。

※1 ここはもうちょっと酷い表現か。「あんたのお顔は今泥を塗りたくったみたいにひどいぜ。」
※2 虎が咥えている獲物を奪うこと。危険と分かっていても強引に挑む様子。
※3 山東諸国が秦国を蔑んで言う表現。野蛮な国というニュアンスか。



(翌朝、張儀は荷物をもってこっそり宿を出ようとするが門には蘇萱が立っている)
蘇萱:先生、どこ行くつもりなのかしら?
張儀:ちょっと出かけて来るだけさ。
蘇萱:隠さないで!荷物持っていくわけ!?
張儀:あったかい着物を持って行くんだよ、天気が変わった時に着る…。
蘇萱:まぁ用意がいいのね。
張儀:ああ。
蘇萱:ってこっそり逃げようってんじゃないの!?
張儀:…どいてくれよ。知り合いを訪ねるのに、その門を通してくれなきゃ。このままとうせんぼされてたら、そのうち宿代が払えなくなるだろ。
蘇萱:じゃああなたは秦国を離れるつもりなのね。
張儀:秦は居づらいようだ。
蘇萱:そう。じゃあお勘定してちょうだい。
張儀:…金はない。
蘇萱:お役人に通報してくるから、あんたは自分でお役所で説明することね!
(張儀は突然剣を抜く)
蘇萱:な、なにするの!ひとごろしー!!
張儀:違う違う!この剣を担保にしたい、どうだ?
蘇萱:ウチの支払いを剣を担保にしてもらった事はないわ。
張儀:これは名剣だ。その価値は城にも匹敵する。
蘇萱:…いいわ。この剣はウチで預かっておくから、あんたはこれの買い手を見つけてきなさいよ、それから勘定してちょうだい。
(張儀は門を出て行く)
蘇萱:どこ行くつもり!?
張儀:質屋はどこにある?
蘇萱:正門を西よ。
張儀:…ケチめ。

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「大秦帝国之縦横」第六集28分あたりから。
大良造・犀首は秦公に辞意を伝える。そして戦場で偶然捕まえた策士家・張儀を推薦する。秦公は乗り気ではないがとりあえず一度会ってみることにした。その張儀は…まだ萱蘇客棧にいた。

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張儀:酒を持ってこいー。
蘇萱:楽しそうではないわね。
張儀:何も感じない、楽しいだとかそうでないとか…。
蘇萱:いったい何に悩まされてるの。
張儀:…忘れた。
蘇萱:どうして忘れたなんていうの。この店に来て三日、未だ大良造は会いに来ないわ。だからあなたはお酒で不安を紛らわせようとしてるんでしょ。
張儀:お前のこの店の名は、萱蘇、憂いを忘れるという意味だな。
蘇萱:まさかうちの店の名前の由来を知ってるなんて、さすがね。萱蘇客棧は、遠い所へやってきてもお客さんは故郷にいるような気持ちになれる所って意味よ。異郷にいることも忘れてしまうっていう。
張儀:ずっと忘れていられたらどんなにいいことか。この世の中のどんな事もみんな、やっと忘れられたと思ってもまた思い出してしまう。(※1)
蘇萱:確かにそうね。あたしがあんたが忘れてる事を一つ教えてあげるわ、思い出せないってんならね。
張儀:思い出せないって、何だ。
蘇萱:あなたねぇ、うちに来てもう三日、宿代、酒代、食事代、まだ払ってもらってないんだけど。
張儀:おれは秦に招待されたんだ、当然奴らがおれの代わりに支払うさ。
蘇萱:あんたって人は…!
張儀:店員さん!酒がなくなったぞ!
(天佑は酒壺ではなく請求書である竹簡を持ってきた)
天佑:はいおまたせ。
張儀:これはなんだ?
天佑:あなた、自分で支払った方がいいですよ。
張儀:…失礼。(※2)
(張儀は立ち上がって出て行こうとする。蘇萱が天佑に追いかけるよう命じる)
天佑:待て!
張儀:手荒な真似は止せ、お前のせいで興が覚めたというのに。
天佑:あんたが勘定をすればすぐに放してやるさ。
張儀:放せ!
(そこへ兵の一隊がやってきた)
兵士:張儀はどこだ?
天佑:こいつです!勘定をしようとしないんです。
兵士:先生宮殿へおいでください。陛下のお召しです。
張儀:…まだ放さないのか?陛下に会ったらツケは払ってやる。ほらほら、いつまで掴んでるんだ。
   では案内してくれ。
(張儀はドヤ顔で去っていく。)
天佑:おかみさん、俺悪いことはしてないよねぇ。
蘇萱:たぶんね…。

※1 「終わったと思ってもまた何かしら問題が出て来る」かもしれない。
※2 ここはもしかしたら日本語と同じ「無礼な」かもしれない。


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「大秦帝国之縦横」第六集23分あたりから。
張儀は河西戦場でスパイと間違われて捕えられ、秦国将軍・犀首によって秦都シェンヤンへ連行された。容疑は晴れたがシェンヤン城の城門前に放り出される。無一文で途方に暮れる張儀。すぐそばの宿・萱蘇客棧の女将・蘇萱と従業員の天佑がじろじろ見ている。

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天佑:お客さん、ウチに来るの?
張儀:失礼、こちらの店主で?
蘇萱:店主じゃなかったら、こいつのお母ちゃんだとでも?
張儀:そのうまい切り返し、この張儀、感服致しました。
蘇萱:チャン・イー?どこのチャン・イーよ。
張儀:魏国の名士・張儀。秦に招待されてやってきたのだ。
蘇萱:誰に招待されたって?
張儀:秦国の大良造、犀首だ。
蘇萱:…商君が死んだ後は、この秦国に大良造はいなかったと思うけど。
張儀:おねえさん知らないんだなぁ、犀首は河西の大戦で功を建てて、シェンヤン城の十里向こうまで秦の君主が自ら迎えに行って大良造に封じたんだ。
(蘇萱と天佑は顔を見合わせる。張儀はその間を通って店へ入って行く。)
張儀:上房(※1)を借りるぞ。
蘇萱:ちょっと待ちなさい、上房ですって?
張儀:おれは大良造犀首が招いた客だぞ。
蘇萱:あたしには、大良造の護衛の兵士があんたを押送(※2)してきたように見えるんだけど。
張儀:あれは護送って言うんだよ!
蘇萱:じゃあなんであんたをウチに泊まらせるのよ?!
張儀:…おかしいか?
蘇萱:当たり前でしょ。もし大良造の客人なら普通はお屋敷か領事館に招くわ。
張儀:うるさいなぁ。
天佑:あァ!?今なんて言った?
張儀:いや、おねえさんとってもキレイだなあって。
蘇萱:バカな事言って言い逃れられると思ってんの?
張儀:上房を借りるぞ。
蘇萱:ちょっと待ちなさい!

※1 一番良い部屋。
※2 犯人や捕虜を護送すること。


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