張儀は秦公に拝謁し持論を説いたが、大臣らに詭弁だと批判されたため怒って退出した。そしてまた萱蘇客棧に戻って来て飲んだくれてる。
* * * * *


張儀:酒を持ってこいー。
(天佑が棒を掴んで殴りに行こうとするのを蘇萱は止める。)
蘇萱:いいわ、あたしが行く。
張儀:酒だ!
蘇萱:はいはい。
(張儀は蘇萱から酒壺をひったくる)
蘇萱:またなの。
張儀:…何がまただ?
蘇萱:何を酒で紛らわせようとしてるのって訊いたら、あんたはきっとまた忘れたとか言うんでしょ。
張儀:…忘れた…みぃんな忘れた。
蘇萱:あんた本当に心の底まで真っ白になってるかもしれないけど、今日こそは、勘定を忘れたなんて言わせないわよ。
張儀:おねえさん、そんなひっどい顔して怒らなくても。(※1)
蘇萱:!!…なんて性根の曲がった人なの。どこの誰がお金をもらわずに店を開けてるっていうのよ!!最悪な人ね!
張儀:お前が最悪だ!恨めしい!可哀想なやつめ!
蘇萱:鏡にでも向かって話せば?あたしたちは全部見てるわよ。
張儀:…おれは秦国に仕えようとはるばるやってきたのに、皆に足ひっかけられて転ばされて、そして酒を飲んでてもいい顔されない。
蘇萱:よくわかってるじゃない。
張儀:虎口奪食(※2)だ。
蘇萱:何それ。
張儀:虎狼の国(※3)のやり方だ、まさに虎口奪食じゃないか。
天佑:おかみさん、こいつの馬鹿な話はもういいよ!つまみ出してやる、もう金はいらねえよ!
張儀:人のイヌの分際で見下しやがって。
天佑:俺を怒らせるなよ、荒っぽいことはしたくないんだ。
(そして天佑と張儀は取っ組み合いの喧嘩になる)
蘇萱:やめて、やめなさい!まだ何も聞いてないでしょ、やめなさい!
天佑:恥知らずめ!!
張儀:こんな世の中とは、おれは悲しい。
蘇萱:話してみなさいよ。泣くんじゃないわよ!
張儀:こんなに悔しく腹立たしいのに泣くなって!?秦国では泣くのも法律違反か!?
蘇萱:秦では大の男が理由もなく号泣すれば役所へ連行するって定めてるわ!
張儀:秦の法律は読んだがそんな条文はなかったぞ!
蘇萱:…あたしが今作ったのよ。
(蘇萱はハンカチを差し出す。張儀はそれで涙を拭き鼻をかんで蘇萱に返そうとするが蘇萱は押し戻す。)
張儀:これおねえさんのハンカチだし。
蘇萱:持ってなさいよ。あんたよく泣きそうだし、また要るようになるんじゃない。
※1 ここはもうちょっと酷い表現か。「あんたのお顔は今泥を塗りたくったみたいにひどいぜ。」
※2 虎が咥えている獲物を奪うこと。危険と分かっていても強引に挑む様子。
※3 山東諸国が秦国を蔑んで言う表現。野蛮な国というニュアンスか。

(翌朝、張儀は荷物をもってこっそり宿を出ようとするが門には蘇萱が立っている)
蘇萱:先生、どこ行くつもりなのかしら?
張儀:ちょっと出かけて来るだけさ。
蘇萱:隠さないで!荷物持っていくわけ!?
張儀:あったかい着物を持って行くんだよ、天気が変わった時に着る…。
蘇萱:まぁ用意がいいのね。
張儀:ああ。
蘇萱:ってこっそり逃げようってんじゃないの!?
張儀:…どいてくれよ。知り合いを訪ねるのに、その門を通してくれなきゃ。このままとうせんぼされてたら、そのうち宿代が払えなくなるだろ。
蘇萱:じゃああなたは秦国を離れるつもりなのね。
張儀:秦は居づらいようだ。
蘇萱:そう。じゃあお勘定してちょうだい。
張儀:…金はない。
蘇萱:お役人に通報してくるから、あんたは自分でお役所で説明することね!
(張儀は突然剣を抜く)
蘇萱:な、なにするの!ひとごろしー!!
張儀:違う違う!この剣を担保にしたい、どうだ?
蘇萱:ウチの支払いを剣を担保にしてもらった事はないわ。
張儀:これは名剣だ。その価値は城にも匹敵する。
蘇萱:…いいわ。この剣はウチで預かっておくから、あんたはこれの買い手を見つけてきなさいよ、それから勘定してちょうだい。
(張儀は門を出て行く)
蘇萱:どこ行くつもり!?
張儀:質屋はどこにある?
蘇萱:正門を西よ。
張儀:…ケチめ。
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