被爆後の長崎・広島住民におけるコホート研究(LSS)の成績を紹介してきました。今回は、原爆に暴露した女性において、乳がん発症に与える長期的影響因子についての調査結果です。それぞれの女性が持つ被ばく関連因子、及び、被ばく以外の環境因子が、乳がんの発症にどの程度に影響したかの度合いを、疫学的に算出したものです。

このコホート集団は、広島と長崎に居住する22,200人が対象となっています。被ばく放射線以外の、生活環境因子は、1979~1981年に、女性宛てに郵送した質問表の回答により得ました。 がん発症までの追跡調査期間は、平均8.31年でした。この期間に、コホート集団女性から、乳がんが161人、発症しました。この発症は、どのような因子と関連していたかを調べました。
結果: 初潮が早く、更年期が遅い人で、乳がん発症のリスクが高まりました。 妊娠の数は、乳がん発症率に関連しませんでした。 30才前に満期出産を経験した女性は、乳がんの発症は少ない傾向となりましたが、有意差はありませんでした。
 

肥満した女性では、乳がんの発症率が上昇しました。ホルモン補充療法を受けていた人は、そうでない人の1.64倍(95%の信頼区間1.02-2.64倍)に、乳がんが出ました。
 
糖尿病のある女性の乳がんの発症率は、糖尿病の無い女性の2.06倍(95%の信頼区間1.27-3.34倍)でした。
 
乳がんの発症に影響を与える因子(初潮、閉経、肥満、ホルモン補充など)、に、被ばく放射線因子を加えて計算してみても、乳がん発症率に影響を与えませんでした。この結果から、長崎・広島の被爆者における乳がんの発症には、被ばく量より、他の上記の因子の方が影響が強いと考えられました。

Prev Med. 1997 Jan-Feb;26(1):144-53 9010910
シリーズで情報提供させていただいている長崎・広島の被爆者における、成長後のがんによる死亡状況についてです。女児は、胎内および小児期において、男児より放射線障害による影響が大きいことがわかります。論文のサマリだけなので、詳細は不明です。
 
1950年10月から1992年5月まで、子宮内被爆者と6才未満で被爆した生存者において、思春期以後(17から46才まで)の発がんによる死亡を検討しました。
 
少なくとも被爆量が0.01Sv以上と推定された、子宮内被爆者807人と、小児期被爆者5,545人を調査集団としました。この人たちと比較するための対照集団は、0.01Sv以下の被爆者集団10,453人でした。
 
子宮内暴露集団からは、10人のガン死があり、1シーベルトごとの超過死亡の相対危険の推定値(ERR/Sv)は、2.1(0.2~6.0の90%の信頼区間、約1.2倍から7倍になる)でした。この数値は、後5歳までに被曝した人のがん死と同率でした。
 
子宮内被爆者のがん死は、白血病(2人)、女性特有の臓器(3人)と消化器(5人)でした。 女性では、全固形がんによる死亡は9人で、1シーベルトごとの超過死亡の相対危険(ERR/Sv)は、90%の信頼区間において1.6~17でした。消化器系がんでは、ERR/Svは、0.7~20の90%の信頼区間となり、女性器官のガンのERR/Svは、90%信頼区間は0.7~42となりました。
 
子宮内暴露の男児での、固形がん死はありません。女性臓器ガンを除いても、女児のがん発症が多いです。Radiat Res. 1997 Mar;147(3):385-95
Radiation Effects Research Foundationによる調査

固形がんは、被爆者の加齢と共に、増加するが、白血病では、被爆後早期の発症が多く、加齢による増加は少ないことが示されています。超過死亡とは、被ばくをしなかった人と比較した場合、被爆者で増加した死亡と算出された値です。白血病の方が、より個人差が大きく、発症に関係するようです。固形がんでも、女性に不利な値(放射線に抵抗力が低い)が出ています。小児の男児で、白血病になりやすいようです。
 
長崎・広島の原爆の被災者で、少なくとも0.005 シーベルトの線量の被爆者が60%を占めているコホート集団86,572人を、1950-1990年における、がん・白血病による死亡を追跡しました。0.005シーベルトSvの被爆者グループより、3086人、0.005 シーベルト 以上を暴露したグループからは4741のガン死が報告されました。
 
一般人におけるがん死を考慮すると、被爆者は、約420人の超過のガン死があったと見積もられました。そのうち、85人は白血病でした。 1950-1990年の超過死亡は、25%が最近5年の間(1985-1990)に起きましたが、この人たちは、小児期に被ばくした人が半分を占めました。
 
1950-1990年の超過死亡の3 %が、最近5年(1985-1990)の白血病死でした。 白血病は、被爆後すぐの15年で起こったのに対して、固形がんでは、むしろ、被爆者の加齢と関係しました。30歳で被爆した人では、生涯の固形がんの超過死亡は、1シーベルトにつき、男性0.10、女性0.14と計算されました。 50歳で暴露されると、がん死のリスクは、約3分の1に減りました。
 
10歳で暴露された場合では、30歳で被爆した人の1.0-1.8倍と推定されました。10歳、30歳で暴露された場合、白血病の1 シーベルト当たり超過危険は、男性0.015と女性0.008の推定値でした。 50歳で暴露された場合、約3分の2になると計算されました。
 
 固形がんの超過危険は、3シーベルトまで線形モデル(線量と並行して死亡が増す)となりますが、白血病は、線形モデルとはならず、0.1 シーベルトの被ばく量を受けた人は、1 シーベルトを受けた人の1/20になると推定されました。
PMID: 8677290 Radiat Res. 1996 Jul;146(1):1-27.
 
以前のブログでも、書いていますが、ここでの被ばく量のシーベルトは、現在、マスコミなどで使われている水うあ空気などの汚染の単位とは異なり、実際に人の体内に入ったとされた値です。ミリでもマイクロでもない単位です。

長崎・広島原爆被爆者において、47年間観察して死亡状況を調べた論文です。超過死亡とは、一般的な死亡と比較して、被爆者限定で観察された過剰の死亡です。この論文では、被爆者では、従来のがんの死亡に加えて、心や肺など、他臓器の疾患による死亡も、増加したと報告しています。

追跡対象は、被爆者登録された86,572人で、60%の人は、少なくとも5mSvの被ばくを受けていました。47年のフォローアップの間に、固形がん死9,335人と、ガン以外の原因による死亡31,881人でした。固形がんの19%と、非ガン死の15%は、最近7年の間の出来事でした。
 
一連の関連研究の結果をふまえ、今回データは、固形がん死440(5%)と非ガン死の250(0.8%)が被曝と関係していたと計算されました。 固形がんの超過死亡は、0~150mSv範囲は、放射線量と平行していました。 30歳で原爆に暴露された場合、固形がん死は、70歳で1シーベルトにつき47%上がると計算されます(1.47倍になる)。
 
非がん死は、30年間で、1シーベルトにつきおよそ14%上がると計算されました。統計的に有意な増加は、心臓病、脳卒中、消化器、呼吸器疾患にみられました。放射線効果が0.5シーベルト未満の場合は、非がん死亡とに、関連がありませんでした。非ガン死亡では、現在年齢、被ばく年齢、性との関係はありませんでした。
PMID: 12968934
Radiat Res. 2003 Oct;160(4):381-407.
長崎・広島で被爆した人では、他の地域のがんの発症と比べて、どの位にがん発病が増加したかを検討した、1994年のデータの紹介です。
 
Life Span Study(LSS-E85)、寿命研究と呼ばれるコホート研究です。
 
79,972人の調査集団の人のうち、1958~1987年で、8613人のがんが診断されました。 広島と長崎被爆者記録簿の登録簿より、データを処理しました。がん診断の根拠は、75%は組織学的に確かめられ、6%は直接観察、8%は臨床診断、12.6%は死亡診断書を用い、がんと確定診断されました。

がん超過発症率は、線形用量反応モデルに、性、年齢、暴露量などの影響因子を加えて評価しました。

1シーベルトごとに増加するがんの相対危険度は、0.63でした(63% 増えるという意味で、1が1.63になる)、100000人ごとでの数値に換算では、1シーベルトごと 29.7人のがんが増えました。

1シーベルトごとに増加した相対危険度は、胃がん0.32、大腸がん0.72、肺がん0.95、胸1.59、卵巣がん0.99、膀胱がん1.02、甲状腺がん1.15、肝臓 0.49、非黒色腫皮膚1.0となりました。神経組織のがんは、若年の被爆者に多く発症しました。
 
甲状腺がんは、2倍になっていました。
PMID: 8127952  Radiat Res. 1994 Feb;137(2 Suppl):S17-67.
発表されたロシアでのデータ論文をいくつか、このブログで紹介しました。今回は、紹介した内容をまとめてみました。
 
放射線障害による発がんの代表的なものが、乳頭状甲状腺がんです。これは予後の良いがんで、1986年のチェルノブイリ事故の後、このがんの発症は、小児を中心に多発しましたが、致死的になった人は、少ないとされています。
 
ブリャンスク地方は、1986年のチェルノブイリ事故の後のロシアの中で、最も高い放射能汚染地区のようです、そこでは、多くの小児の甲状腺がんの発症がありました。原発事故後、2か月以内に地域住民の甲状腺への被ばく量が測定されました。甲状腺に受けた推定放射線量は、ロシア公認の測定線量評価法2000年版を用いて算定されました。
 
汚染地域の甲状腺がんの発症を、ロシアの非汚染地区や、近隣地域に居住する人々のがん発症と比較しています。対照として、どこの地域の居住者を選ぶかにより、被爆者のがん発症相対リスクの数値は変動します。
高度汚染の地区から少し離れた地域でも、がんの発症が増えています。気象条件や個々の人々の条件により、発がんリスク度は、影響をうける数値と思われます。
 
小児では、この地域では、他の地域よりがんが多く発症し、かつ、甲状腺に被ばくした放射線量に、平行してがん発症が増加しました。しかし、成人の場合は、甲状腺へ暴露された放射線1グレイGyごとに、平行的にがんが増えるパターンは、得られなかったようです。
 
まとめると、
1) 事故時の汚染状態の高い地域(ブリャンスク地方)に居住する成人では、甲状腺がんのリスクが、男性1.5倍、女性2倍になる。成人の場合は、必ずしも、周りの地域と比べて、突出してがんの発症が高いわけではない。
2) 小児では、ブリャンスク地方では、がんの発症が、5-20倍位に増える。
3) 95%信頼区間に含まれる範囲の数値幅が大きい。このことは、がん発症に、個人差が大きく反映されることを示すものと思われる。

興味ある方は、実際の論文にアクセスしてみましょう。

実際の論文
1)小児がんの場合
Radiat Environ Biophys. 2006 May;45(1):9-16.
1986年のチェルノブイリ事故時、ブリャンスク地方に居住する0から17歳以下の年齢の子どもにおいて、事故後の甲状腺がん発症状況を、1991-2001年に追跡調査を行いました。居住者における被ばく状況については、ロシア内で公認されている国家的調査データに基づき、甲状腺被ばく量を評価しました。

1989年の国勢調査では、この地域の人口は、37万5000人でした。1991~2001年に、合計199人の甲状腺ガンが診断されました。 がん診断は、95%が組織学的に確かめられました。
甲状腺ガンの発症は、他の地域のがん発症と比較すると、女子6.7倍(5.1から8.6倍の95%信頼区間)、男子では14.6倍(10.3から20.2倍の95%信頼区間)でした。低年齢で被ばくするほど、がん発症は高くなりました。
 
1991-2001年の間で、0-4歳の女児では、内部の人をコントロールとすると、1 Gyあたり増加するがんの発症倍率は、45.3倍 (5.2, 9,953 95%CI;)であり、外部の人をコントロールとすると、1 Gyあたり増加するがんの発症倍率は28.8 倍((95%信頼区間4.3から 2,238 );の数値となると計算されました。
 
1991-2001年の間で、0-9歳の男児では、内部の人をコントロールとすると、1 Gy 当たり68.6倍 ((95%信頼区間10.0から4,520 )、一方外部の人をコントロールとすると、177.4倍と、計算されました。
 
1991-1996年までと1997-2001年までとの、2群間でがんの発症を比較すると、女児では減少し、男児では増加しました(女児のほうが早期に発症する)。PMID: 16544150
 
2)成人の場合
1986-1998年、ブリャンスク地域の成人における甲状腺がんの疫学データです。事故時、この地域住民では、1051人に、がんが発症しました。1989年の国勢調査では、この地域の15-69歳の居住者は、100万人とされています。
チェルノブイリ事故後、5年の潜伏期をおいて、1986 から1998年に1,051件の甲状腺癌が発症しました。(1991年から1998年までは、769人でした)。
 
組織学的にがんが確定できたのは、87%と95%でした。
 
男性においてがん発生率(SIR)は、1986-1990年では、1.27倍(95%信頼区間0.92-1.73)であり、1991-1998年では1.45倍 ((95%信頼区間1.20-1.73)でした。
女性では、1986-1990年では1.94 (95%信頼区間 1.70ー2.20) 、1991-1998 年では1.96 (95%信頼区間1.82-2.1) でした。
 
 1Gy当たり増加する相対リスクは、外部地域の人を対照に比較して算出すると、女性では、-1.3倍(95%信頼区間-2.8-0.1)、一方、男性では-0.4倍(95%信頼区間-3.5-2.7)でした。(訳者注;マイナスの数値であることは、この地域の居住する人は、1グレイあたりに増加するパターンには、ならなかったことを示します)。
 
内部地域の人を対照に比較した場合には、1Gyあたりに増加する相対リスクは、男性では 0.7倍(95%信頼区間-2.3-5.2)、一方、女性では、-0.9倍(95%信頼区間-2.4ー0.8) の数値でした。PMID: 12498517  Health Phys. 2003 Jan;84(1):46-60.
ブリャンスクは、1986年のチェルノブイリ事故の後のロシアの中で、最も高い放射能汚染地区のようです、そこでは、多くの小児の甲状腺がんの発症がありました(すでにブログで紹介済み)。このブリャンスク地域の成人における甲状腺がんの疫学データがありました。事故時、この地域に居住する人1051人に(ほとんどが組織学的に確診)、がんが発症しました。1989年の国勢調査では、この地域の15-69歳の居住者は、100万人とされています。
 
成人の場合は、小児より甲状腺がんの発症率が低く、特に周りの地域と比べて、この地域が突出して高い発症率とはならなかったようです。(たぶん、周りの地域の発症もそこそこ高かったためか?)いろいろ、放射能量だけでなく、他の気象条件があるのかもしれません。浴びた放射線量とがんの発症について、1Gy当たり、がん発症の増加の確率を算出した場合、男性のみ、放射線量との相関がみられています。
 
無料で入手できたサマリーのみの数値です。本文は入手していません。
 
この地域に住んでいた人の甲状腺線量は、ロシア公的文書に基づく測定評価法2000年版を用いて算定されました。チェルノブイリ事故後、5年の潜伏期をおいて、1986 から1998年に1,051件の甲状腺癌が発症しました。(1991年から1998年までは、769人でした)。
 
組織学的にがんが確定できたのは、87%と95%でした。男性においてがん発生率(SIR)は、1986-1990年では、1.27(95%信頼区間0.92-1.73)であり、1991-1998年では1.45 (95% CI = 1.20, 1.73)でした。
 
女性では、1986-1990年では1.94 (95% CI = 1.70, 2.20) 、1991-1998 年では1.96 (95%信頼区間1.82-2.1) でした。
 
1Gy当たり増加する相対リスクは、外部地域の人を対照に比較して算出すると、女性では、-1.3(95%信頼区間-2.8-0.1)、一方、男性では-0.4(95%信頼区間-3.5-2.7)でした。地域外の人を対照として比較すると、この地域の居住する人は、がんの発症はむしろ減少しました。
 
内部地域の人を対照に比較した場合には、1Gyあたりに増加する相対リスクは、男性では0.7(95%信頼区間-2.3-5.2)、一方、女性では、-0.9(95%信頼区間0.8--2.4) の数値でした。PMID: 12498517  Health Phys. 2003 Jan;84(1):46-60.
 
Endocr Relat Cancer. 2009 Jun;16(2):491-503.
射線障害による発がんの代表的なものが、乳頭状甲状腺がんです。発がんした人と、そうでなく健康人の遺伝子構造を比較する研究があります。がん発症と関係する既知の遺伝子塩基構造を、ひとつひとつのDNA塩基ごとに調べて、DNA塩基の並びが一般の人と異なる(スニップ、SNP と略)の有無と、発がんの関係を調べます。
ここで、ひとつ、注意しておきたいのですが、今回の遺伝子は、親からうけついだ正常細胞の遺伝子を調べています。がん細胞のみ、特殊な遺伝子変化がおきますが、今回はそうしたがん細胞の遺伝子を論じてわけではありません。
 
私たちの30億個の遺伝子塩基の並びは、一人ごと少しづつ異なるのですが、これがその人の特徴の一部と関係します。ある人は、感染症に強いが、がんには弱く、一方、別の人は、感染症に弱いが、がんにはならないなど、そうした個人差の一部は、このスニップが関係しています。
 
各種のがん関連遺伝子ごとに、微妙な変化(1塩基置換スニップ)のある一部の人は、それが無い人と比べて、がんを抑える働きが弱まったり、強まったりするのです。例えば、がんの発症が2倍になるとしたスニップがあるとします。その場合、そのスニップを持つ人はがんになりやすい人と言えます。0.5倍という数値のスニップであれば、がんになりにくい人と言えるのです。
 
親から引きついた遺伝子を調べることで、その人の体質が推定できるのですが、研究途上の医学領域なため、一般的な診療所で検査ができるところまでには至っていません。
 
症例対照研究とは、病気を持つ人と、持たない人をくらべて、その背景を比較するものです。今回、このブログでも、がんを発症した人と、発症しない人の、暴露放射線量などを比較した研究を紹介しています。今回の論文も、そうした対象比較研究の手法を用いた研究です。
 
すでに、がんの発症と関係することがわかっている遺伝子である、DNA損傷関連遺伝子(ATM、XRCC1、TP53、XRCC3、MTF1)を調べました。遺伝子を調べた人たちを、1)チェルノブイリ被爆後にがんが発症した人、2)被ばくとは関係なく乳頭状甲状腺がんが発症した人(散発例)と、3)健康人596人の人たちの3群にわけます。この3群に属する人たちの損傷関連遺伝子における1塩基多型(SNP)を比較しています。

内容はとても煩雑なのですが、要約は、放射線暴露後発症と、暴露と無関係に発症した散発例の乳頭状甲状腺がんの人たちは、その人の遺伝子の形が、がんの発症と関係していたと証明できたです、すなわち、DNAの形がかわることで、がんが増えたり、減ったりすることが結論でした。又、放射線暴露後に生じるがんと、そうでなく発症してしまったがんでは、発症に関連する遺伝子が異なることも、注目できるでしょう。
 
この長崎大学発の論文は、スニップ(1塩基の入れ替わり)がある人は、スニップの無い人とくらべ、がん発症が減るか?増えるか?を論じています。
 
合計255の乳頭状甲状腺がん患者(123人のチェルノブイリ被爆後の発症、散発例の患者132人(すべて白人)と、比較対象としてがん発症のない被爆地域居住者198人、地域外居住の398人、合計596人において候補遺伝子のスニップの有無を調べました。ロジスティック回帰によって、発症危険度オッズが計算されました。。
 
放射線被曝と無関係に、ATM G5557Aの多型のある人では、がんの発症率が減少し、オッズ比ORは 0.69倍、95%の信頼区間0.45-0.86I)となりました。XRCC1 遺伝子Arg399Glnスニップを持つ人は、乳頭状甲状腺がんの発症が0.70倍となりました(95%の信頼区間0.59-0.93)。(解説;数値が1より少ないのはがんの発症が少ない事を表す)。
 
TP53 Arg72Proのスニップは、暴露後発症がんが1.80倍に増加し(95%の信頼区間 1.06-2.36)、ATM IVS22-77スニップは、散発発症のがんが 1.84倍に増加しました(95%の信頼区間 1.10-3.24)。
ATM/TP53遺伝子のGG/TC/CG/GC遺伝子型は、暴露後がんを増やしました(2.10倍、95%の信頼区間1.17-3.78)。GG/Cc/GG/GG遺伝子型は、散発型がんを増加させました。(3.32倍、95%の信頼区間 1.57-6.99)。
 
ロシアでは、チェルノブイリ事故後、国家的な調査機関が設立されました。そうした資料に基づく成績です。甲状腺への直接被ばく量は、専門委員会で決定されたようです。この論文は、サマリだけしか、入手できないので、詳細は不明です。この時に多発した甲状腺がんは、乳頭型と呼ばれ、転移が少なく切除可能で、がんの中では良性な性質をもつものが多いようです。

今回も疫学的な数値として、95%信頼区間というのがでてきますが、あまり難しく考えずに、大体の範囲であるとみなすと良いと思います。がんの発症は子供側の条件で異なりますので、ひとつの数値で出せないことをご理解ください。暴露された放射線量は、甲状腺部分に取り込まれたと推定された単位グレイですので、現在日本で公表されている空気や水の放射線量とは異なることに、ご注意ください。

このように、がんの発症は、個人差があるのですが、それは、放射線が、遺伝子に与える影響は、人により異なるからです。がんを守るための蛋白質が良質な人の場合は、DNA損傷からの回復力が高く、逆に遺伝子異常などがあり蛋白の働きが悪い人では、がんが発症しやすいです。こうした事を、過去のブログにかきましたので、興味ある方はのぞいてくださると、うれしいです。


Radiat Environ Biophys. 2006 May;45(1):9-16.

1991-2001年の追跡調査期間、0から17歳以下の子供において、国家的調査データに基づいた甲状腺ガン発生率を示した。ブリャンスク州(チェルノブイリ事故後、最も汚染されたロシア地域)で生活していた子どもたちです。

1989年の国勢調査では、この州の人口は、37万5000人でした。ロシアの科学委員会で承認された方法論に基づいて、甲状腺への暴露放射線量が決定されました。1991~2001年に、合計199の甲状腺ガンが診断されました。 がん診断は、95%が組織学的に確かめられました。

甲状腺ガンの発症は、他の地域のがん発症と比較すると、女子6.7倍(5.1から8.6倍の95%信頼区間)と男子では14.6倍(10.3から20.2倍の95%信頼区間)でした。低年齢で被ばくするほど、がん発症は高くなりました。暴露時年齢0-4歳の女児において、1グレイGy増えるごとの発症は、45.3倍となりました(5.2、9,953の95%信頼区間)、一方、暴露時年齢が0-9歳であった男子では、1Gyにつき、68.6倍(10.0から4,520の95%信頼区間)でした。1991-1996と1997-2001、の年度別では、1997-2001年に、女子で減少、男子で増加しました。PMID: 16544150
大量放射能漏れの際、ヨウ素の不足した地域における小児甲状腺がんは、ヨウ化カリの投与により、3分の1に減らせたという論文を紹介します。日本では、ヨウ素不足の状態ではないので、どの位、減らせるかの予想できません。チェルノブイリの事故は、福島より、ずーと大規模でしたが、過去のブログを参照ください。。
 
J Natl Cancer Inst. 2005 May 18;97(10):724-32
1986年4月のチェルノブイリ原発事故の後、小児の甲状腺ガンの発病が増加しました。そこで、ベラルーシとロシアに居住する15歳より若い年齢の子どもたちにおいて、1998年までの甲状腺ガンの発症と放射線の関係を、人口ベースに調整した対照比較の方法を用いて、疫学的に計算をしました。

この間の、がん発症群は、276人で、この群と年齢などの諸条件をマッチさせたがんの無い対照集団の子ども1300人について、それぞれの背景を比較しました。同時に、この研究では、ヨウ素カリの投与の効果も評価されました。条件つきのロジスティック回帰によって分析されました。

結果:甲状腺ガンに受けた放射線量と、がんの発症率とに、相関関係がありました。甲状腺部にうけた放射線 1Gyごとに上昇する甲状腺がんのリスクは、子どもの条件により、5.5から、8.4の数値で上昇しました。1.5-2Gyまでの数値の放射線量の間において、線形用量関係(放射線量が増えると、発症率も増える平行関係)の現象が、観察されました。ヨウ素が不足している地域では、それ以外の場所より、甲状腺ガンの危険性は3倍大きくなりました。 ヨウ化カリウムを投与した群で、甲状腺ガンの発症は、0.34倍となり,(95% 信頼区間0.1―0.9), 約3分に1にがんを減らせたと計算されました。
 
発症率5.5倍の場合は、95%の信頼区間は、3.1 倍から9.5倍でした。
発症率8.4倍の場合は、95%の信頼区間は、17.3倍から4.1倍でした。
子供のいろいろな条件(年齢、性、甲状腺に蓄積した放射線量など)で、がんの発症率は変化します、よって、95%の信頼区間の意味は、幅のある値の範囲を指定をすれば、100のうち95までが正解となるという計算値です。
 
 
別の論文です。これは、甲状腺がんのみならず、他の良性の甲状腺腫瘍も増えるとするデータです。
1986年のChornobyl(チェルノブイリ)事故により、多くの人が放射性ヨウ素に暴露されました。甲状腺がんの発症は知られていますが、良性甲状腺の腫瘍についてはあまり知られていません。

18歳未満の小児において、事故後すみやかに甲状腺への暴露量を測定できた人で、その後もウクライナに住み続け、経過を追うことのでき12,504人を対象に調査しました。良性の甲状腺種は、23人いて、線量との関係を計算すると、被ばく量が1グレイGy増加するごとに、腫瘍は2.07倍に増加しました(95%の信頼区間: 0.28、10.31)。腫瘍の危険は男性より女性で大きい。Am J Epidemiol. 2008 Feb 1;167(3):305-12. PMID: 17989057