Endocr Relat Cancer. 2009 Jun;16(2):491-503.
射線障害による発がんの代表的なものが、乳頭状甲状腺がんです。発がんした人と、そうでなく健康人の遺伝子構造を比較する研究があります。がん発症と関係する既知の遺伝子塩基構造を、ひとつひとつのDNA塩基ごとに調べて、DNA塩基の並びが一般の人と異なる(スニップ、SNP と略)の有無と、発がんの関係を調べます。
射線障害による発がんの代表的なものが、乳頭状甲状腺がんです。発がんした人と、そうでなく健康人の遺伝子構造を比較する研究があります。がん発症と関係する既知の遺伝子塩基構造を、ひとつひとつのDNA塩基ごとに調べて、DNA塩基の並びが一般の人と異なる(スニップ、SNP と略)の有無と、発がんの関係を調べます。
ここで、ひとつ、注意しておきたいのですが、今回の遺伝子は、親からうけついだ正常細胞の遺伝子を調べています。がん細胞のみ、特殊な遺伝子変化がおきますが、今回はそうしたがん細胞の遺伝子を論じてわけではありません。
私たちの30億個の遺伝子塩基の並びは、一人ごと少しづつ異なるのですが、これがその人の特徴の一部と関係します。ある人は、感染症に強いが、がんには弱く、一方、別の人は、感染症に弱いが、がんにはならないなど、そうした個人差の一部は、このスニップが関係しています。
各種のがん関連遺伝子ごとに、微妙な変化(1塩基置換スニップ)のある一部の人は、それが無い人と比べて、がんを抑える働きが弱まったり、強まったりするのです。例えば、がんの発症が2倍になるとしたスニップがあるとします。その場合、そのスニップを持つ人はがんになりやすい人と言えます。0.5倍という数値のスニップであれば、がんになりにくい人と言えるのです。
親から引きついた遺伝子を調べることで、その人の体質が推定できるのですが、研究途上の医学領域なため、一般的な診療所で検査ができるところまでには至っていません。
症例対照研究とは、病気を持つ人と、持たない人をくらべて、その背景を比較するものです。今回、このブログでも、がんを発症した人と、発症しない人の、暴露放射線量などを比較した研究を紹介しています。今回の論文も、そうした対象比較研究の手法を用いた研究です。
すでに、がんの発症と関係することがわかっている遺伝子である、DNA損傷関連遺伝子(ATM、XRCC1、TP53、XRCC3、MTF1)を調べました。遺伝子を調べた人たちを、1)チェルノブイリ被爆後にがんが発症した人、2)被ばくとは関係なく乳頭状甲状腺がんが発症した人(散発例)と、3)健康人596人の人たちの3群にわけます。この3群に属する人たちの損傷関連遺伝子における1塩基多型(SNP)を比較しています。
内容はとても煩雑なのですが、要約は、放射線暴露後発症と、暴露と無関係に発症した散発例の乳頭状甲状腺がんの人たちは、その人の遺伝子の形が、がんの発症と関係していたと証明できたです、すなわち、DNAの形がかわることで、がんが増えたり、減ったりすることが結論でした。又、放射線暴露後に生じるがんと、そうでなく発症してしまったがんでは、発症に関連する遺伝子が異なることも、注目できるでしょう。
この長崎大学発の論文は、スニップ(1塩基の入れ替わり)がある人は、スニップの無い人とくらべ、がん発症が減るか?増えるか?を論じています。
合計255の乳頭状甲状腺がん患者(123人のチェルノブイリ被爆後の発症、散発例の患者132人(すべて白人)と、比較対象としてがん発症のない被爆地域居住者198人、地域外居住の398人、合計596人において候補遺伝子のスニップの有無を調べました。ロジスティック回帰によって、発症危険度オッズが計算されました。。
放射線被曝と無関係に、ATM G5557Aの多型のある人では、がんの発症率が減少し、オッズ比ORは 0.69倍、95%の信頼区間0.45-0.86I)となりました。XRCC1 遺伝子Arg399Glnスニップを持つ人は、乳頭状甲状腺がんの発症が0.70倍となりました(95%の信頼区間0.59-0.93)。(解説;数値が1より少ないのはがんの発症が少ない事を表す)。
TP53 Arg72Proのスニップは、暴露後発症がんが1.80倍に増加し(95%の信頼区間 1.06-2.36)、ATM IVS22-77スニップは、散発発症のがんが 1.84倍に増加しました(95%の信頼区間 1.10-3.24)。
ATM/TP53遺伝子のGG/TC/CG/GC遺伝子型は、暴露後がんを増やしました(2.10倍、95%の信頼区間1.17-3.78)。GG/Cc/GG/GG遺伝子型は、散発型がんを増加させました。(3.32倍、95%の信頼区間 1.57-6.99)。
ATM/TP53遺伝子のGG/TC/CG/GC遺伝子型は、暴露後がんを増やしました(2.10倍、95%の信頼区間1.17-3.78)。GG/Cc/GG/GG遺伝子型は、散発型がんを増加させました。(3.32倍、95%の信頼区間 1.57-6.99)。