ヨーロッパは、疫学研究が盛んです。
オランダには、コアラ研究とタイトルされた、親と子の病気に関連する事実を確かめるための疫学研究があります。
 
コアラ研究において、ミルクの導入と子どものアレルギー発症の関連が調べられています。
2002年から開始され、代表者は、van den Bradt先生です。
妊娠14-15週の女性に、コアラ研究に参加してくれるようお願いします。その後、女性が妊娠34週となった時に質問票などの調査に協力してもらい、さらに出産後も、子どもを継続的に、生後3,7,12,24週の時点で、子どもの健康状態を調査します。疫学的手法として、いろいろな因子で補正しながらの数値を検討していきます。
 
コアラ研究の2編の論文では、湿疹や反復性喘鳴、アレルギー感作は、母乳、ミルクの導入時期と、はっきりした関連をみいだすのは難しいとするものでした。
 
以下の訳は複雑な結果が書かれていますが、読み説くのは大変と思います。しかし、大事なことは、アレルギーを防ぐために、除去食をするとか、母乳にいつまでもこだわるということは、成果は期待できないということのようです。
 
2007年に発表されたコアラ研究では、2405人の親子ペアを1歳まで、追跡した時点で、この集団の子どもが1歳の時には、535人(22.2%)に湿疹がみられました。
 
乳児期、母乳を7カ月以上にわたり与えると、子どもが1歳の時に湿疹が減少する傾向がありましたが、有意差にはなりませんでした。
 
ミルクの開始月齢が0カ月 (母乳でなく、最初からミルクのみ) を基準にすると、ミルクを開始する時期が0-3か月だった子どものでは、1歳の時の湿疹の頻度は0.98倍、ミルク開始4-6か月では、1歳の時の湿疹は0.94倍、7カ月以上では、1歳の時の湿疹の頻度は、0.8倍となりました。
 
数値上では、ミルクの開始が遅れた子どもの群で、1歳時の湿疹が減っているようです、しかし、実は、統計学的数値としては有意ではありませんでした。つまり、ミルクの開始が遅いと、1歳児の湿疹が減るとは言えないのです。
 
有意差がでないのは、個々の子どもの条件のばらつきが大きく、95%信頼区間が幅広く数値が0.5-1.6となっているのです(1をまたぐ数値は信頼性が低い)。Pediatrics2007;119:e137
 
さらに、その翌年の2008年に、子どもが2歳になった時のコアラ研究のデータがでました。
今回は、2歳時の湿疹の有無、反復性喘鳴の有無の調査に加え、コアラ研究に登録された子どもの2歳時に、採血を行い、子どものアレルギー状態を検査して、母乳やミルク導入時期との関連を見ました。Pediatrics2008;122:e115
 
その結果は、「ミルクの導入が遅れる子では、湿疹のリスクが高く、2歳時のアレルギーが多い」とした結果でした。
 
アレルギーがすでに起きている子どもでは、ミルクの導入が遅れる可能性がありますので、ミルクの導入の遅いグループは、アレルギーが多いとの結論になりやすい可能性があります。
 
アレルギーのリスクの高い子どもを持つ親は、母乳にこだわる傾向があるからです。しかし、今回の調査では、早期からアレルギーリスクが高い子どもは除外して検討しましたが、結果には影響を与えませんでした。つまり、リスクが高い子どもでも、母乳の継続やミルクの導入時期に一定の傾向がないようで、全体としては、母乳以外の食品の導入は遅らさないことが良かったのです。
 
この研究に参加したオランダ人カップルにおけるアレルギー保有は、母親がアレルギー保有が20%、父親のアレルギー保有が20%位です。また、人工栄養のみが、全体の2割、3か月までには母乳をやてしまう母親は4割、9か月をこえて母乳を投与している母親は1割位のようです。
 
母乳を飲んでいる期間が長いグループでは、2歳までの反復性喘鳴は減少しました。
2歳の時に、子どもにアレルギーがあるかを調べる血液検査を行い、その結果を、母乳の継続期間と関連するかをみました。
 
母乳の長い群のこどもで、血液検査でのアレルギーは、数値のばらつきが大きく、有意差がでませんでした。
 
ミルクの導入は、4-9か月で導入した群で、湿疹が減り、7-9か月のミルク導入群で、反復性喘鳴が少なく、2歳時のアレルギーが減少しました。
  
具体的な数値は、2歳時にアレルギー状態がある確率は、母乳の無い子どもを1とすると、母乳継続期間0-3か月の子どもは1.33倍、母乳継続期間が月齢4-6か月では2.42倍、月齢7-9カ月2.22倍、月齢10か月以上では1.89倍となりました。
 
この数値は、一見、母乳期間が長いと、2歳児のアレルギー状態が上昇するということになります。しかし、この数値は、統計学的有意差ではなく、母乳継続期間とアレルギーが関連するとの結論にはなりませんでした。
 
この研究では、離乳食、母乳と、アレルギーとの関連は、個人差が大きく、疫学的な有意差の出る数値を出すことが難しい現実を示すもの思われます。
アレルギーを調べる検査としてのRAST(特異IgE)の測定は、信頼性の高いものです。
しかし、実際には、RAST検査の結果の解釈には難しいものがあります。IgEが陽性となっても、必ずしも病気であるとは限らず、その解釈には混乱が起きることがあります。
測定するキットの精度や感度にもばらつきがあり、結果には多面的な説明が必要です。

一般的に、実際の病気の発症より、検査の方が先に陽性となることが多いです。すなわち、検査では陽性でも、実際の病気の症状はないというものです。スギ花粉症なども、検査では陽性でも、花粉症の出ない人は多くいて、検査陽性者の約半分の人しか、発症していません。
 
症状のある人では、IgE検査値は高い傾向にありますが、病気の発症には他の要因も関係します。
IgEを作り始めても、途中で止めてしまう人が多くいます。花粉症の検査が、毎回数値のばらつく経験をお持ちの人もいるでしょう。
 
特に、乳児の卵、ミルクに対するアレルギー反応は、5歳位までには消えてしまうことが多いです。
 
人には、過剰な反応を抑える能力があります。つまり、アレルギー物質と接触することにより病気の発症は抑えられます。自然に起きてくる減感作(アレルギーが消えていくこと)は、アレルギー病の現象の一面ですが、予期が難しく、すべてに適応できません。
 
ペットアレルギーを避けるためにペットを飼いましょうは、問題があります。感作はさらに進むと考えた方が良いと思われます。すでに、ペットアレルギーが発症している人では、アレルギー発症を抑える働きの弱い人であることが、すでに証明されています。
 
早期発見早期治療は、アレルギーの場合は、必ずしもあてはまらないことがあります。
 
このような複雑な様相を示すアレルギー病ですが、その見極めには、コホート調査や疫学研究の結果を、よく見つめるということが大事でしょう。
 
胎児期の生活環境と、生まれた後の生活環境にギャップがあると、アレルギーが発症しやすいと推論されています。衛生環境が悪い国で妊娠し、先進国の清潔環境の良い環境で、子供が育つ、あるいはその逆、というような環境ギャップは、子供の免疫の調整がひずみやすいと考えられています。
 
さて、前置きが長くなりましたが、欧米で多いピーナッツ・ナッツアレルギーですが、アジアの子供のピーナッツ・ナッツ状況についての論文を紹介します。 J Allergy Immunol 2010;ChekらPubMed20624649
 
検査の対象となったのは、4-6歳と、14-16歳の生徒たちで、シンガポールで生まれ育った子供と移住してきた子供、そしてフィリピンの子供たち23425人が参加しています。
 
シンガポールで生まれ育った子供は、フィリピンのこどもと比べて、ピーナッツ・ナッツアレルギーが多いという結果にはなりませんでした。それぞれのピーナッツ・ナッツアレルギーの頻度は、ピーナッツ・ナッツの順で、シンガポールで生まれ育った子供の4-6歳0.64%と0.33%、14-16歳になっても、その頻度は増えませんでした。フィリピンの14-16歳の子供では、ピーナッツ・ナッツアレルギーの順で、0.43%と0.33%でした。
 
一方、欧米で生まれたシンガポールの子供は、アジサで生まれた子供と比べて、ピーナッツ・ナッツアレルギーが多く見られました。
ピーナッツ・ナッツアレルギーになる確率は、4-6歳では、ピーナッツ3.47倍、ナッツ10.4倍、さらに、14-16歳になるとピーナッツ5.56倍、ナッツ3.54倍の数値でした。
このブログでは、コホート研究が、時々、紹介されます。
 
専門家や権威ある人の意見ではなく、実際の病気を、注意深く年余にわたり、観察することで導き出される結果を、計算値で評価し、それを真実とする欧米的な医学です。
 
今回もそうしたコホート研究の結果から導きだされた離乳食と食物アレルギーの関係についての論文です。
 
生まれた子どもが、どの月齢で何を食べ始めたかを調査しました。遅く離乳食を始めたグループでは、子供が5歳になったとき時のアレルギーが増えているという論文の紹介です。Pediatrics 2010;125:50
 
糖尿病が多い北欧の国(フィンランド)において、子どもが生まれる前から、1型糖尿病の経過について、注意深い観察研究ガおこなわれていて、実は、今回のアレルギー研究は、そうした糖尿病のコホート調査から付随的にでてきた結果です。
 
北欧で多い小児の糖尿病は、1型と呼ばれるもので、日本に多い生活習慣病としての2型糖尿病ではなく、重症で、乳幼児期から始まる先天的な影響が大きいタイプの糖尿病です。
 
この病気は、何らかの原因で膵臓に対して自己免疫が働き、インスリンをつくる細胞を働かなくしてしまう病気です。こうした危険性を持つ新生児を、1994年に、約1000人ほど集めておいて、この子供たちの免疫状態をチェックしながら、5歳まで観察しました。
 
研究のメインは、どのような条件の離乳食の内容が、5年後に、糖尿病やアレルギーなど、もろもろの病気の発症と関連するかを検討しました。
 
この子供たちの5歳時のアレルギーの保有と関連していたのは、離乳食に以下の各種の食品を導入した時期でした。
 
フィンランドでは、ごく普通の食べ物である、ポテト、フルーツ、小麦、大麦、卵白、魚、肉の離乳食導入時期や母乳継続期間が、5歳時の吸入性、食事性アレルギーと関連しました。
 
ポテトは、生後4カ月を超えて、離乳食に与えると、食物アレルギーは2.56倍。
オート麦は、生後5カ月を超えて離乳食に与えると、食物アレルギーは1.82倍。
ライ麦は、生後7カ月を超えて離乳食に与えと、食物アレルギーは2.3倍
小麦は、生後6カ月を超えて離乳食に与えると、食物アレルギーは1.49倍。
魚は、生後8.2カ月を超えて離乳食に与えると、食物アレルギーは2.42倍。
卵は、生後10.5カ月を超えて離乳食に与えると、食物アレルギーは2.2倍。
 
ポテト、肉、魚の遅れは、特に、5歳時の吸入性アレルゲン(ダニ、ハウスダスト、花粉)の感作と関連しました。
 
フィンランドでは、日本とは離乳食の進め方は違っていると思います。乳児の離乳食において、どの月齢で、何を食べさせるのかは、国ごとにちがいます。これはあくまで、フィンランドの成績であり、対象となったのは、将来糖尿病の発症が疑われる子どもとなっています。
 
すなわち、食品などに対しても抗体反応しやすい子どもたちなのかもしれません。こうしたリスクのある子どもたちでは、健康児では見れない、はっきりした結果がでている可能性があります。
 
多くの健康な子どもには、調節能力が高く、食品に対してアレルギーの抗体をつくりにくく、アレルギーは発症しにくいと思います。つまり、健康な子どもを観察していても、病気の発症の経過がわかりにくいかもしれません。
 
人は何に反応してしまうのか?を見極めるに参考になります。
 
赤ちゃんにとっては、胃腸に入ってくる食品は、それを待ち受ける胃腸の細胞にとっては、最初のうちは、異物となります。しかし、胃腸の免疫細胞は調節能力が高く、嘔吐や下痢などの症状が起きないように調整されています。
 
この論文では、子どもの腸内に食品抗原が侵入しても、1歳未満では反応しにくい限定的な期間があり、しかも、そうした無反応期というのは、一過性であるらしいことを証明しています。
 
こうした観察結果の教訓から、乳児の除去食はできるだけ短期間とし、食物アレルギーがあっても、食物を負荷して、胃腸を慣らしていくという考え方が出てきたのだと思います。
多くの感染症が、女性は男性にくらべ軽症化することがわかっています。それは、病原体排除能が、女性で高いのです。しかし、例外はあります。
以前のこのブログ3月6日に、嚢胞性線維症の女性を紹介しました。嚢胞性線維症は女性の方が重症化しやすく、死亡年齢も低いです。
 
嚢胞性線維症の女性の呼吸器に、緑膿菌がとりつくようになると、生命予後が悪くなります。嚢胞性線維症を持つ病気の人では、呼吸器にとりつく病原菌の排除ができず、その結果、咳や痰が慢性に続き、肺炎が治らなくなり、死亡します。
 
緑膿菌は、院内感染で問題になるように、抗生剤への反応の悪く、治療が困難な病原菌として有名です。抗生剤が効かなくなる理由のひとつは、菌自らが抗生剤の攻撃をのがれ生き延びてしまう能力が高いからです。緑膿菌は、姿かたちを変化させて、抗生剤への抵抗性を増すことができます。
 
菌の抵抗性の獲得に、女性ホルモンが影響しているようです。女性ホルモンであるエストラジオール濃度は,嚢胞性線維症の女性の呼吸器感染を増悪させてしまうというエピソードを紹介します。研究対象となったのは、アイルランドの嚢胞性線維症の女性たちです。N Engl J Med 2012; 366:1978
 
女性ホルモン(エストラジオールとその代謝物であるエストリオール)が緑膿菌に及ぼす影響を、生体内(患者の体内)と、生体外(実験室)の反応を調べました。
緑膿菌がムコイド型に転換して、薬に対して抵抗性となる過程に、女性ホルモンの影響を示しました。
 
嚢胞性線維症の患者の呼吸器から、緑膿菌を採取して,実験室にて培養し、エストラジオールとエストリオールにさらさせて,菌自体の変化を観察しました。
 
エストラジオールに長時間曝露すると、緑膿菌はムコイド型に変化しました。一方、短時間では、菌はカタラーゼの活性が阻害され,過酸化水素濃度が上昇しました.女性ホルモンは、アルギン酸生合成の重要な制御因子である mucA 遺伝子を変化(フレームシフト)させ、緑膿菌株のアルギン酸産生を誘導しました.つまり、女性ホルモンは、菌の遺伝子を変化させて、菌の性質を変化させました。
 
実際の女性患者の観察でも、エストラジオール濃度により、女性は影響をうけました。女性ホルモンが高くなる卵胞期に、呼吸器症状が増悪し、排卵後のエストラジオールが低値となる黄体期に採取できた喀痰中緑膿菌の大半は,非ムコイド型に変化していました.一方、エストラジオールが高値となる卵胞期に増悪時すると,抗生剤の効きにくいムコイド型菌が増えていました。

つまり、女性の月経周期(エストラジオール濃度)に関連して,緑膿菌はムコイド型と、非ムコイド型に、その形を変化させていることが証明できました。
 
まさに、女性の体内で、菌と免疫とホルモンがダイナミックに影響し合っている様を、垣間見ることができます。
人は加齢に伴い、体の機能は変化していきます。低下していく機能が多いとはいえ、そのうちのどれを病気としてとらえ、治療の必要があるのでしょうか?

根拠があいまいな若返り物質にふりまわされることなく、過剰な医療や治療を排除したいものですが、それを選べるのも歳の功です。本当の長生きに必要なものを、選択するのは難しいものです。
 
過剰診療のターゲットになりやすい女性の病気に骨粗しょう症があります。健康祭りなどで、足や手首の骨密度を測定されて、数値が低いと言われ、不安になる人がいます。加齢をすれば、多くの女性は、骨粗鬆の傾向になります。
 
デキサ法と呼ばれるレントゲン検査をすると、加齢による変化は歴然です。骨の密度を見る骨塩量という数値を用いて評価すると、50歳になれば、20歳の人と同じ値は期待できません。数値が低いからといって、すぐ骨粗しょう症ではないし、治療の対象になるわけではありません。その程度や進行程度により、治療を開始すべきかが決まります。
 
若さが高く評価される現代、効果のでないサプリなどが氾濫しています。
病気になる前から、何かをすれば、病気にならないとする広告も氾濫しています。早期に治療を開始すれば、全て良いと過剰な期待をもたせます。広告は、効果があってもなくても、とにかく、買わせてしまえという傾向がますます進み、かえって、広告のうそっぽい部分もみえみえになってきています。

すべての女性に、加齢に伴い起きてくる骨塩量(骨密度)の低下は、そうした過剰の治療のターゲットになりやすいものです。そして、加齢に伴い、骨の密度の低下は進行するものの、治療すべき時期をどのようにみつけていくかは、女性にとって大事な作業となります。
 
実際には、骨粗しょう症と言われ、飛びつくように治療を始めても、薬剤の中断率が高いです。治療をしている人の中には、この薬を飲めば、骨折は絶対に起きないと、過剰な期待を持つ場合があります。効果の高い新薬は、それなりの副作用が伴いますが、途中で副作用を自覚して、本当に大事な時期に薬を飲まなくなる人も多いものです。
 
治療が医師の指導で行われる日本の診療スタイルでは、診療現場で、じっくり、検査や治療の開始を考える時間が少ないように思います。

それでは、どの程度に骨が薄くなれば、絶対に治療すべきレベルなのでしょうか?薬の副作用があったとしても、治療を選択したことを後悔しないですむのは、いつなのでしょうか?そうした疑問に答えるべき、米国のニューイングランドジャーナルオブメデシン(NEJM)研究を紹介します。NEJM 2012;366:225

骨粗しょう症の治療を開始するめやすは、骨折が起きる前が目標です。その時期を失することなく検査時期を選び、薬剤治療を開始します。
 
論文によると、骨粗しょう症検査は、デキサ法で行い、腰椎、大腿骨頭の骨密度をTスコアという数値で示し、マイナスの2.5(-2.5)以下で、治療が開始されます。
 
一般的に、治療効果が高いのは、ビスフォネート、ラロキシフェンなどであり、やや効果は不安定だが、ビタミンD、カルシウム剤なども使われています。
 
治療のコストパフォーマンスに厳しい米国では、過剰な検査や診療をさけるために、医療費を抑え、治療効果の高まる方法が選ばれます。

論文では、65歳以上の女性では、どの位の頻度で、骨粗しょう症のチェックを続けるべきなのか?を検討しています。軽度から中等度の骨塩量の低値はすぐ治療の対象ではなく、無治療でどの位、経過を見ていってよいのかを調べ、的確な時期に、次の骨塩量測定を行い評価します。

研究対象となったのは、1986年から1988年までに募集した65歳以上の白人女性です。この人たちにデキサ法で検査を行いながら、約17年間の追跡を行いました。
 
骨密度を示す数値である骨塩量をTスコアという数値で評価しています。Tスコアがマイナス1以上を正常とし、骨密度の程度を以下の3群にわけました。軽症低下(1.01-1.49)、中程度低下(1.5-1.99)、高度低下(2.00-2.49)です。
 
さらなる低下があれば、骨粗鬆症とします。
 
それぞれの群の経過を観察して、骨変化の進行をチェックするための時期を決めました。的確な時期に進行程度を予測できるからです。そして、Tスコアが-2.5以下となった時点が、治療すべき時となります。女性たちの体重やエストロゲン治療などを行っているかも考慮されました。
 
さて結果ですが、Tスコアが正常な女性は、次回の検査まで16.8年間、様子をみてよいと判断されました。Tスコアが軽症低下(1.01-1.49)の人では、17.3年、Tスコア中程度低下(1.5-1.99)の人では4.7年、Tスコア高度低下(2.00-2.49)の人では、1.1年と計算されました。
 
つまり、軽度な骨塩量の低下であれば、その後もかなり長く骨塩量が維持できる可能性が高いと思われます。すでに、Tスコアが、かなり低下し、骨そしょうが危ない人は、1年ごとに検査をして、治療すべきかを判断するということのようです。
人が自分自身の健康に関して、何に注意し、どのように検診をうけるかの判断は難しいものです。
 
うっかり、がん検診をうけることにより、その結果次第で、人は病気になる、あるいは病気になった気分になってしまいます。その後、検診の精査により、病気がないとなっても、その間にかかえた心配は、その後も心に何らかの心配の種を残します。
 
日本では、便の潜血反応が、大腸がんの検診のスクリーニング検査として、広まっています。便の潜血反応が、食肉などの影響をうけずに測定できるので、この検査は簡便で、かつ、精度は高いです。
 
日本における大腸がん検診において、異常値(便潜血陽性)が出る人の割合などは、データ数値として出ていると思います。しかし、日本では、検診を受けた人と、受けない人で、10年後に大腸がんで亡くなった割合に、どの位の違いが生じるか?などの、長期の疫学研究の検討は、十分でないと思います。
 
どの種類の検診を行うと、がんが減らせるのでしょうか?このような疫学研究の調査を正しく行うためは、検診に参加する人を、検診の種類ごとにわりつける必要があります。たとえば、大腸がんであれば、内視鏡群と、便潜血検査群に割り付けて、死亡率などを比較することなります。
 
正確に比較するためには、検査の種類は、本人の希望ではなく、研究者(第3者)が選ぶ必要があります。
研究に参加する人、すなわち一般住民は、研究者の選んだ検診方法を受け入れ、検査を受けます。
 
研究者は、それぞれの検診の種類ごとに、検診の成果を比較します。
検診により、死亡を減らせた、病気のイベントを減らせたとかが成果です。つまり、異なる種類の検診ごとに、検診の成果を比較することになります。
 
このような無作為割り付けをしないと、人為的な要因が混入してしまいます。たとえば、内視鏡群を希望する人は、すでに、何らかの不安をかかえていたり、がん家系の人であったりするからです。こうし人為的な背景が入ると、内視鏡群検診群にがんが多いという結果になってしまいます。
 
日本では、こうした無作為に割りつける調査はできないことが多いです。
 
さて、この無作為割り付けをしたスペインの大腸がん検診の成績が、ニューイングランドメデシンに載っていましたので紹介します。
 
興味あることに、スペインでも、日本の検査キット(栄研テスト)が使われています。この測定キットは、世界的にも評価が高いようです。
 
スペインでは、内視鏡と潜血テストを組み合わせて、10年後の大腸がんを大幅に減らすキャンペーンを行っています。
 
今回のスペインの大腸がん検診のやり方です。5万7千人の50-69歳の住民を、内視鏡群と、潜血反応検査群に、無作為に分けます。研究者が検査内容をわりつけをしてから、住民本人に話をして、検診センター受診を誘います。
 
現在、この疫学研究は2008年から走り出していて、10年後を経て大腸がんによる死亡がどの位、減らせるか?の成果を目指しています。結果は、2021年に全貌が明らかになるようです。つまり、今は、その途中の成績です。
 
現在までの成績は以下の様です。

内視鏡群に当たった約2万8千人のうち、実際に健診センターを受診したのは、7368人となり、いろいろな事情で人数が減っています。さらに、実際に検査が順調に終わったのが5059人でした。
 
一方、潜血検査群にあたった約2万8千人のうち、では、9512人が、検診センターを訪れていて、実際に検査ができた人は10611人でした。検査の陽性結果は、767人で、663人が、内視鏡検査をしました。
予想されたとおり、便潜血検査群では、検査に参加を希望しない人がすくなかったわけです。
 
大腸がんの発見率は、内視鏡群、便潜血検査群共に、0.1%で大きな違いはありませんでした。
 
しかし、内視鏡の結果、前がん状態の可能性のある進行した(増大した)腺種は、内視鏡群1.9%、便潜血検査群0.9%と、内視鏡を実施の群で多く発見されました。
 
それほど進んでいない腺種に関しては、内視鏡群4.2%、便潜血検査群0.4%とのことでした。
 
以上の結果から、発がんの微妙な変化をみつけるためには、内視鏡群がすぐれているが、便潜血検査群でも、明らかながんは、精度良く見つけられるようです。
 
 
減感作療法は、IgEが発見される前から、長期間、アレルギー治療法として経験的に試みられてきました。

普通、細菌やウイルス感染症にかからないためには、その病原体と接触するのを避けますね。うがいをしたり、手洗い、消毒をしたります。

しかし、逆に、避けないで、接触することで、体の反応が起きなくなる場合があることを、人々は経験的に知っていました。

IgEの関与する免疫反応では、こうした現象がおきやすいです。
IgEの関与する病気は、慣れることで症状が出なくなる性質を持ちます。これを、体が減感作されるといいます。
 
アレルギーの病気の治療は、減感作療法で代表されるように、体を、原因抗原に触れさせて、慣らす治療法です。体が反応しないように変化すれば、根治療法になるわけです。
 
つまり、減感作治療を目的として、アレルギーの原因物質を、繰り返し体内に入れていきます。
 
体に繰り返し入っている侵入物質に対して、動物は反応しなくなるという、生体の調節機能を利用します。
 
さて、実際には、抗原物質を、どのように、どの位を体内にいれると、治療効果が出やすいのでしょうか?反応しなくさせるための効率のよい方法論が、世界で試みられています。

体内に花粉をいれる方法論として、注射法、腸管に入れる(食べる方法)、舌の下に花粉エキスを入れる方法などがあります。花粉症の治療としての舌下療法は、花粉エキスを舌の下にいれて、体内に花粉エキス吸収させ、花粉に対する(免疫細胞の)慣れを誘導するものです。

同様に、食物アレルギーは、食べられないアレルギー食品を、少しづつ、食べて、胃腸を慣らす治療法です。

この治療が有用であることがわかっていても、治療を試みたすべての人で、同じ成果が期待できないこと、成果がないばかりか、他の免疫病を引き起こすことが考えられます。

しかし、まれに起こる合併症に躊躇せず、子どもの将来への影響が大きい食物アレルギーを治そうとする治療が進められています。

本日は、そのうちの2編の論文を紹介します。
 
A Allergy Clin Immunol Kim EHら 2011;127:640
食べて治すをコンセプトに、ピーナッツに対しても、経口減感作が進められました。この比較研究に参加した子どもたちの年齢は1-11歳、すでにピーナッツアレルギーの診断のついた18人の子どもたちです。
結論は、治療がうまくいき、ピーナッツの減感作も積極的にやれるというものです。しかし、副反応は起きています。
 
ダブルブラインドという研究方法をとる治療では、投与される人も、投与する人(医師)も、実際の舌下にいれる物質の中身を知りません。この論文では、一方の群には、ピーナッツを舌下に投与し、他方の群では、偽物質(偽薬群)を投与します。

もともと、アレルギーのある子供を集めていますので、この子どももたちは、日常的に反応しやすく、この比較試験でも、ピーナッツ群11.5%、偽薬群でも8.6%に反応がおきています。
 
ピーナッツ群でおおいのは、約1割(9.3%)におきた口腔内のかゆみでしたが、ピーナッツの入っていない偽薬群では、皮膚のトラブルでした。

いろいろな反応のおきる子どもたちに対する治療の検討には、偽薬との比較が大事です。
しかし、日本では、この方法による治療は難しいものと思われます。
 
治療は順調に進んで、論文では、ピーナッツ群では、1710mg食べられ、偽薬群では85mgまでに止まり、両群の治療成績の差が明らかでした。

子どもたちのIgEは、減感作療法開始後、4か月までは上昇し、その後は下降に転じました。
 
理論通り、ピーナッツ抗原と接することにより、IgEの産生は抑えられることが、この論文で証明されました。
 
Keet CAらJ Allergy Clin Immunol. 2012 Feb;129(2):448-55, PMID: 22130425
次は、ミルクアレルギーの子どもたちの減感作による治療法の論文です。

この論文では、6-17歳のミルクアレルギー30人を対象に、ミルクを飲ませて、ミルクアレルギーを克服させました。

この論文では、舌下療法と経口減感作療法を組み合わせています。
ミルクアレルギーの子どもを、3群に分けました。舌下療法のみ、舌下療法と経口減感作療法のコンビネーション療法、経口減感作療法のみの3方法です。

ミルクを飲ませながら、12-60週間かけて減感作の治療を行った後、ミルク蛋白8gを飲ませる試験を行い、この負荷試験に耐えられるか、つまり、減感作がうまくいったかの治療効果を調べました。

舌下療法では、10人中1人、
コンビネーション療法では、10人に6人、
経口減感作療法のみでは、10人中8人が、
 
負荷試験に合格しました(食べられるようになったという意味)

この子どもたちの、アレルギー反応の変化を見ました。

IgEや、ヒスタミン反応性については、経口減感作療法を行った子どもたちに、望ましい結果がでました。その他のアレルギー検査では、舌下療法と経口減感作療法に大きな違いはありませんでした。CD63やCD203cは減少し、特異IgG(4)は上昇しました。しかし、経口減感作療法の方が、副反応が多くでました。しかし、総じて、経口減感作療法が、舌下療法より、治療効果が高いことがわかりました。
 

2012年には、この(架空の)35歳女性患者さん宛てに、診察医は、病気の解説と治療について、メイルによるアドバイスを書いています。
 
彼女の喘息の程度は、肺機能を測定するスパイロメーターにより評価されています。
スパイロメーターの原型は、1840年につくられたそうです。その後、呼吸生理学の進歩と共に、何十年にもわたり、理論の進歩と技術改良がくりかえされ1940年を過ぎるころから、喘息の検査に使われるようになりました。
 
喘息の特徴は、1秒間に吐き出せる空気の量が低下する病気なのですが、この検査は喘息状態を良く反映し、発作の無い時に測定すると、その人の喘息の程度を評価することができます。喘息としての歴史や経過を、長期的に評価できます。今でも、喘息診断と治療に重要な検査です。
 
診察後、専門医は患者さんに、次に行う治療ステップとして、以下の治療を勧めています。

この方の重い喘息発作は、花粉症がでる時期に多いことから、花粉症の治療をすすめ、抗ヒスタミン(ロラタジン)による継続的治療を勧めています。

すでに、この方は、前医で、抗ロイコトリエン剤をつかっていますので、それをジフロ(日本未発売)という新しいタイプに変えるように勧めています。
 
気管支拡張剤の入らないベクロメサゾン(ステロイド)による吸入治療を勧めています。それまで、アドエアなどの気管支拡張剤入りのステロイド吸入薬を使用しており、ステロイドを長期に続けるとの判断から、気管支拡張剤をぬいた処方にしています。
 
そして、今後に増悪するならば、抗IgE抗体(商品名ゾレア)による治療を考慮することを勧めています。IgEの前につく2「抗」の字は、IgEの働きに対抗するとの意味です。
 この治療薬は、アレルギー反応を起こす、IgEの働きをおさえるためです。

抗IgE抗体は、日本でも使用することができる薬ですが、使用にあっては、血液検査でIgEが高いという条件が必要です。日本では、IgEが高すぎても、使用ができず、薬が投与できるめやすが、IgEが、700 IU/ML以下となっています。理論的には、IgEが高い症例に、効果が出るはずの薬です。
 
ついでですが、この論文には、時代の違いを感じさせるために、患者さんと医師の関係においても、意識的に時代の流れを入れています。
 
この35歳の架空女性の名前は、スミスさんと言いますが、敬称の呼び方は時代で変わります。2012年には、医師は、彼女をミズスミスと呼んでいますが、その前の時代にはミセススミスと呼んでいます。
 
又、前の時代では、医師から医師への返信が紹介されていましたが、2012年は、医師から直接、患者に返信の形をとっています。ここにも、患者と共にある現代の医師の姿が象徴されています。
 
さて、臨床医学とは、病気の原因がはっきりしなくても、治療法がわからなくても、目の前の患者さんの治療をしなければなりません。その時代に可能な治療のチャレンジを続けなくてはなりません。あとの時代から、否定されることもあります。しかし、医学のレベルがそこまでなのです。
 
喘息の理解と治療の違いを、この3時代の比較でよみとっていただけたでしょうか?
 
この200年の間に、喘息の知識と治療法は大きくふえたものの、まだ、この病気の全貌解明に至らず、治癒させることもできません。
 
同じ喘息症状を呈していても、実際の患者さんの気管支でおきている変化は、さまざまに違っている可能性があります。
 
喘息の遺伝子検索もなされていて、喘息発症の個人的違い、民族的な違いがみつかってきています。
 
さて、喘息と診断されると、日本では、アレルギー型か、感染型かを分けるために、IgEや RAST(ラスト)という検査をしますね。吸気中の抗原であるハウスダストやカビなどに対して、IgEをつくっていないかを、医師は調べます。
このIgEについて、少し書きます。

1966年、日本の石坂博士が研究していたレアギンというたんぱく質が、正式にアレルギーを起こさせる物質であることが認められ、IgEと命名されました((つまり、初めて発見したという意味)
 
IgEがアレルギー反応を起こすことがわかってから、しばらく、アレルギーの病気を、IgEのみで説明をつけようとする時代がありましたが、しかし、IgEは喘息に関与するのは明らかであるものの、個人差や民族差の壁が高く、IgE以外の要素が発症の実際には大きいようです。
 
個々の人で異なる病気の複雑性が、原因の解明を難しくしています。
 
2012年の症例の治療で紹介しましたように、難治性喘息の薬として、ゾレアという商品名のIgEの働きを抑える薬があります。これは、喘息の人の中で、IgEが高く、難治な喘息の人に試みられる注射薬です。
 
しかし、血液検査でのIgEが700を超える人には、日本では保険適応がありません(薬を使えない)。日本では、IgEを超える喘息の方は多くいらしゃいます。アトピー性皮膚炎との合併で、IgEが何千や何万の方もいますが、使えないのです。
 
では、IgEが低い人ではどうでしょうか?もちろん、理論的には、効果は期待できないです。しかし、アレルギー学会誌2010年に、愛知県の呼吸器専門病院にて、難治性喘息にゾレアをつかった症例が紹介されています。
 
この方は、日常的に、ステロイドの大量を要し、たいへん喘息が重症の女性でした。喘息以外にも、メンタル系の病気で、薬をのんでいます。
 
しかし、この方のIgEは、ひと桁の低値でした。すでに使われた治療薬がほとんど、もう無い状態であったことから、選択肢のひとつとして、この方にゾレアをつかってみたところ、発疹などの副作用がでたものの、とても良い治療効果が出ました。それも長期に良い治療効果がでました。
 
この方の低値のgEは、血液検査による数値ですから、この血液検査には反映されない局所の気管支において、IgEが関与していた可能性が考えられます。気管支では、マストセルなどがアレルギーに悪さをしていた可能性があるかもしれません。そんな、アレルギーによる炎症の暴走を、ゾレアが抑えた可能性があります。
 
この経験からもおわかりのように、治療の難しさは、理論的には効果の出る人に効かず、そうでない人で効く場合もあるという場合があることではないでしょうか?
 
この論文を書いたのは、ドイツミュンヘンのMutis先生と、米国のハーバードのDrazen先生という、世界的にも良く知られた呼吸器アレルギー内科の専門医です。
さて、話は、1928年になりました。

この年、35歳になった(架空の)彼女は、ヒューヒューと呼吸困難を訴え、呼吸器専門医を受診しました。彼女は、発作時以外の時は、呼吸器に異常なく、元気でした。
 
慢性心不全を示唆する浮腫やばち状指(指の先がバチ状になり、酸素不足を示唆する症状)などはありませんでした。慢性心不全であれば、いつも、元気がない、顔色がわるい、心雑音などが出やすいです。この1928年に診察した呼吸器専門医から、彼女は、春秋に悪化するアレルギー症状を持ちあわせている喘息であるとの診断をうけました。
 
やはり、この時代も、気管支喘息は、心臓の病気でないと、鑑別診断することが重要でした。そして、発作時以外では、健康体を保っていることが、喘息の診断に大事だったようです。そして、アレルギーの症状を持つことを確認していたようです。この頃までには、すでに花粉やハウスダストなどに、人は過敏症をおこすこともわかっていました。(但し、その原因物質であるgE抗体は、まだ、発見されていませんでした)。
 
当時、この35歳の女性も、皮膚テストによりアレルギー検査がなされました。そして、この女性は、花粉やハウスダストに過敏反応が証明されました。

又、すでにレントゲン検査も可能になっており、胸部レントゲン撮影により、彼女の肺は過度に膨張していましたが、肺炎像や結核感染像がないことがわかりました。
 
つまり、喘息とは、外界に存在する物質に対して、体(気管支)が反応してしまう病気であるとの認識が進みました。つまり、100年前の1882年との違いは、喘息は、心臓の病気や結核とは違い、外界物質に対し、人の気管支が反応する、アレルギーが影響する病気であると、医師たちが確信できるようになったようです。
 
ちなみに、結核菌は、1882年、明治15年に、ロベルトコッホにより発見されました。顕微鏡で結核菌を染めてみることや、人工培地で増殖させることができるようになり、肺の病気がこの菌によるものかが、わかるようになっていました。痰に結核菌がいるかどうかの情報により、医師は、結核か?それ以外の病気か?鑑別診断できるようになりました。
 
この時代では、すでに治療薬としてアドレナリンが使われており、これを注射することで、急性喘息発作の呼吸困難を改善することができました。アドレナリンの注射には、即効性がありましたが、中国より導入された飲み薬のエフェドリン(麻黄成分)も、喘息に治療効果があることがわかっていました。
 
しかし、1928年には、まだ、喘息の進行を止める有用な治療法はありませんでした。アドレナリンの注射には、即効性がありましたが、中国で発見された飲み薬のエフェドリンに、喘息の治療効果があると知るようになりました。
 
現在でも喘息の治療に使われているテオフィリンですが、すでに、この時、薬として作れるようになっており、心臓の病気に使われていたものの、まだ、喘息治療薬にはなっていなかったようです。
 
喘息の発作治療薬として、アドレナリンの吸入薬を使用できるためには、1940年過ぎまで待たねばなりませんでした。
 
さて、最後の時代設定ですが、時代は2012年になりました。今年2012年には、喘息の診断と治療はどうなっていたのでしょうか?
 
容易に予想がつくように、現代は、特別の専門医師でなくても、一般医により、喘息の診断や治療は可能な時代となりました。喘息を、心臓の病気や結核と、誤診することはなくなりました。世界共通の喘息治療薬が出回っており、専門医でなくとも、一般医により、患者さんは、治療をうけられます。それでだめなら、専門医に廻る時代となりました。
 
次回は、2012年、すなわち、現代の喘息治療の紹介です。

少し、内容を紹介します。
ストリーでは、2012年に、春秋に増悪する35歳の喘息患者さんが、専門医の診察をうけたという設定です。すでに、数年にわたり、主治医の治療をうけており、それで、改善傾向がみられないので、主治医は、呼吸器専門医を紹介しています。

専門医による診察後、この専門医は、患者さん宛てに書いた返信メイルの中で、今後の治療や方針を語っています。専門医は、この患者さんが、主治医から受けてきた喘息治療について、コメントしています。この方の過去の治療は、吸入ステロイドと抗ロイコトリエンでした。
 
さて、このストリーは、実際にはありえないのですが、同じ患者さんが、1828年、1928年、そして現代と、35歳で専門医の診療をうけたら、どう違ったのかを想像するために書かれています。
 
それでは、彼女の喘息の重症度については、この三時代で、違うのかを、考えてみてください。いかがでしょうか?

この女性の喘息重症度は、違うと考えますか?
2012年の現代の患者さんの重症度が、一番、重症であろうと考えるのが普通ですね。
 
それは、喘息治療に圧倒的な治療効果を発揮する吸入ステロイドによっても、相変わらず喘息発作がおきてしまっているからです。でも、坂道を登れない話はかいてありません。
 
一方、1828年の患者さんは、坂道を登るのが苦しくなっていますが、気管支が狭くなる変化が進んでいるのです。この方は、吸入ステロイドによる治療を早期に開始していれば、もしかすると、狭くなる変化を軽快させることができたかもしれません・・・。
 
それでは、次回、現代の喘息について、NEJMに書かれた架空ストリーの続きを紹介しますね。
ニューイングランドジャーナルオブメデシンNEJMは、最も権威ある医学雑誌とされていて、この雑誌にのった論文が医学の大事な方向づけとなることが、しばしばありました。

今回は、この中で、2012年3月の、少し変わった趣向で書かれた喘息に関する記事を紹介しましょう。
この記事は、NEJM創刊200年を記念して書かれているそうです。

最初に、この雑誌の生い立ちですが、1828年に、それまでの医学雑誌を統合して、ボストン医学外科学雑誌ができたそうです。それから、100年が経った1928年に、ニューイングランドジャーナルオブメデシンという雑誌名となりました。ですから、NEJMは200年記念なのです。
 
今から200年前、100年前、当時の医療レベルや医学の知識はどれほどだったのでしょうか?今回、ご紹介する記事は、喘息の35歳の女性患者さんを,、架空に設定し、この方の診断と治療が、この200年の間に、どのように変化したかを検証しています。
 
実際に、人は、原始の時代から、喘息に悩まされてきました。この間、動物や人がかかえる喘息と診断される病気の本態は、大きく変わってはいないはずでしょう。しかし、喘息ではなく、似たような症状の出る病気は、さまざまにありました。
そして、医学の進歩は、それぞれ異なる病気を鑑別して、それぞれの病気が起きる原因を明らかにしてきました。

では、喘息に関して、医学の進歩に帰する大きな認識の違いは何でしょうか?
 
喘息という病気を、他の病気が混じらないように診断して、喘息であれば効果のでる喘息治療をさがさないといけません。それを行うために、何が進歩したのでしょうか?つまり、喘息でないものを喘息と誤診したり、効果のない間違った治療をしないようにするために、時代と共に変わってきた喘息を診るためのポイントは何でしょうか?
 
喘息は、ヒューヒューして、息の苦しくなる病気ですが、似たような状態は、心臓の病気である心不全や、肺の血管の病気などでも出てきます。
 
肺の感染症では、感染症の影響で、肺や気管支の形が変化して、空気の流れを悪くなり、ヒューヒューして、息は苦しくなったりします。
 
結核などの肺の慢性感染症でも、人によっては、喘息類似の症状が起きます。症状としては、同じ様に見えていても、その原因となる病気は、様々にあるのです。そして、喘息と呼ばれる病気自体も、時代とともに原因因子が変化しています。
 
それでは、記事を覗いてみましょう。1828年、ボストンに移住してきた35歳の女性の喘息発作がおきています。彼女は、ヒューヒューが起きると、やかんの水を煮沸させて、その蒸気を吸い続けることで、ヒューヒュー1-2日で治まってくることが多かったようです。しかし、年に1-2回は、1週間位続くことがあり、ベットに伏した状態となっていました。

彼女のヒューヒューは、小児期よりあり、成人しても春と秋にこうした発作に悩まされていました。鼻炎や目のかゆみもありました。坂の上る時に、彼女の病気は悪くなりました。
 
彼女には4人の子どもがいましたが、妊娠中は、比較的発作は抑えられていました。4人のうち、2人の男児は、母と同じような発作がありましたが、年長児は軽快してきました。
 
1828年の医師は、彼女を診ました。脈拍は異常なく、肝臓が大きいとか、下肢がむくんでいるとかはなく、心臓のトラブルではなさそうと判断しました。
 
当時、この医師が、新しく購入した新式の聴診器は、彼女の呼吸のヒューヒューを捕らえました。1828年当時の医師は、以下のように評価しました。彼の診断名は、喘息と古草熱でした。そして治療として、彼女にdatura stramonium(ダチュラは、チョウセンアサガオ)と呼ばれる植物を燃やしてでる煙をすうことを勧めました。
 
当時、ヒューヒューして息が苦しくなる病気の原因として、多かったのは結核と心臓病でした。喘息とは異なるこの二つの病気を鑑別診断できるかが、当時の医師の腕のみせどころだったようです。当時、心臓の病気も多くありましたので、心臓の病気と、喘息を分けることが大事だったようです。また、蔓延していた結核によって気管支が狭窄してしまう病気との鑑別も大事だったようです。
 
しかし、喘息と診断されても、治療法は限られており、当時、有効な薬剤はなかったようです。そして、数少ない治療薬として、抗コリン作用を持つ、ダツュラの吸入が経験的に効果があることがわかっていたようです。もちろん、当時、抗コリンという考え方はありませんでした。鼻炎の原因も、目のかゆみの原因も、もちろん、わかりませんでした。
 
特殊な薬草に治療効果を期待する経験から、当時の人は、吸入療法に救いを求めました。そして、ヒューヒューした時は、習慣的に、やかんの蒸気を吸うという行為をしていました。
 
今では、蒸気は、気管支を縮ませるとの考えが確立しましたので、この治療法、今は、やられていませんね。
 
さて、この方が、もし、1928年になった時点で、喘息が発症していたら、当時の医師は、彼女の診断と治療を、どのように行ったでしょうか?
 
100年経過したら、どこまで、病気の診断や治療がすすんでいたのでしょうか?
次回、100年後の1928年に、喘息診断や治療は、どのように変化したかを書きます。続きをお楽しみに!