さて、話は、1928年になりました。
この年、35歳になった(架空の)彼女は、ヒューヒューと呼吸困難を訴え、呼吸器専門医を受診しました。彼女は、発作時以外の時は、呼吸器に異常なく、元気でした。
慢性心不全を示唆する浮腫やばち状指(指の先がバチ状になり、酸素不足を示唆する症状)などはありませんでした。慢性心不全であれば、いつも、元気がない、顔色がわるい、心雑音などが出やすいです。この1928年に診察した呼吸器専門医から、彼女は、春秋に悪化するアレルギー症状を持ちあわせている喘息であるとの診断をうけました。
やはり、この時代も、気管支喘息は、心臓の病気でないと、鑑別診断することが重要でした。そして、発作時以外では、健康体を保っていることが、喘息の診断に大事だったようです。そして、アレルギーの症状を持つことを確認していたようです。この頃までには、すでに花粉やハウスダストなどに、人は過敏症をおこすこともわかっていました。(但し、その原因物質であるgE抗体は、まだ、発見されていませんでした)。
当時、この35歳の女性も、皮膚テストによりアレルギー検査がなされました。そして、この女性は、花粉やハウスダストに過敏反応が証明されました。
又、すでにレントゲン検査も可能になっており、胸部レントゲン撮影により、彼女の肺は過度に膨張していましたが、肺炎像や結核感染像がないことがわかりました。
つまり、喘息とは、外界に存在する物質に対して、体(気管支)が反応してしまう病気であるとの認識が進みました。つまり、100年前の1882年との違いは、喘息は、心臓の病気や結核とは違い、外界物質に対し、人の気管支が反応する、アレルギーが影響する病気であると、医師たちが確信できるようになったようです。
ちなみに、結核菌は、1882年、明治15年に、ロベルトコッホにより発見されました。顕微鏡で結核菌を染めてみることや、人工培地で増殖させることができるようになり、肺の病気がこの菌によるものかが、わかるようになっていました。痰に結核菌がいるかどうかの情報により、医師は、結核か?それ以外の病気か?鑑別診断できるようになりました。
この時代では、すでに治療薬としてアドレナリンが使われており、これを注射することで、急性喘息発作の呼吸困難を改善することができました。アドレナリンの注射には、即効性がありましたが、中国より導入された飲み薬のエフェドリン(麻黄成分)も、喘息に治療効果があることがわかっていました。
しかし、1928年には、まだ、喘息の進行を止める有用な治療法はありませんでした。アドレナリンの注射には、即効性がありましたが、中国で発見された飲み薬のエフェドリンに、喘息の治療効果があると知るようになりました。
現在でも喘息の治療に使われているテオフィリンですが、すでに、この時、薬として作れるようになっており、心臓の病気に使われていたものの、まだ、喘息治療薬にはなっていなかったようです。
喘息の発作治療薬として、アドレナリンの吸入薬を使用できるためには、1940年過ぎまで待たねばなりませんでした。
さて、最後の時代設定ですが、時代は2012年になりました。今年2012年には、喘息の診断と治療はどうなっていたのでしょうか?
容易に予想がつくように、現代は、特別の専門医師でなくても、一般医により、喘息の診断や治療は可能な時代となりました。喘息を、心臓の病気や結核と、誤診することはなくなりました。世界共通の喘息治療薬が出回っており、専門医でなくとも、一般医により、患者さんは、治療をうけられます。それでだめなら、専門医に廻る時代となりました。
次回は、2012年、すなわち、現代の喘息治療の紹介です。
少し、内容を紹介します。
ストリーでは、2012年に、春秋に増悪する35歳の喘息患者さんが、専門医の診察をうけたという設定です。すでに、数年にわたり、主治医の治療をうけており、それで、改善傾向がみられないので、主治医は、呼吸器専門医を紹介しています。
専門医による診察後、この専門医は、患者さん宛てに書いた返信メイルの中で、今後の治療や方針を語っています。専門医は、この患者さんが、主治医から受けてきた喘息治療について、コメントしています。この方の過去の治療は、吸入ステロイドと抗ロイコトリエンでした。
さて、このストリーは、実際にはありえないのですが、同じ患者さんが、1828年、1928年、そして現代と、35歳で専門医の診療をうけたら、どう違ったのかを想像するために書かれています。
それでは、彼女の喘息の重症度については、この三時代で、違うのかを、考えてみてください。いかがでしょうか?
この女性の喘息重症度は、違うと考えますか?
2012年の現代の患者さんの重症度が、一番、重症であろうと考えるのが普通ですね。
それは、喘息治療に圧倒的な治療効果を発揮する吸入ステロイドによっても、相変わらず喘息発作がおきてしまっているからです。でも、坂道を登れない話はかいてありません。
一方、1828年の患者さんは、坂道を登るのが苦しくなっていますが、気管支が狭くなる変化が進んでいるのです。この方は、吸入ステロイドによる治療を早期に開始していれば、もしかすると、狭くなる変化を軽快させることができたかもしれません・・・。
それでは、次回、現代の喘息について、NEJMに書かれた架空ストリーの続きを紹介しますね。