Rokket Khaos
HAL FROM APOLLO '69/TOSHIBA EMI
このバンドが世界を塗り替えると、本気で思ったことはありますか?広告費とかプレス枚数、大衆音楽のマナー、そんなことまだ分からなくて、受ける衝撃が全てセンスの血肉となった吸収期。「このバンドが世界を塗り替える」とゾクゾクして過ごせた時間は最高だった。CD EXTRAをMacintoshで開き、防毒マスクが必要でドラッグ漫画で覚醒する近未来を覗き見た。「あとは知られるだけ、先に気づいた我々は選民なのだ」という自覚から、布教のつもりでMDを渡した友人は私を差し置いてライブに行き心酔していた。それが今のヨメです。愛娘の名前はHAL-Aです。ハルフロムアポロ'69からつけました。→
Valentine
ACO/AWDR/LR2
ラジオから『揺れる体温』が流れたら休憩することにしていて、2020年の今でも不意にあるブレイクタイムです。そうしている私にとってACOは休憩サインをささやく精霊。J-POP試聴機で見た、よくFMで聴く、やがて携帯プレーヤーで詞よりも耳の感触を繰り返し。それが、深く自分の一部に変わったのは、これからどうなるのか誰もが不安で答えの無かった2011年3月末の深夜、ラジオで鈴木謙介が選曲した『バラ色の世界』だった。助かった。先頭で旗を振るリーダーでなく、ずっと同じ環境に居た透明な精霊が、瞬間目に見えたような希望。年月が過ぎ、同じ環境に居た精霊もこの段階、これからの若い子たちに対する愛情を『未成年』で歌ってくれた。→
MATOUSIC
竹内アンナ/テイチクエンタテインメント
最後には、感じのいいものが勝つ。そういう時代をつくるために力を貸してほしい。ビッグデータから最適なものが導き出される。東大入試を通る程度の知能を道具として、ポケットに入れ持ち歩く世界はもうすぐ。お互いが損しないよう、得するようにAIが厳密に判断し、条件を擦り合わす折衝は無人で行われる。だからこそ我々は、人と接したときの切り札として、感じの良さを評点として尊ばなくてはいけない。竹内アンナの音楽の、この感じの良さをデータ分析せず「なんかイイね!」といい続け、人間が定める価値とすることで人間でいる。星は3でも5でもない。クールかわいいにピンを刺さない。竹内アンナは、なんとも言えずなんかイイ!のだ。→
MISS UNLIMITED
PassCode/ユニバーサルミュージック
その昔、お茶の水ディスクユニオンに通いデスメタルを漁っていた。デスボイスと重鋼鉄、人の叫びから無機質な響きまで、それは怒涛。全方位に鳴ってると思っていた。それが、細分化の果てミクスチャの先端に、パスコードが登場して分かった。女の子の声は鳴ってなかった。男女平等といいつつ閉塞的男性社会である世間に気づけなかった時代、男スタイルをなぞったフィメールボーカルのスクリーモに「不足」と言ってた過去の自分を謝罪。男形を演ずるのでなく、女の子はそのままであらゆる表現をやることが本然の魂。指先で風を切る、見得が決まった笑み、全身で大気を揺らす、音色では無いが空気の振動。ダンスさえも音圧。全て鳴っている。→
きけんなあなた
テンテンコ/THISTIME RECORDS
「なんとなくあぶない」っていう言葉は、誰かを指していたり、自分だけが察知したことをそっとつぶやく言葉だった。コビッド19以降、疑問を持ちながら混んでる電車に乗っているし、旅行へ行きましょうみたいなキャンペーンを不思議な気持ちで見てたけど、私、泣いたりするのは違うと感じてた。世界には、夜歩くだけで理由なく襲われ、それも寿命だったとしなければいけない街もあると聞きます。そんな街は with バイオレンスなのでしょうか?犯罪や政策など人間が原因の危険は別問題で、慣れてはいけない、無視できないと思います。「許さない!」と勢いで叫ぶ歌よりも、「なんとなくあぶない」という歌が街に必要な気がします。→
メウリー
Her knuckle/independent*
ハーナックル『メウリー』の「吐き出したアイス」は胃液混じりでなく、道端で笑わせあって口から出ちゃったシーンが浮かぶ。緊急事態宣言解除後の学校再開で、制服の集団が通学路に戻ってきた。始業式は9月から、という議論が消えたのは、新しく変えるより、元に戻る事が望みなのだろう。今年は無効にして来年もう一度、同学年をやってはどうかと制服の集団を見ながら妄想はするけど。では目に映らない浪人生は?結局、無理しても予定通り次へ進むのか。気持ちが塞いで、酷くイカれて誤魔化して、あしたは来るなんて馬鹿みたいだと思っても、それを話せる相手が一人でも居たら敗北じゃない。泣いて笑わせ合ってアイス吐いて欲しい。→
サマー
CY8ER/SMAR
『サマー』は、ずっと君に語りかける歌詞が過去のへの手紙のようで、もう話せる場所に居ないのにいつか会える約束に思えて切ない。バンドサウンドでなく、EDMのトラックで「レスポールで下手な歌を聴かせて」とか、構造がカッコよくサイバー空間に漂う寂しい余韻アリアリです。ハンドクラップとキックのドドンが無限ループをいざない、これはかかってたら踊るでしょう。なんなら、音頭に通じる振り付けでもリズムに合っているでしょう。2019年の夏をこんなに振り返る予定じゃなかった。2020年の夏が、新型コロナ禍でこんな事になっているなんて想像もしなかった。お台場の海の水はきれいになってオリンピックのトライアスロンをやっているはずだった。→
マンガみたいな恋人がほしい
ナナヲアカリ/SMAR
王道の逆張りは目立つためにやっている様でいて、自分でも気づかないDNA発露のサバイバル行動だ。全ての生物は、生きようとする。「消えたい」とつぶやく者でもその気持ちで臓器を止めることはできない。生物は、より生き延びる選択の為に、多くの同族が良しとするものを良いと思い込むようになっている。みんなが選んでいるものだから、聴いてみよう、観てみよう。自分で判断できない人は、そうやって生き延びる可能性を掴んでいく。ただ、自分で良し悪しを判断できるようになると、みんなには従えない。みんなの多くは、みんなが選んだことを理由にしていて、良し悪しは判断していないからだ。そんな種明かしをしてみせる私が言う『逆走少女』いい曲です。→
ノーメイク、ストーリー
杏沙子/ビクターエンタテインメント
ちょっと辛い出来事があって寂しい歌ばかりを聴いていました。でも、ショッキングな言葉は抱えたくないし、絶望を突きつけられるのは嫌。それでいて、のしかかってくるつらい気持ちのノルマを消費できる程度に自分を責めたい。そんな時に『見る目ないなぁ』を聴きました。自己を省みる「見る目ないなぁ」という言葉自体の響きがもつ諦め、慰め、情けない週末がこの歌の味覚。まみむめも、なにぬねの、は発音すると口元に甘い共感覚が発生する。ねぇねぇママあのね、なになにそうなのね。昔そこにあった、母との会話のような感触が「がんばったけれどダメだったよ」を、まずいお酒よりも懐深く包んでくれる。魔法の言葉が「見る目ないなぁ」だった。→
HANDSIGN
HANDSIGN/Universal Music
『この手で奏でるありがとう』は世界一静かな家庭と表現される手話の一家の歌。耳の聞こえない両親と、聞こえる娘の出来事。「なぜ、うちだけ周りの友だちの家と違うの?」は大小あれど子どもは通過するもの。なんでお小遣い少ないの?なんでゲーム禁止なの?友だちの家ではOKなのに。でも、わが家では日常だった、いつも家族全員揃ってごはん。映画館には行き放題。ありがとうと言ったこともない普通が、みんなの家とは違う素敵な事だったと後で知る。何かが足りなくて、何かが満たされていた。実話が元のMVの家庭の様に、平均中流家庭では「こんな家だけど夢へがんばれ!」と背中を押すでしょう。だからこの歌にシンクロした。→









