(『新・人間革命』第7巻より編集)
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〈早春〉 12
一月十六日は、パリも朝方から雪がちらついていた。
ドイツ支部のメンバーが到着したのは、雪もやんだ昼近くのことであった。
「よく来たね。遠いところ、ご苦労様!」
伸一は、皆を抱きかかえる思いで、一人ひとりと握手を交わした。
ヨーロッパ総支部・パリ支部の結成大会は、午後一時から、伸一の宿泊していたクリヨン・ホテルの一室で行われた。
西ドイツからは佐田たちのほかに、女子部の高石松子も参加した。
また、オーストリアからもメンバーが駆けつけ、スウェーデンからは大原清子が、ノルウエーからは橋本浩治とその妻の恵子が参加していた。
橋本は、伸一が二年前にセイロン(スリランカ)を訪問し、激励した青年であった。
当時、セイロンの日本大使館の調理師をしていたが、前年の九月に、大使がノルウエーのオスロに赴任することになり、彼も同行したのである。
ホテルの前は、世界一美しい広場といわれるコンコルド広場である。
・・・ 。
山本伸一は、栄光と悲惨の歴史を刻むコンコルド広場に立つ、このクリヨン・ホテルこそ、ヨーロッパの永遠の平和を築く、広布の新出発にふさわしい場所であると考えていた。
また、今回、ここに集うメンバーの多くは、経済的には、決して豊かとはいえないが、それぞれの国を思い、人びとの幸福と平和を願って、日々、広布に献身している人たちである。
その存在は、国家の首脳に匹敵する重さをもっていると伸一は確信していた。
ゆえに彼は、メンバーに敬意を表して、あえて、このホテルを会場として選んだのである。