(『新・人間革命』第7巻より編集)
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〈早春〉 13
さらに、皆が社会で力をつけ、どんな一流ホテルであろうが、自由自在に使えるような、堂々たる境涯になってほしいとの願いも込められていた。
大会には、三十五人が集った。開会を待つメンバーは、クリヨン・ホテルの荘重さに気おくれして、幾分、硬くなっていた。
やがて、伸一が会場に姿を現した。
彼は、部屋に入った瞬間に、皆が緊張していることを察知すると、少しおどけながら言った。
「ボンジュール(こんにちは)!
フランスに来たら、やはりフランス語であいさつしないと失礼ですから。
そうだ、今日はドイツの人もいたんだね。グーテンターク(こんにちは)!
儲かりまっか! これは”関西語”です。今日は、私と一緒に、大阪の人も来ているんです」
山本伸一の言葉で、参加者の緊張は、次第に解けていった。
彼は、席に着くと、笑みを浮かべながら語り始めた。
「今回は、たくさんお土産を用意したんです。ところが、ここにいる副理事長の十条さんは、自分が持って来るのが重たいものだから、アメリカで全部、配っちゃったんですよ。
私が『ヨーロッパの分はどうするんだ』って聞きましたら、『向こうで買えばいいですよ』って言うんです。
でも、フランスの人がフランスのお土産をもらっても、あまり嬉しくないでしょ。
きっと、こういうこともあると思い、私が皆さんのお土産として、メダルや袱紗(ふくさ、数珠を包む布)などを残しておきましたので、後ほど、差し上げたいと思います。
周りの幹部がこういう調子だから、私も苦労が絶えないんですよ」
笑いが広がった。
これで完全に、会場の空気は和らいだ。