くにゆきのブログ

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今、自分が感動したこと、また知っていただきたいことを、主に記していこうと思います。

     (『人間革命』第12巻より編集)

           34

         〈涼風〉 34

 

 歌は「霧の川中島」である。甲斐の武田信玄と越後の上杉謙信の、川中島での四度目の壮烈な戦いを歌ったものだ。

 

 二人の武将にとっても、この地を制することが必須の条件であった。

 

 山本伸一が、「霧の川中島」を歌い終わった。

 

 戸田城聖は、ハンカチで目をぬぐった。人びとは、戸田の姿を見て、目頭を熱くした。しかし、なぜ、戸田が涙したのか、わからなかった。

 

 ただ、厳粛な思いで固唾をのみ、戸田を見つめた。

 

 「伸、もう一度だ!」

 

 戸田は、語気鋭く言った。怒りをはらんだ声でさえあった。

 

 伸一は、一層、力強く、真剣な表情で歌いだした。

 

 伸一の歌は、深い思いに満ちあふれていた。人びとは、ようやく歌詞に耳を澄まし始めた。

 

 「まなじりさきてただ一騎」の一節に、伸一の満身の力がこもった。皆は胸を突かれた。

 

 それは広宣流布に一人立った戸田城聖の姿でもあり、夕張での伸一の戦いであった

 

 伸一が、万感の思いを託すように「無念や逃す敵の将」と歌った時、戸田の頬に、また涙が流れた。彼は、それをぬぐおうともしなかった。

 

 歌は終わった。

 

 「もう一度!」

 

 戸田は、また、伸一を促した。

 

 歌声は、夕張の同志の魂に染み渡っていった。命に切々と迫る何かがあった。

 

 歌い終わると、戸田は顔を上げて、人びとを見渡しながら言った。

 

 「これは夕張の歌です。君たちに、この歌の心がわかるか?」

 

 「霧の川中島」が、夕張の歌であると言われても、すぐには理解できかねた。皆、黙って戸田の顔を見つめた。

 

 

 

 

 『新・人間革命』は、くにまさのブログより→

 

 

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