ぼの様のリクエスト作品になります。蓮さんがかなり性格違います。スマートで紳士な蓮さんがお好きな方はご注意ください。
これまでの話
真夏の海のA・B・C…D 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
真夏の海のA・B・C…D -13-
「……おーい、キョーコちゃーん」
「…へ?あっ…はいっ!」
女性客の言葉からこの前の蓮の告白を思い出していたキョーコは、自分を呼ぶ声で我に返った。声の主を探して視線をホールに彷徨わせると、そこにはキョーコに向かって手を振る社がいた。
「あ、いらっしゃいませ」
「混んでるね。今日はやめといたほうがいいかな?」
盛況な店内を見回して、社が苦笑した。来店した客の案内を見逃していたキョーコは慌てて店内に目を配る。
「カウンターで良ければ、ご案内できますけど」
「じゃ、そこで。どうせ一人だからカウンターの方がお店にもいいでしょ」
空いていたのはカウンターの一番隅の席。
いつも蓮が座る席だ。一番奥まっていて壁に近くで狭いその席は好んで座る人は少ない。
「ご注文はお決まりですか?」
社を席に案内しながらキョーコはオーダーを取る。
常連の社はメニュー票を見るまでもなくほとんどのメニューを把握している。いつも即決で決まったメニューの中からすぐに注文を出すので普通なら失礼にあたるオーダー確認も全く問題はない。
「限定カレーまだある?」
「はい、ギリギリ」
「じゃ、それ!大盛りで」
社はニヤリと笑い、そのオーダーにキョーコは苦笑いした。
キョーコに案内されたのはカウンター隅の席。
壁際でやや狭い席なのだが、なぜかそこだけ他のカウンター席と椅子が異なる。社が不思議に思っていると、キョーコが注文の品を持ってやってきた。
「どうぞ。最後の一皿でした」
「これかぁー、蓮をノックアウトしたのは」
大盛り限定カレーをみて社はニヤニヤと笑い、キョーコもその様子につられた。
「ふふっ、でも敦賀さんにお出だししたのはこれよりもうちょっと多くて、とんかつ付きだったんです」
良かれと思ったサービスだったのだろう。目の前の大盛カレーより更に多く、とんかつが乗ったカレーを想像し社はまたしても噴き出した。
「アイツ、頑張ったんだなぁ~…」
「だって、食べるんだろうなって思ったんです」
「あのガタイ見ればそうだよね。それに関しては見栄を張ったアイツが悪い」
こんなに美味しいのに、と満面の笑みで社はカレーを頬張る。
「なんか変な感じです。いつも敦賀さんが座る席で、敦賀さんが無理して食べたメニューを社さんが食べてるなんて」
「……ほへ?」
咀嚼中の口で返事をするのは無作法と分かりつつも、キョーコの漏らした内容に社は思わず声を上げた。
「ここ、昨日蓮が座ってたの?」
「昨日というか、いつも・・・なんですけど。なぜだかあの大きな体で他のゆったりした席が空いてる時間でもこんな隅っこに座るんですよね」
窮屈なのに…と不思議そうなキョーコとは裏腹に、社は今自分の座っている席について考える。
店の一番隅で広角に店内を見渡せる。きっと店内をせわしなく動き回るキョーコを見失うことはないだろう。しかもカウンターなので、店員のキョーコがカウンター越しに接してくれれば距離も近い。
そしてここだけ椅子が違うのは、きっとここによく座る人間が少しでも窮屈な思いをしないようにとキョーコが用意した物なんだろうと思い至り、合点がいった。
「昨日は大丈夫だった?結局最後、いつものようにキョーコちゃんの怒り声が聞こえて怒って帰って行っちゃったから、俺ちょっと蓮と二人きりにしたこと悪かったかなって思ってさ」
社は慎重に探りを入れる。
蓮のことは応援してりたい気持ちが無いわけではないが、キョーコが迷惑ならむしろ蓮の方を制止すべきと思っていたのだが…。
昨日、足早に去って行ったキョーコの背中を見送って、残された蓮に小言をくれてやろうと救護室に入れば蓮の方は今まで見たこともないような緩み切った破顔だった。そんな蓮の表情に、社は小言の一つも言えないままビーチの監視に戻ったのだった。
「まぁ…最後はいつもの調子でからかってきたので怒っちゃいましたけど」
「けど?」
「私、敦賀さんの事…思い込みで見ていたかもしれないってちょっと思いまして…」
マイナスでスタートした蓮の評価がどうも昨日の何かしらで少しは浮上した事実に、社は目を丸くした。
「………なんですか、社さん」
思わずニマニマと緩む社の口元に、キョーコが怪訝な目を向けた。
「いやね、蓮はいい奴っていうか俺は弟分みたいな感じで信頼してるんだけどさ」
「はぁ」
「キョーコちゃんへの態度はちょっとネジが何本か吹っ飛んでていかがなもんかとも思うけど…」
そう言う事ならお兄ちゃんもサポートに回ってもいいのかなぁ~とどこか嬉しそうにつぶやく社に、キョーコはますます訳が分からないという顔をした。
「ひとまず!キョーコちゃんは蓮の事、そこまで毛嫌いするほどじゃないってことでいい?」
「毛嫌いって…。人をからかうのは止めて欲しいですけど」
キョーコはキョーコで『からかう』と自分で言っておきながら、昨日の蓮の言葉を反芻し少し居心地が悪い。からかってはいない、本気だと言ってきた蓮の言葉に、少なくとも嘘が無かったように感じたのだから。
「受け付けない、無理って感じじゃないならいいんだ」
「……」
先ほど考え込んだのと似たようなニュアンスの言葉を社から投げかけられてキョーコは止まってしまった。
「それなら望みはあるってことでしょ?」
セクハラはほどほどにしないと本気で嫌われるって釘刺しとくから!と社は綺麗に大盛りカレーを平らげて去って行った。
「……………どういうことよ。私は二度と恋なんてしないの」
ランチタイムの盛りを過ぎて、キョーコは皿を洗いながらひとり呟く。
蓮のことを誤解していたかもしれないと思ったのは事実。
なびかない自分をからかって反応を楽しんでいる悪い男だと思っていた。>顔のイイ男はアイツみたいに甘い言葉で誘いをかけた女がホイホイ言うことを聞くから利用して楽しんでるだけだって。
でも、自分の作ったものを美味しいと言ってくれた。
無理をしてでも、食べてくれて。
その事実を見つかって情けない顔をして不貞腐れて。
あんなに真剣な顔で………
人を表面で見ていたのは自分の方かもしれない。
けれど
「それは人として誤解してたのに気付いただけなのよ」
時刻は昼の遅い時間。
お客の疎らになった店内の時計を見上げ、キョーコはもうすぐやってくるだろう相手を思ってため息をついた。
~~~~
また話の矛先がズレていってる…。
軌道修正可能かなぁ???