
ロゴスとピュシスの調和と対立。
教授、世界のサカモトと呼ばれ音楽を追求した坂本龍一さんと生物学を極めた福岡伸一さん。高次元での共鳴だった。
異なる世界で突き抜けた二人の先には、似たような景色が広がっていた。
ロゴスとは、人間の考え方や言葉、論理であり、ピュシスとは、我々の存在を含めた自然のそのもののことを意味していた。
人間はピュシスそのものを見ることはできず、ロゴスを通じて物事を見たり考えたりする。
音楽や科学などは、自然をありのままに記述する、新しい言葉を求めるためにある。
全体を通じ音楽家の坂本龍一と生物学者の福岡伸一、ロゴスを極めた二人がピュシスを捉えようとひたすら対話し続けていた。
そんな風に見えていた。
「山」については、なかなか鋭い金言だった。
14P 山に登らなければ次の山は見えない
福岡:今、坂本さんが「一直線に進んで来たわけじゃない」とおっしゃたことで、今西錦司のことを思い出しました。彼は著名な生物学者であるとともに山がとても好きで、生涯に1500以上の山を登ってきた人なんですね。
「なぜ山に登るのか」という問いに対する答えでは、エベレスト初登頂を目指したイギリスの登山家ジョージ・マロリーの「そこに山があるからだ」が有名です。一方、今西錦司の答えは、なかなかふるっています。「山に登るとその頂上からしか見えない景色があって、そこに、次の山が見える。だからまたその山に登りたくなるということを繰り返しながら、自分は直線的ではなくジグザグに進んできた」と、彼は行ったんですね。」
185P 山の頂上から見える景色
坂本:若いころの僕は無機的な音楽がすごく好きで、無機的でない音楽を作るのはすごく難しかったんですね。メロディーというものは、あくまでも12音階の順列組み合わせで、作曲するということは、その組み合わせをどう作っていくかということだと考えていました。早くからコンピューターを取り入れて感性を数値化するなど、デジタルな音楽のつくり方をしてきたし、新しいテクノロジーにも関心を持ち続けてきました。
でも、YMOをやるようになってからだんだん考え方が変わってきて、音を操るということをしない音楽があるんじゃないかということを感じ出したんです。それで今は、ピュシスとしての脳を持ち、非線形的で、時間軸がなく、順序が管理されていない音楽というものを作れないかと、ずっと考え続けています。福岡さんがおっしゃっているピュシスを拾って発展させたいと、今、強く思っているんです。
ライディーンやテクノポリスなどのYMOを初めて聴いたときに「この世にこんな音があるのか!」と、ぼくの気持ちは驚天動地の大事件だった。
坂本さんがお亡くなりになられたことを契機に手に取った。改めて、坂本さんのご冥福を祈るまで。
<目次>
世界をどのように記述するか――刊行に寄せて
一方向に進む時間の中で 坂本龍一
自然の豊かさを回復する 福岡伸一
PART1 パーク・アベニュー・アーモリーにて 壊すことから生まれる―音楽と生命の共通点
PART2 ロックフェラー大学にて 円環する音楽、循環する生命
Extra Edition パンデミックが私たちに問いかけるもの
〈坂本龍一〉東京生まれ。音楽家。映画「ラストエンペラー」でアカデミーオリジナル音楽作曲賞、グラミー賞ほか受賞。
〈福岡伸一〉東京生まれ。生物学者・作家。青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員教授。