テレビからの報道だけではわからない。これを読んでみるまでは、五ノ井さんの必死な声が聴こえてこなかった。
もっと目を向けて気をつけて心から彼女の叫ぶ声を訊かなければいけないと思った。
60P「オオカミなっている??」
性加害を受けた描写がここから73ページまで続きます。フラッシュバックのおそれのある方は、73ページの「夢を潰す部隊」から読み進めてください。
と注意書きがあった。「オオカミ」とは、男性自衛隊員がお酒に酔って理性を失っている状態のことだ。その場所に一人だけ女性が上司に強要されて行かされることになったら……。
ここからは、言葉にできないほどの苦しみ、痛み、屈辱を受けたことが強く伝わってきた。
これからはがんばれ!というような言葉はとても軽くて簡単には五ノ井さんにはかけれない。これほどに悲惨な状況だった。これら行為は、パワハラやセクハラを通り越して、性加害や性暴力だし、さらにもっと酷くて卑劣な最大限の性犯罪だと思った。
214P
わたしが声をあげた理由は明確だった。理由はふたつ。まずひとつ目は、わたしに対して加害行為をした人が事実を認め、事の重大さを理解し、その加害者から謝罪をもらうこと。そしてふたつ目は再発防止である。いまいる(自衛)隊員やこれから入隊する新隊員に、わたしのようなつらい思いをしてはほしくないからだ。
218P
わたしの体験が、被害に遭われた人が前に進む手がかりになってくれたらうれしい。そして、自衛隊のみならず、一般社会においても、被害者が守られるような世の中になっていってほしい。その思いから、記録として書き留めることとした。
168P 本当の勝負
世間の人からしたら、事実が認められたことだけでも大きな成果だと思ってくれているかもしれない。ただ、わたしは、ずっと加害者からの直接謝罪を求めてきた。どうして嘘をついていたのか。理由を知りたい。
相手からしたら、ただの悪ふざけのノリにすぎなかったかもしれない。それを男性隊員らが団結して口裏合わせをして、互いの立場を守ろうとしたのかもしれない。それによってひとりの被害者がどれほど追い詰められ、深い傷を負うことになったのか。彼らは本当の意味で罪の重さを理解しているのかを、わたしは直接会って、この目で確かめたかった。ここからが本当の勝負だった。
106P
このままでは、残された女性隊員だけでなく、希望を持って入隊する未来の新隊員までもが同じような被害に遭い、志半ばで自衛隊でのキャリアを閉ざされ、次の犠牲者が生まれてしまう。もう二度とわたしのような経験をする人が出て欲しくない。
強い思いが芽生えた。
闘わなきゃ。あいつらを絶対に許さない。
死ぬ気で立ち向かうと覚悟を決めた。加害の事実を認めさせ、謝罪させる。性暴力がどれほど被害者を苦しめるのか。その重みを真摯に受け止めてほしい。何より再発防止につなげたいと思った。
わたしは心の帯を締め直し、男社会の巨大組織を相手に闘うことを決めた。
東日本大震災の被災地支援にきた女性自衛官に憧れ入隊した。
入隊後に性暴力を受けて退職した。
理不尽なことは承知の上顔を出し実名で告発した。
若い女性がこう決意するには、どれほどの葛藤があっただろうか。測りきれない。
容赦ない誹謗中傷で傷付いて目の前がフラフラになりながら諦めない。
こういう人にこそ、夢と希望を抱いていまの自衛隊で活躍をしてほしかった。
どんなに辛かったことか。
あの時死なないでいてくれてよかった。
よく頑張ったな。
よく、よく声をあげてくれたと賞賛をする女性たちがいるものだと思う。
五ノ井さんが声をあげていなければ、さらに同じことがずっと続いていたのではないか。
声を大きくあげた五ノ井さんをリスペクトしたい。
また、新人教育研修時に出会った女性隊長のように、自衛隊のなかにもちゃんとまともな人がいて希望の光があったのはよかったなと。
17P
(女性の)班長は、教育訓練の終わりに、わたしの日誌にこう書いてくれた。
「もしも、ひとりで乗り越えられない壁にぶち当たってしまった時、そんな時こそ、ここで培った絆を十分に発揮すること。たくさん頼ってほしい。決してひとりだと思うなよ。離れ離れになっても、ずっとずっとみんなで支えあって乗り越えていこう」
その後も班長とは連絡を取り続けた。そして、約1年後、わたしが本当に「乗り越えられない壁にぶち当たった」時に、味方でいてくれた。
<目次>
プロローグ
1 強く生きる
2 異常な日常
3 夢のゆくさき
4 闘い
5 声をあげてから
6 傷
エピローグ
取材を終えて 岩下明日香
巻末資料
五ノ井里奈
元自衛官。1999年宮城県生まれ。幼少期に柔道をはじめ、中高生の時は全国大会に出場。2011年の東日本大震災で被災する。災害支援に来た女性自衛官に憧れて、2020年に陸上自衛隊に入隊するも、2022年6月に退官。現在は、女性や子どもたちに柔道を指導している
岩下明日香
ノンフィクション作家。1989年山梨県生まれ。『カンボジア孤児院ビジネス』で第4回「潮アジア・太平洋ノンフィクション賞」を受賞









