【No1465】夜明けのはざま 町田そのこ ポプラ社(2023/11) | 朝活読書愛好家 シモマッキ―の読書感想文的なブログ~Dialogue~

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家族葬専門の葬儀社「芥子実庵」。

仕事のやりがいと結婚の間で揺れるなかで親友の自死の知らせを受けた葬祭ディレクター、元夫の恋人の葬儀を手伝うことになった花屋、世界で一番会いたくなかった男に再会した葬儀社の新人社員、夫との関係に悩むなかで元恋人の訃報を受け取った主婦など、ここに関わる人たちが一章ごとに主人公となる物語だ。

大切なものを失くし大切な人を喪った人が集まってくる、こころが揺らいでいるときにその揺らぎをいっしょに感じてくれるあたたかい場所だった。

この世の中では誰かと出会い誰かと別れて生きていく。何かを手に入れ何かを失っていく。失くしたものの大きさや重さに耐えきれず落ち込んでしまうことがある。

そんな時にその大きさや重さを一緒に背負ってくれる、体を寄せて頼れる人がいてくれたならどんなに心強いものか。ちょっとすこしだけでも前に踏み出せていけるものだろう。

葬儀社の従業員と関わった人たちの人生観、仕事に対する姿勢や故人への思いなど多くのことを考えさせられた。文章に陰翳がある深みがあるおはなしだった。

 

生と死は表裏一体。死は誰にでも平等に訪れる。貴賤もなく火葬されるものだ。

211P

「死」は、誰もが接する哀しみ、恐怖なのだろう。

「死」は、やはりすべての者に平等なのだ。ただしそれは、残された者、生きている者に対してだ。大事なひとの「死」は、誰にでも必ず訪れる。その苦しみ、哀しみ、惑い、恐怖こそが、平等に受け入れなければならないもの。そこに豊かさや、貧しさも存在していない。井原のように哀しみをいまも抱え続ける者がいて、おれのように受け止めきれずに迷走する者もいる。立ち向かおうとあがく芥川のような者もいる。そして中には、真正面から受け止めて耐える者もいるのだろう。

「母さんはちっとも、貧しい死じゃなかったんだな」

母の死に対してのおれの苦しみや惑いは間違いではなかった。そしてそのすべてが母の死を底辺にしなかったはずだ。

 

279P

誰でもそう。そのひとが正しいと思ってやっていることを、私は私の感覚だけで否定したくない。誰かの意見に左右されたくない。そのひとと向き合って、話を聞いて、理解する努力をしたい。誰かの常識や言い訳で逃げたりしない。純也もさ、頭から否定するんじゃなくて真奈さんときちんと話をしたほうがいいよ。彼女がどれだけ仕事に対して真摯か理解できるまで話をするんだよ。

 

人に繋がれていく、人を繋いでいくのだった。

353P

わたしたちは、何かを手に入れて、何かを失う、何かを望み、手に入れられないことに絶望する。己の手の中に残ったものと失ったものを数えて、嘆いたりする。

でも、大事なのは「持っていること」ではなく、「持っているもの」「持っていたもの」でもない。そこから得た喜び、得られなかった哀しみ、葛藤やもがきこそが大切なのだ。それらは、誰かに繋がれていく。

 

 <目次>

一章 見送る背中

二章 私が愛したかった男

三章 芥子の実

四章 あなたのための椅子

五章 一握の砂

 

1980年生まれ。2016年「カメルーンの青い魚」で「女による女のためのR‐18文学賞」大賞を受賞。2017年、同作を含むデビュー作『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』を刊行。2021年『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞