(ピアニスト保坂修平が独断で解釈しています)
ぼくたちの失敗
詞・曲 森田童子
森田童子1976年の作品。
僕は、1993年のドラマ「高校教師」でこの曲を知った。そういう人は多いと思う。
決して難しい詞ではではない。
音楽と詞が生み出す世界観は甘く優しく心に忍び込んで、忘れがたい印象を残す。
もちろん、森田童子の天性の声、その表現力が一番のかなめであり、唯一無二の作品になっている。
でも僕は、この曲について、どうしても書いてみたい。なぜなら、自然に受け取る「普通の解釈」の先に、「もう一歩踏み込んだ解釈」が可能な余地が感じられて、ハッキリ言って僕の心情的にはその「踏み込んだ解釈」を押したいのである。
この曲のたくさんのファンの方が「それは違う」と思われるかもしれないことを承知で、丁寧に解説してみます。
【普通の解釈〜過ぎ去った友情の回想】
僕と君がいて。
かつて二人は、一緒に住んでるくらいの親友だった。
ストーブも買えないほど貧しかったけど、電熱器で暖をとりながら熱く語り合った。
「大人にならなきゃ」と分かってはいても変われない二人。悪夢のように変わっていく時代の奔流から逃れるように、地下のジャズ喫茶に入り浸っていた。
やがて、ケンカ別れをした。
いや、単に君の新しい生活が始まっただけかもしれない。
一人部屋に残された僕。
熱く魅力を語ったパーカーのレコードが寂しく残る。好きなレコードを置いていくくらいだから、どうせ僕のことなんか忘れただろう。
数年後、久しぶりに君に会う。
見違えるよう立派になった君。
君は「変われ」たんだね。
僕は、むしろダメになった。
昔の彼女は元気?
あ、その顔からすると、とっくに別れたんだ。
君のやさしさにすっかり甘えていた僕。
強かった君と、弱かった僕。
…(ま、それも青春だったかな)
1970年代後半という時代背景がある。
電熱器、ジャズ喫茶、チャーリー・パーカーというワードが並ぶ。
(ジャズピアニストの僕には嬉しい)
僕もリアルには知らないけど、充分に想像できる。
足早に過ぎていく時間、乗れた人間と乗れなかった人間の光と影。
自嘲気味のことばも、見え隠れする「甘え」た仕草も、久しぶりの再会の中での、たわいもないじゃれ合いなのかもしれない。
【一歩進んだ解釈〜恋愛関係にあった二人】
ドラマ「高校教師」は、言わずと知れた、禁じられた恋の物語だ。
そのドラマの中でこの曲が流れたとき、初めて聴いた人は誰でも、これは「恋の歌」なのだと思ったはずだ。
そして、もとの詞にあたってみて、
「ああ、友情の歌をドラマに織り込んだのだ」
と、事実を知るのだ。
しかし、やはりこの詞を「恋の歌」として読みたい、感じたいという欲求がなくならない。ドラマの世界観の影響なのは間違いない。それが踏み込んだ解釈を誘う。そして、それも可能なのでないかと僕は感じる。
まず、タイトルである。
「ぼくたちの失敗」。
失敗したのは、僕だけじゃないのか?
君は、うまくやったじゃないか。
いや、君と僕の関係が「友情」を超えていたからこそ、「ぼくたち」の失敗なのではないだろうか?
二人の男の間には「恋愛関係」が存在したのだとして…
2番の「電熱器」のくだり。
僕は、ここに二人の情事の雰囲気を強く感じる。
村上春樹の「ノルウェーの森」で、ビル・エヴァンスのレコードが終わったその無音の時間のあと、セックスに及ぶ二人の描写がある。
それを思い出してしまう。
まるで映画のように…
楽しい二人の会話がふと途切れ、画面は赤く燃える電熱器に…そして二人の姿はフェードアウト。
これ、完全に、その雰囲気じゃないか。
ここで冒頭の「春のこもれ陽」が効いてくる。
電熱器じゃ、まったく寒いでしょ。
でも君のやさしさに埋もれる僕には、春の暖かさだったのである。切ない…
しかも、君には彼女という恋人がいたんだ。
それにも関わらずやさしくしてくれた君。
そういう「やさしさ」に対する複雑な感情、もっと言えば責める感情が見え隠れする。
悪夢から逃れて会うジャズ喫茶は、秘密の逢瀬だ。尾崎豊の「アイラブユー」のようだ。
そして別れ。
と。
再会。
なぜ、君はダメになったぼくに「びっくり」するのだろう。
おそらく、僕が別れを切り出したのだ。
「あの子のもとに帰れ」と。
そして気丈に振る舞っていたのである。
僕は大丈夫だと。
それを信じて別れた君は、想像以上に参っている僕の姿に、それが強がりだったことを知るのである。
そして、君と彼女も、結局うまくいかなかったのだ。
なぜ「ぼくたちの」失敗なのか。
それは、君のやさしさが間違いだったし、それを受け入れてしまった僕も間違いだったからである。
この「恋愛関係」説の、もっとライトな状況の可能性もある。
一線は超えてないけど、僕はひそかに君のことを好きだったんだ。
夢を、音楽を、人生を語るやさしい君に恋をしていた…
それでも、いいかもしれない。
でも、それでは、やはりタイトルの「ぼくたちの失敗」が回収できないのだ!
というわけで、僕は「恋愛関係」説をとりたいのです。それも「禁じられた恋」。だからこそ、ドラマにも、あんなにハマったのではないだろうか。
■ピアニスト/作曲家 保坂修平
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