将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

「将棋大好き雁木師の将棋本探究」をリニューアルしたブログです。
主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんにちは。雁木師でございます。今日は「描く将プレイバック」のコーナーでございます。このコーナーは、将棋世界に応募したものの掲載されなかった作品や、あえて将棋世界に応募せず旧Twitter(現在のX)に投稿した作品を掲載して、当時を振り返るという内容です。今回の作品はこちらです。

 

 

「これは何の絵だ?」という方もいらっしゃるかと思います。この絵は立派な「将棋めし」のイラストです。この絵は将棋界で最も有名なカレーライスと称される「陣屋カレー(ビーフ)」のイラストでございます。ここで「陣屋カレー」についてご説明いたします。

 

陣屋カレーの「陣屋」とは神奈川県秦野市にある鶴巻温泉元湯陣屋という旅館。この旅館は、将棋界では幾多の名勝負を繰り広げた対局場としてもとても有名な場所です。陣屋の歴史は古く、1918年(大正7年)に三井財閥の別荘として、当時は「平塚園」の名で創業を始めました。

 

将棋の名舞台として一躍有名にさせたのが、1952年(昭和27年)に起きた「陣屋事件」です。第1期王将戦七番勝負の第6局。このシリーズは木村義雄王将に升田幸三八段(いずれも肩書は当時)が挑戦した戦いとなりました。結果は第5局を終えて4勝1敗で升田八段に軍配があがりました。しかし、当時の王将戦の規定では、どちらかが先に4勝して決着がついた場合でも第7局まで指さなくてはいけないというものがあり、さらに升田八段は三番勝ち越ししていたので、駒落ちの「半香(左の香車を落とすこと)」で指すことが決まっていたのです。これは「指し込み」と呼ばれる制度です。

王将を失った木村名人(当時)が、相手に駒を落としてもらって対局をしなければならないという前代未聞の対局が陣屋で行われることになったのですが、結果はなんと升田八段の不戦敗で終わります。升田八段は「半香」の第6局を拒否したのです。

 

ことの経緯を振り返ると、対局前日の1952年2月17日。升田八段は一人で新宿から小田急線に乗って鶴巻温泉駅へ。そこから歩いて陣屋へ向かいます。これは升田八段の主張によるものですが、

「玄関のベルを押したが、だれも出てこない。番頭が通りかかったが、取り合わない。大事な将棋を指すはずの旅館なのに、宴会の騒ぎが聞こえる。30分ほど待ったがだれも出てこない。 我慢が限界に達し、近くの別の旅館にあがった。『今晩はここに泊まり、あすの朝、対局場にいこう』。 いったんはそう決めたが、説得に来た理事らとのやりとりの中で怒りがぶり返し、『旅館を変えてくれんのなら、絶対に指さん』と爆発、そのまま対局を拒否し、東京に帰った」

と旅館のHPにて、当時の記述が掲載されています。

 

日本将棋連盟はこの升田八段の行動を重く受け止めて、2月22日に升田八段に1年間の出場停止処分と当時の理事全員を引責辞職すると発表します。しかし、この発表に納得しない棋士も多くいて世論も反発。そこで連盟は、木村名人にこの問題を一任することにしました。木村名人の裁定は

 

・升田八段と連盟の双方が遺憾の意を表明する

・升田八段の出場停止処分を解除し、即日復帰させる

・連盟役員の辞表届は受理しない

 

というものでした。

 

結局、第6局は不戦敗となり、第7局は平手で行われて升田八段の勝利。この結果、5勝2敗で升田八段が王将を奪取。のちに、陣屋とも和解し、このような句を残したとされています。

 

「強がりが

雪に轉(ころ)んで

廻り見る」

 

かつて升田幸三実力制第四代名人は「名人に香車を引いて勝つ」ということを目標に将棋を目指したと語り継がれています。しかしぞれが実現した当時、升田八段は名人の権威に傷をつけるのではないかという抵抗感があったと言います。後に升田実力制第四代名人は第5期王将戦七番勝負にて、大山康晴十五世名人相手に「半香」の対局を実現させて勝利。「名人に香車を引いて勝つ」を実現させることになります。後にこの「指し込み」制度は、1959年度の第9期から香落ち1局のみになり、1965年度の第15期からは香落ちの対局はなくなりました。

 

一方、陣屋のほうでもこの事件をきっかけに陣太鼓を設置。お客様を迎える際には陣太鼓を打ち鳴らすという風習が定着されています。

 

 

ではここからは、陣屋カレーについて解説していきます。陣屋カレーの誕生背景には、米長邦雄永世棋聖の言葉がきっかけだったとされています。対局の際に、米長永世棋聖は「カレーが食べたい」と願い出ました。しかし、陣屋の板前の方々は和食専門。いわばカレーは専門外の料理です。当時の女将さんは板前さんに頼めないと判断し、なんと自宅でカレーを作って持ってきたとされています。この味が大好評で人気メニューに。当初は、対局者や関係者の方しか食べることができませんでしたが、現在はルームサービス限定でのメニューとして人気を集めています。当時の女将さんの味が受け継がれ、今では板前さんが腕を振るわれています。

 

 

 

陣屋カレーは、昨年行われた第71期王座戦五番勝負第1局でも登場。永瀬拓矢王座(当時)の昼食メニューが豪華と話題になりました。そのメニューとは

 

・陣屋カレー(ビーフ&伊勢海老シーフード)

・烏龍茶

・抹茶

・ショートケーキ

・シャインマスカット

 

いかにも健啖家の永瀬九段らしいメニューですね。

 

さて、陣屋とカレーの解説が長くなりましたので、本題のイラストの解説に入ります。このイラストを描いたきっかけは3年前にさかのぼります。季節としては9月でした。当時の第69期王座戦第3局、永瀬王座(当時)ー木村一基九段戦が陣屋で行われており、永瀬王座が昼食、夕食と陣屋カレー(どちらもビーフ)を連採したのです。王座戦の持ち時間は5時間で、当時は17時半から30分間が夕食休憩でした(現在は17時から30分間が夕食休憩)。夕食休憩は時間が短いので、おにぎりのような軽食を食べる棋士が多い中、永瀬王座の陣屋カレーの連投は衝撃を受けたという方もいらっしゃるかと思います。そして、永瀬王座はこの対局に勝利。対局内容もさることながら、陣屋カレーの連投での勝利も話題を呼びました。

 

私はこの出来事に衝撃を受け、勝利を呼び込む勝負めしを描かねばならないと思い、描いてみました。しかし、いま改めて作品を見てこれは失敗と思いました。原因としては、原画のチョイスを間違えたかもという部分です。皆さんは、ご自宅でカレーライスを食べるとき、カレールーとご飯は別々に盛り付けますか?それともまとめて盛り付けますか?この陣屋カレーでは、カレールーとご飯は別々分けた状態にで提供されています。もちろん、写真撮影用のためにかけた状態の写真もありますが、過去の陣屋カレーの画像をいろいろ見たときに、どっちがいいのか迷ってしまい、結局私が自宅で普段慣れているカレールーとご飯がセットの状態での写真を参考に描いてみました。

これなら描きやすいかもと思っていたら、これが間違いのもとで平凡なカレーライスのイラストになってしまったという感覚です。ルーに溶け込んだ具材の立体感が失われ、ご飯の描き方も雑。ルーのトロミ感もうまく表現できなかったというところです。アナログ絵で食べ物のイラストを描く難しさを痛感したイラストでした。将棋同様、被写体の研究も欠かせないのかもしれません。

 

なお、永瀬九段は陣屋カレーの「昼夜連投」を、王座戦五番勝負で2021年から3年連続で実施されており、すべて勝っているという験のいいメニューとなっています。現在、第72期王座戦は本戦トーナメントが大詰め。挑戦者決定戦は、羽生善治九段と永瀬九段という組み合わせになりました。果たして永瀬九段は挑戦者決定戦を勝ち上がり、今年も陣屋カレーの連投を実現させるのか。挑戦者決定戦は7/22(月)に行われます。ぜひご注目ください。

そして、陣屋対局は今年4月に行われた第17期マイナビ女子オープン五番勝負第1局で開催。西山朋佳女王に大島綾華女流二段が挑戦したシリーズの初戦は西山女王が勝利。その後も3連勝で女王7連覇を達成されました。確定しているタイトル戦では、昨日開幕した第65期王位戦七番勝負の第7局での開催が発表されています。第7局開催予定は9/24・25(火・水)。藤井聡太王位に渡辺明九段が王位戦初挑戦のシリーズはどんな決着を迎えるか、そして陣屋対局は実現するか?ぜひこちらもお楽しみに。

 

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

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読者の皆様こんばんは。雁木師でございます。今日はうれしいご報告をさせていただきます。本日発売の将棋世界8月号にて、私のイラストが掲載されました

 

 

今回は、野原未蘭女流初段と田中沙紀女流1級のイラストを掲載させていただきました。将棋世界さん、本当にありがとうございます。

 

 

 

もちろん他の方の作品もどれも素敵なものばかりです。ぜひ、将棋世界8月号をお買い上げいただき「あつまれ!描く将」のコーナーをチェックしてください。このコーナーや当ブログがきっかけで描く将に挑戦してくださる方がいらっしゃるとうれしいです。

 

ではイラストの経緯を振り返ります。このイラストを描いたのは半年ほど前、応募は2月初めです。きっかけについては、下記ブログ記事に詳しく書いてあります。

思えば元日の能登半島地震から半年が経ちました。私自身は平穏に生活できていますが、富山県内にはまだまだ復興の過程の地域もあります。一昨日は、最も甚大な被害を受けた能登地方の状況も報道されていましたが、こちらも復興へ向けて歩みを進める最中であることがうかがえます。どうか被災された方々の平穏が戻ることをお祈りする日々であります。

 

さて、イラストの制作のポイントを振り返ります。このイラストは今年のテーマである「がんばろう北陸シリーズ」の第1弾として作成しました。このイラストがシリーズの骨格となっています。

1つ目は背景。このイラストから、背景に文字以外の余計なものをなるべく控えるようにしました。以前は背景に色を施していたのですが、どうも被写体が力負けする印象がありました。余計なバックカラーを避けたことが、のちの優秀賞作品につながったんだと思います。

2つ目に被写体について。野原女流初段の服装は1/3に行われた女流YAMADAチャレンジ杯の決勝戦の衣装を基に描いてみました。野原女流初段は富山県出身。富山も地震での被災を受けた地域もありましたが、当時は状況がまだ不明のところもあり、野原女流初段も精神を集中しづらい状況下での対局でした。決勝戦では、磯谷祐維女流初段に敗れて準優勝。終局後は涙を流していた姿が印象的でした。私はニコニコ生放送でのリアルタイムでの視聴はできませんでしたが、タイムシフトで視聴した映像を見返して衣装を確認しました。

田中女流1級については、LPSAのYouTubeから衣装のヒントを得ました。田中女流1級はLPSAに所属されており、Youtubeの配信にも積極的に参加されております。

田中女流1級は石川県出身。能登半島地震では、言葉では言い表せないほどのつらい思いをされたのではないかと思います。地元石川での普及活動にも積極的な田中女流1級。一度女流棋士の夢を絶たれてから女流棋士デビューされた苦労人でもあります。

※詳しくはこちらから

 

さて、イラストの解説に戻ります。3つ目のポイントは文字。野原女流初段の「MIRAN」はピンク色にしましたが、これは女流棋士会のマークである駒桜の色からヒントを得ました。田中女流1級の「SAKI」はオレンジ色ですが、これはLPSAのホームページが背景の色からヒントを得ました。そして「がんばろう北陸」はシンプルに黒鉛筆で書いてみました。

 

作品の質としてはいまひとつ感は否めませんが、北陸の描く将として北陸の棋士・女流棋士を応援せねばならないと思い、このシリーズを生み出すきっかけの作品として大きな一歩でした。今後も北陸の棋士を描き続ければと思います。

 

 

さてここからは、+@企画として今年の「あつまれ!描く将」コーナーの状況をご説明したいと思います。私は描く将として活動しながら、将棋世界のイラストコーナー「あつまれ!描く将」の分析も行っています。年末には旧ブログ時代から分析の年間総決算特集記事を書いております。

 

※昨年の分析結果はこちら

 

今日は、描く将のモデルとなる棋士を中心に分析の途中経過を発表しようと思います。対象となるのは、今年2月発売の3月号から最新号の8月号まで。このうち4月号はコーナー自体がお休みでした。

まずは、イラストのモデルの棋士について。ここまで最も多く描かれている棋士は、藤井聡太竜王名人です。ここまで唯一の二桁枚数に到達(11枚)。分析開始時から、5年連続で最多掲載枚数棋士なのですが、今年も不動の傾向であることは間違いありません。ただ、今後のほかの棋士の活躍次第では食い込めるチャンスがあります。となると対抗馬となる棋士を見ると…。

有力なのは八冠の一角を崩した伊藤匠叡王ですが、ここまで掲載枚数は1枚。今後の活躍次第で伸びる可能性はありうると思います。現在の2番手グループは3枚掲載されていますが、この中で大健闘(失礼?)といっていいのが糸谷哲郎八段です。もともと人気の高い糸谷八段。今年は3月までNHK将棋講座の講師を担当されたことも影響していますが、棋聖戦に挑戦された山崎隆之八段との関係性も評価されての掲載枚数だと思います。果たして藤井一強時代は描く将の世界でも終焉を迎える日が来るのか、そちらもどうぞお楽しみに将棋世界を読んでいただければと思います。

将棋世界のイラストの作品も分析していますが、ポイントの1つに被写体が1人のみか2人以上かというところも分析しています。将棋世界で今年掲載されたイラストは8月号の時点で50枚。このうち被写体が2人以上の「複数作」は13枚で掲載枚数の4分の1程度といえます。さらに分類してみると、ここまで多いのが一門型の傾向です。一門型というのは、師弟もしくは同門で構成された系統の被写体の集合体です。今月号は棋聖戦挑戦者の山崎八段と磯谷女流初段のイラストが2枚掲載されました。一門型は将棋界に詳しく精通していないと描けない部分もあります。

次いで多いのは、企画型家族型です。企画型はイベントでの被写体の集合体のことを言います。家族型は分かりやすい例でいえば、新婚の棋士夫婦が多いです。これも将棋界に詳しくないと描けないかもしれません。

 

以上、将棋世界の分析の途中経過でした。今後もイラストを楽しみに将棋世界をお待ちいただければと思います。

 

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

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読者の皆様こんにちは。雁木師でございます。今日は書籍をご紹介します。今回は右玉に関する書籍をご紹介します。

改めて白状しますが、私は雁木師とは名乗っているものの、実際の将棋は右玉党です。かつてはフォロワーの方からコメントにて

「右玉師に改名してはどうか?」

と提案されましたが、描く将のペンネームは「雁木師」で活動している以上、名前を変えるのはどうなのかと思い、旧ブログ時代から雁木師を通しています。旧ブログ時代には右玉好きが高じてこんな企画をやっていました。

 

「この絵はなんだ?」

と思われた方のために説明しますと、2022年4月から1年にわたって

右玉浪漫飛行

というストーリー企画を行っていました。内容は、私の右玉の自戦譜を深夜ラジオテイストで解説していくという内容です。詳しくはこのシリーズの第1回目の記事を載せますので、こちらからチェックしてください。

 

そして今回の右玉書籍の紹介に当たり、1日限りですがこのストーリー企画を復活させることにしました。

この絵の2人のキャラクターは左側はDJ.ミギタマ。右側はアオテツというキャラクターです。詳しくは前述の記事リンクからご確認ください。それでは、右玉浪漫飛行の1日限定復活スペシャルの始まりです。

 

※なお、このストーリーに出てくる人物、出来事などは一部を除き、架空のものです。実際の人物、出来事などとは一切関係ありません。

 

DJ.ミギタマ(以下ミ)「DJ.ミギタマの右玉浪漫飛行‼1日限りの復活スペシャル~‼」

 

♪~(オープニングBGM)

 

ミ「将棋ファンのみんな、お久しぶりだね‼DJ.ミギタマだ‼」

アオテツ(以下ア)「こんにちは。アシスタントのアオテツです。お久しぶりです」

ミ「やー、アオちゃん。1年ぶりにこのスタジオに帰ってきたね」

ア「ミギタマさん、この1年はどうされていましたか?」

ミ「将棋放浪記を見まくっていた」

ア「え?しばらく仕事がなかったんですか⁉」

ミ「いやいや、仕事はあったよ。コロナ制限が緩和されてから、MCの仕事が増えたね」

ア「ミギタマさんは野球場のスタジアムDJだったんですよね。合間に藤森五段の将棋放浪記を見ていたとか」

ミ「そうなんだよ。いろんな棋士Youtuber見てきたけど、放浪記がためになりやすかったかな。あとイトシンTVも」

ア「藤森五段も伊藤六段もトークの上手な先生ですよね」

ミ「アオちゃんはこの1年何してたの?」

ア「ここ1年は鉄道関連のお仕事が多かったです。ここ半年は北陸新幹線関係の仕事が多くて」

ミ「そういえば敦賀まで延伸できたんだよね。新潟からも石川や福井に行きやすくなったってマミィが言ってたよ」

ア「ところでミギタマさん、この番組が復活した経緯はなんでしょうか?」

ミ「それはDに聞いてみよう。右さん‼」

右田D(以下D)「こんにちは。リスナーの皆さん、お久しぶりです。右玉浪漫飛行ディレクターの右田(みぎた)です。今回の当番組復活のきっかけは、熱烈なLPSAファンの方からのご要望でした」

ミ「LPSA…。たしか日本女子プロ将棋協会だっけ?2月に渡部愛先生が結婚したことは聞いてるけど」

ア「お相手は同じ北海道出身の野月浩貴八段でしたね。で、右田さんに届いたご要望とは?」

D「『昨年9月にLPSAから異色の大型新人がデビューしたのですが、その方が先月右玉の本を出したので、ぜひミギタマさんとアオテツさんの名コンビで紹介してほしい』ということで…」

ミ「噂に聞いたことのある女流棋士だね。たしか、羽生先生の対局の記録係を務めたときにネットがざわついたとか」

ア「磯谷祐維(いそや・ゆい)女流初段ですね。『金髪のギャルが記録係を務めた』ことで衝撃を受けたとは見聞きしています」

D「というわけで、お二人に磯谷先生の本を紹介しながら、右玉の魅力を再確認してほしいということです」

ミ「面白いね‼女流棋士の右玉の本は聞いたことがないから」

ア「ぜひ、やってみましょう」

 

解説:というわけで、今回紹介するのはこちらの書籍です。

 

 

 

「実戦で学ぶ

対振り右玉の

勝ち方

でございます。

 

著者は前述の磯谷祐維女流初段。糸谷哲郎八段の推薦です。ここで、磯谷祐維女流初段をご紹介します。

磯谷女流初段は2003年生まれ、岐阜県各務原市のご出身、同郷には高田明浩五段がいらっしゃいます。奨励会に在籍経験をお持ちも成績不振で退会。その一方でアマチュア時代から実績を数多く積み重ね、女流アマ王位戦に3度女流アマ名人戦には2度優勝に輝いています

女流棋士への挑戦は、2023年に関東研修会に再入会し、そのときにB2昇級。8月に規定対局数の48局に満たし女流棋士の資格を獲得して翌月デビューされました。

今年1月に行われた女流YAMADAチャレンジ杯で初めての棋戦優勝。規定により女流初段に昇段されました。LPSA勢の優勝は、渡部愛女流三段以来のことです。現在は、女流順位戦はD級で5勝2敗の成績。今期の女流王座戦では二次予選で山田久美女流四段に勝利し本戦進出を決めています。

師匠は現在棋聖戦五番勝負に挑戦中の山崎隆之八段。本書を読む限りでは、受けも苦にしない棋風です。デビュー当時はその容姿から「異色の大型ルーキー」とも呼ばれました。

 

 

ミ「プロフィール写真もすごいけど、アマ時代の実績もすごいね」

ア「同郷の高田明浩五段の書籍もかつて番組で取り上げました。こちらも右玉の本でしたね」

 

※詳しくはこちらの記事リンクから

 

ミ「師匠が山ちゃん、本の推薦がDJ.ダニーさん…。森信雄門下の系譜の女流棋士か」

ア「最近は、森信雄七段にとっての孫弟子も続々誕生しています。山崎八段以外では、澤田真吾七段も森本理子女流2級のお師匠ですしね」

 

解説:ここからは、書籍の内容に入ります。本書はタイトルの通り、対振り飛車における右玉の戦い方を磯谷女流初段の自戦譜から学んでいく内容です。序章+4章構成となっています。では、順に見ていきます。

 

序章「対振り右玉とは」

右玉の勝ち方、メリット、駒組みのポイントを学んでいく内容です。駒組みのポイントについては3つに分けて解説されています。

 

第1章「対四間飛車

四間飛車相手の右玉の戦い方の解説です。掲載されている棋譜は9局。相手は、美濃囲いといったオーソドックスな戦い方はもちろん、四間飛車側の急戦策や、最新の右玉対策の指し方も解説されています。

 

ミ「四間飛車も振り飛車の王道だから、穴熊や美濃囲い対策は当たり前だけど」

ア「急戦策や最新対策が解説されているのはありがたいですね」

ミ「囲えば満足だけど、囲う前に仕掛けられて苦戦の将棋も見てきたからね」

ア「最後の超速攻策は気になります」

 

第2章「三間飛車

三間飛車相手の右玉の戦い方の解説です。こちらも棋譜は9局掲載されています。注目ポイントは三間飛車の左銀の配置。図のような☖4三銀型が三間飛車の基本ですが、☖5三銀型の解説もあります。また、この章でも三間飛車の工夫が書かれています。

 

ミ「やたらと端角の文字が目立つね」

ア「角の使い方は右玉のカギですね」

ミ「ところで☖4三銀型はちょっと厄介だけど」

ア「銀の進出の防ぎ方も詳しく書かれているので、恐れる必要はありません」

 

第3章「中飛車

中飛車相手の右玉の戦い方の解説です。掲載されている棋譜は7局。ゴキゲン中飛車の部類に入る後手中飛車はもちろん、先手中飛車も掲載。内訳は先手中飛車が3局、後手中飛車が4局掲載されています。図は中飛車が5筋から3筋に振り直す作戦ですが、5筋のまま戦う作戦の対応策も掲載されています。

 

ミ「あれ、アオちゃん。これ三間飛車じゃん。写真間違えてない?」

ア「ミギタマさん、ちゃんと解説見てください。振り直しの局面ですよ。高田先生の本でも書いてあったっでしょう」

ミ「…oh。思い出したぜ。そうだった。この作戦は中飛車の常套手段の1つだよな。ここでも気になったことがある」

ア「と、言いますと」

ミ「糸谷流とは金銀の構えがちょっと違う気が…」

ア「当番組では先手の左金が6八に配置しているのを糸谷流右玉と解説しましたね。実はこの形も糸谷流です」

 

※詳しくはこちらのサイトから

 

 

ミ「思い出したよ。この図の形、よく見たら先後逆だけど、高田先生の本でも出てたね」

ア「そうですよ。ミギタマさん、大丈夫ですか?」

ミ「うう…。いろんな将棋を見すぎて糸谷流の骨子を忘れてしまったぜ」

 

第4章「向かい飛車

 

向かい飛車相手の右玉の戦い方の解説です。掲載されている棋譜は5局。相手の向かい飛車といっても、図のような角道を止めた向かい飛車や、☖3二金型向かい飛車、角交換向かい飛車、飛車を振り直すパターンといった様々な作戦があります。

 

ミ「向かい飛車と一口に言っても、かなり作戦の幅が広いね」

ア「向かい飛車からの迎撃に注意しながらの指し回しになりますね」

ミ「ほかの章でもいえるけど、磯谷先生は持ち駒を控えて打つことが多いね」

ア「争点を消す受けというべきかもしれません。全体として、安全勝ちを目指す内容の将棋が多いです」

 

解説:各章の終わりにはまとめとして、ポイントを整理するコーナーが設けられており、章末には掲載されています。また、章の合間にはコラムが掲載されており、トレードマークの髪の色や将棋との出会い、右玉と出会ったきっかけなどが書かれています。

 

ミ「コラムも人となりが分かって、磯谷先生をより深く知ることができる」

ア「なにより、イラストが可愛いのも特徴ですよね」

ミ「そうそう。表紙の絵もいいんだけど、各ページの右下に磯谷先生のイラストが描いてあるんだよ。あれはこれまでの右玉の本にはなかった」

ア「イラストを用いた戦法の解説書はそんなに多くはありません。媒体や、文字も見やすく、ポイントの局面を絞って解説されているので読みにくさは感じませんでした」

 

ミ「じゃあ、アオちゃん。次のコーナーいってみよ~‼」

ア「はい。『ミギタマ式将棋短歌』‼…って、ミギタマさん、このコーナーの主旨を教えてください」

ミ「以前は『浪漫飛行的読書感想文』というコーナーだったよね」

ア「はい。たしか、いろんな方に本の感想を聞いてみるコーナーだったんですが…。今回は?」

ミ「実はミギタマ、ある本がきっかけで短歌がマイブームになった。感想文だと話が長くてわかりにくいという声もあったから、短歌で本の感想を表現したい」

ア「…わかりました。確か、短歌は一首と数えるんでしたね。ではミギタマさん、本書の感想を一首お願いします」

ミ「OK。発表しよう…」

 

個性派の

唯一無二の

乙女様

描く右玉

受けつぶしの譜

 

ア「では、ミギタマさん。解説をお願いします」

ミ「唯一無二の『唯』という字は磯谷先生の名前もかけている」

ア「磯谷先生のお名前はいそや『ゆい』でしたね」

ミ「『乙女様』という表現は難しいところなんだよ」

ア「と、言いますと?」

ミ「『女流棋士』とあてはめてもいいんだけど、それだと普遍的で最初の『個性派』が生かせない。かといって、他の表現も浮かばなくて…。苦肉の策でひねったのが『乙女様』というわけ」

ア「乙女の定義は明確ではありませんが…。個人的には面白い上の句だと思います。下の句のポイントは?」

ミ「磯谷先生の本書を読んでの棋風をストレートに表現してみた。文章と棋譜を見ても分かるんだけど、上部脱出とか、攻め駒を責める指し回しとか…。明らかな受けの棋風なんだよね」

ア「『完封勝ちを狙う』という表現もありましたからね。『受けつぶしの譜』という表現も納得できます」

ミ「もちろん、将棋は受けだけでは勝てない。でも、受けの力が強くないと将棋は強くなれないという」

ア「磯谷先生の指し回しは、本書を読む限り受けの極みというべきでしょうか」

ミ「消極的の見方も否めないが、カウンター狙いという明確な方針が分かりやすい」

ア「右玉の基本的な考えの1つですね」

 

おすすめポイント

ミ「アオちゃん、この本は誰に薦めたい?」

ア「やはり、右玉党の方必携の一冊といえるでしょう。本書は磯谷先生の勝ち将棋はもちろん、負け将棋も掲載されています

ミ「それは心強いね。負け将棋から学ぶことも大事だからね」

ア「また、タイトルが『対振り』と書いてあるので振り飛車党の方にも読んで損はない一冊といえます。最新対策も書かれていますので、ぜひ対抗本としても注目してくださいね」

ミ「異色の大型新人の右玉本、みんなもぜひチェックしてくれよ。感想も待ってるぜ」

 

※この本を読んだ方がおりましたら、当ブログにコメントをお寄せいただけると嬉しいです。

 

エンディング

ミ「いやーアオちゃん、あっという間のスペシャルだったね」

ア「久しぶりに将棋の担当で楽しくて、面白かったです」

ミ「どうだろう?不定期だけど、こんな企画はまたやってみたいよね」

ア「右玉の情勢次第ではないでしょうか?また本が出たらやってみたいですね」

ミ「D、その辺はどうなの?」

D「カンペ(今後は未定です。でもまたの機会があれば)」

ア「Dは乗り気ですね。さすが右玉党」

ミ「というわけで、また右玉の本が出たときにみんなと分かち合おう。というわけで今日はここまで。お相手はDJ.ミギタマと」

ア「アシスタントのアオテツでした」

ミ「みんな、またね~。See you again someday. バイバ~イ」

 

♪~(エンディングBGM)

 

この本を読んで将棋が好きになった、将棋が強くなったというお声をいただければ、これほどうれしいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで、将棋が好きになる、将棋の力が強くなることを祈念いたします。なお、次回の書籍紹介は8/18(日)を予定しています。

 

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

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読者の皆様こんばんは。雁木師でございます。今日はうれしいご報告をさせていただきます。

この度、将棋世界7月号にて私のイラストが掲載されました

 


 

今回は村田顕弘六段のイラストです。このイラストはなんと今月の優秀賞に選ばれました。将棋世界さん、本当にありがとうございます。

 

 

もちろん、他の方の作品もどれも素敵なものばかりです。ぜひ将棋世界の7月号をお買い求めいただき「あつまれ!描く将」のコーナーをチェックしてください。当ブログや「あつまれ!描く将」がきっかけで描く将に挑戦した方がいらっしゃるとうれしいです。

 

では、このイラストの経緯を振り返ります。村田六段のイラストを描いたのは4月ごろ、5/1(水)に将棋世界に応募しました。現在の私は、元日の能登半島地震をきっかけに北陸出身の棋士を描いて応援する「がんばろう北陸」シリーズを制作しています。詳しくはこちらの記事をご参照ください。

 

 

折しも、村田六段は将棋大賞の升田幸三賞の特別賞を受賞されることになりお祝いの気持ちとご活躍の祈念、さらに北陸・富山の希望となることを願って、笑顔の村田六段を描きました。基本としては、前回の井道千尋女流二段のイラストと同じテイストです。

※井道千尋女流二段のイラストについてはこちらから。

  

 

ただ、今回の作品の制作過程では苦難の道がありました。問題となったのは「 升田幸三賞特別賞」の文字。当初はアナログ形式で入れたのですが、実際にスキャンすると文字が画面に収まりきれないことが判明。このままではまずいと判断した私は賭けに出ました。アナログで描いた文字を消して、デジタル文字で升田幸三賞特別賞を祝うことにしたのです。文字を入れるのも一苦労で完成した作品が冒頭のイラストということになります。

 

7月号が自宅に届いたのは昨日のことでしたが、優秀賞に選ばれたことを知った瞬間、私は声を張り上げて叫びました。夜の7時半頃だったので、これから眠りにつこうとしていた父からは

「うるさい!」

と言われましたが、人目もはばからず声を上げ続けました。調べてみたら、私の入選は今回が36回目なのですが、優秀賞は初めてのことだったので自分勝手に興奮し、感情を爆発させたような気がします。これまでの自分のイラストの描き方や信念を貫き続けてよかったと思った瞬間でした。

SNSで優秀賞のことを報告したところ、フォロワーの描く将の方から

自分のことのように嬉しい

と返信をいただきました。これまでも、イラストにいいね!してくださった方はいらっしゃいましたが、自分のイラストでこんな言葉をいただいたのは初めてだったので泣きそうになりました。同時に頭に浮かんだのは、私より先に優秀賞を受賞されたフォロワーの方々とそのイラストでした。描く将の分析を始めて今年で6年目ですが、優秀賞を受賞された方は例外なく絵がうまいのはもちろんですが、皆さんの被写体への思いがとても強いものばかりだったと記憶しています。

私は画力が評価されて受賞したとは思っていません。ただ、地元ゆかりの棋士の栄誉を祝福するために、純粋に素直な気持ちで描いたイラストが私にこのような結果をもたらしてくれたと思います。

 

今後のことを母に聞かれました。母もかつて漫画家志望であり、現在も福祉施設に自作のイラストを寄贈しています。

※詳しくはこちらの記事から。

 

 

かつては優秀賞を取ったら描く将を辞めようと思った時期もありました。故・村山聖九段の

「名人になって将棋を辞めたい」

という言葉ではありませんが、とにかく優秀賞を取るまで描き続けることにして、その延長線上で現在地まできたというところです。

そして優秀賞を取った今、自分が描く将として描く目標は何か…。現在思っているのは、北陸ゆかりの棋士を描き続けていきたいという以外は何も決まっていません。もちろん、生活の変化で描く将に見切りをつけなくてはいけない時期が来ることは理解しています。それまでは、描く将の活動は続けていこうかなと思います。ペースは落ちていますが、それでも描き続けていければというところです。

 

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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読者の皆様こんにちは。雁木師でございます。今日は将棋ポエムの作品発表を行います。早速作品を披露したいと思います。

 

封じ手:2日目

 

2日目の朝を迎えた

 

駒を並べる

 

昨日の指し手を再現し

 

封じ手前で局面が止まる

 

立会人は座る位置を変え

 

ハサミで封筒の封を開ける

 

「封じ手は…」

 

そこから将棋が動き出す

 

 

解説:今回の作品はいかがでしたか?ここからは作品と将棋用語の解説です。

まずは作品の解説から。今回も、前回に引き続き封じ手を題材にした作品です。前回の作品は下記リブログ記事をご参照ください。封じ手の解説も詳しく書いてあります。

今回は、2日制対局における封じ手の2日目の流れを作品にしてみました。詳しい流れは用語解説で後述しますが、2日目の対局再開までの流れを作品に仕立てた感覚です。前回の1日目の作品と比較しますと、全体的にあっさりした構成・内容ですが、最後の文章の立会人のセリフ

「封じ手は…」

を際立たせて、クイズの答え合わせのようなワクワク感を出してみたかったという意図です。

形式としては「口語散文詩」を目指した自由詩という感覚でしょうか。ひねりや技法は、前作同様特に意識して入れませんでした。風景をそのまま作品にした感覚は前作と変わりありません。

 

※今回の参考文献はこちらから

 

 

さてここからは、将棋用語の解説です。今回も「封じ手」についてご紹介します。

 

前回は封じ手が生まれた理由と歴史、そして1日目の封じ手の流れを解説しましたが、今回は2日制の2日目の進行を見ながら封じ手が開封されていくまでの過程を解説します。2日目の開始までの流れは以下の通りです。

 

①対局者が2人とも入室したらまず一礼

②駒を初形の配置に並べる

③封じ手前までの指し手を再現する(記録係が棋譜を読み上げる)

④封じ手前まで進んだら立会人が封筒2通を持って対局者の近くに座る

⑤封筒2通をハサミで開封し、2枚とも同じ内容であることを確認する(この際、封筒のすべては切らない

⑥「封じ手は○○です」と宣言

⑦対局相手にも指し手を確認してもらうため、用紙を見せる

⑧立会人の合図で対局再開

 

これが2日目の対局開始の流れとなります。今回の作品は前述の②~⑥の流れを詩にまとめた感覚です。一番緊張するのは、将棋ファン、対局者、関係者とも封じ手開封から宣言までの時間でしょうか。局面によっては、あらかじめ予想しやすい手もあれば、読みにくい手もあります。次の一手名人戦などのお好み対局とは違い、本物のタイトル戦ですから当たった時の感覚はうれしいでしょうし、外れた時の驚きも大きいでしょう。

 

また、封じ手もタイミングによってはテクニックの1つとも言えます。分岐の多い局面で手を封じるのは封じる側も苦しいですが、相手にとっても予測ができないタイミングでの封じ手は当てるのが難しいところ。どこまで指して、どこで封じるか?相手に封じてもらうか、自分で封じるかといった駆け引きも2日制のタイトル戦の面白いところです。

 

ここからは、封じ手をめぐっておきた「事件」を振り返ります。

ひふみん、夕食休憩後に封じる!?

1977年度の第16期十段戦第7局。中原誠十段ー加藤一二三棋王(いずれも肩書は当時)の対局でのこと。加藤棋王が封じ手時刻の午後5時30分になっても手を封じません。待てども待てども手を封じない加藤棋王。結局2日制では異例の夕食休憩に突入。加藤棋王が手を封じたのは夜の7時過ぎ。この対局の結果は中原十段の勝ちでした。「秒読み将棋の神様」とも呼ばれ、大長考も辞さない加藤棋王。待っていた関係者の方々もお疲れだったのではないかと心情察します。

 

「封じてください」に対して…

1996年度の第54期名人戦第1局。羽生善治名人ー森内俊之八段(いずれも肩書は当時)の対局でのこと。当時の封じ手の規定時刻になった午後5時30分ごろ。立会人から「手を封じてください」と促された森内八段。このまま手を封じるのかと思いきや…

「指すつもりでしたけど」

と言って、なんと指し手を進めたのです。結局この対局は羽生名人が手を封じ、対局の結果は羽生名人の勝利となりました。

周囲はこのまま森内八段が手を封じるだろうと思った矢先での着手に皆が驚き、中には「宣戦布告」と称して緊張感を高めてしまう解説者も。しかし、当の森内八段は対局翌日の取材にこう答えています。

「単に封じ手をやりたくなかったから」

この対局の背景を説明すると、森内八段はこの対局が初めての2日制の対局。以下、森内八段の言葉を抜粋します。

「封じ手をやって、休みに入るっていうのがどうも…。なんか、ひと晩、僕だけの秘密を抱え込むようで、気持ちが悪いじゃないですか。封じ手を促されたときは一瞬迷いましたけど、自分の気持ちにシコリを残したくなかったので、当初の予定どおりに指したんです。でも、あれで逆に羽生さんにシコリを残したとしたら、申し訳なかったですね」

森内八段は、決して羽生名人を動揺させる意図で封じ手のところで指したのではなく、自分の気持ちに素直に従って予定通りに指し手を進めただけということです。ちなみに、このことがきっかけで羽生名人とプライベートでの仲が険悪になることはないとも取材で語っています。

 

封じ手なしの名人戦

2019年度の第77期名人戦第1局。佐藤天彦名人ー豊島将之二冠(いずれも肩書は当時)は第1局から異例の展開で幕を開けました。午前9時に始まった対局は午後3時2分に千日手が成立。規定により、翌日指し直しで封じ手が行われませんでした。2日制の名人戦になってからは初めての出来事でした。旧ブログではこの対局に関して簡単に紹介しています。対局の詳細はこちらの記事リンクをご参照ください。

 

角換わりが再燃した現在の将棋界において、タイトル戦での千日手は今後増えていくのかも注目が集まります。

 

立会人が封じ手を言い間違い

今年の2月に行われた第73期王将戦第4局。藤井聡太王将ー菅井竜也八段の対局でのこと。2日目の朝8時54分から前日の指し手を再現。そして8時59分に立会人の中村修九段が封じ手を開封し、発表します。

ここからは日本将棋連盟ライブ中継アプリの棋譜コメントから。

「『封じ手は☖4二飛成です』。怪訝な表情を浮かべる両対局者。『あ、失礼(苦笑)。☖4八飛成です』。」

(中略)

「中村修九段が符号を言い間違えたことに、控室では『緊張していますね』と声が上がった。」

 

※問題の局面はこちらから

中村九段が言い間違えたのは40手目の封じ手。正しくは☖4八飛成と表現するところを☖4二飛成と間違えてしまったのです。

棋譜コメント41手目では

「控室に戻ってきた中村修九段は、封じ手を言い間違えたことにぼやいている」

と述べられています。立会人の大仕事ともいえる封じ手発表での言い間違いは、とても恥ずかしかったことが想像できます。対局は囲碁将棋プラスなどでも中継されていたので、この「事件」をご記憶の方もいらっしゃるかと思います。

 

 

以上、封じ手をめぐる「事件」をご紹介しました。対局者も運営する側も人間です。できればこうしたミスは起きてほしくはありませんが、こうしたヒューマンエラーも将棋の対局を彩るのも事実。これからも、封じ手をめぐる攻防のドラマに注目です。

 

※参考文献はこちらから。

 

 

 

 

以上で解説を終わります。ご意見やご感想、リクエストなどもお待ちしております。次回は8/4(日)を予定しております。

 

 

近況:芸は身を助ける?

私は描く将の活動などでイラストを描くのが趣味の1つです。そんなある日、職場の方とイラストの話になりました。そのきっかけはこんな感じです。

工作は得意?

と同僚の方に聞かれた私は

「工作はだめなんですけど、絵を描くのは好きです

と答えました。

 

私の職場は介護施設ですが、毎月施設内の掲示板に季節ごとのイラストや工作などで季節感を出して、利用者様を楽しませるということをやっています。5月はこどもの日ということもあって、兜やこいのぼり、柏餅といったイラストで季節感を出していました。6月はアジサイとカタツムリの工作を中心に、梅雨のイメージを表現しています。

私は次の7月の担当となり、前述の同僚の方と色々お話ししながら構想を練っている段階です。先ほどの会話は、同じく7月担当の同僚の方との話し合いで掲示板をどう彩るかでの話し合いで出てきました。

現状としては、7月ということで七夕をテーマにやってみようということで様々な案を出し合っているところです。

 

思えば私が今の会社に入職して間もないころ、こんなことを書いた記憶があります。

趣味を生かして職場に貢献したい

趣味を生かして会社に貢献することができたら、これほどうれしいことはないと思います。はじめは将棋で貢献できないかと思ったのですが、立ちはだかる壁がありました。

 

1.資格者でないとレクリエーションはしてはいけない

施設では将棋やオセロはもちろん、ゲームでは黒ひげ危機一髪もあります。以前の部署ではジェンガやかるたを楽しむ利用者様もいました。

私は歩行器や車いすの清掃などで利用者様に声をかけることはあります。しかし、介護の資格を持っていないので利用者様とレクリエーションをすことはできません。以前の部署でこんな会話を聞いたことがあります。

「彼(私のこと)しか将棋ができるスタッフがいない」

「でも、資格者でないとだめじゃない?」

 

それは利用者様に将棋が好きな方がいて

「今度将棋をやらんか?」

と何度も声をかけてくる方がいました。本当は将棋で触れ合いたかったのですが、さすがに介護資格者でないと無理があるのかもしれません。かつては私の地域でボランティアで囲碁や将棋の相手をしてくれる人を探していた施設もありましたが、コロナ禍でそうした募集も見かけなくなりました。

 

2.施設内での将棋人口が少ない(というよりほぼいない?)

前の部署も今の部署も将棋をさす利用者様はほとんどいません。これは、私の職場における利用者様の男女比と状態、スケジュールなどが影響しているといえます。

前の部署はグループホームでしたが、利用者様の男女比は圧倒的に女性の方が多かったです。現在の部署は住宅型有料老人ホームですが利用者様は女性の方が多いです。利用者様は戦前生まれの方がほとんどですので、当時の女の子の遊びには将棋の

選択肢はなかった歴史を考えると、将棋になじみのない利用者様がほとんどといえます。

また、男性の方でも将棋に興味がない方がほとんどで、たとえ興味があっても身体の状態が悪くて将棋を指せない状態にあることや、1日のスケジュールで将棋に時間を割くことが難しいという事情もあります。将棋は基本として考えるゲームですので、時間を設けないと指し手を延々と考えてしまい、決着がつくのに時間がかかり後々の流れに影響するというわけで、レクリエーションの選択肢からは自然と外れてしまうということになります。

 

今の職場を勤めて今年で5年目となりますが、初めて書いた目標にイラストという形で実現しつつあることはいいことなのかなと思います。もちろん自前でイラストを描くのは時間がかかりますし、資格の勉強や仕事の資料作りの作成もある中でのイラスト制作なので大変ですが、シンプルに表現することに徹して無理のない範囲でできればいいなと思います。芸は身を助けると言いますが、やりすぎて体を滅ぼさないように気を付けたいと思います。

 

さて、長々と話してきましたが今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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