「永世乙女の戦い方」第5巻と「再昇級」を果たした女流棋士 | 将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

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主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんばんは。「SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦」の投票啓発ポスターを描いた身分でありながら、投票ノルマをおろそかにしていた雁木師でございます。今日はコミックをご紹介します。今回は

永世乙女の戦い方⑤」

をご紹介します。

原作はくずしろさん(プロフィールは下記記事リンクを参照ください)。

 

監修は香川愛生女流四段です(プロフィールは下記記事リンクをご参照ください)。

 

なお、香川女流四段は昨年より始まった棋戦、ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦には女流順位決定リーグはD組にて6勝1敗の成績で2位。順位決定トーナメントの結果、15位で終えました。

 

ではコミックの内容に入ります。前回の第4巻をおさらいしたい方は下記リブログ記事からご確認いただけます。

 

 

この物語の主人公は現役女子高生ながら女流初段の早乙女香(さおとめ・こう)。女流棋界の絶対女王として君臨する天野香織(あまの・かおり)とタイトル戦の舞台で戦うことを目標に、高みを目指す日々を描いた物語です。戦いの舞台はマイナビ女子オープンの本戦トーナメント。今回紹介する第5巻はこのトーナメントの準決勝の模様が描かれています。準決勝に残ったのは、香以外では…女流三段で香のトラウマになっている角館塔子(かくのだて・とうこ)。現役中学生にして奨励会二段、女流棋士に対して敵意を抱く須賀田空(すがた・うつろ)。そして、小学校4年生ながら将棋ウォーズ五段の腕前、このトーナメント注目の外国人女流アマ棋士アナスタシア

本書の前半は、香とアナスタシアの対局。勝ったほうが挑戦者決定戦に進出です。香織もスマホ越しに注目する対局は、開始早々アナスタシア得意の早指しのペースで進みます。序盤から居玉のままで馬を作りあう乱戦模様。お互いに斬るか斬られるかの華々しい戦いに進行します。お互いに攻め合う中で香はアナスタシア玉を必至に追い込み、アナスタシアは長考に沈んで昼食休憩へ。

後半も香とアナスタシアの対局の模様ももちろん描かれていますが、アナスタシアが将棋に目覚めるまでの回想シーンを軸に描かれています。そして、この対局は決着。「アナスタシア」の名前の由来も明らかになっていきます。

本書の終盤は準決勝のもう一局、塔子と空の対局姿と塔子の回想シーンが描かれています。塔子が女流棋士になった経緯が描かれています。果たして挑戦者決定戦の行方は?

本書の締めくくりにはアナスタシアが将棋に生きるきっかけとなる出来事のシーンが描かれています。また、今回も本書のカバーを外すと詰将棋が掲載されています。ぜひ、挑戦してみてください。

 

 

実際に読んでみた感想はというと…。今回は後半に回想シーンが多く、なぜこのキャラは将棋に生きる覚悟を決めたのかが分かる内容でした。現実の世界でも、女流棋士になったきっかけ、将棋にハマったきっかけは様々と聞きます(中には骨折がきっかけで将棋を始めた女流棋士もいるとか)。本書の軸を担うアナスタシアは外国人。すなわち「ガイジン」ゆえの苦悩と将棋の関係が描かれています。

一方、塔子の回想シーンは現実の将棋界における女性が奨励会で生きる上での苦しみや壁などを感じ取れる内容です。監修が奨励会を経験された香川女流四段だけあって、この苦しみや壁の描写は丁寧で、どこか夢半ばで「女性棋士」の道を断たれた女性の象徴が描かれていると思っています。ぜひ、塔子の過去も読んでいただきたい描写です。

香とアナスタシアの対局には「斬りあい」を表現するためか、お互いに刀を持って斬りあう居合道の描写が取り入れられています。まさに、斬るか斬られるかを分かりやすく表現するための最良の描写だと思います。将棋がよくわからない方にも、激しい戦いであることが分かる表現となっています。

 

 

さてここからは、「再昇級」を果たした女流棋士をご紹介します。先月末、LPSA(日本女子プロ将棋協会)は田中沙紀(たなか・さき)さんをLPSA所属の女流棋士として認める決定を発表されました。

 

 

これにより田中沙紀さんは9/1より、女流2級として女流プロデビューを果たしました。この田中沙紀女流2級のデビューは、女流棋界、ひいては将棋界では「復活」とも呼ばれています。田中沙紀女流2級はTwitterもされていますが、今回のデビューには多くのコメントが寄せられていました。

「復活」とは一体どういうことなのか。それは田中沙紀女流2級のこれまでの道のりにあります。プロフィールについては前述のリンクをご参照いただければと思います。注目すべきは、一度女流3級として公式戦を戦い続け、規定で研修会に戻った後に今月付でLPSA所属の女流2級としての活動が認められたという道のりです。

田中沙紀「さん」は女流アマ時代から活躍を続け、2014年に関西研修会に入会。2018年6月に女流3級の資格を取得。女流3級として対局を続けました。

 

 

現在はこの「女流3級」制度はなくなりましたが、実は女流3級で活動される方は「女流棋士」とは呼ばれませんでした。女流3級は別の名を「女流棋士仮会員」と呼ばれ、規定の成績を収めないと女流2級への昇級が認められない、いわば女流棋士の「仮免」状態でした。

そんな中で、2018年4月に日本将棋連盟は女流棋士の規定変更を発表。

 

田中沙紀「女流3級」は研修会員時代に旧規定で資格申請を行い、女流3級として活動。2年以内に女流2級への昇級を決めないと正式な女流棋士としては認められません。女流棋戦はトーナメント制が多く、一度負けると終わりの厳しい戦い。田中沙紀「女流3級」は女流棋士まであと一歩のところまで迫るも、勝てば昇級の将棋を落としたこともありました。

 

 

そうした中で女流3級の資格期限の翌日となる2020年6月1日。日本将棋連盟は田中沙紀「女流3級」の女流3級資格の延長を発表します。

 

これはコロナウイルスの感染拡大にともなう女流棋戦を含めた各棋戦の中止や延期が相次いだことが考慮されてのものでした。この時点で田中沙紀「女流3級」が女流棋士と認められるために残された条件は2つのうちのどちらか

①第10期女流王座戦本戦トーナメント進出

②第32期女流王位戦予選決勝進出

しかし、田中沙紀「女流3級」は①の女流王座戦二次予選で敗退。

 

 

続く②の女流王位戦でも予選敗退。

 

 

これで田中沙紀「女流3級」は、女流2級への昇級条件を満たすことができなくなり女流3級資格も取り消し。女流3級から女流棋士へのルートが絶たれました

 

女流王位戦予選敗退後から3カ月後の2020年11月、田中沙紀「さん」は再び研修会入会(東海研修会)。その間も女流のアマチュアの大会である女子アマ王位戦で優勝するなど実績を積み上げ、ついに先月8日にC1クラスで12勝4敗の成績を収めてB2クラスに昇級。LPSAに資格申請書を提出され、おととい付けで田中沙紀女流2級の誕生となりました。なお、田中沙紀女流2級は1994年11月18日生まれの現在26歳。現在の女流棋士の規定では、満年齢27歳未満のうちに研修会のB2クラスに昇級しなければ女流棋士の資格を得ることはできないので、年齢制限が迫った状況をギリギリで乗り越えての女流棋士デビューとなりました。なお、師匠は大野八一雄(おおの・やいちお)七段です(女流3級時代の師匠は6月にお亡くなりになられた木村義徳九段でした)。

 

 

この「復活」とも呼ばれる昇級までの道のりに、田中沙紀女流2級の地元石川県からも祝福の声が届きました。当ブログのフォロワーのおひとりでもあるののいち奇襲マニアさんが、今回の田中沙紀女流2級の昇級について記事を書かれています(詳細は下記記事リンクから)。

 

 

この記事を読んでみると、あの方のあの書籍を思い出しました。

 

 

石川県在住のアマ強豪で、元奨励会三段でもある鈴木英春さん。実は田中沙紀女流2級についてもこの本で触れられていました。(本の詳細は下記記事リンクをご参照ください)

 

 

この本が発売されたのは2019年11月、田中沙紀女流2級は当時女流3級でした。鈴木英春さんは本の中で、時間との戦いに追われている「愛弟子」に女流棋士になれることを信じてエールを送られていました。石川県出身では井道千尋女流二段以来の女流棋士。LPSA所属では山下カズ子女流五段以来の女流棋士とのことです。ただし山下女流五段は日本将棋連盟からLPSAに移籍された形での所属ですので、LPSA発の女流棋士デビューは田中沙紀女流2級が石川県出身では初めてとなります。

私は石川県のお隣の富山県出身・在住です。注目したいのは、田中沙紀女流2級と同じくアマ時代に鈴木英春さんの指導を受けて女流棋士になられた野原未蘭女流初段との「英春流対決」の実現なるかという点です。野原女流初段はアマ時代に公式戦にて、井道女流二段との「同門対決」を実現されました。果たして、野原女流初段と田中沙紀女流2級の公式戦での「同門対決」の実現はなるか?北陸の将棋ファンの楽しみがまた一つ増えました。

 

 

さて、コミックの内容に話を戻します。このコミックは女流棋士の等身大の姿と女流棋士になるまでの道のりが描かれています。女流棋士の現在地を読み解く意味でも価値は高いと思います。将棋ブームの昨今、女流棋士は対局や普及活動に大忙しです。近年はYoutubeを始めた女流棋士も登場。更なる活躍の場が期待される女流棋士が将棋にどう向き合っているのか、どう向き合い続けるのか、ぜひ、お読みいただきたい一冊です。

 

そして今月11日。第1期ヒューリック杯白玲戦七番勝負がいよいよ開幕します。対局者は…

男性棋戦でも大活躍。三段リーグで女性初の次点獲得。現在、女王、女流王座、女流王将のタイトルを保持する。編入試験への道を切り開き、旋風を起こした「暴れ馬」…西山朋佳女流三冠

対するは、現役のLPSA所属棋士で唯一のタイトル経験者(女流王位1期)。LPSAのエースとして対局、普及に大活躍。帯広が生み、LPSAが守り続けて誕生した「プリンセス・マナ」…渡部愛女流三段

…ABEMAトーナメントのナレーション風でご紹介しましたが、少し興奮してしまい失礼いたしました。ぜひ初代白玲をかけた戦いの前にこのコミックを読んで、女流棋士のことを少しでも知っていただければと思います。そして、今後の女流タイトル戦の戦いもご注目いただければと思います。

 

 

このコミックを読んで将棋に興味を持った、将棋を好きになったというお声をいただければこれほどうれしいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで将棋に興味を持つ、将棋が好きになることを祈念いたします。また、田中沙紀女流2級の今後のご活躍と女流棋界の発展も祈念いたします。なお、次回の書籍紹介ですが日数をかなりいただきます。次回は10/8(金)を予定してます。次回紹介する書籍が今までと一線を画す書籍でして、2週間で読み切るのが困難と判断してこのような措置を取らせていただきます。どうかしばらく書籍紹介はしばらくお休みしますが、どうか今後も当ブログをよろしくお願いいたします。

 

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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王座戦五番勝負が開幕!!第1局は木村九段の逆転劇がすごかった!!

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そして、豊島―藤井の叡王戦も目が離せない!!豊島防衛か藤井奪取か、注目の最終第5局は9/13(月)対局。ABEMA様、中継してくださるそうでありがとうございます!!

 

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と言ってる私、早く帰って見逃がしシーンをチェックしなければ…。