角換わりを学ぶ1冊と最近の角換わりのナゾ | 将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

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「将棋大好き雁木師の将棋本探究」をリニューアルしたブログです。
主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんばんは。雁木師でございます。今日は戦術書の書籍をご紹介します。今回は、角換わりに関する書籍です。現在、プロの間で最も大流行しているとも言われている角換わり。「相居飛車四大戦法(矢倉角換わり横歩取り相掛かり)」の一角として、古くから指され続けている戦法です。もちろん最近のタイトル戦でもよく登場しており、先月、史上最年長初タイトルの記録を更新された木村一基王位がタイトル奪取を決めた第60期王位戦七番勝負の第7局も角換わりでした。

 一部の観る将の方は将棋中継で角換わりの手順に進行すると「親の顔より見た定跡」と呼ぶそうです。それだけ、プロの間で大流行していることがうかがえます。今月からはNHK将棋フォーカスの講座でも「太地隊長の角換わりツアー」と題して、中村太地七段による角換わりの講座がスタートしました。角換わりの歴史や仕組みを分かりやすく解説されるということで、楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。

 

当然角換わりに関する書籍も数多く出ていますが、今回はその基本を学べる1冊をご紹介します。

「角換わり

初段の常識

でございます。

著者は塚田泰明九段。昨年4月に、日本将棋連盟より刊行、マイナビ出版から販売されました。ここで著者の塚田九段をご紹介しますが、以前棋王戦に関する記事で塚田九段を簡単に紹介しており被ってしまう点があります。その点についてはご了承ください。(参照:2/12投稿「棋王戦の大盤解説会」)

 

 塚田九段は1981年に四段昇段。同じ時期に四段昇段された棋士が多いことから「花の55年組」の一人としても知られています。他には、高橋道雄九段、中村修九段、島朗九段などがいらっしゃいます。タイトル戦では、王座を1期獲得された経験があります(第35期・1987年度)。棋戦優勝は新人王戦優勝(第17回)を含め3回。

 「攻め100%」と呼ばれるほどの攻めの棋風として知られています。相掛かりにおいて「塚田スペシャル」を編み出し、公式戦22連勝を記録(歴代4位タイ)。第14回将棋大賞で連勝賞を受賞されました。その後「塚田スペシャル」を編み出されたことが評価され、第42回将棋大賞で升田幸三賞特別賞も受賞されています。現在は、竜王戦は4組、順位戦はC級1組に在籍されています。

 奥様は高群佐知子女流四段、娘さんは塚田恵梨花女流初段という将棋一家。某インターネットテレビでは恵梨花女流初段との父娘解説がよく見られますが、今年の5月には高群女流四段との夫婦解説も実現されました。

 

では、書籍の構成に移ります。本書はタイトルの通り、角換わりに特化した内容です。序章+5章構成となっています。まずは序章で「角換わりの駒組み」と題して、角換わりの駒組みでおさえておきたいポイントを局面を使いながら解説されています。注意していただきたいのが、本書における基本は初手☗7六歩から始まる角換わりの駒組みです。詳しい話は後述しますが、最近のプロの角換わりでは初手☗2六歩から角換わりにする手順も増えてきています。ただ、本書では初手☗2六歩から始まる駒組みの手順は紹介されていません。各章のポイントは以下の通りです。

第1章「棒銀戦法」…先手が棒銀で攻め、後手がどう対抗するかを解説されています。角換わり棒銀はプロ間では採用率が低いそうですが、単純明快な攻め筋かつ受け方を間違えてしまうと一気に勝負が決まることもあり、速攻が好きな方にはおススメしたい戦法です。

第2章「早繰り銀」…先手が早繰り銀で攻め、後手がどう対抗するかを解説されています。後手の右銀の位置によって、展開が大きく変わってきます。この章では、後手に「継ぎ歩」の手筋がよく登場します。

第3章「相腰掛け銀先後同型」…この章で紹介する相腰掛け銀先後同型は、現在大流行の「☗4八金・2九飛型」ではなく「☗5八金型」の先後同型です。「☗5八金型」の先後同型も以前は大流行していました。まずは、駒組みを紹介した後で、☗4五歩☖同歩と歩の突き捨てからどう仕掛けるか、仕掛けた後の変化、そして後手の対策などを解説されています。「富岡新手」やソフトから発想を得た手順などもここで登場します。

第4章「右玉」…後手の右玉狙いの手筋に、先手がどう対抗していくかが解説されています。まずは、注意点を踏まえて駒組みを解説した後で先手の対策を紹介します。この章では「地下鉄飛車」で対抗する場合と「普通に囲う」場合が解説されています。ここでいう「普通に囲う」は、腰掛け銀☗5八金型に囲う形を指します。「普通に囲う」場合では、穴熊に囲う変化も出てきます。どの変化も先手寄りの解説です。

第5章「角換わり最前線」…第1節は「☗4五桂作戦」、第2節は「☗4八金型」、第3節は「『最新の最新』角換わり事情」と銘打って速攻の桂跳ねの手筋で1節と☗4八金型は2節を使って解説されています。変化図では、相雁木や現在流行中の相☗4八金・2九飛車型の変化も参考程度に述べられています。

また、章と章の合間にはコラムがあり、ポナンザ開発者の山本一成さんや前述の「55年組」の人間関係などが書かれています。

 特徴としては、第3章の相腰掛け銀先後同型に約70ページ割いています。本書は全体で220ページほどですので、全体の3分の1を占めていることになります。節の数も本書で最も多い5節を使って細かく紹介されています。また、結論が先手有利の局面が多いです。

 

 実際に並べてみた感想はというと…、私は最近は初手に☗7六歩から角換わりに進行する手順を踏むことが多いので、本書が初手☗7六歩から角換わりに進行する手順を紹介されているのは大変ありがたいと思いました。角換わりは私が以前から将棋倶楽部24でよく使う戦法の一つですが、実は先手でも後手でも初手☗2六歩から相掛かりと見せかけて角換わりに進行する手順の経験が本書を読むまで1局もありませんでした。また、やってはいけない手や変化も紹介されているので角換わり初心者の方でも安心して学べる書籍でタイトル通り「常識」が会得できそうな気もします。

 気になるのは、最近の角換わりでよく出てくる互いの手待ちから千日手の変化が紹介されてないことぐらいでしょうか。ただこの変化は難易度が高いので、そんなに気にしなくてもいいかもしれません。

 

 本書は角換わりの書籍ですが、最近の角換わりは変化が激しく、分かりにくいという声を聞きます。かくいう私も様々な疑問を抱いています。ここからは、私が感じた最近の角換わりの謎とその答えを探っていこうと思います。私が抱える謎は3つです。

①なぜ、「相掛かりと見せかけて角換わり」という手順が成立するか?

最近の将棋中継を見ていると初手から4手の出だしは以下の手順も増えてきました。

☗2六歩 ☖8四歩

☗2五歩 ☖8五歩

この図を見ておそらくこうこう思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「これ、相掛かりの序盤では…

確かにこの図を見た時点では、相掛かりの選択肢もあります。相掛かりを指すならこの局面で☗7八金と指すのが定跡で、以下☖3二金☗2四歩☖同歩☗同飛☖2三歩☗2六飛が一例(参考までに、最近は☖3二金のあとはいきなり☗2四歩と突かない変化が多いようです)。もちろん、上図から相掛かりの変化に進む将棋も最近は増えています。

 ただ、ここから角換わりを目指すのも急増。角換わりの実現には、上図から☗7六歩が必須条件です。

さて、この局面で☖8六歩と飛車先の歩を突く手は成立するのか?と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際に検証してみました。☖8六歩の局面でもし、☗同歩と取らずに☗2四歩とするのは☖8七歩成が先手を取られた形で先手敗勢。よって☖8六歩には

☗同歩 ☖同飛

と進むのが自然。これで後手は飛車先の突破に成功し、先手を取ったかに見えましたが先手には☗2四歩の反撃がありました。

この局面での☗2四歩は後手にとっては急所を突かれた格好です。☖同歩と取れば☗2三歩が角取りでしかも角が助からない状況です。☖3四歩と角交換に出る手はどうでしょうか。

☗2三歩成 ☖8八角成

☗同銀 ☖2七歩

☗5八飛

が変化の一例。

この局面をぴよ将棋で解析してみると、先手有利という結論です。後手は飛車先の歩の交換は成功していますが、先手のと金と歩を2枚手持ちにしていることが大きいとの判断でしょうか。

 以上の検証を踏まえると、5手目☗7六歩の局面で☖8六歩と飛車先を突くのは☗2四歩の反撃が激痛で後手に不利な結論ということになります。よって、5手目☗7六歩には☖3二金と受けるのが定跡になっています。

6手目☖3二金からの進行は

☗7七角 ☖3四歩

☗6八銀 ☖7七角成

☗同銀 ☖2二銀

☗7八金 ☖3三銀

と進むのが定跡。以降は右辺の陣形整備や玉の位置を移動するなどして、攻撃態勢を整えることになります。と、ここで次の疑問が出た方もいらっしゃるのではないでしょうか。6手目☖3二金の局面で、☗2四歩と突くのはどうかということです。(下図は7手目☗2四歩まで)

結論から言えば角換わりではなく、相掛かり調の将棋になりこれはこれで一局というところでしょうか。一例ですが、詳しい手順を見ていきます。

☗2四歩 ☖同歩

☗同飛 ☖2三歩

☗2六飛 ☖8六歩

☗同歩 ☖同飛

☗7八金 ☖8二飛

☗8七歩(下図は17手目☗8七歩まで)

細かい変化を話しますと、☗2四歩☖同歩☗同飛☖2三歩までは相掛かりの定跡の流れ。☖2三歩は飛車取りなので、飛車を引いてアタリをかわすのが定跡です。飛車の引き場所は2通り。☗2六飛と☗2八飛の2択と言われています。今回例示した変化は☗2六飛にしました。☗2八飛と引くと、☖8六歩☗同歩☖同飛☗7八金としたときに、☖7六飛と7六の歩を取られるのがどう響くかというところ。これもこれで一局の将棋というのが個人の見解です。

☗2六飛以降は後手も飛車先の歩を突きます。☖8六歩☗同歩☖同飛と進んで、角の頭は☗7八金で守るのが絶対手。先手が2六に飛車を引いたことで、7六にある歩が取れなくなった後手は先手と同様、☖8二飛か☖8四飛のどちらかに飛車を引く変化です。どちらに引いても先手の次の手は☗8七歩と打って☖8六歩の垂れ歩の筋を防ぎます。

という訳で、6手目☖3二金の局面で☗2四歩と先手が飛車先の歩を突くのは相掛かり模様の将棋になり、力戦型の将棋になりそうな雰囲気です。個人的にはこの変化から一局の将棋を指すのも面白そうなのですが、神経を使う将棋になりそうです。ただ、手数が17手かけても歩と飛車以外ほとんどの駒が動いてないので、それだったら普通の相掛かり定跡を目指したほうがいいのかなと思います。最も、相掛かりも最近は定跡が変化しつつあるので何をもって普通なのかは分かりませんが…。

 さて話を戻して、5手目以降☗7六歩☖3二金の後の7手目は☗7七角と上がって☖8六歩からの歩交換を避けつつ角換わりを目指し、前述の角換わり定跡の手順を踏むことになります。 

 以上、「相掛かりと見せかけて角換わり」という手順が成立する流れを見てきました。ただ、初手☗2六歩☖8四歩☗2五歩☖8五歩から角換わりに進むのが現在の主流で確立しているのかというわけでもなく、初手☗2六歩☖8四歩☗7六歩☖8五歩という手順からの角換わり、また従来の☗7六歩☖8四歩から角換わりに進む将棋もあります。

 なぜプロ間で相掛かりの出だしと見せかけて角換わりの手順が増えているのか。その答えは、後手の雁木対策だそうです。書籍の内容紹介でも触れましたが、実は本書でも雁木に持ち込まれる変化が参考程度に書かれています。☗2五歩を早めに突かなかったことで☖4四歩と角道を止める手が成立し、雁木に持ち込まれるという手順をたどることになるそうです。それを防ぐには早めに☗2五歩を突くことで、☖4四歩を指せないようにするというわけです。となると、☗7六歩と角道を開ける手を省略して相掛かりと見せかける序盤4手の出だしから角換わりになるという理屈でしょうか。序盤の数手ですがかなり深い話ですね。

 

では、次の謎に迫ります。 

②なぜ、最近の角換わりは千日手模様になりやすいのか?

最近の角換わりは千日手になりやすいと聞きます。今期のタイトル戦での角換わりの千日手は2局。1局目は第77期名人戦七番勝負第1局☗佐藤天彦名人ー☖豊島将之二冠(いずれも肩書は当時)。この将棋は角換わりから現在大流行中の「☗4八金・2九飛」型の先後同型に進行。先手の佐藤名人が早い段階で☗4五桂と跳ね、桂損しながら角を敵陣に放ち馬を作ります。ここで豊島二冠が飛車と馬の追いかけっこの手筋に誘い、58手で千日手が成立。名人戦において、1日目の千日手は現在の2日制の制度になってから初めてのことでした。

2局目は第67期王座戦五番勝負第1局☗永瀬拓矢叡王ー☖斎藤慎太郎王座(いずれも肩書は当時)。こちらは角換わりから、お互いに早繰り銀の展開に。永瀬叡王が仕掛け、斎藤王座が継ぎ歩の筋で反撃します。斎藤王座は筋違い角で攻めの継続を試みますが、永瀬叡王は右銀を移動させ筋違い角を咎めます。しかし斎藤王座は角銀交換には応じなかったため、銀と角の追いかけっこが続き62手で千日手が成立しました。

 実は、ソフトの対局でも最近の角換わりの将棋から千日手になりやすいということが証明されていました。今回、角換わりと千日手の謎を探るうえでとあるブログに行きつきました。その記事では、floodgateの棋譜を踏まえながら前述の☗佐藤(天)ー☖豊島戦で用いられた角換わり腰掛け銀「☗4八金・2九飛」型の先後同型は千日手模様になりやすいことを紹介。その理由として、☗4五桂の速攻が成立しないためとあります。この記事自体は今から2年前に書かれたものですが、結びに「☗4八金・2九飛」型の将棋について「いかに千日手模様の将棋を上手く打開できるか。これにかかっている」とあります。

 そしてこの記事から2年経過した今、角換わり腰掛け銀「☗4八金・2九飛」型先後同型は最近の将棋の王道へと変わりました。プロ棋士はいまだこの形の結論が出ていないからこそ、熱くなるのかもしれません。

 

では、最後の謎に入ります。

横歩取りを無理矢理避けて角換わりにする手順は成立するか?

これはどういうことかと言いますと、実際に私の実戦から紹介します。初手からの流れは以下の通りです。

☗7六歩 ☖3四歩

☗2六歩 ☖8四歩

☗7八金 ☖8五歩

☗2五歩 ☖3二金

この局面を見て

横歩取りの出だしじゃないか」 

と思われた方も多いのではないかと思います。確かにここで次に☗2四歩と突けば横歩取りの変化に進みますが、ここで私は横歩取りの変化を嫌い注文を付けました。その手がこちら。

☗2二角成

なぜこの手を指したのかと言いますと、横歩取りのある戦法への変化が怖かったからです。それは、「☖4五角戦法」です。☖4五角戦法は横歩取りの後手番の戦法の一つで、先手が横歩を取った直後に後手が角を交換し、4五の地点に筋違いの角を放って飛車取りと先手陣を乱すのと両狙いで揺さぶるというものです。私はこの☖4五角戦法への対応に苦戦していたので横歩取りを避けたかったのですが、8手目☖3二金を見て嫌な流れを感じ手損覚悟の角交換を決行します。

その後は角換わり腰掛け銀の「☗4八金・2九飛」型の先後同型を目指しましたが、私の右辺の陣形が完全に完成していないうちに相手の仕掛けを許すことになります。

私はこの局面から☗2九飛と引き陣形を整備しましたが、☖8六歩と二の矢を刺され守勢に。その後の反撃もちぐはぐで、陣形を乱されて負けました。この将棋を振り返ってみると、どうも手損の代償をどこかで求めなくてはいけなかったが、陣形に不安を残すゆえに仕掛けの糸口を掴めなかったのが敗因ではなかったかと思います。または8手目☖3二金の局面で素直に☗2四歩と取りこみ、☖同歩☗同飛☖8六歩☗同歩☖同飛としたところで横歩を取らずに☗2八飛または☗2六飛と引いて相掛かり狙いの力戦に持ち込むという選択肢もありました。やはり、角交換の将棋は本局のような角換わりに限らず、角を交換した側が手損を代償に仕掛けを行わないと苦しいということが分かりました。

本局だけで結論を出すのは早計な気もしますが、横歩取りを無理矢理避ける角換わりの筋は、角交換による手損を代償に何かの戦果をあげないと不利になるということです。具体的には駒得、形がよくなるということなどです。

 

以上、私が抱く角換わりの3つの謎について探ってきました。ただ、今回は独自に検証して個人の見解を述べているにすぎない部分もあります。特に①の相掛かりの出だしからの角換わりについてと③の横歩取りを無理矢理避ける角換わりに関しては、おそらく読者の皆様の中にも様々なご意見があるかと思います。もし、「この局面ではこの手がいい」などあれば、コメントしていただけるとありがたいです。できる限り検証してみて、またこのブログでお話しできればと思います。

 

 さて話を今回紹介する書籍に戻ります。今回紹介した「角換わり 初段の常識」は、居飛車党の方、特にこれから角換わりを学びたい方はぜひ読んでいただきたい1冊です。タイトルに「常識」と書いてあるだけに、覚えておきたい手筋や悪手などが書いてありますのでぜひ読んで並べてみて感覚を味わってください。

この本を読んで将棋が好きになった、将棋の力が強くなったというお声をいただければこれほど嬉しいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで将棋が好きになる、将棋の力が強くなることを祈念いたします。なお、次回の書籍紹介は10/25(金)を予定しています。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。