新時代の矢倉を学ぶ | 将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

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「将棋大好き雁木師の将棋本探究」をリニューアルしたブログです。
主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんばんは。雁木師でございます。今日は書籍のご紹介をしようかと思います。今回は、矢倉の書籍をご紹介します。

 

 古くから愛され続け「将棋の純文学」とも呼ばれる矢倉ですが、最近はこれまでの定跡を覆す新手、新構想が次々と出てきています。私も本格的に将棋に取り組み始めた頃は矢倉から覚えましたが、そのころと現在を比較すると隔世の感があります。今日紹介する書籍は、新時代の矢倉に触れる書籍です。

 

「マイナビ将棋BOOKS

矢倉の新常識

をご紹介します。

 著者は真田圭一八段、マイナビ出版より今年3月に発売された商品です。ここで、著者の真田圭一八段についてご紹介します。

 真田八段は、1992年に四段昇段。第10期竜王戦(1997年度)でタイトル戦に挑戦されたご経験があります。その第10期竜王戦七番勝負第1局では、敵陣の一段目に金を打つ手を放ち、大きな反響を呼びました。1999~2003年まで、将棋連盟の理事を務められました。矢倉を得意としており、関連書籍も何冊か出されています。また、将棋連盟の野球部に所属されていることでも知られています。現在は、竜王戦は3組、順位戦はC級1組に在籍されています。

 奥様は、NHK杯の棋譜読み上げを長年務められた真田彩子女流二段です。旧姓は古河彩子さんで、旧姓のお名前でご記憶の方もいらっしゃるではないでしょうか。

 

 では、書籍の構成に移ります。本書はタイトルの通り、矢倉に特化した書籍です。5章構成で成り立っています。まずは、序章「矢倉超急戦、新時代の幕開け」と題して、矢倉5手目問題、矢倉中飛車、矢倉24手組、脇システム、矢倉版藤井システム(藤井流早囲いのことです)などを通して、後手急戦策誕生の背景を紐解きます。矢倉党の方には馴染みのあるフレーズが出てきますが、ここで「矢倉5手目問題」についてお話します。

 「矢倉5手目問題」は相矢倉を目指すうえで欠かせない手順において、5手目で2つの選択肢がありどちらが有力かという問題です。実際の局面を使って解説します。相矢倉を目指すうえでの初手からの指し手は以下の通りです。

☗7六歩 ☖8四歩 

☗6八銀 ☖3四歩

ここで2つの選択肢が先手に登場します。

(A)☗6六歩

 

(B)☗7七銀

 

最近は(3年ほど前からでしょうか)、(B)の☗7七銀が主流のようです。以前は(A)の☗6六歩が有力とされてきました。その理由は本書によれば、☗7七銀を保留することで後手の急戦策に対応するためとされていました。

 しかし、後手は居角左美濃から☖6五歩と先攻する作戦を決行します。この後手の作戦が優秀で、先手側も色々対策を考えたものの後手の攻勢を取れる展開の結論は変わりませんでした。よって、5手目は(B)☗7七銀を指すことが主流になったとされています。5手目☗7七銀に対して後手は、矢倉中飛車や5筋の位を攻める作戦で攻めていくという方法が本書では書かれています。

 以上が矢倉5手目問題をめぐる話です。細かい変化や棋譜などの詳しい話は本書に書かれていますので、気になる方はぜひお買い求めいただければと思います。また、矢倉対左美濃に関しては斎藤慎太郎王座が書籍を出されています。興味のある方は下記のリンクから書籍の詳細がありますのでこちらからチェックすることをお勧めします。

将棋情報局サイト:常識破りの新戦法 矢倉左美濃急戦 基本編

将棋情報局サイト:規格外の新戦法 矢倉左美濃急戦 最新編

 

 では、書籍の構成に話を戻します。全5章の詳細は、第1章と第2章は後手が早繰り銀の形で攻めてきた場合を先手が序盤に飛車先の歩を突かなかった局面(第1章)と突いた局面(第2章)に分けて解説しています。

 第3章は先手が☗2六歩と飛車先の歩を早く突いた「☗2六歩早突き型」に対し後手が米長流急戦矢倉で迎え撃つ構図を3つの節に分けて解説しています。最近のタイトル戦でも登場した「☖4三金左型」や矢倉中飛車の筋、右四間飛車への変化などが解説されています。「☖4三金左型」に関しては、後程タイトル戦でどんな局面が出てきたか見ていきます。

 第4章は「☖8五歩早突き型」。後手が早い段階で右の桂馬を活用する手順が出てきます。

 第5章は「先手の急戦矢倉」と題して先手の米長流とそれをめぐる後手の対策を4つの節に分けて紹介しています。そして、合間には「コラム」として「断捨離」と「対局中」の2つのお話が入っています。

 特徴としては、第5章が全体のページ数の5割弱を占めていることです。特に、第1節「先手の米長流」に関しては60ページほどを割いて細かく変化を解説されています。第1~4章は、後手番が急戦策で攻めてきた場合、どう対応するか。そして、第5章は先手番が米長流急戦矢倉できた場合、後手はどう対策するかという構成です。

 

 実際に読んでみた感想はというと、最近の将棋のトレンド「堅さよりバランス」と「主導権を握る」がポイントであること、盤面全体を見る力が必要であることが分かりました。私の将棋は本書を読み始めてから、再び矢倉を指そうと考えて将棋クエストや将棋ウォーズ、将棋倶楽部24でも試しているところです。特に、先手番で「☗6七金左型」をやってみたくて矢倉を指しているという感じです。ただ、後手番で矢倉を嫌っているので再び2手目☖8四歩を突いてみようかなとも思いました(最近は後手番だとほとんど2手目☖3四歩が多いです)。

 ではここで、今年のタイトル戦の矢倉から個人的に指したい「金左型」に注目した局面をご紹介します。まずはこちらから。

今期の王位戦七番勝負第3局☗豊島将之王位ー☖木村一基九段戦から、後手の木村九段の囲いが「金左型」の完成形です。後手の2三の地点を玉でカバーするという従来の「金右型」では考えられない発想です。☖3二玉の後は

☗4五歩 ☖同歩 

☗3五歩

から豊島王位が仕掛け、木村九段が駒を前進しながら受ける展開に。結果は木村九段が受けきって勝ちました。

 もう一つ「金左型」の形の局面をご紹介します。

第4期叡王戦七番勝負第3局☗永瀬拓矢七段ー☖高見泰地叡王(いずれも肩書は当時)から、「金左型」の先後同型です。どちらも下段飛車に構え、角の打ち込みのキズを消しています。私はこの将棋を指してみたいと密かに思い始めましたが、将棋は相手がいて成立するゲーム。私の経験では、なかなかこの局面が出ることはありません。

 そんな話はともかく、永瀬七段はこの局面から

☗4五歩 ☖同歩 

☗3五歩

と仕掛けます。先ほどの☗豊島ー☖木村戦との違いは、先手の玉形と互いに自玉側の端の位を詰めているところです。二段免状を取得して日が浅い私の個人的な見解ですが、同じ☗4五歩からの仕掛けでも前者の局面では後手持ち、後者の局面は先手を持ってまずまずというところかなというところです。前者はやはり先手の玉形が壁になっていて、終盤になった際にどこまでマイナスになるかが不安なところ。後者の場合は玉形が広いので先手の利を生かして仕掛けたいところです。

 ☗3五歩以降、高見叡王は☖4四銀と手順に銀を前進しましたが、永瀬七段は

☗3四歩 ☖同金 

☗2四歩 ☖同歩 

☗2五歩 ☖同歩

☗3六銀

と上手く右銀の活用に成功。その後金銀交換から後手の陣形を崩し、優位を築きます。その後は高見叡王は反撃しますが、上手くしのいだ永瀬七段が押しきって勝ちました。

 ここまで「金左」に着目して見てきましたが、違和感は否めなくとも構想がしっかり固まっていれば使えるという感じです。私が下段飛車を右玉や雁木の将棋などでよく使っているので、下段飛車に慣れていれば、違和感なく指せるかなというところです。

 

 本書の話に戻ります。将棋情報局サイトによれば本書は中級~有段者の方向けと紹介されています。矢倉初心者の方には、いろいろと戦法の名称が多いだけにいきなり本書を読むと読むと難しいかもしれません。おススメとしては、居飛車党の方、とりわけ矢倉党の方は一度目を通していただきたい一冊かと思います。私は現在対抗形を中心に指しているので、矢倉の可能性は低いですが、これを読んで学んだことを少しずつ実践できればと思います。

 

 この本を読んで将棋が好きになった、将棋の力がついたというお声をいただければこれほど嬉しいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで、将棋を好きになる、将棋が強くなることを祈念して今日は終了したいと思います。なお、次回の書籍紹介は9/6(金)を予定しています。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。