民族と宗教からわかる世界史 | 空想俳人日記

民族と宗教からわかる世界史

 ボクって、高校の時、世界史を取らずに日本史を取ったんよねえ。世界史、苦手やったんよねえ。
 でも、この間、世界史というよりも、世界の戦争・紛争・経済史を地政学で紐解く『地政学でよくわかる!世界の戦争・紛争・経済史』っての読んだら、よく分かったし面白かったのよね。で、その本を監修した神野正史氏がこりゃまた監修している『民族と宗教からわかる世界史』、つまり、この本を見つけたのよ。ペラペラと立ち読みして、「あ、現代人にもやっぱネアンデルタール人の遺伝子がちょびっと残ってると書いてある」とな。あ、読も! なんせ、この監修の方のお名前「正史」、正しい歴史を教えてくれそうだもんね。きっと、以前読んだ「民族でわかる世界史」の復習にもなるのじゃないかな。

民族と宗教からわかる世界史01 民族と宗教からわかる世界史02

 ということで、巻頭はロシアとウクライナの話。プーチンは同じスラブ民族と言ってるが、この本を読めば違うことがわかるよ。というか、だいたい、ロシアもこれまでの指導者は異民族なり。そして、ウクライナは多民族国なり。
 あと「ウクライナのネオナチがロシア人を迫害している」とプーチンはほざいているそうだが、ロシアの歴史の中で、スターリンの圧政下、ウクライナのコルホーズに過剰な量の穀物徴収を課した。人々の日々の食料まで奪い、ウクライナは飢餓で多くの人を失くしている。その時、スターリンよりもナチスドイツを支持した経緯がある、それを言っているのだが、悪いのはスターリンであり、プーチンなのだね。
 プーチンは、この本を読んで、ちゃんと世界史、自国の歴史を勉強すべし。

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序章 人種と民族・宗教の誕生
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 ここで冒頭のネアンデルタール人のDNAの話が出てくる。ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスに滅ぼされたのだが、両者は交雑もしていた事実が判明している。ゆえに、ネアンデルタール人の遺伝子が混じっているのだ。この遺伝子を大事にしたい。
 また、人種は大きく黒人・白人・黄色人に大別されるが、祖先は、みなアフリカの黒人であるのだ。白人も黄色人もアフリカから地球全体へ広がるとともに環境適応でそうなったのである。
 宗教は人知を超えたもの(死の世界など)にたいし、お告げを求めて神を創造し、多くの人で共有し始めた。もともと、ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も同じ神だが、教えを説く者によって、その聖典が異なるものとなった。そして、それらと異なるのは日本で、日本は多神教の国、八百万の神の国。ただ、大陸などからの伝来で仏教やキリスト教など、多くの宗教が混在する。それゆえだと思うが、無神論者も多いのではないかな。

第1章 世界を席巻したヨーロッパの民族
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 地中海沿岸を取り巻くように建設されたローマ帝国。これはラテン民族だ。1453年にビザンツ帝国が滅亡するまでの約2200年間ヨーロッパ世界に君臨し現代の法制度に多大な影響を与えた。これは凄い。ところで、中南米にラテン音楽があるが、これは15世紀以降の大航海時代にスペイン(ラテン民族である)が南アメリカ大陸を植民地支配し言語や文化を広めたことによる。ゆえにラテン・アメリカと呼ぶようになったんだね。
 6世紀以降に東ヨーロッパに広がったスラヴ民族。実は、このスラヴの語源は本来「言語」という意味だが、奴隷を意味する「Slavs」と表記する。955年ドイツのオットー大帝がマジャール人を討った時その地にいたスラヴ人を奴隷として売ったためで、特に美女が多かったので、多くが性奴隷として売買された。
 375年、主に東ヨーロッパに住んでいたゲルマン民族はフン族に圧迫され西方へ移動し始めた。これがボクが唯一世界史の記憶に残っている(ちと大袈裟かな)ゲルマン民族大移動だよ。ただ当時のフランスにいたガリア人にとっては侵入なので、フランスでは「ゲルマン民族大侵入」だげな。
 これも世界史の記憶として残っている十字軍。1095年、キリスト教徒に聖地エルサレムを奪還せよで始まった十字軍は、一時的にエルサレム王国を建国したがイスラム勢力(アラブ勢力)の反撃にあって頓挫。だが、これによって逆に東西交流が活発化。
 宗教改革のマルティン・ルター、これも帰国にあるぞ。なんだ、世界史結構勉強してるやないけ。1515年ローマ教皇レオ十世がメディチ家出身でもあり借金をしてまでも贅沢暮らし。その借金返済のため、勝った人は現生の罪が許され天国へ行けるとして贖宥状を販売した。その腐敗ぶりに反発したのがマルティンなんだ。「抗議する人々」という意味の「プロテスタント」がここから誕生する。カトリック内部でも教皇庁や教会のあり方を改めようとする動き「対抗宗教改革」が起こる。そうして、世界への布教活動が広がり、イスラムを凌いで世界最大となる。イエズス会のフランシスコ・ザビエル1549年に初めて日本へキリスト教をもたらした人だね。
 ちなみに、カトリック、プロテスタントと並ぶキリスト教三大教派に東方正教会(ギリシャ正教)があるが、11世紀にローマ教会とコンスタンティノープル教会が聖像禁止令をめぐって対立し分裂して生まれた。「正教会」の「正」は、「自分たちが正しい本流のキリスト教だ」という手前味噌なところから名がついている。

第2章 アジアの民族絵巻
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 まずは日本人のルーツから。二重構造説よりも三重構造説のがピンとくるので。第一段階は旧石器から縄文中期にかけてユーラシア大陸から狩猟採集民が渡来。第二段階は縄文晩期に大陸沿岸の漁労民が渡来。第三段階は弥生以降に朝鮮半島の方から稲作文化を持った人々が渡来。何度も集団的な移住が繰り返され、もともといた原日本人は辺境に追いやられ、かつ混血を繰り返し日本人が形成された。ちなみに、現在日本政府はアイヌのみを日本の先住民族と認めており、琉球民族を沖縄の先住民とみなしていないそうだ。なんで???
 漢民族について。中国での前漢200年、後漢200年で、400年も続いた王朝で、中国のアイデンティでもあるのだが、実は漢民族による中国支配は、漢と明くらいしかないそうだ。その他の王朝は異民族による。そんな漢民族が中国の中心でいられるのは
18世紀終わりには2億人という圧倒的な人口と漢字だ、と。政治の中枢を担う官僚になるためのテスト・科挙では、どんな皇帝の治世でも漢文のスキルが必須。そんなこともあって中国は圧倒的な漢民族と少数民族だが純粋な漢民族は混血によって、もはやいない。
 だが、漢民族としてのプライドは高く、幾多の異民族からの圧迫を受けてきたことにより、その民族問題から、今も力による少数民族支配が続いている。特に、ウイグルとチベットに対する迫害は酷い。ダライ・ラマ14世インドに亡命したのも、チベット侵攻と強制的併合ゆえにだ。
 朝鮮半島は、1世紀中ごろ馬韓、弁韓、辰韓という三韓が形成され、その後、百済、任那、新羅となる。が、あれえ、地図には、任那が伽耶となってるぞ。ボクは、任那で習った。大和朝廷が任那を統治していたと。でも、朝鮮では、「伽耶」表記らしい。おそらく、大和朝廷が統治というのは、日本書紀からのことなので真偽が難しいかな。今は日本でも「伽耶」表記のようだね。
 モンゴルは凄いね。13世紀初頭に登場したテムジン(後のチンギス・ハン)がモンゴル帝国を建国。マルコ・ポーロで有名なシルクロードがユーラシア大陸を東西に結んだのねえ。そうそう、鎌倉時代中期に2度も日本まで侵攻してきたもんね。元寇だね。1度目が文永の役、2度目が弘安の役。
 多民族・多宗教・多言語のインド。特に面白いのが、カースト制度で有名なヒンドゥー教(バラモン教)を否定して生まれたのがブッダによる仏教なのだが、結局はインドでは育たず、アジアのその他の国に広まったんだね。日本も、その一つだね。
 でも、インド哲学の輪廻思想、輪廻転生は仏教の教えから来ていると思ったら、宋じゃなく、もうその前のバラモン教からなんだよね。
 ボクは、あくまで個人的意見だけど、キリスト教よりも、ヒンドゥー教や仏教の方が、宗教としては、より人間らしい哲学だと思う。もちろん、宗教や思想は自由なのだが、どうもキリスト教もイスラム教も、ある意味、自己を探求する哲学からは程遠いような気がするのだ。
 この章の終わりのコラムに「台湾独立問題」が書かれており、ボクは、メチャ重要なことだと思っているが、あえて、ここでの文章化は控えさせてもらうよ。
 アジアは、このくらいにして。

第3章 超大国アメリカの民族と宗教
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 アメリカは、「民族でわかる世界史」でも学んだが、先住民族(アメリカ・インディアン。なぜインディアンかと言えば、大航海時代にコロンブスが新大陸発見した際インドだと思ったことによる)がいる土地にヨーロッパから侵入した典型的な外来種が牛耳ってしまった国である。
 特にイギリスは、1607年から1723年に13の植民地を北米大陸東部大西洋岸に建設した。母国での迫害から逃れるようにしてプロテスタントの急進派ピューリタン(清教徒)が特に多かった。この西海岸に住み着いたピルグリム・ファーザーズ祖とする人たちが後にWASPと呼ばれることになる。WASPとは、ホワイト・アングロサクソン・プロテスタントのことだ。彼らはアメリカの中枢を担うようになるが、歴代アメリカ大統領は、ほぼWASP出身である。彼らは異教徒であるインディアンを迫害、虐殺することも正当化した。
 ではインディアンの宗教は・・・。彼らは精霊信仰、大地の恵みに感謝し、あまたの政令を崇拝しながら文化を守ってきた。自然界には多くの精霊が存在し、その精霊とは人間と神との中間に存在する「カチーナ」と呼ばれ、動物、植物、鉱物から雲や風、星などありとあらゆるものにカチーナは宿る。これ、アイヌのカムイに似てないかい。どこでも先住民を踏みにじって侵入する外来種は、宗教的にも先住民のものよりも劣っていると、ボクは考える。キリスト然り、アッラー然り。
 さて、アメリカで、もう一つ大事なのは、アフリカから大量の黒人を奴隷としてアメリカに連れ出している。「民族でわかる世界史」にも、その奴隷船の凄まじさが書かれていたが、大西洋を「白い積み荷」と「黒い積み荷」が行き来した。黒い積み荷は奴隷であり、白い積み荷は砂糖である。白い積み荷には、後に綿花が加わる。
 この奴隷貿易はアメリカがイギリスから独立した後も続く。誕生間もないアメリカは黒人奴隷を安価な労働力として酷使することで成長してきたのだ。キング牧師による非暴力の抵抗運動が1950年から1960年にかけて行われ広い支持を得、ケネディ暗殺後の1964年に公民権法は成立したが、黒人への社会的不平等は決して解消したとは言えない。
 アメリカとはそんな人種と宗教の坩堝だ。世界最強の国と言われる陰には、たくさんの迫害や犠牲が孕んだ国でもある。

第4章 ユダヤとムスリム終わらない中東問題
民族と宗教からわかる世界史08
 中東問題の焦点は、パレスチナにあり。歴史を遡れば、英国の三枚舌のせいであることを、以前読んだ「中東問題再考」で学んだ。ここでは二枚舌に絞られているが。
《1914年に始まった第一次世界大戦に、オスマン帝国は同盟国側として参戦した。その同盟国と戦っていたイギリスは、オスマン帝国領だったパレスチナに攻勢をかけるとともにオスマン帝国に支配されていたパレスチナやアラビア半島のアラブ民族の独立運動を支援した。》
 これが一枚目の舌。
《同時にイギリスは戦費の調達のためにユダヤ系資本の援助を必要としており、自分たちの国を持つことを悲願していたユダヤ民族に、パレスチナの地にユダヤ民族国家を建設することを約束してしまった。》
 これが二枚目の舌だ。
 では、何故にユダヤ人は世界を彷徨える人々になったのか。もともと多神教のローマ人と一神教のユダヤ人相性が悪く、ユダヤ人たちはローマ帝国に反乱を起こしていたが敗れ弾圧を受けることになり、135年にはローマ帝国はユダヤ人をイスラエルの地から追放し、属州ユダヤを属州シリア・パレスチナと改称した。そうして追放されたユダヤ人は国を持たない民族として各地に離散、活路を見出すため、教育と金融業に力を注いでいく。
 ところで、だいたい、7世紀にアラビア民族出身の商人ムハンマドが開いたイスラム教は、唯一絶対神アッラーを信仰しアッラーの前では全ての人間が平等であるとしている、このアッラーは、ユダヤ教、キリスト教の神であるヤハウェと同一なのだ。3つの宗教を比較してみたい。
●初期の予言者は、モーゼ(ユダヤ教)、イエス(キリスト教)、ムハンマド(イスラム教。
●発生時期は、ユダヤ教BC6世紀、キリスト教1世紀、イスラム教(7世紀)
●信者の数は、約1400万人(ユダヤ教)、約22億人(キリスト教)、約16億人(イスラム教)
●聖地は、エルサレム(ユダヤ教)、エルサレム(キリスト教)、メッカ・メディナ・エルサレム(イスラム教)
●聖典は、ユダヤ教『旧約聖書』、キリスト教『新約聖書』、イスラム教『コーラン』
●礼拝施設は、シナゴーグ(ユダヤ教)、協会(キリスト教)、モスク(イスラム教)
 以上、聖地が同じなのは当たり前で、神は、同じヤハウェだからだ。だから、同じ神を崇めている者同士が戦うなんて、道理に合わないはずだ。だれも神が「嘆いておられる」とは言わないのかねエ。
 ユダヤ人が旧約聖書にあるモーゼの十戒での大海が二つに割れ、聖地へ。なので、エルサレムにイスラエル建国を、同じ神を崇める者同士なら、理解できないのかねエ。「アッラーの前では全ての人間が平等である」というイスラムでも、アッラーはヤハウェのはずだから、同じ神を崇める者同士平等でなくちゃいかんだろ。ユダヤ教信者よ、キリスト教信者よ、イスラム教信者よ、ヤハウェの前で皆なかよくしなさい。
 ボクはそう思う。ま、日本でも、同じ仏教信者の宗派が違うと・・・。特に、他力本願(阿弥陀の力を借りて成仏すること)と自力本願(結果だけではなく過程も重視し自分だけで願いをかなえようとする気持ち)、なんで異なるんだろうねえ。ただ、日本は、幸いにもパレスチナ問題のような宗教による大規模な争いは少なくとも現代にはない。
 はい、この章は、これでおしまい。

第5章 世界各地の諸民族と宗教
民族と宗教からわかる世界史09
 人類が産声を上げたアフリカ大陸では大帝国は出現しなかった。そして19世紀にはアフリカはエチオピアを除いて殆どがヨーロッパ諸国の植民地になっている。その後、国として独立するも、植民地時代の国境線が国家とあり、国々には多くの民族と宗教が入り混じる。かつての国家間の戦争よりも、現代では民族間での紛争が多い。ルワンダの1994年のツチ族とフツ族による紛争と大虐殺は、100日間行われ、80万人以上が虐殺。多くの女性が性暴力の犠牲になり、それにより2万人以上の子どもが生まれたという。
 中南米では、先住民によって高度な文明が築かれていた。インカ帝国、マヤ文明、アステカ王国。1492年、スペイン王によって派遣されたコロンブス艦隊が西インド諸島に。これ以降、スペインやポルトガルが進出、インカ帝国やアステカ王国を滅ぼした。彼らが持ち込んだペストや天然痘に先住民は免疫がなく人口を減らす。植民地での労働力は先住民だったが人口減少によりアフリカから黒人を輸入するようになる。北アメリカの歴史と同じような道を辿るのは、ヨーロッパの植民地政策のためだ。
 オーストラリアには先住民アポリジニが住んでいた。イギリスは国内に入りきらない受刑者をアメリカに流していたが、アメリカが独立したたためオーストラリアへ。そして、先住民を狩りの対象とした。「アポリジニ狩り」と中南米と同様に白人が持ち込んだ伝染病で人口激減。人手が足りないので1830年代から中国労働者を受け入れたが、1901年に移民制限法ができる。これは白人移民は受け入れアジア系有色人種を排除する「白豪主義」だ。
 カナダ・アラスカのイヌイットは、更新世最終氷期、ユーラシアから北米へ渡ってきただろうと。イヌイットたちは、炭水化物をとらず、魚類やアザラシを生で食す。野菜は取らない。何かで読んだが、生肉を食べるということは、野菜などに含まれているビタミンなども自動的に摂取されるのだそうだ。ちなみに、「エスキモー」とは「生肉を食べる人」という意で非文明的、差別用語、そう言われるようになり、今ではエスキモーでなく「イヌイット」と呼ぶそうだ。
 国家を持たないクルド民族の悲劇、特に、最近では1988年イラクの独裁者サダム・フセイン大統領が自国内クルド民族がイランに協力したとして、ハラブジャのクルド民族居住区で化学兵器を使用し、犠牲者は3000人とも5000人とも。この事件をイランの仕業としたイラク政府に対し、欧米諸国はイランにおけるイスラム原理主義拡大を恐れ、イラクを支持。クルド民族の死は黙殺された。
 アフガニスタンは、19世紀に何度もロシアとイギリスの対峙の場となっている。南下したいロシア、植民地インドを維持したいイギリス。アフガニスタン戦争は1838年(イギリスが唯一敗北した戦争)、1880年、1919年。その後、1926年、アフガンはやっと独立。ただ、その後も大国の介入を受け、1979年にも、ロシアが軍事侵攻、アフガンは抵抗した背後には冷戦で対抗していたアメリカが。これを制したのがタリバンだ。タリバンが他民族との抗争を勝ち抜けてきたのはパキスタンの援助が大きい。その庇護を受けているのがアルカイダだ。アルカイダが9.11同時多発テロを起こした時点ではタリバンはアフガン全土を支配出来ていたわけではない。北にタジク人・ハザーラ人・ウズベク」人による北部同盟があり、アメリカら有志の連合諸国からの支援でタリバンを壊滅させたのだが、2021年、アメリカが退いた隙にタリバンは再び政権の座についてしまった。残念である。

 最後のコラム「民族紛争はなぜ終わらないのか」に、こう書かれている。
《ある民族は、自分たちが貧乏くじを引かされていると思い、他の民族に対抗意識を持つようになった。》
 ようは、人々は国という単位でのアイデンティティよりも民族としてのアイデンティテイが強いのだ。特に、西洋諸国が植民地時代に線引きした国境は民族の分裂と多民族混入を招いた。自分たちは、この国がアイデンティテイではなく、もともとの民族のアイデンティテイが根強いのだ。大陸では、そんな民族と宗教に対してのアイデンティテイが国民意識よりも強いから、紛争は続くのだ。
 おかげさまで、日本は、第2章で語ったように、古代には多くの大陸系移民が混じったとはいえ、多民族でなく、単一民族の意識が高い(アイヌや琉球の先住の人、ごめんね)。しかも、戦前の大陸や南方諸島の侵略は敗戦のおかげで日本領土ではなくなり、島国だけである日本がボクたち日本人の棲む場所だ。民族間のトラブルや宗教上での争いもない、それが日本だ、幸いかな。ただ、逆に、近頃「寄らば大樹の陰」の国民が多くなり、自由に選ぶ選択肢もどんどんなくなり、いつしかナショナリズム(全体主義)が日本を形成しつつあるのも間違いない。ヨシタケシンスケ氏も『思わず考えちゃう』の中の「ボクはあやつり人形」で選択肢が狭いほどいい、とか、戦争に行って上官に敵を殺しなさい言われると命令をきれいに遂行するって…。それじゃエルサレムのアイヒマン(このことについては、スーザン・ソンタグ『反解釈』に書かれてる「『神の代理人』をめぐって」を読んでね。あと、ハンナ・アレント『責任と判断』も読んで)になっちまうよ。でも、自分の考えで選択することができない、そんな日本人が増えているんじゃないかな。そんなとき、ボクたち日本人は、過去の歴史、世界史の中での日本の第二次世界大戦前や戦中を振り返り、反省しつつ、二度と同じ過ちを繰り返してはいけないこと、全ての人が肝に銘じて考えよう、と思う。

 このように、世界史を学ぶことがいかに大事か。つまり、世界史を学ぶとは、「過去の過ちを二度と繰り返さない」ための学習であり、反省なのである。そういう意味からしても、これまでの指導者たちは、歴史を振り返っても学習できていない人が多い。その典型が現代のプーチンだ。
 同じ過ちを犯さないために歴史の学習はある。そこには、歴史上に名前が上がらない無名の人々の多くの犠牲がある(歴史的に活躍した人ほど犠牲者を多く出していると言っても過言ではない)。それでも、同じ過ちを犯してしまうとすれば、ホモ・サピエンス(知恵のある人間)は、地球上の生物の中で最も愚かな生き物だ、ということだ。


民族と宗教からわかる世界史 posted by (C)shisyun


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