ゼロから分かるカムイ入門 | 空想俳人日記

ゼロから分かるカムイ入門

 これまでに、時空旅人「今こそ知りたいアイヌ」100分de名著 知里幸恵『アイヌ神謡集』アイヌと縄文知里幸惠『アイヌ神謡集』と読んで来たのだが、復習の意味も兼ねて、この「ゼロから分かるカムイ入門」を読むことにした。

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序章〇アイヌ民族と北海道の歴史

 自然と共生してその恵みを享受する、そんなアイヌ民族の生活の根源を改めて認識する。そして、生きていく上で欠かすことのできないものや人知を超えたものを「カムイ(神威)として敬ってきた。それは、木漏れ日やせせらぎなど、その瞬時に一度しかないものもだ。
 江戸幕府や明治維新、日本の戦争とのかかわりは、第1章以降で学ぶ。

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第1章〇古代の蝦夷とアイヌの文化

 本州が弥生時代に入っても、アイヌでは稲作が必要でない故に、続縄文時代に入る。オホーツク文化と融合し擦文時代からアイヌの時代へ。以前、アイヌと縄文で学んだが、縄文時代は、自然の猛威にうちひしがれ、呪術に支配されていた蒙昧な社会、祭りや土器の装飾などに時間を費やし、生産力の拡大に向かわない停滞した社会なのではなく、「自然との共生」「持続性」を目指した時代、停滞でなく、サステナブルな社会であり、人間と人間以外が共生できていた時代なのだ。アイヌ文化とは、そういうサステナブルな社会そのものなのだ。
 そこへ和人が攻め入る蝦夷征伐、774年から811年まで続く「三十八年戦争」を忘れてはならない。征夷大将軍として三十八年戦争に決着をつけたのは、あの坂上田村麻呂だ。彼は、蝦夷の指導者である阿弖流為(アテルイ)と和解しようとするが、朝廷はこれを認めず、阿弖流為を処刑してしまう。

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第2章〇アイヌの発展と和人の進出

 鎌倉時代から南北朝時代へ入ると、津軽安東氏による蝦夷進出。交易が確立する。それは双方が無言で中立地に品物を置き、相手が満足するとそれを持ち帰り、取引が成立するという「沈黙交易」だ。アイヌ人は、自給自足が基本で、ほんのわずか、それに交易のための狩猟採集をしていたのだ。
 チンギス・ハンの孫フビライ・ハンが1279年、宋を滅ぼし、国号を元に改め、樺太にも勢力を伸ばし、アイヌを攻撃するようになった。しかし、1281年に日本上陸を試みた文禄・弘安の役は日本側の勝利となり、樺太アイヌへの攻撃を中止せざるを得なかった。
 1457年に和人の鍛冶屋とアイヌの間に起きた口論がきっかけで、道南居住のアイヌ人は首長のコシャマインを中心に団結、安東氏の支配を打破しようとする(コシャマインの戦い)が、花沢館主の蠣崎季繁家臣、武田信広に討たれ、勝利した武田は婿養子となって蠣崎の姓を名乗り、勝山館を築城。日本最北の戦国大名へ。
 この章で大事なのは、完全自給自足と交易のための経済活動を両立させた「アイヌ・エコシステム」だ。アイヌは自分たちでは作れない生産物を和人との交易で入手し、対価として日々の食料を交換するが、自分たちの生活そのものを和人に依存すのではなかった。これこそ、現代社会における国交の本来のあり方ではないだろうか。乗っ取り乗っ取られ、支配・隷属する、現代社会の国際感覚を、この「アイヌ・エコシステム」から学び直すべきではなかろうか。

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第3章〇江戸幕府と蝦夷地

 第2章での蠣崎氏は、松前氏となり、江戸幕府に置いて、松前藩の藩主となる。この松前藩との交易が始まると、アイヌ文化の理想が壊されていく。和人商人による大規模なアイヌ人の挑発、自給自足の範囲を逸脱するサケ漁の強制、アイヌをまるで和人の半奴隷的扱いをするようになる。
 これに不満を募らせ、1969年、東蝦夷地のシブチャリの首長シャクシャインが蜂起(シャクシャインの戦い)。他部族が幕府に協力するなど、シャクシャイン軍は劣勢となり、和睦の途上、シャクシャインは松前藩の手で暗殺された。コシャマインの時といい、これといい、コメを主食とする和人は血の気が多いのではないか。
 そして、江戸中期、アイヌ民族はロシアの南下に直面する。ほら出た。ロシアの南下政策。この前読んだ「地政学でよくわかる! 世界の戦争・紛争・経済史」で知ったが、不凍港欲しさに南下ばかりするロシア。ロシアの歴史は、南下侵略の歴史だ。「ロシア南下バカ」とネーミングしてもいいくらいだ。この時だけじゃなく、あとあと、スターリンも南下する。「南下ロシア馬鹿」である。
 そして、この章の最後は、戊辰戦争で締めくくられる。幻の蝦夷共和国。そう榎本武揚。あの安部公房氏が珍しく歴史小説を書いてるが、「榎本武揚」なのだ。彼は、あやしいぞ。なぜって、幕府の最後の砦として、五稜郭に立てこもり蝦夷共和国をを作ろうとするが失敗。そんな人間は、その後、新政府に大きくかかわる。おかしかねえ?
 それはともかく、これで、アイヌの棲む北国も日本として日本全土の統一がなされた。

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第4章〇「北海道」の誕生

 ロシア南下に対する富国強兵策、開拓使と屯田兵。そして計画都市「札幌」の創設。ここで札幌農学校とクラーク博士が登場するんだね。
 北海道がどんどん近代化する中、アイヌは文明開化になじめなかったね。だいたい、彼らはずっと縄文以来の狩猟採集社会を継続しておるんよ。
 そして、1899年「北海道旧土人保護法」を。アイヌ学校の各地に。こうしてアイヌ文化は、どんどん衰退していくのね。
 あと、1905年に日露戦争で日本が勝利すると、南樺太が日本の領土に。樺太に住んでたニヴフとウィルタという少数民族が打撃を受けた。ロシアと日本で北と南に樺太を分割するな。先住民族たちは、そうした西洋諸国の自分勝手なやり方で、みんな分断されてきているのだ。先進国のやることではない。ガキのやることだ。

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第5章〇日露の対立と北海道

 前章でも語られておるが、1905年の日露戦争の前後の北海道の歴史が、ここでは、細かく記述されている。ロシアの南下に対し、国防のために富国強兵を強めていく日本。そんな中、先住民族たちは、変容を強いられていく。
 今も続く国同士の陣取り合戦、地図の塗り替え。これは、遊びなら分かるが、本来、人間のすることではない。いくら生き物の世界が弱肉強食とはいえ、知恵あるものなら共生を目指すべきであろう。支配・隷属というヒエラルキを作ることは、けっしてあってはならないのだが。子どもたちのいじめと、何ら変わりがないのではないか。
 この章では、1917年の第一次世界大戦、ロシアのレーニンを指導者とする共産主義政権誕生と日本のシベリア出兵、尼港事件までが語られている。

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第6章〇アジア・太平洋戦争と北海道

 1939年、満州国とソ連の国境線ノモンハンで関東軍とソ連極東兵力が激突。北海道で編成された第七師団が関東軍の指揮下に入っていた。また第七師団隷下の歩兵第二十八連隊より一木清直大佐を指揮官とする一木支隊を編成、ミッドウェー島の上陸を目論むが失敗。ガダルカナルに連合軍上陸した際、この一木支隊をガダルカナルに投入するが敗退。
 と、何故か、北海道の第七師団が戦線へよく送り込まれてるのだ。そして、ボクは、この戦いを知らなんだが、アリューシャン列島のアッツ島とキスカ島を北海支隊が占領した。アッツ島の戦いで初めて「玉砕」という言葉が使われ、この言葉は、以降、常套文句になるのだが、アッツ島での非本兵の戦いは「万歳攻撃」とも言うそうだ。なんじゃそれ。ちなみに、アッツ島は、日本名で熱田島と書くそうだ。なんで熱田なんだ。で、ここでの玉砕を繰り返しちゃいけないということで、同じアリューシャンのキスカ島(鳴神島と書く)から撤退する決意をするのだが、この本でなく他で調べたのだが、この撤退作戦が「パーフェクトゲーム」と呼ばれている。それだけ、困難な撤退に対し、幸運の女神が霧を巻き起こし、24時間内に何千名も撤退させることに成功したというからだそうな。アメリカ兵が上陸した際には日本兵は独りとしていなかっただけでなく、そこには「ペスト療養所」のカンバンが。これはジョークなのだが、アメリカ兵は誰も笑えなくて、いつペストにかかるか怯えたそうだ。実は、この話、日本を愛し日本文学を世界へ紹介し日本国籍も取得したドナルド・キーン氏が、そのキスカ島へ上陸した一人だったのである(これも、この本には書いてない)。ボクは、安部公房ファンなので、以前から友達づきあいをしていたドナルド・キーン氏のことを知っていた。キーン氏は、三島由紀夫も友達だった。
 おそらく、彼が後々、日本と深くかかわることになる最初のかかわりが、このアッツ島・キスカ島ではなかろうか。
 その後、サイパン島陥落、レイテ沖海戦、硫黄島陥落。硫黄島については、クリントイーストウッド監督が描く『硫黄島からの手紙』が素晴らしい。
 そして、1945年6月の沖縄戦。ここでも、北海道の連隊が。沖縄戦での戦死者は、沖縄出身者に次いで北海道出身者が多い。1945年7月の北海道空襲。
 1945年8月8日、米軍による広島原爆投下の翌日、日ソ中立条約を破ってソ連は宣戦布告。スターリンは北海道まで占領しよう、いや、東北までも、そんな計画だったそうな。さらには、ソ連は、ポツダム宣言で敗戦となった日本に対し、終戦以降もどんどん兵を侵攻させている。8月23日までソ連軍の進撃を受けているのだ。ソ連は、どうも大人のお約束ができない国のようだ。結果、樺太・千島は乗っ取られたが、北海道は死守できたのだ。
 日本も日本だ。朝鮮半島から大陸へ、満州国を作りながら、東南アジアや太平洋へ、無理に決まっている。結果、本土決戦などという、これは、もう既に負け戦だと分かってての自殺行為だ。そんな太平洋戦争の教訓を戦後の日本人は、きちんと認識しなければならない。そして、そこには、先住民族であるアイヌ人や琉球人も犠牲になっているのだ。

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第7章〇戦後の北海道とアイヌの歴史

 最終章は、戦後の北海道とアイヌの歴史。でも、この章は、ちょっと力不足かなあ。アイヌ新法や民族共生象徴空間ウポポイ、国立アイヌ民族博物館のことも書かれているが、残念かな、知里幸恵『アイヌ神謡集』のことには触れられていない。
 また、一時期、差別を避けて、アイヌ人の血を隠し通した人々の話も書かれていない。残念な終章ではある。

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 ただ、この本は、きちんとアイヌと和人の歴史を現代まで易しく紐解いてくれる。これが、多くの人に、和人とは違うアイヌならではの歩みが伝わるなら嬉しい。
 ボクは、先にも述べたが、今こそ、世界に向けて、世界が共生して生きていくためには、アイヌ民族の文化を世界に発信すべきではないか、そう思う。人の土地に土足で踏み入り、陣地として獲得するような国家がいまだ存在することがおかしい(ロシアにはレッドカードを出すべきだ。そのうち中国が滅ぶのでロシアは中国を手に入れなさい。これ、『地政学でよくわかる! 世界の戦争・紛争・経済史』に書いてあるから)。自らの領地の中で自給自足し、出来ない部分は、共生という名のもとの交易を国同士で行っていく、支配や隷属もなしに。このアイヌ民族の文化と精神こそ、世界の未来ではなかろうか。アメリカにもロシアにも未来の姿はない。何故なら、自然と全ての生き物と共生していくアイヌの思想がないからだ。私たちは、今全世界的に、アイヌの生き方を学ぶべきだと思う。


ゼロから分かるカムイ入門 posted by (C)shisyun


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