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※管理人Shinは知財保護において個人による「特許」のようなものを好まず、「全公開」を旨とします。(巻末詳細)
それはSONYから学びました。
明珍火箸(みょうちんひばし)によるマイクロホン試験
SONYでは1950年代、C-37の時代からC800Gの現代に至るまで品質管理の手段として用いられていることは知っていましたが、この際思い切ってこれを入手しました。
この骨董品的姿には驚いたが、きっと何かが見えるだろう。
(明珍火箸)
「マイクの音響試験」は、とどのつまり測定値など単に参考ファクターにすぎない。
物理特性による最終判断などあり得ず、マイクロホンの性能判断はそこから先こそが重要です。
またマイクロホンの音決めは「聴感覚」以外にあり得ません。
SONYでは60年以上前からこの一点に着目して独自の評価法を切り開いていたのです。
限りなく周回遅れのローテクは今の「ハイテク」より新しいかも
平安時代からの甲冑製造技術が元となった「純鉄」「和鐵」さらに「玉はがね」の鍛造火箸、明珍家によってのみその歴史が紡がれています。
室町時代、千利休の依頼で火箸を作ったのがはじまりといわれています。
この「明珍火箸」は糸で吊られた二本が触れ合うと「チーン」と和鐵独特のどこまでも澄んだ音が響き、二本の火箸の上方にかけて「うなり」とともに、それはまさに楽器そのもの。
2本の火箸から発する音と、うなり音が余韻となっていつまでも聴こえるという素晴らしい発音体です。
SONYの発表より
不鮮明なので下記に書き出します 「火箸が変えた世界の音色。」
昭和は私たちの耳にいろいろな声を残しました。「前畑ガンバレ」「玉音放送」「東京五輪開会式」「ゴジラの快球」「ビートルズ来日」・・・実はその「声」が東京五輪を境に大きく変化しているのです。(聖火台に火が点りました。燃える、燃える、燃える)あの名セリフが昭和39年。
この時代以降、放送用国産コンデンサーマイクが普及します。先鞭を付けたのがソニーのC-37A。昭和29年にデビュー。外国製品一辺倒だったマイクの世界に革命をもたらしました。
世界のミュージシャンにC-37Aファンが続出したのです。
そして、世界で初めてトランジスタ化が図られたC-38。放送のやりかたを変えたタイピン型・超小型エレクトレットコンデンサーマイクECM50と世界に先駆ける最先端マイクの出現で、「マイクはソニー」という時代が到来します。 さてそのソニーの技術陣が音質検査に使うのは、2本の火箸。それも由緒正しい明珍火箸です。これを糸でつないで鳴らすと心地よい音がします。
音色と余韻が優れている生音源。マイク革命をもたらしたソニー技術陣の採用理由でした。
技術と火箸のアンサンブル・・・世界の音を支えたのは、日本古来の火箸ということになるでしょうか。
今回のテーマ「明珍火箸とC-38B」
明珍火箸、音の秘密
音の美しさには秘密があるようで、スペクトルを見ると「倍音」成分が実にきれいに整理されていることがわかります。
その整理された綺麗さが故にそれが障害原因となるとは・・・
そのアタックと余韻の特徴は「さんしん」「三味線」に見られる波形に似ています。
つまり「基音がしっかりしていて」「整理された倍音」はコンデンサマイクがひずみを誘発しやすい厳しいスペクトルだということをSONYのマイクロホン技術者である村上氏と富田氏が明珍火箸によるマイクテストの歴史と優位性の話をDU BOOKS発行 「音楽クリエーターのためのマイクロホン辞典」のなかで語られています。
2018年 林憲一氏著 DU BOOKS発行 「音楽クリエーターのためのマイクロホン辞典」より
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SONYの業務用コンデンサマイクはこの波形をひずみなく収音することには徹底しており、「明珍火箸」による評価法をC-37以前の昔から用いて実績を上げています。SONYによって発案されたこのワザは同社のお家芸として、150万円マイクC-800Gの現在にいたるまで「音決め原器」として続いています。
それ以前は「人のトーク音声」で決められていた、と聞くとまさにShinの「マイボイス・リアルタイムモニター」と変わらない手法がメーカーの音質評価に使われていたのは、妙に納得できます。
そして、村上氏と富田氏はこう言い切っている。
「マイクは楽器と一緒、私たちは楽器をつくっているんです」
「マイク作りはやっぱり "職人” マイスターの世界なんですよね」
このご両人の名言は、途方もなくに腑におちた。
明珍火箸によるマイクテストの実態(試聴できます)
音源との距離は一般収音ではもっとオフであるべきですが、これは「いじわるテスト」です。
このため、距離感はSONYに学んだ
これには驚いた。
・コンデンサ型特有でありダイナミックマイクでは見られない。
・無指向性型では発生しづらく、指向性マイクで見られやすい。
・マイクの値段の高低は無関係なファクター
・案の定SONY C-38Bは見事な結果を示した。
・「カナモノ」に強いというC-451系でも発生を見た。
・最後に、これがダメでも音楽全体をダメにするとは限らない。
AKG C-451B、これは「金物系」ならコレ!、というだけあって、見事な結果であった。
C-451E/Bはやや砕けが発生、C-480B、C-391Bではパーフェクト。
(ちなみにC-451E/BはCK-1カプセルのDCバイアス型、451B、480、391はECMです)
単一指向性を中心とした各種マイクでの「ひずみ発生」テスト
最悪結果であった「BETA87A」の波形
聴感では「チーン」に対し、
★では聴くに耐えない「ビヨッ」というひずみ(異音)が発生。
(波形ではわかりにくい)
♪録音音源の比較でどうぞ
私自身、ことの発端は
MEMSマイク単一指向性化が進むにつれ、妙な現象がついてまわるようになった。
それは自らの「さんしん」の収音ではマイクの作り方によっては「ベシャッ」「ペシャ」と簡単にひずむ。
サイン波やホワイトノイズでは何ともないのに、なぜだ?
どうやら、この「整理された倍音」が「このひずみ」の原因かも。
またMEMS単一指向性マイクでは、さらに衝撃音に対し1KHz以下全域で音程を持たない「バサッ」大きな異音を発する、という現象に悩まされ続けてきました。(原因は別にあるのかもしれないが)
(どう整理されたスペクトルなのか)
この例では415.3Hzを基音として5162Hzまでの間ではほぼ同一間隔(207~234Hz)で綺麗に分布されたハーモニクスが現れました。
さんしんのスペクトル波形
ちんだみ(調弦)=G# C# G# 本調子の女弦(ミージル)を爪(水牛)で弾いた。クリップオンのATM-35で録ったスペクトル波形。
分布SPAN(間隔)は207~234Hzの狭い範囲、平均値は215.8Hzでした。
その中心値を決めるのはアプリケーション、そして最終的には筆者自身ですから、本当は「ビシッ」と揃っているかも知れません。
一方、明珍火箸はご覧の通り、見たこともない綺麗さ。
明珍火箸のスペクトル波形
糸で吊った2本の明珍火箸どうしが触れ合う音をSONY C-38Bで収音したスペクトル波形です。
似たような音を出す楽器に「フィンガーシンバル」があり、どちらも高い金属音で「チ~ン」と鳴ります。
スズキ楽器SFC40(同社サイトより)
フィンガーシンバルのスペクトル波形
2インチ(約5cm径)のフィンガーシンバルを打ちあわせた時のスペクトル、「似ても似つかない波形」、このちがい どう見ますか。
ちょっと聴いた限りでは似たような「チ~ン」音だが、この違いには唖然とします。
さんしんの音響
さんしんの演奏はPAを伴うことが多く、この整理された音であるが故、発生するひずみは決して「レベルオーバー」ではないコンデンサマイクの性(サガ)、というのが難しいところだ。
「単一指向性クリップオンマイク」ではまともに使えるものは少なく、速弾き(カチャーシー弾き)ではさんしんで試されつくした機種以外、大抵のクリップオンマイクで演奏を阻害するひずみが時々発生する。(無指向性クリップオンマイクは除く)
ためしに
YOUTUBEで「さんしん」音源を探すと、有名人であっても個人投稿の動画では高確率でこのひずみに遭遇します。
それは、弦を弾いた瞬間・直後に音程のない「パツッ パツッ」とか、「ペシャッ」という異音が伴うことです。
これは決して「レベルオーバー」などではなく、これこそが今回テーマの「謎のひずみ」です。
これはきちんとした手順で編集された演奏音源では見ることがありません。
これはいままで見ていただいたMEMS単一指向性マイクすべてに言える課題です。
現在、「明珍火箸」をつかって設計の見直しをおこなっています。
近い将来、MEMS単一指向性マイクは本当に力を持つものに変わっていくことでしょう。
限りなく周回遅れのローテクは「ハイテク」より新しい。
以上
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