「ドロシーがおうちごと、すっごい風に飛ばされちゃうんだよ」
子どもの頃に聞いた、「オズの魔法使い」の、竜巻で飛ばされるシーン。
広大な大地、小さな家。近づいてくる空気の渦。
え、え? 竜巻って何?
空気の渦で、人が舞い上がるの? すごい!
ねえ、竜巻って、日本でも起こるの?
絶対に、周囲の大人に聞いたと思う。そして、たぶん、
起こらないよ。アメリカとか別の国では起こるけれど。
竜巻は、日本ではない、どこか遠くの国で起こること。
そう思っていた、小学生のある日。
校庭で風が渦を巻いて、砂ぼこりと紙くずを巻き込むのを見た。
「竜巻だ!」
近くにいるみんなが興奮した。どきどきした。このあと大きくなるのかな?
でも渦は、5メートルくらいの高さになったあと少しだけ動いて、消えた。
ちぇ、つまんないの。
あれが竜巻? でも竜巻って、人が飛んでっちゃうみたいのだよね…。
あ…。ほかに、なんかへんな言葉、知ってたような気がする。
「つむじ風」だ! つむじ風と、竜巻って一緒なのかな? 違うのかな?
今度、図書館へ行って調べよう。
…もちろん図書館へ行っても思い出さなかった。
一年に一度くらいはつむじ風を目にするようになった。
「つむじ」のまわりで、髪が円を描くみたいに、くるくるしているから、きっとこれが「つむじ風」だよね…。
ところで、当時「ハリスの旋風(かぜ)」というアニメ番組があった。
子どもだから「はりすのかぜ」と音で覚えていたけれど、少し成長したあと、「旋風」という漢字がつかわれていることに気づいた。
「旋風」も「かぜ」なの? 「風」は「かぜ」だけど…。
「旋」がついているから、何かふつうじゃない「風」みたいだ…。
このときも、図書館に行くまで覚えてはいなかった。ネットもなかったし。
その後、二十代を終えるまで毎年、「異常気象」という言葉を耳にしていた。
三十代を終える頃にも、「異常気象」は続いていた。
こんなに続いていたら、「異常」じゃなくて「普通」だろ、と思っていた。
でも、身近で普通に起こる気象現象は、明らかにそれまでとは違っていた。
ひょうが降るのが当たり前になった。
子どもの頃に日常的だった「夕立」は、しばらくなりをひそめていた。
久しぶりに夕立が降るようになったなあ、と思ったら、熱帯地方のスコールみたいな雨量になっていた。やがて。ゲリラ豪雨と名付けられた。
そして、ついに。ある日、気象情報で「竜巻注意報」を目撃した。
初めは「えー、日本で竜巻?」だったのが。やがて
「うわっ、東京にも竜巻だって」になった。
今では、「また竜巻注意報、出てるよ」と、日常化さえしている。
おかげで、テレビで気象予報士が、竜巻とつむじ風の違いを、教えてくれた。
ざっとこんなところだったと思う(確認は、自分でしてね)。
「竜巻は雲とともに発生します。上空の雲が垂れ下がるように地面へ向かって発達します。
一方、つむじ風は、雲を伴うわけではなく、晴れた日に地面付近で発生します」
その後ちょっとだけ、竜巻とつむじ風の違いをネットで調べてみた。
自分で調べるまで、ずいぶん時間がかかった。