・読み終わった日:2013年6月26日
・人物:「僕」(翻訳会社経営者、鼠の友達)、鼠(「僕」の友達)、ジェイ「中国人、バーの経営者兼バーテンダー)、双子
・ストーリー:
1、双子は全く瓜二つで見分けがつかなかった。
しかし二人は自分たちは別々だという。
双子と暮らして行くうちに時間の観念がなくなってきた。
「僕」と友人二人で渋谷近くのマンションを借りて翻訳専門も会社を経営していた。
それは72年の春だったがそれか数ヵ月後に恐ろしいほど仕事の依頼があった。そ
れにより人を増やした。
10時出社、4時退社、土曜の夜は3人でディスコに行き酒を飲んで踊る、という生活だった。
果てしなく続く沈黙の中を僕は歩んでいた。
何ヶ月も何年も1人で深いプールの底に座り続けた。
温かい水、柔らかい光、そして沈黙。
双子の見分け方はトレーナーシャツの番号の208と209だった。
「僕」が番号で呼ぶと二人はシャツを変えてしまった。
双子はほとんど服を持っていなく散歩の途中に勝手に上がりこみ住み着いたという感じだった。
「僕」は双子に生活に必要なものを買うようにとお金を渡すが買ってくるのはコーヒークリームとビスケットだけだった。
服は興味がないと言い週に一度風呂場で愛おしそうにトレーナーを裸で洗っていた。
そんなときは「僕」は本当に遠くから来たと実感する。
何故だか分からないが時々そういう気持ちになる。
仕事から帰り二つのトレーナーが干してあるのを見ると涙が出てくる。
双子には何一つ質問しなかったし双子も言わなかった。
3人でコーヒーを飲み夕方ゴルフ場へ行きロストボールを捜しベットでふざけあったりしていた。
また1時間かけて新聞記事の内容を説明したこともあったが悲しいくらい双子は世間のことを知らなかった。
2、1973年の秋に鼠は底意地の悪さがあると感じていた。
そしていつも「ジェイズ・バー」に通っていた。鼠にとって時の流れはぷつんと切れてしまったがどうしてそうなったのか分からなかった。
毎年秋から冬にかけて大学を放り出された金持ちの青年と孤独の中国人バーテンダー年老いた夫婦のように寄り添っていた。
ジェイにとっても秋になると客が減っていたからだ。
鼠が大学を辞めたのはいくつか理由があったが誰にも説明しなかった。
鼠は大学に入ったとき家を出て父が使っているマンションに移り住んだ。マンションには全てもがの揃っていて贅沢すぎる環境だった。
3、「僕」の家にはめったに人が来ないがあるとき配電盤の取り替えるために電話局の人が来た。
後にしてもらおうと言ったが仕事の都合上、今でないとダメだと言われる。
工事人が部屋に入るが配電盤のある場所が見つからなかった。
困っていたところ双子が押入れの上だと言いだし本当にあったので「僕」も工事人も驚くが双子は当然と言う。
工事人はこの仕事を21年しているが双子と同棲しているのは初めて見たという。
本当に驚いたのか彼は古い配電盤を忘れてしまう。
双子は一日中配電盤で遊んでいた。
その間「僕」はたまった仕事をしたが途中疲れ始める。
それを見た双子は配電盤が弱っていると言い出す。
「僕」は双子をゴルフコースに連れ出す。
4、少年時代鼠は夕暮れの中灯台の光と闇が混じり闇が光を超える瞬間を見るために何度も現場に通った。
灯台に着くとゆっくり周りを眺める。
果てしなく青に満ちて深く、少年の心を震わせた。
そして帰り道、悲しみがいつも覆った。
待ち受ける世界はあまりにも広く広大で入り込む余地はないように思えた。
女の家の近くに車を止め昔を思い出していた。
5、「僕」が学生の頃住んでいたアパートは誰も電話を持っていなかった。
電話が一台あり管理人がいないときは誰かがとりに行くが電話の一番近いところに住んでいた「僕」が一番取り次いだ。
夜中に来る電話は内容が暗かったし住民の誰もがトラブルを抱えているようだった。
2階に住む長い黒髪の少女は一番回数が多かった。
いつもボソボソと疲れているように話し美しいが陰気な感じがした。
彼女は半年ほどアパートに住んでいたが最後に電話を受け取った日だった。
その後彼女が「僕」の部屋に来たが寒さで震えていた。
「僕」の部屋を見るなり何も物がないことに驚き一度自分の部屋に戻りティーパックの紅茶を沢山持ってきて一緒に飲んだ。
明日大学を辞め引っ越すからもういらないと言って残りをくれた。
翌日「僕」は彼女を駅まで送ったがただ北へ帰るとしか言わなかった。
家に帰りビールを飲むため彼女からもらったグラスに注ごうとしたらそこに「幸せとは温かい仲間」と書かれていた。
「僕」は午前3時に眼が覚め煙草を吸って配電菅を眺めた。
どこまで行けば「僕」自身の場所を見つけられるか、そして長い時間かけて思い出した唯一の場所がピンボールだとわかる。
6、女がシャワーを浴びていたが鼠は気持ちが収捨できなかった。
彼女と初めて会ったのは9月の初めだった。
鼠は新聞に載っていた売買の記事を見て電動タイプライターを買うことにした。
電話をしてとりに行ったときにいたのが彼女であり、ぼってりした小柄だった。
3日後にはリボンが残っているからと彼女から電話があり取りに行き彼女を「ジェイズ・バー」に誘い飲んだ。
4日後彼女を市内のプールに誘い彼女のアパートまで送りそして寝た。
鼠はなぜそうなったのか分からなかった。
彼女とのかかわりの中で心の中で忘れられていた愛しさが広がっていくのを感じた。
彼女は27歳であり美大の建築学を卒業後設計事務所で働き出身はここではなく大学を出てここに住み週に1度プールに行き日曜の夜ヴィオラの練習をしていることが分かった。
土曜の夜には二人はいつも会っていた。
7、「僕」は3日ほど風をひいてしまい仕事がたまってしまった。
仕事を終え電車に乗りガラス越しに映った自分の顔を見たが自分の顔には見えなかった。
「僕」は空っぽになった気がしたしもう誰にも何も与えられないと思った。
双子は「僕」を待っていた。
双子が野菜炒めをしてそれを食べコーヒーを飲んで音楽を聴いた。
クラシックのあとビートルズの「ラバーソウル」をかけるが僕がビックリすると「僕」が与えたお金をためて買ったレコードだと言う。
初めは好きではなかったが2回目に聴くと安らかな気持ちになり双子も喜ぶ。
8、鼠は霊園の中にある林に車を止め女の肩を抱きながら夜景を眺めていた。
鼠は彼女の重みは不思議な、男を愛し、子供を生み、年老いて死んでいく一戸の存在の重みだと感じた。
霊園は鼠にとっては思い出深い場所だった。
高校生の頃彼女をバイクに乗せ街の灯を眺めていた。
死は墓石に根を下していた。
彼らは時を失って樹木のように見えた。
霊園から林に戻った二人は強く抱き合った。
潮風や葉の香りが行き続ける世界の重みが満ち溢れていた。
9、「僕」は同じことを毎回繰り返していた。
あるとき本を開くとメモ用紙があり双子がゴルフ場に行ってくると書いてあった。
「僕」は双子を探しに行く。
事情を知らないものゴルフ場に行くと飛んできたボールで怪我をすることがあるからだ。
双子を見つけ怒ると夕焼けが綺麗だからと言い訳をした。
それから冷たい芝の上にみんなで寝転がり風の音を聞いた。
それからアパートに帰り食事をしてコーヒーを飲んだ。
「僕」は配電盤の話をしようと言った。
どうも気になる、何故死にかけているのだろう、と言うと双子は土に帰るのよ、と言う。
「僕」は死なせたくないというと双子はあなたには荷が重過ぎるのよ、と言うがその言い方があまりにもあっさりしたので「僕」は諦めてしまった。
10、鼠は夜中に目が覚め寝られなくなる。
自分が全然進んでいないことにウンザリしていた。
女と会ってから単調な日々だった。
鼠は閉店後の「ジェイズ・バー」に行く。
鼠はジェイにビールを誘うがジェイは下戸だと言う。
ジェイのことは鼠も含め中国人という以外は誰も知らなかったし彼も話さなかった。
ジェイは家に猫が一匹いると言う。
鼠は「どうもわからない」と呟くとジェイは分からなくていいと言う。
鼠は25年生きて何もわからなかったというとジェイは45年生きて分かったことは人は努力をすれば何かを学べるというとことだ、という。
鼠はいっていることがわかる気がするといって帰る。
途中鼠は女のアパートを通り電気が消えているのを見て寂しくなる。
そして車の中でラジオのDJを聴きながら寝る。
11、木曜の朝双子が「僕」を起こし今度の日曜日に貯水池に行って配電盤の葬式をしたいと言い出す。
「僕」は共同経営者から車を借り双子と雨の中貯水池に行く。
貯水池に着き車から降り「僕」にお祈りをしてと言う。
「僕」はとりあえずカントの詩を引用した。
双子の1人が配電盤を投げてと言うので「僕」は投げる。
3人ともぐっしょり濡れたが遠くから見た人は品のいい記念碑のように見えただろう。
12、「僕」が昼食から帰ってくると事務の女の子が毎年11月に行く社員旅行を北海道にしないかと提案してきた。
そして夕食に付き合ってくれないかと言う。
夕食を一緒にしたが女の子は仕事に不満はないがまだ20歳なのにこのままで終わりたくないし誰も私のことを好きにならないだろうと言う。
「僕」は彼女を褒めたが彼女は黙ってしまった。
そして「僕」に20歳のとき何をしていたかと聞くので女の子に夢中だったと答えた。
今はどうなのかと聞くので、いないし淋しくないのは訓練によるものだと説明した。
そして欲しいものは必ず手に入れるがその代わり別の何かを踏みつけてきたと答える。
そして3年前にそれに気づいたと言う。
彼女は本当にそう思うなら靴箱の中で生きればいいという。
帰り道彼女は何とかやってみると言うが「僕」に淋しくないのかと聞くが答えを探している間に電車が来た。
13、突然何か心を超えることが有る。
「僕」はその秋の日曜日に心を超えたのはピンボールだった。
双子とゴルフコースを歩いていたら突然思い浮かんだ。
1970年に「僕」と鼠がジェイズ・バーで飲み続けていた頃「僕」は熱心なピンボールプレーヤーではなかった。
そこにあったのは珍しい3フリッパーの「スペースシップ」と呼ばれるものだった。
週に一度店に30歳で無口の痩せた修理屋兼集金人が点検をかねてプレーをするがそのテクニックに二人で惚れ惚れしたものだった。
14、「ジェイズ・バー」は久々にこんでいた。
でも鼠には違って見えた。ここ1週間はツキから見放されていた。
鼠は6本の空のビールを目の前にしたとき引退の時期だと感じた。
18歳からビールを飲み始めたくさん飲みこれからも飲むだろうがここで飲むビールは特別だ。
25歳は引退するにはいい歳だ。
自分にもっと考えろと、どこで間違ったのか思い出せと言う。
そして鼠は便器に行き吐く。
15、「僕」がピンボールに嵌ったのは1970年の冬だった。
これしか興味がなく大学をほとんど出ずアルバイトの大半を費やした。
彼女は素晴らしかったしお互い理解しあっていた。
彼女は「あなたのせいじゃない。精一杯やったじゃないか」と言う。
「僕」は「何一つできなかった」と言うと彼女は「人にできることは限られているのよ」と言う。
「僕」が「終わっちゃいない」と言うと彼女は「何もかも終わったのよ」と言う。
年があけた2月に彼女は消えた。
ゲームセンターがドーナツ屋に変わっていた。
そのドーナツ屋にゲームセンターのことを聞くと知らないと言う。
16、鼠は車で街をめぐった。
夜の7時15分だったが彼女の部屋の中を思い出した。
カーペットのことだけが思い出せなかった。
急に行ってみて確認したくなったが止めた。そ
してもう一度目を閉じ新しい闇の中に心を埋めた。
17、彼女がどこかで「僕」を呼んでいてそれが何日も続いた。
そしてスペースシップを探すために「僕」は狂ったように仕事をして食事を取らずに終わらせた。
でも見つからなかった。
しかしある人がいわゆるカタログマニアという人を知っているからと言って連絡先を教えてもらった。
そして連絡して実際会うことになる。
会ってみると彼は大学の講師で30歳少しでスペイン語を教えていると言う。
彼はとても詳しくピンボールの業界の話をした。
日本には3台しか輸入されていなくとても不思議なものだと言う。
一台は新宿のゲームセンター、もう一つは渋谷のゲームセンター、もう一つは分からないという。
しかし何とか探してみると言い「僕」がベストスコアを16万5000だというと彼は驚く。
18、双子は少しずつ無口に優しくなっていた。
「僕」は双子にいろいろ買い与えた。
19、鼠はジェイに街を出ることを言うのが辛かったし3日間バーに通ったが言えなかった。
この街を出てどこに行けばいいのか分からなかった。
生まれて初めて恐怖が這い上がった。
3日間部屋の中はビールの空き缶と煙草の吸殻だけで女に会いたかったが戻れなかった。
なぜなら自分から橋を焼いたからだ。
街を出る決心は揺らがないはずだった。
しかしジェイの存在が何故心を乱すのか分からなかった。
鼠は夜中の12時にジェイズ・バーに行く。
鼠はビールを飲みながら人間はみんな腐っていくのだろうとそして人は変わり続け崩壊の家庭に過ぎないと思うと言う。
ジェイは鼠に変わろうとしているんだねと言う。
鼠は迷っている、と言うとジェイはそんな気がしたと言う。
そしてお休みと言って鼠は帰る。
20、スペイン語の講師がスペースシップの居所が分かったという連絡が来た。
詳しいことはあって話すと言うことになり夕方喫茶店に会う。
そして二人はタクシーに乗って現場に向かう。
彼の説明だとスクラップ工場に行き管理担当者に会うことができたという。
そして該当しそうな人が50人いることがあることがわかったと言う。
21、着いた場所は空き地の真ん中だった。
降りた先に倉庫があり彼が倉庫には一人ではいってくれと言い、それがその人との約束だと言う。
そこにはピンボールが50台あった。
22、「僕」は電気をつけて中に入った。
沢山ピンボールがあってよく数えると78台あった。
中は静かで寒く死んだ鶏のにおいがした。
とうとう見つけたが奥にあった。
「僕」は「やあ」と言った。
彼女は微笑み僕も微笑む。
会話をした。
彼女は「何故来たの?」と聞くが「君が呼んだんだ」と言う。
「僕」は仕事のことや双子のことを話した。
「僕」たちが共有しているのは昔に死んだ断片に過ぎなかった。
しかし古い光は心の中に彷徨し移り光と共に歩むだろう。
彼女は「もう帰ったほうがいい」と言い僕は「ありがとう」と言って一度も振り向かずに倉庫から出て行く。
23、鼠はもう女とは会わず彼女の部屋を見に行こうとしなかった。
外皮を剥ぎ取ったら何が残るか分からなかったし誇り無しに生きていけないし、それだけでは暗すぎる。
彼女と別れるために電話をしなかったし、しそうになったが止めた。
12時過ぎにやっと寝られた。
24、あれからピンボールの唸りは「僕」から消えた。
いつも双子は風呂上りに僕の耳掃除をするがその最中「僕」がくしゃみをしたら聞こえなくなってしまった。
そして耳鼻科に行くが聞こえなくなった原因は耳垢だった。
「僕」たちが歩んだ関係を振り返ると「おそらく」しかないと思った。
双子を見送るためにバス停に向かう。
日曜の朝7時だった。
双子にどこに行くのかと聞くと「元のところへ帰るだけ」と言う。
「僕」は家に戻り双子が残した「ラバーソウル」を聞きながらコーヒーを飲んだ。
家の外は何もかも透き通ってしまいそうな静かな朝だった。